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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

アニマルイベント、到来

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お嬢様の乗馬講座と提案

「今日は牧場に行きますわよ、牧場!」
「牧場? 今日は桃狩りの予定じゃ……?」

 翌日の朝、別荘での朝食の最中にマリーから突然の宣言が。
 急な予定変更に俺たちが戸惑っていると、マリーがそのまま理由を語り出した。

「乗馬クラブをやっている牧場が、ここから少し行った先にありますの。サイネリアさんのため、みなさんに現実で本物の乗馬を体験していただこうと――」
「待った待った! マリー」
「何ですの?」
「訊きたいことは色々あるが、一つずつ行くぞ。いいか?」

 決定事項のように語られても、圧倒的に説明不足で受け入れ難い。
 司と静さんにすら知らせていなかったのか、二人も驚いてマリーを見ているし。

「まず、ゲームのために現実の予定を曲げていいのか?」
「俺たちらしいっちゃらしいけど……ねえ? わっちの言うことも、もっともだよ。マリーっち」
「桃狩りだって予約制だよな? キャンセル料とか……」
「誰も桃狩りに行かないとは言っていませんわ!」
「「「え?」」」

 俺たちが声を合わせて疑問の声を発すると、マリーは桃狩りを行う場所に牧場が近いと説明した。
 すなわち……。

「桃狩りの前に牧場へ、ということになりますわね! ですから食休みの後、すぐに出発しますわよ!」
「過密日程だな!?」
「桃狩りは午後からですので、牧場併設のレストランで昼食にいたしましょう。ツカサ、アキカワにもそう伝えて頂戴」
「か、かしこまりました、お嬢様」
「シズカ、乗馬クラブに連絡を」
「承知いたしました。すぐに」
「何が何やらだが……本物の乗馬体験か。楽しそうだな!」

 そこで賛同者として未祐が手を挙げる。
 俺たちとしても牧場へ行くのはいいのだが、まだ訊き足りないことがある。

「この場にサイネリアちゃんがいないのに、俺たちが乗馬体験をしてプラスになるのか?」
「それについては考えがありますの。昨日サイネリアさんと話をしていて気が付いたのですが……わたくしのアドバイスで良くなったところもあれば、感覚の違い故か今一つ通じなかった部分がありますわよね? ――無論、わたくしのアドバイスが間違っているという訳ではなく。そうでしょう!?」
「分かってる、分かってるって。マリーの指導は的確だったよ」
「随分丁寧に教えてくれたもんね、マリーちゃん」

 念押ししてくるマリーの姿に、俺と和紗さんは苦笑気味だ。
 昨日の薄墨毛の初乗り後、マリー――いや、ゲーム内だからヘルシャか。
 ヘルシャはサイネリアちゃんにあれこれと乗馬に関する知識を教え込んでくれていた。
 きちんと成果も上がり、あの暴れん坊も少しずつ言うことを聞くようになってきた。
 だが、マリーの言う通りもう一歩という印象。
 今一つサイネリアちゃんが自分の乗り方というべきものを確立できていない感じがした。

「つまり、こういうことですか? 私たちが各々得た経験をサイネリアさんに伝え、彼女がその中から使えそうなコツなり情報なりを取捨選択すると」
「そう、そういうことですわリィズさん! 話した感じ彼女ならそれも可能でしょうし!」
「おお、なるほど! では、準備して牧場に向かうとしよう! いいだろう亘、みんな!?」
「いいけど、朝食はゆっくり食べさせてくれ……」

 気勢を上げるのは結構だが、二人ともそれに合わせて食べるペースまで速くなっている。
 折角の美味しい朝食なので、しっかり味わっておきたい。
 俺に賛意を示すように、厨房から現れた秋川さんが笑顔でコーヒーを注ぎ――ちなみに秋川さんは二十代後半の女性である。
 そしてそのコーヒーを静かに差し出してくれた。いい香り。
 それに対してマリーは「はしたなかったかしら……」と小さく呟き、顔を赤くした。



「では、シズカ。留守を頼みますわよ」
「いえ、お嬢様。今日は私もお供いたします」

 別荘の玄関傍、自転車の駐輪場で静さんの言葉にマリーが目を丸くする。
 一瞬の間の後、静さんが俺の方にちらりと視線を向けた。
 ――大丈夫です、もうちゃんと乗れますよ。
 それを見たマリーがどういうことかと問いた気な顔になったので、俺はこう答えた。

「見ていれば分かるよ。静さん、論より証拠です」
「昨夜のサイネリアさんの心境が今なら分かります……お嬢様。私に少々お時間をいただけませんでしょうか?」
「構いませんけれど……シズカがメイド服でないのは、つまりそういうことですの?」
「何だ何だ? 一体何が始まるのだ?」

 この場にいるほとんど全員が未祐のように困惑する中で、理世だけが何かに納得するかのように小さく頷いていた。
 みんなが見守る中、静さんがシティバイクのペダルに足をかけ……。
 思い切ってギュッと片足を踏み込む。
 少しのふらつきはあるが、外行きのカジュアルな格好の静さんを乗せた自転車はしっかりと前に進み始めた。

「あ、あれ? 静さんが自転車に!? お嬢様、静さんが! お嬢様!」
「そ、そんなに連呼しなくても見えていますわよ! あのシズカが自転車に乗るだなんて……」

 劇的な反応を見せたのは、未祐たちよりも普段から付き合いのある二人だ。
 それにしても大袈裟だが、やはり自転車に関して何かあるのだろうか?

「どういうことだ、ドリル? 確かここに来た初日に、静は自転車に乗れないと言っていなかったか?」
「ええ、そのはずですけれど……説明していただけるのでしょう? ワタル」
「え、わっちが何かしたの? っていうか、普通に乗り方を教えたんだろうけど」

 俺は初日昼過ぎと一昨日おととい、昨日の早朝と今朝の計四回、静さんが自転車に乗る練習をしていたことを明かした。
 マリーを除いたメンバーは静さんが自転車に乗れるようになったことを素直に喜び、隠していたことを水くさいと俺に対して言い募るといった様子だったが……。
 会話の中心が静さんへと移ったところで、マリーが俺の傍にススッと寄ってくる。

「ワタル、一体どんな魔法を使ったんですの? あんなにかたくなだったシズカを、自転車に乗る気にさせるなんて……」
「魔法? そんな特別なことは何もしていないぞ」
「嘘おっしゃい! 何か特別なやり取りがあったはずですわ! そうでなければ、こうはなりませんわよ!」
「んー……小さい頃に父さんに買ってもらった、自分の自転車に対する思い出を語ったくらいか? それ以外は本当に何もないぞ。というか、どうして静さんは自転車に乗りたがらなかったんだ?」

 マリーはそれを聞き、驚いたような表情と共に「だから静は……」などと呟いていたが……。
 急にまなじりをつり上げながらこちらを見た。

「……知りませんわ! 本人からお聞きなさいな!」
「何を怒ってんだ、マリー……?」
「怒っていませんわ! わたくしが解決できなかったことをあっさり解決されて、悔しくなんかこれっぽっちもありませんわ!」
「あ、いや……何かすまん」
「謝られると余計に惨めですわ!? それに、悔しくないと言っているでしょう!」

 駄目だ、これ以上何を言っても火に油のようだ。
 結局静さんが自転車に対して抱いていた想いは、推測できる材料はあれど謎のままで……。
 ねたマリーの膨れ面という珍しい表情を見られただけだった。
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