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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
アニマルイベント、到来

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止まり木の成長

 早朝、まだ眠りこけている秀平を残して俺は別荘の庭へと出ていた。

 昼寝の時点で分かっていたことだが、寝る場所が変わったとは思えないほど質の良い睡眠をとることができた。

 司は使用人だけあって、さすがの早起きだ。

 俺が起きた時点で、既に横には整えられたベッドが鎮座していた。

 それにしても……。


「空気が爽やか……やっぱり市街地とは違うな」


 深呼吸してから体を解していると、別荘の玄関扉が開かれる。

 中から顔を覗かせたのは、ジャージを着た静さんだった。


「おはようございます、亘様。お待たせしてしまったようで、申し訳ございません」

「いえいえ、俺がちょっと早かっただけで時間通りですよ。おはようございます、静さん。静さんのジャージ姿は新鮮ですね」

「スカートでは乗り辛いですから……今日もよろしくお願いいたします」


 そもそも、ジャージを持って来ている時点で本当は自転車に乗りたかったのでは? という疑念も湧くが。

 とりあえず、余計なことは言わないようにしておこう。

 こうして静さんと早朝に会っているのは、もちろん自転車の練習のためである。

 昨日の感じだと、すぐにでも乗れるようになる気がしているのだが……。


「今日は俺が手を離すところまで――」

「えっ」

「……行けると良いなぁと思っていますが。まあ、ゆっくり行きましょうか」


「えっ」って……普段の彼女からは考えられない動揺っぷりだ。

 実際、彼女が自転車に乗れないのは技術的な問題でも運動神経の問題でもなく、過去の俺と同じように思い切りが足りていないだけである。

 ただ、実は明後日にみんなで自転車で出かける計画が持ち上がっていたりするので……。

 それに静さんを同行させたいという気持ちが俺の中にある訳だ。

 これから起きてくるみんなの目に触れないよう、別荘の敷地を出て道路へと向かう。

 そして早速練習を始めた。

 

「わ、亘様? 何だか後輪の設置感が頼りないような……」

「気のせいです。昨日よりも背筋が伸びて力みも取れてきました、良い感じですよ」

「ありがとうございます」


 時々黙って手を放してみるというベタなこともしつつ……。

 ちなみに手を放してもそのまま乗れていたので、どうにか明後日の予定には間に合いそうだ。




 その夜、俺はシリウスを除くメンバーと一緒にTBの農業区を訪ねていた。

 目的は止まり木の様子を見ること。

 パストラルさんが出迎えてくれたので、作業風景を見ながらの話となったのだが……。


「メンバーが凄い増えてる!」


 ユーミルが驚いたように周囲を見回す。

 何人かのプレイヤーがこちらに気付いて手を上げるが、作業の手は止めない。

 というのも、年齢層が全体的に……。


「このゲームって、こんなにお年寄りがいたんだな……」


 俺の呟きにパストラルさんが頬を掻く。


「いたみたいです。何だか偏っちゃって……駄目でしょうか?」

「いや、全然OK。何か……落ち着くね、この作業風景を見ていると」

「そういえば、私たちの中で祖父母と一緒に住んでいるのは――」

「あ、私の家はそうですよ! ユーミル先輩!」

「拙者の家も、じーちゃんが元気でござるよ」

「リコリスとトビだけか」


 俺たちは割とお年寄りと関わる機会が少ないので、これはこれで。

 それと、そのお年寄りたちに混ざって小さい木人が土を耕していた。

 その姿を見てセレーネさんが目を輝かせる。


「ウッドゴーレム!」

「あ、そうでした。止まり木みんなの共同保有で、神獣はウッドゴーレムにしました。農作業の手伝いができるそうなので」

「そっかぁ。近くで見てきてもいいかな? パストラルちゃん」

「どうぞどうぞ」


 ゴーレムを目にしたセレーネさんは非常に嬉しそうだ。

 しかしその顔を見るに、今からでもセレーネさんだけゴーレムを育ててもらった方がいいのではないだろうか……?

 無理に俺たちに合わせているのだったら――


「あ、ハインド君、誤解しないでね。私はちゃんとノクスも好きだから、みんなに無理に合わせているなんてことはないからね?」

「……もしかして、顔に出ていました?」

「ううん。でも、ハインド君だったらそこまで気を回しちゃうかなって思ったから……」

「……」


 俺が二の句を継げずにいると、セレーネさんは微笑んでからウッドゴーレムの下へ向かって行った。

 その見透かすような言葉と表情に、不思議と心臓が高鳴る。

 しかし即座にユーミルとリィズから冷水を浴びせるがごとき視線を飛ばされ、今度は違う意味で心臓が高鳴った。

 ……トビ、シエスタちゃん。

 こういう時はただ笑っていないで、何か言って助けてくれると嬉しいな……。


「み、みなさんは神獣を何にしたんですか? もしかして、大神官――じゃない、ハインドさんの頭の上に乗っているのは……」

「くくく……はー。それはフクロウの雛でござるよ。孵化したのは昨日でござるが、一日で驚きの成長率!」


 俺は小さく羽ばたいて頭の上に着地したノクスを手に抱えた。

 そんなところに乗られると、落ちそうで気が気じゃない。

 トビの言葉通り、その姿はたった一日でフサフサとした白っぽい毛に覆われている。


「かっ……わいいですねぇ……」

「どうもハインドさんの頭の上がお気に入りなようで。頻繁に登りたがるんですよね」

「成長してからも乗られたら頭が傷だらけになりそうだから、早目に矯正したい……乗せるならせめて肩じゃないと」

「そうですよね。フクロウって爪とか鋭いですもんね」

「パストラルさん、カナリアもいますよー」

「ふぉぉぉぉぉ! どっちも可愛い……カナリアの雛、ころころしてる……」


 俺がノクスを、シエスタちゃんからマーネを見せると、パストラルさんは二羽の雛を前に大興奮だ。

 二羽は知らない人間を前に少し怯えていたが、やがて挨拶するかのように小さく鳴いた。

 パストラルさんの笑顔が更に深くなる。


「フクロウもカナリアも、生産活動的にはとても縁起が良いですね。こうして傍にいてもらうと、私たち止まり木としてもご利益がありそうな……」

「そうなんですか?」


 リコリスちゃんの疑問の声に、パストラルさんはよくぞ訊いてくれました! と言わんばかりの顔をした。

 どうやら薀蓄うんちくを語りたくて仕方ないらしい。


「何と言ってもフクロウは女神さまの従者ですからね。実際、畑にとって害になるネズミとか虫を取ってくれますし。カナリアは炭鉱なんかで危険を知らせてくれる大事な役目を担っていた訳ですから、二羽ともとても大事な存在ですよ。農業も採掘も、どちらもTBでは重要ですから!」

「はぁー、なるほどぉ……」


 フクロウは日本では福来郎・不苦労などの当て字をされる場合があり、縁起物として愛されている。

 カナリアは特に黄色の体色を持つものが昔から縁起が良いとされているな。


「そういえば拙者、フクロウに森の忍者という呼び名がついていることを今日になって知ったでござる。実に嬉しい共通点」

「あ、知ってます知ってます! 格好いいですよねぇ、森の忍者……この子もこれからそんな風になるのかなぁ……?」


 当然のようにトビが挙げた「森の忍者」という呼び名を知っているパストラルさんに対し、苦笑を禁じ得ない。

 彼女はそういう二つ名が大好きだもんな……。

 ずり落ちそうなノクスを持ち直しながら、俺はトビへと視線を向ける。


「今日になってって、お前わざわざフクロウについて調べたの?」

「まあ、うっすらと記憶の端にその呼び名があったでござる故。結果的に愛着が増したので、調べて良かったと思っているでござるよ。なー、ノクス」


 それは何より。

 トビがノクスの名を呼んで手を差し出すと、小さく跳躍してそちらへと移動した。

 昨夜と先程までのプレイ時間で、俺たちはノクスに交代での挿し餌――手ずから餌を与える行為を行った。

 結果、ノクスはどうにか渡り鳥全員の手に乗せても怖がらないようになってくれた。

 今のところ神獣育成は順風満帆である。

 と、そこでユーミルが小さく首を捻った。


「そういえば、バウじいとエルばあはどうしたのだ? パスティ。姿が見えないが」

「あ、おじいちゃんとおばあちゃんはログアウトして寝ました」

「早っ! もう寝たのか!?」

「ついさっきまでいたんですけどね……」

「入れ違いですか……是非お二人にもお会いしたかったのですが」


 二人がしてくれる体験談を特に楽しみにしていたサイネリアちゃんが残念そうな顔になる。

 老人らしく、バウアーさんとエルンテさんはとても早寝早起きのようだ。

 まあ、一方で俺たちも今夜は少し遅めのログインなのだが。

 パストラルさんとの話が一通り済んだ後は、雛たちを一度ギルドホームに戻し……。

 増えた止まり木のメンバー一人一人に挨拶をしながら、生産の手伝いをすることになった。

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