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二日遅れのイベント参加

「今のイベント情勢? そりゃあ、お前……かなり気合を入れないと追いつけない差がついているだろうよ」

「む? そんなに言うほどのことか? たかが二日だぞ?」


 未祐が俺のベッドの上で枕を抱えて首を傾げる。

 そいつは抱き枕ではないんだがな。

 お盆の三日目、ログイン前に俺は未祐にレイドイベントの近況を訊かれていた。


「理由はいくつかあるんだが……」




「――と、いう訳で既に私には一刻の猶予もない! みんな、協力を頼むぞ!」


 ところ変わってTB内、渡り鳥のギルドホームの談話室。

 久しぶりに全員揃ったゲーム内で宣言するユーミルに対し、みんなは目を丸くした。


「と、いう訳の前の台詞が一切、全く、これっぽっちもない状態で宣言されても困るのでござるが……」

「ハインドォ!」

「はいはい……」


 完全に気がはやっていやがる。

 ログイン前にこいつに説明したことを簡潔にまとめると……。


「プレイヤー全体のゲームに対する慣れがあること、これが二度目のレイドイベントであること、ギルドなどの組織の成熟が見られることなどから、今回はランクインのボーダーが前回の比じゃないほど高くなることが予想される。つーか、もうなってる」

「ああ、拙者もランキングの推移は見ていたでござるよ。いやはや、今回は廃プレイ陣の勢いが実に凄まじい」

「みなさんが来る前に三人で街に出たんですけど、サーラのプレイヤーっぽくない人たちが沢山いました! もうかなりの人がイベントを始めているみたいです!」


 初日こそ初見のレイドボスに対してやれ「全滅した」だの「トリガー行動が」だので速度が上がらなかったそうだが、三日目ともなるとそうはいかない。

 レイドは一戦の時間が長いため、急加速ということはないのだが……。

 それだけに、上位陣の前回を上回るペースの速さが目に付く。


「幸い、時間に関しては夏休みってことで余裕がある。ここにいる全員が課題・宿題を終わらせていることも大きいな」

「どうだ、私の先見の明は!」

「威張るほどのことではないと思いますが。確かに、ゲームに時間をかけることが可能な環境は整っていますね」

「今まではハインド殿考案の効率プレイで誤魔化してきたでござるが……というか、よく今まで好成績で通してきたでござるよな?」

「まあ、レベルキャップの順次解放だったりと、TBのゲームデザインに助けられてのことだからな」


 もし仮にレベルの上限が最初から高いゲームだったなら、学生の俺たちは早い段階で振り落とされていたに違いない。

 ただし――


「今回ばかりは純粋なやり込みが必要ってことだね? 黙々と敵を倒し続けるっていう、MMORPGらしいといえばらしいプレイングが」


 セレーネさんの総括に頷きを返す。

 無論、今回も掲示板に上がっていない情報がないか探しはするが。

 ……と、みんなに訊き忘れていたことがあったな。これも一応、毎回やっていることではあるが。


「今更だけど、ユーミル以外に欲しい報酬がある人っているか?」

「本当に今更ですねぇ、先輩。ここまで話しておいて訊くんですか? 何か、各部門報酬にもごっついアクセやら武器防具がありますけど……正直、セレーネ先輩の武器と先輩の防具があればいりませんし」

「あ、私は前回のイベントで沢山お世話になりましたから……もちろん、今回はユーミル先輩のオーラ取得に精一杯協力しますよ」

「私もです! 早速討伐に行きますか!?」

「その前に……今回は討伐に専念するための強力な味方がいるだろう?」

「止まり木だな、ハインド!」


 その通り。

 今回のイベント、まずは止まり木の回復アイテムの量産のお願いをするところからのスタートとなる。


 こんな形で談話室での話が終わり、全員で止まり木のホームへ向かうと……。


「待っていましたよ、鳥同盟のみなさん!」

「腕によりをかけて……というほどの施設も技術もまだありませんが。こちらをご覧くだされ」


 パストラルさんとバウアーさんが、集会所に止まり木のメンバーを集めて待ち構えていた。

 バウアーさんの号令を受けると、何やら集会所にいくつかあるテーブルにかけられた布を一斉に取っ払っていく。

 布の下から現れたのは……。


「おおっ、これ全部ポーションか!?」

「ほっほ。これこのように、数だけは揃えておきました。中級ポーションばかりですが」


 机の上にびっしりと並べられたポーション類が、俺たちの前に現れた。

 何とも壮観ではあるのだが……。


「作る手間以上に、こうして並べるのは大変だったのでは……?」

「あの、実はこういうの、前から一度やってみたくてですね……集めた物資をばっと披露! 戦いの機運がここに熟した! みたいな……見ていて気合が入りませんか?」

「確かに、これはかなり気合が入りますね。ありがとうございます」


 俺が頭を下げると、パストラルさんが照れながら頬を掻いた。

 どうやら彼女の茶目っ気に周囲も便乗した形のようだ。

 俺はそれに対して笑みを返すに留まったが、こちらにはそういうことに対して更にノリノリなやつがおり……。


「分かる、分かるぞパスティ! ハインド、折角だからもっと雰囲気を出してみたいのだが!?」

「雰囲気をって、これ以上どうするってんだよ?」

「それはだな……」




 あえて若干軽装になったユーミルが、集会所の椅子からゆっくりと立ち上がる。

 それを見た止まり木の子どもたちがわっと駆け寄ると、ユーミルの防具を四方から装着していく。

 そしてフル装備になったユーミルが、最後に膝をついたリコリスちゃんからロングソードを受け取ると……。

 最後に止まり木が用意してくれたポーションがたっぷりと収まったインベントリ――そこにアクセスするためのポーチを腰につけ、カツッとブーツで床を踏み鳴らす。

 そしてそのまま決め顔を作り――


「行ってくる!」


 肩で風を切るように堂々と、剣を手にしたユーミルが集会所を後にした。

 エルンテさんが火打ち石を二度鳴らし、切り火を行い武運長久を祈る。

 全体的にやっていることが和風だな……戦国武将の出陣風景みたいだ。

 ユーミル、ガチガチの洋装なのに。

 子どもたちとリコリスちゃん、そしてパストラルさんには「カッコイイ!」と評判だったこの行動。

 それを見せ付け、気が済んだであろうユーミルが戻ってくるのを俺たちが待っていると……。


「あれ? あいつ戻ってこねえな……」

「ハインド殿。もしかしてユーミル殿ってば、本当にあのままレイドボスの討伐に――」

「マジか!? いや、でもあいつならあり得――」

「いやいや。いくら私でも、一人でレイドボスには挑まんぞ?」

「おわっ!?」


 俺が集会所の出口に向かいかけたところで、ひょっこりとユーミルが顔を出した。

 びっくりした……。


「大体、ハインドがいなければ私は安心して突撃できないではないか! 置いていく訳がなかろう!」

「俺がいてもいなくても、無意味な突撃は控えてほしいんだがな……」

「断る!」

「だから、即答すんなっての!」

「拙者たちの場合、このやり取りを見る方がよっぽど、これから戦いに行くんだな――という感じがするでござるが」


 そんなトビの言葉に俺とユーミル、止まり木のメンバーを除いた全員が首を縦に振った。

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