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神獣の選択

 鳥に候補を絞ろう、というところまでは良かったのだが……。

 最終的な決定には、それなりの時間がかかってしまっている。


「やはりタカかワシだろう! 猛禽もうきん類は格好いい!」

「それに関しては全面的に同意するでござるが、拙者はハトもいいでござるなぁ。ギルメン間で伝書鳩とか、できるのであればやってみたい。紹介文にもそれらしい記述があるでござる故」

「メールよりも風情があるわな。戦闘力は期待できないだろうが」

「見た目が綺麗なものや、鳴き声が綺麗なものも癒されますよ。ただ、これも戦闘というよりは愛玩寄りの意見になりますが」

「私は穏やかな性格の鳥だと嬉しいかな……あ、でもどんな種類でも育て方次第か。TBのAIなら、ちゃんとそういうのも反映してくれそうだもの」

「初期から実装されている馬ですらああですからね。しつけをせずに育てたら言うことを聞かない、なんてここの運営ならやりそうだ」


 と、こんな形で今一つまとまりを欠いている。

 こうなった時は他の観点から選ぶことも大事だろう。


「そしたら、少し能力で絞り込んでみるか」

「能力で? しかしハインド、載っているのは幼生状態のパラメータだろう? アテになるのか?」

「まあ、傾向くらいは読めるんじゃないか? 神獣だって物理寄り、魔法寄り、物理防御寄りに魔法抵抗寄り、果ては万能型と色々あるんだから。それと、その次のページって見たか?」

「次? ぬお、気が付かなかった!」


 初期パラメータ、紹介文と来て『神獣アビリティ』という項目が最終ページに存在している。

 例えばユーミルが挙げた猛禽類だと、物理・魔法攻撃力と風属性・風魔法の威力上昇というパターンが多い。


「両攻撃力は全員に効果があるのでまだいいとして、風ボーナスは完全に死にステータスになりますね……」

ファイアウィンドタイプの魔導士向きでござるな。後は騎士の均等型バランスタイプにも薄っすら効果があるくらいでござるか。属性とも記載されているでござるが、他の職で風武器縛りというとあまり……」


 特定の系統を強化するアビリティはあまり嬉しくない。

 五人で共有する以上は、やはり全員に効果が発揮されるものであれば好ましいだろう。


「そういえば、共同保有状態を一斉に解除して新しい神獣を育て直すという手段は無理なのでござるよな?」

「ああ。共同保有自体にはデメリットがないって説明したと思うけど、同じメンバーで共同保有し直すってのは制限されているからな。貢献値が還元される構造上、制限がないと簡単に神獣を成長させられる状態で交換できてしまう」

「具体的にはどういう制限なのだ?」

「一か月の再共同保有禁止、だったはず」

「結構重いね……となると、ここは慎重に決めないと」


 アビリティは成長によって追加されていくが、覚えさせるか否かはプレイヤーの判断で決めることができるそうだ。

 ただし、パラメータのように初期アビリティの時点で傾向は表れているはずなので、ある程度は参考にすることができる。


「しょっちゅう戦闘不能になっては立ち上がるユーミル殿っぽいのは、フェニックスあたりでござるが……」

「おお、いいではないかフェニックス! ……ん? 何だか理由が微妙なような……」

「フェニックスなんてあるんですか?」


 理世が小首を傾げた。

 一覧にはないので、不思議に思うのは当然だが……。


「公式サイトにあった神獣を紹介するデモ映像の中に、そういう幻獣っぽいのもあったんだよ。ただ、そのものズバリな名前の神獣がリストにないから……」

「形が似ているものや、モチーフになったものから進化するのでは? という感じで掲示板などでは既に噂になっていたでござるよ」


 掲示板を見たのは夕食後の食休みの間だ。

 その時にアップデートされた公式サイトのデモ映像も男性陣三人で見た、という訳だ。


「そういうことですか。では、フェニックスとなると……ワシ、もしくは孔雀辺りの派生ですか?」

「多分な。ただ、そうなった場合のアビリティを予想してみると――ちょっと微妙になる気がしないか?」


 パーティインさせれば第二の蘇生役になる可能性はあるが、アビリティとなるとどうだろう。

 そんな俺の問いにはセレーネさんが答えてくれるようだ。


「他のゲームから考えると……回復効果アップ、とか? 戦闘中のHPの自然回復追加……は強すぎるか。MPの回復量微上昇くらいならあるかな……フクロウがそうだし。あ、あと強力な火ボーナスが追加されそう」


 その意見は大体俺の考えと同じで、トビも頷いている。

 再生の象徴であるフェニックスということで、他のゲームでの代表的な効果はそんなところだ。


「MP以外は微妙……か? 回復効果アップはアイテムにも乗るならまあまあだが、イベントによってはハインドしか強化されんな」

「まあ、言ってしまえばフェニックスに関しては全部妄想なんだけどな。それでも、実際にリストを見ると結構な頻度で火強化やら水強化を見かけるんでありそうな話ではある。回復効果アップ(小)ってのも存在しているしな」

「では、フェニックス狙いはやめておくか。もし本当に火が強化されるのであれば、ドリルが喜んで――」

「わたくしを呼びまして?」

「!?」


 言いかけたユーミルの言葉に、ヘルシャが卵を抱えながら応じた。

 その卵の輝きが増しているということは……。


「もうどれにするか決めたのか? ヘルシャ」

「ええ。そういえば、フェニックスという手もありましたわね……ですがわたくしたちは、トカゲに決定いたしましたわ!」

「トカゲ……ということは、サラマンダー狙いですか?」

「ご名答! さすがの知識量ですわね、リィズさん!」


 なるほど、サラマンダーか……。

 確かに上手くサラマンダーになれば、ヘルシャの火魔法が強化されるだろうな。


「サラマンダーと言わず、立派な竜になってくださっても構いませんわ!」

「あー、掲示板にも一杯いたでござるなぁ……ドラゴン狙いでトカゲにするって連中が……」


 そういえば、神獣の餌というのはどういう扱いになるのだろう?

 もしドラゴンなんて完成したら、食費がとんでもないことになるような気がするのだが……。


「でも、いいのかワルター、カームさん? 火強化だとヘルシャと一部のプレイヤーにしか恩恵がないけど。シリウスの他のメンバーはなんて?」

「シリウスは元々、お嬢様を何らかの形で慕っている人たちの集まりですから。何も問題ありませんよ」

「……ええ、何も問題ございません」


 あ、カームさんがちょっと寂しそうだ。

 爬虫類は好みではないのだろうか……?

 もしかしたら後から気に入るかもしれないので、今は何も言わないでおくが。


「むう、ドリルたちにおくれを取ったか! うだうだやってないで、そろそろ私たちも決めねばなるまい!」

「あ、ユーミル先輩。私たちも決まりました!」

「何っ!?」


 リコリスちゃんからの報告を受け、ユーミルがショックを受ける。

 見ると、サイネリアちゃんが持った卵が光を放っており……。


「私たちはカナリアに決めました」

「カナリア可愛いよね。小さくて、黄色い種類だとそれこそいつまでもヒナ鳥みたいで」

「おー、セレーネ先輩凄い。私たちが選んだ理由と全く一緒です。私がお試ししてた羊の寝心地も、結構良かったんだけどなー」

「シーちゃんにはハインド先輩が作ってくれた枕があるでしょー」

「ん、まーね。あれに敵う枕は存在しないと言っても過言じゃないんじゃないかな?」

「いや、製作者として言わせてもらうなら過言だと思うけど……」


 褒めてもらえるのは嬉しいが。

 そんな訳で、ヒナ鳥たちは鳥類の中でもかなり小柄な「カナリア」に決めたようだ。

 そして俺たちは……。


「もう、ここは投票制にするか……鳥はこのページ内に収まっているから、一斉に指を差すぞ? リストはユーミルのやつを使おう」

「そうするか。では……せーのっ!」


 ユーミルの声と共に五人同時に指を差したのは、図らずも全く同じ種類の鳥。

 その結果、ようやく俺たちの神獣も決定することになった。


「やっぱりこうなるよな……」

「まあ、渡り鳥の名前を決めた経緯を考えると自然でござろう」

「フクロウは縁起が良いとされていますし、知恵の象徴でもあります。ユーミルさんの単細胞なイメージを、フクロウが緩和してくれるかもしれません」

「おい!?」

「え、ええと……と、とにかくフクロウに決定だね。ゴーレムを送り返さないと……」

「あ、俺もうり坊を返さないと」


 未だに抱いたままだった猪の子ども――うり坊をそっとテーブルの上に置くと、何だか寂寥感が押し寄せてくる。

 とても人懐っこく大人しい子で、抱いているだけで癒された。


「ハインドさんに懐いていましたよね、このうり坊……他は散々だったというのに」

「う、うむ……」

「どうしてユーミルさんが照れるんですか? うり坊と一緒に返却しますよ」

「どこに!?」


 セレーネさんのゴーレムに続いて、うり坊を返還する。

 さて、気持ちを切り替えて……今度はフクロウを迎える準備を始めないとな。

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