リザルトとレイドボスの召喚について
腹部が発火し、自らの炎に焼かれて崩れ落ちて行くクイーンの体躯。
それを前に俺たちは、握りしめていた武器をようやく下ろした。
「はぁ、はぁ……」
「ひぃ、ふぅ……お、終わったでござる……なっがぁー……ぐふ……」
「いかん、前衛二人が虫の息だ」
付近の気温がスッと低くなり、異常気象の原因が女王であったことを教えてくれる。
しかし、一体のボスを倒したとはいえイベントはまだ継続中である。
ということは――
「でも、外に出るとまた元の暑さに戻るんだよね?」
「あ、俺も今同じことを考えていました」
「私もです。やはり、長く戦うには大量の水の持ち込みが必要になりますね」
戦闘が終了し、その場に立っているプレイヤーの数は10人ほど。
その中の一人が俺たちの傍に駆け寄ってくる。
「ありがとう、渡り鳥。君たちが来てくれたおかげで召喚アイテムを無駄にせずに済んだよ」
よく見ると、最初に会ったレイドを召喚したPTの男性プレイヤーだ。
ユーミルが「うむ!」と笑顔で応じると、彼の後ろをパーティメンバーらしき二人が追いかけて来る。
そっちも男女混合パーティか。
「嘘、ホントに渡り鳥!?」
「おお、有名人……滅茶苦茶強かったし、ラッキーだな俺たち」
「あれ、そちら五人PTじゃありませんでしたっけ?」
「蘇生が間に合わなくて……」
「ああ……」
通常フィールドに戻されるまで、残り15秒と表示されたところで俺は気になることを目の前の彼にぶつけてみた。
後で掲示板で調べてもいいのだが、やはり生の声というのは大事だ。
俺たちのように、今の戦いが初レイドという可能性もあるが。
「今回のレイドって、毎回一戦がこんなに長いものなんですか?」
「うむ、最終的にこんな状況だしな……どうなのだ?」
周囲の状態を端的に表すなら、死屍累々といった惨状である。
戦闘不能のままでも、最低限のもらえるものはもらえるが……。
「ああ、俺たち召喚するのは今回が初めてで、今までの戦いだと――」
「途中参加したものだと、もうちょっと渡り鳥……さん、たちみたいな? レベルカンスト付近のプレイヤーが集まってきて早く終わったんですけどねぇー」
「位置が悪かったかな……外縁部に寄り過ぎたせいで、プレイヤーの平均レベルが低くなったかも。俺らも、人のことを言える戦闘内容じゃなかったけど」
そこまで話を聞いたところで、残り時間が0に近付く。
聞きたかった話を的確に話してくれた彼らに感謝だ。
「なるほど……ありがとうございました」
「いやいや、こちらこそ! 重ねて礼を言うよ、ありがとう!」
気の良い男性プレイヤーが手を上げたところで、景色が歪む。
そして光の中で戦闘リザルトが表示される。
『クイーン・ソル・アント討伐戦』
‐BATTLE RESULT‐
参加人数 50/50
撃破タイム 52:38
総合スコアMVP:ハインド 2112Pt
攻撃スコアMVP:ユーミル 1023Pt
防御スコアMVP:トビ 640Pt
貢献スコアMVP:セレーネ 437Pt
妨害スコアMVP:リィズ 564Pt
支援スコアMVP:ハインド 1540Pt
「「「ひど!!」」」
戻されたフィールド上で俺、トビ、ユーミルの三人が思わず叫ぶ。
今の戦いを思えばこうなることは分かり切っていたが、何と嬉しくない上位独占だろう。
ちなみに個人成績の詳細も各自これに合わせて表示され、例えば俺の場合は……。
支援スコアをメインに雀の涙程度の攻撃スコア、アイテム投擲による妨害スコア及び貢献スコアなどが総合スコアに加算されているといったもの。
ポイントが前回のレイドの桁が多いものからグッと下がっているが、これは見易さを重視しての変更だろうか?
「ハインド君の回復――支援スコアの高さが、今の戦いの全てを物語っているね……辛かった……」
「誠に。しかしそれはそれとして、ここは……一体何処でござる?」
「リィズに訊くまでもなく、光の柱に入った場所からずれてんな……マップを見る限り」
「お馬さんたちは一緒に移動させられているみたいだけどね。一緒に戦った人たちの姿は見えないね」
思うに、こういうことではないだろうか?
同じレイドを戦ったメンバーを同じ場所に戻すと、不要な諍いを生み出しかねないと……。
俺の推論を聞いたトビが頷く。
「バフ・デバフのタイミング、回復、蘇生、タゲ取り、そして何よりもフレンドリーファイア……まあ、ハインド殿の言う通りでござろうなぁ」
「むぅ、しかし終わった後からグチグチ言うのは卑怯ではないか?」
「結果論を振りかざす人、というものは思いの外多いですよ?」
「そうだね。みんながみんな、ユーミルさんみたいに後腐れなくスッキリ終われればいいんだけどね……」
「あの召喚者パーティみたいに、気持ちよく話せる連中ばかりじゃないだろうからな」
だからこそ、こうやってバラバラの位置に転移されるのだろう。
フレンドリーファイアの罰則については前回と同じ仕様なので、故意ということは基本ないが……終わった後に直接顔を合わせれば、頭にきてしまう人もいるかもしれない。
と、転移位置に関してはいいとして……。
「興味深い話をしてくれたな、あのパーティ」
「召喚位置でござるかぁ。言われてみれば拙者たちが入ったのは外縁部寄りだったでござるな。王都へ帰る途中でござったし」
「ということは、思いっ切り中央部で召喚すればつわものばかりですぐに片付くのか? どうなのだ?」
「うーん……必ずしもそうとは限らないんじゃないかなぁ?」
セレーネさんがユーミルにそんな言葉を返す。
リィズがそれに反応し、同意するように頷く。
「中央部付近に近付けば近付くほど、多くスコアを稼ぎたいプレイヤーが増える訳ですから……なるべく召喚者として、レイドボスを自分たちで喚び出したがるのではないでしょうか」
「ふむ……では、逆にいつまで経っても援軍が来ないということにも?」
「ああ、なりかねないな……」
復活した周囲の暑さも相まって、全員がげんなりとした表情になる。
今の戦いもほとんど俺たち五人で倒したようなものなので、PTだけでの討伐は可能だろうが……毎回こんなに時間をかけていたのでは疲れ果ててしまう。
何よりも、それではとてもランクインなどできないだろう。
時間辺りのポイント効率が完全に死んでいる。
もっとデバフがバンバン飛んで、クイーンをある程度の間隔で怯ませてくれるようなプレイヤーが集まってくれないと。
「結論、召喚に最適な位置は――セレーネさん?」
「自力討伐の難しい、けどセオリーを知っている中級者が集まる中央部のやや外側……かな」
「ってな訳で、みんな憶えておいてくれ」
みんなが頷きを返してくれたのを見たところで、グラドタークへと手をかける。
もう水が尽きるので、これ以上は何があったとしてもここに留まるのは危険だ。
「それとサイネリアちゃんからメールで、三人で先に王都に戻ったってさ。PK被害その他に関しては帰りの道中、特に問題なかったそうだ」
「あー、やっぱり拙者たちは特別運の悪い組み合わせに入ってしまったのでござるか……」
「サイネリアたちも一戦してから帰ったのだよな? ハインド」
「ああ。時間かかり過ぎだな、俺たち……」
メールの着信時間と着くまでの時間から考えて、あちらのレイドはレベルの高いプレイヤーが揃ったようだ。
もしくは終わりに近い段階のレイドに入ったかのどちらかだが、それについては戻ってから訊けばいい話である。
今日はまだログアウトせずに粘る予定なので、俺たちもさっさとワーハに帰還することにしよう。