助っ人参上!
ギルドホームの談話室で、ユーミルとリィズに一言断ってからメールを開いてみる。
着信時間は午前中、送り主は……。
「誰からだ?」
「弦月さんだな。内容は……今日だけ一緒にPTを組まないか? って提案みたいだ」
「ほう!」
ユーミルが満更でもなさそうな顔だ。
指定時間が大雑把に午後となっているが、今返事をすればすぐにPTを組むことができるかもしれない。
フレンドリストを確認した限り、ログイン中のようなので。
「返事はどうする?」
「セッちゃんもヒナ鳥さんたちも、今日はお休みでしたね。トビさんは――」
「夜は行けるって言っていたが、昼は無理だってよ」
「では、問題あるまい! 弦月を入れて四人PTか?」
「ちょっと待ってろ。確認を取ってみる」
アルテミスのメンバーを誰か連れてこれそうなものだが……。
メールの送信を終わらせ、弦月さんからの返事待ちの状態になる。
「今の内に水やらアイテムやらの準備をしようぜ」
「うむ、了解した!」
談話室のアイテムボックスを開くと、かなりの数のポーション類が中には収められている。
非常にありがたいことに、昨夜のログアウト間際にも止まり木から回復アイテムの補充があった。
どうしたって回復アイテムは必要になるので、あればあるだけ大助かりである。
「いやはや、こうしてイベント戦闘に専念できるのは素晴らしいな」
「全くだな! 止まり木のみんなには頭が上がらん!」
「そんな腰に手を当てた、偉そうなポーズで言われましても。発言内容と合っていませんよ?」
ちらりと一瞬だけ視線をやり、テキパキとアイテムを取り出していくリィズ。
それを見てユーミルもランキングのことを思い出したのか、ポーズを解いて自分の作業に戻る。
俺も自分のインベントリと、アイテムボックス内にあるポーションの数とを確認。
「やっぱ、MPポーションの減りが特別多いな……」
「とにかくユーミルさんのMPを枯渇させないようにする必要がありますからね」
「うむ、みんなのおかげでバーストエッジ祭りができて気持ちいいぞ! WTの短いスラッシュに至っては、もう何度使ったか分からん!」
「……楽しそうで何よりだよ。お前が気持ちよくプレイできている内は、サポートが上手く行っているってことになるからな」
MPポーションに関しては、パストラルさんに相談しておくとしよう。
それと『クイーン・ソル・アント』の攻撃は即死級のものが多いので、『聖水』も多めに用意できると安心だ。
それらの止まり木作のポーションとは別口にあたる、緊急用の『濃縮ポーション』を腰に装備していると……。
ふと、隣で作業を続けていたリィズが手を止める。
「そういえば、ハインドさん。レイドイベントも重要ですが、魔王ちゃんの料理コンテストの方は……」
ちなみにイベント名は『涼感! 魔王の料理コンテスト!』というもの。
あれなー……。
氷問題をどうにかしなければ、基本的にスタートしないものではあるが。
「前にも言ったと思うけど。パストラルさんにお願いして、レベルを上げて氷を出せる魔法を取得してもらうのが一番手っ取り早いんだけどさ」
「何か問題でも?」
「今の彼女、俺たちのレイドイベントのサポートに燃えているからさ。それに水を差すのもどうかと……」
「うむ、確かに張り切っていたな」
アイテムの準備が終わり、俺たちは話を続けながら一度椅子に座った。
後は水さえ用意すればそのままレイドイベントへと向かうことができる。
「それに、パストラルさんが生産作業から抜けると、ポーション増産に悪影響が出るかもしれません」
「そうなんだよな……現地人にお願いしようにも、氷魔法の使い手を探している時間はない。そしてスキルをある程度把握している国軍兵……砂漠のフクロウは北東に遠征中」
「計ったようなタイミングだな! 距離も遠いし、ワザとか!?」
「どうなんだろうな? いっそ、ミント系の料理にでもして清涼感を出すのもありかと」
そのアイディアに一瞬「おっ」という顔を二人がしたが、すぐにリィズが微妙な表情になる。
やっぱり冷たい料理と並べた時に、インパクトで負けそうだよな……。
「見た目に美味しそうだと分かりやすいものの方が、魔王ちゃんを相手にする場合が正解だと思います」
「む、どうしてだ?」
「……では、ユーミルさんに質問です。暑くて暑くてたまらない時に、ミントガムとアイスがテーブルに並んでいたらどちらを――」
「アイス!」
「……とまあ、こういうことです。魔王ちゃんが何歳なのか私は知りませんが、この人と精神年齢はどっこいな気がしますので」
「貴様!?」
椅子から立ち上がり、バタバタと取っ組み合う二人。
俺はそれを放置して、鳥かごから出したノクスに餌をやりながら収まるのを待つことにした。
暑いのに今日も元気だな、ノクス。食欲が落ちないってのはいいことだ。
「はぁ、はぁ……そんな訳で、やはり分かりやすく涼しい見た目ということでしたら、氷は必要になるかと」
「あ、終わった? 確かに、リィズの言う通りかもな……ミント自体は悪くないはずなんだが、判定するのが魔王ちゃんだもんな」
「いかん、無駄に動いたせいで早くも喉が渇いてきた……そういえば、今までもコンテスト系はNPCの好みが反映されていたな。アイテム、料理とどちらも。そういえば、料理もレイドと同じく今回が二回目なのだな」
インベントリから水を取り出しながら、ユーミルが今までのコンテストを振り返る。
結局、氷が必要という話に至りつつもそれを用意する手段は思い付かず……。
「とりあえず保留で、今はレイドに集中しよう。弦月さんからメールの返事が来たぞ」
「お、何と書いてある?」
「アルテミスからもう一人連れて来てくれるそうだ。ホームに入れても構わないよな?」
「もちろんだ! ……しかし、誰だろうな? もう一人というのは」
「No2のアーロンさんでしょうか?」
「アルクスさんじゃないのか? アーロンさん、確か夜しかログインできないタイプだったような気が……まあ、来れば分かるか」
そんなこんなで、水路の水を汲んだりしている内にホームに来客を告げる効果音が鳴り……。
ホームの玄関で出迎えると、ファンタジー世界から抜け出してきたような美女エルフ――弦月さんが手を上げる。
「やあ、渡り鳥のみんな。PT勧誘の承諾、それからホームへのお招きありがとう」
「爽やか!? 眩しい!」
「いや、今更驚くなよ……こういう人だって知ってるだろう?」
「うむ、そういえばそうだった!」
「ハハッ、相変わらずだね君たち」
「すみません、騒がしくて……ところで、もうお一方ご一緒に来られると聞いていたのですが」
リィズの言葉に俺とユーミルも改めて視線を戻すが、そこには弦月さんの姿しか見えない。
遅れているのか、それとも都合でも悪くなったのか? と思っていると……。
弦月さんの背中から、ぴょこっと耳が生えた。
「……申し訳ない。本当はアルクスを連れてくるつもりだったんだが、その――」
「こんにちは! フクダンチョー仲間に会いに来ましたよ!」
珍しく歯切れの悪い弦月さんの後ろから、犬耳と尻尾を装備した少女が顔を出す。
ああ、こういうパターンか……。