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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
大砂漠と太陽の化身

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イベント告知と異常気象

「うぉぉぉぉっし! 張り切って行くでござるよぉぉぉぉ!」

「そんなに気合を入れても、イベント告知なんて基本見て聞くだけだろう?」


 夜になり、再びTBにログイン。

 今度は止まり木のホームではなく、自分たちのホームの談話室での集合だ。

 大声を出すトビの横で顔をしかめていると、ユーミルがみぞおちの辺りで腕を組みつつ口を開く。


「しかしだな、ハインド。予告からの特殊演出となると、やはり魔王が出てくる可能性が高いのではないか?」

「はいっ、今ユーミル殿がいいこと言った! ユーミル殿がいいこと言ったでござるよ!」


 指を差して言葉を繰り返すトビの姿に、さしものユーミルも鬱陶しそうな表情に変わる。

 勢いを後押しするようなことを言うのではなかった、と後悔している模様。

 こういう時の騒音レベルではどっこいだが、トビの場合はユーミルと違って絶妙にうざったい。


「っていうか、昼間と比べて人数が増えてなぁい! 何故でござるか!? リィズ殿だけ!?」

「リコリスちゃんが、夜はヒナ鳥三人ともインできないって言っていただろうが」

「それに、仮に魔王ちゃんが出た場合を考えるとこれで良いのではありませんか? トビさんの例の姿を、三人とセッちゃんに見せずに済むのですから」

「例の姿とは、一体どういう意味でござるか……?」


 俺たち三人は、どうして分からないんだ? と一斉に同じ表情をトビへと向けた。

 魔王ちゃんが出ると、どうにもエキサイトし過ぎるからな……。

 レイドイベントの報酬授与の時なんて、魔王ちゃんに迫るトビの動きに全員ドン引きだった。

 ――と、公式サイトの予告通りに視界の中に字幕が流れ始める。


『ただいまより、次回イベントの告知が行われます。現在ログイン中のプレイヤーの皆さまは、空が見える場所でお待ち頂ければ特殊演出をご覧になることができます』


 一巡目のそれを読み終えた直後、トビが椅子を蹴り倒して立ち上がる。

 俺が無言で椅子を起こしていると、全力で叫んだ。


「来たぁぁぁぁ! この文章なら間違いないでござろう!? リィズ殿、どう!? どう!?」

「ファーストイベントとほぼ同じ文章ですね」

「よっしゃああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

「「うるさいっ!!」」


 睨む俺とユーミルを無視し、トビはそのまま外へと飛び出していった。

 残された俺たちは、溜め息を吐いてトビが向かった先を確認する。

 パーティ状態にしておいたので、方角も場所も一目瞭然だ。


「市街区の方か……確かに、イベントの雰囲気を味わうには他のプレイヤーがいる場所が一番だが」

「そういった判断だけは冷静なことに腹が立ちますね……」

「……はぁ。私たちも行くか」


 トビに反比例するように、下がる気分を抱えつつ……。

 マーカーとミニマップを頼りに、三人で後を追いかけた。




「……?」


 その異常を察したのは、ホームを出た直後のことだった。

 纏わりついてくる熱気はいつものことだが、一瞬でここまで汗が噴き出すのは尋常ではない。


「暑い!?」

「暑いよな?」

「暑いですね……」


 たたでさえ暑い砂漠の気温が上がっている。

 それを受けて、俺たちは火属性の属性石を使用したマントを装備した。


「備えあれば、という奴だな!」

「一応、全属性揃えておいたからな。特に火属性に関しては、サーラでは普段から使うものだし」

「止まり木の皆さんにも、これだけは最優先で提供しましたものね」


 それにしても、この気温上昇はどういうことだろう?

 イベントに絡んだ異常……なのだろうか?

 市街区に到着すると、トビと同じ考えのプレイヤーたちが既に集まっていた。

 特に中央広場は人気で、空を時折気にしながら雑談に興じる者たちでごった返している。


「あ、いたいた。トビ!」

「おっ、来たでござるか御三方! ――およ? どうしたのでござる? マントなぞ羽織って」

「まさかこの気温の異常さに、気が付いていないのですか?」

「周りのプレイヤーたちも、あんなに暑そうにしているではないか」

「あっ……本当でござるな。拙者、てっきり魔王ちゃんに対して迸る熱い想いが、この体にまで現れているせいかと」

「馬鹿たれ、暑いのは周囲の気温だ。マントを装備しろよ、大分快適だぞ」


 トビが忠告に従ってマントを装備すると、やがて待望の声が空から降り注ぐ。


『フハハハハ! 久しいな、来訪者どもよ! 魔王である!』

「魔王ちゃんの声でござる!」


 ただし、声だけである。

 一瞬盛り上がった付近の空気が、すぐさま困惑へと取って代わる。

 肝心の姿が見えないことに、トビも含めたプレイヤーが不満を募らせていると……。

 何やら降り注ぐ声の様子すらおかしい。

 魔王ちゃんの声にザリザリとノイズのようなものが混じり始めた。


『こんか――は、きさまら――すれば、――』

『ま、魔王様? この魔導録音機、もしや壊れて――はっ、申し訳ございません。では、いつも通り投影魔法で――ははっ、魔王様の仰せのままに!』


 続いてサマエルの声が聞こえたかと思うと、空が歪み始める。

 現れたのは、顔の半分が見切れたアップのサマエルと――


「魔王ちゃん!? 魔王ちゃんが水着でプールにぃぃぃぃ!! ひゃっはぁぁぁぁ!」

「異常なまでに状況を認識するのが早いな……」

「セッちゃんを超えていますね、今だけは」

「魔王が入っているあれ、思いっ切り幼児用プールに見えるのだが……」


 幼児用のビニールプールに限りなく近いものに張った水の上に浮かぶ、魔王ちゃんの姿がそこにはあった。

 トビを始め、熱狂的なファンは魔王ちゃんの水着姿に大喜びだ。

 黒ビキニって……彼女の実年齢は定かではないが、少なくとも見た目年齢には合っていないと断言できる。


『フハハハハ! 見よ、この完璧な配置! 魔王様の御姿をしっかりと捉えつつ、自分は邪魔をしないこの位置取り! これなら石を投げられることもあるまい! 感謝するがいい、この愚図ど――ぐぉぉっ!? 何故だぁぁぁ!』


 アップで見切れたまま話すサマエルに、無慈悲な攻撃魔法が飛んでいく。

 最後の一言が完全に余計である。

 それと、そもそもお前は映らんでもいいという声も周囲からちらほら聞こえてくる。

 さすがにそれは可哀想では……?

 街中ということで、空に飛んでいく魔法は途中で霧散するものが選ばれている辺りTBプレイヤーのモラル面は優秀だが。


『くっ……ええい、まぁいい! いいか!? 暑さが大変苦手でいらっしゃる魔王様に変わり、このサマエルがお言葉を伝える! 心して聞くがいい!』


 サマエルの言葉に続くように、魔王ちゃんはプールに糸目で浸かったまま、緩く手を挙げて声を発した。

 魔族のいる場所まで暑いということは、このTB世界全体が暑くなっているのだろうか?

 後で各地域のフレンドたちに、メールで確認を取ってみよう。


『ぅあー……』

『――久しぶりだな、来訪者どもよ! と、魔王様は仰せだ!』

『あぅー……』

『暑いので今回は簡潔に用件を伝える! この暑さの原因――制御不能の太陽の化身を討伐すれば褒美を取らす! かの者どもは魔界で発生するものではあるが、自然災害に近い! 遠慮はいらん!』

『うぅ……』

『場所は大陸西の大砂漠、貴様らが呼ぶところの……デゼール! 大砂漠デゼール!』

『ぶくぶくぶくー……』

『我はもうこの暑さで限界である! ついでに冷たい食べ物か飲み物を送ってくれれば、決して悪いようには――魔王様!? いけません、来訪者の粗末な食べ物などをお求めになられては!?』

『ぷはっ! わ……我からは、以上、である……あついー……』

『魔王様!? 魔王さ――』


 サマエルが動揺を見せる中、魔王ちゃんが手を掲げると、空の映像が薄くなっていく。

 前二回を上回る緊張感のなさをもって、魔王ちゃんによる特殊演出はこうして終わりを迎えた。


「なんか、最初以外は思ったよりもトビが静かで安心したよ。もっと水着姿に興奮して騒ぐかと思った」

「そうですね。他のプレイヤーたちも妙に静かで――?」

「違うぞ、二人とも!? これは、反応が薄かったわけではなく……」

「……」


 よく見ると、トビを始め魔王ちゃんファンと思しきプレイヤーたちは……。

 等しく手を胸の前で組み、心ここにあらずといった様子でうっとりとしていた。

 どうやら感動の余り、歓声を上げるといったレベルでは収まらなかったらしい。


「魔王ちゃん……尊い……」


 そんな調子に俺たち三人がついていける訳もなく、ひとまず無言でトビから距離を置くのだった。

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