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神獣と遊ぼう

「セレーネさん、何ですそれ?」

「ん? ゴーレムだよ。ロックゴーレム」


 セレーネさんが「ハインド君に向かって前進!」と口にすると、小さなゴーレムがこちらに向かって歩いてくる。

 ゴーレムだけあって、命令を入力するとその通りに動くらしい。

 隣でリストを眺めていたリィズが、感心したようにゴーレムを見ながら呟く。


「これならなつく懐かないは関係ありませんけど……神、獣? 獣?」

「少なくとも獣ではないな。もしかして、大雑把な作業の助手とかもさせられそうですか? 指にもちゃんと関節がある」


 俺の前で止まったゴーレムを観察すると、岩製のゴツゴツした手には細かな稼働機構が。

 腕の中の猪……うり坊が俺が屈むのに合わせてもぞもぞと動いた。


「うん、できそうだよ。やらせてみたら、ちゃんと物を持てるみたいだから」

「おお、これは三つ目の可能性でござるな!」


 神獣の能力は大きく分けて二つである。

 一つが以前も触れた保有者の能力向上。

 もう一つはパーティメンバーが五人に満たない時、プレイヤーの代わりに枠を一つ消費しての戦闘参加。

 誰の神獣を参加させるかはパーティ結成時の投票制で、野良パーティなどで無投票だったりした場合はレベルが高いものから順に選ばれる。

 ただしプレイヤーの欠員を埋められるほどの戦闘能力があるかどうかは、現時点では不明である。

 そして……


「生産活動の手伝いか……荒っぽい動物系でも、土を耕すくらいはできんのかな?」

「そうですね。農耕馬のように、何か道具を引かせればあるいは」

「農業なら鳥系でも、害虫退治くらいはできそうではござらんか?」

「葉物……特に薬草なんかには虫が出るもんね。ただ、そういうことができないならできないで、他に得意なことがあるんじゃないのかな? ゴーレムの中でも、ウッドゴーレムなんかは農業に強そうな雰囲気だよ」


 喚び出すページに書かれている紹介文を見る限り、セレーネさんの言うように神獣にはそれぞれ得意分野が設定されていると思われる。

 完全に役に立たない神獣はおそらくいないと――


「ハインド、水棲生物って戦闘に参加できるのか? 喚んでみてもいいか?」


 思っていたのだが、ユーミルがこんなことを言い出した。

 俺はセレーネさん、リィズ、トビと共にそちらに視線を向ける。


「いやいや、それはさすがに水槽が必要じゃないか? 水陸両方で生きられるやつなら大丈夫かもだが、この砂漠の気候だとカラカラになるから可哀想だ」

「そうか……そういった地域特性もある程度、考慮した方がいいのか?」

「多分な。ちなみにだが、何を喚び出す気だったんだ?」

「マンボウ!」

「大きめの水槽がなかったら絶対にまずいことになるわ。って、そんなに育成難易度が高いやつがいんの? 本当に?」

「む、マンボウってそんなに弱いのか? ちゃんとリストには載っているぞ!」


 ユーミルが指差しながら示す一覧を見ると、確かにそこにはマンボウ種とあった。

 マンボウはとても繊細な生き物なので、死ぬことのない神獣といえど飼育は非常に難しいだろう。

 ……大きいから強いとでも思ったのだろうか? こいつは。

 それでもめげずにユーミルは言葉を続けた。


「しかし、育てれば海なら戦闘に参加できそうではないか?」

「どうかな……分からないな。普通のマンボウなら無理だと断じるところだけど、神獣だからな」

「ばっさばっさとモンスターを倒すマンボウでござるか……全く想像がつかぬ……」


 成長していけばあるいは、ということも考えられる。

 記載されているパラメータは未成体のものなので、推測程度が限界だ。

 だから現状では、こう結論付けるしかない。


「結局は、好みで決めるのが一番じゃねえかな。ユーミルは何かないのか? こういう系統が良い、みたいなものは」

「好みの系統か……ふむ」


 ユーミルが胸の下辺りで腕を組んで考え込む。

 みんなの様子はもはやペットを選ぶというよりも、ただの触れ合いと化している感が否めない。

 特にカームさん、フェレットを抱えて先程から一歩も動く気配がない。

 ヘルシャもワルターも諦めたのか、カームさんを放って次々と神獣を喚び出している。

 ヒナ鳥たちもリコリスちゃんは逃げ出したレッサーパンダを追いかけ回し、シエスタちゃんは羊を枕に眠り始めた。

 サイネリアちゃんだけがリストを見てうんうんと唸っている。


「水棲生物といえば拙者も、忍者児雷也にあやかってカエルはどうかな? と考えてみたり」

「良いと思うけど、砂漠に連れ出したら一瞬で干からびそうだよな」

「それなんでござるよなー」

「その辺の処理がどうなってんのかは謎だよな。行動不能にはならなくても、弱体化くらいはしそうな」

「さっきシロクマを喚んでみたんだけど、少し経つとぐったりしてきて可哀想だったよ」

「「あー」」


 やっぱりある程度、神獣は周囲の環境に左右されるようだ。

 そういや、あっちのフェレットもレッサーパンダも暑さに強いとは言えないような……。

 室内なので、今のところセレーネさんが喚んだというシロクマほど影響は出ていないようだが。

 そんなことを話していると、考えがまとまったのかユーミルが腕組みを解く。


「……そうだな。とりあえず、私は格好よくて強そうなのが好きだぞ! ライオンとか! トラとか!」

「分かり易いな、お前は。他は?」

「他には――」

「相変わらず子どものような……」

「子どもっていうか、小さい男の子みたいだよね……小動物系が出てこない辺りが特に」


 リィズとセレーネさんの言葉を気にすることなく、ユーミルが好きな動物を列挙していく。

 その途上で、ふと何かに気が付いたように動きを止めた。


「――あ、そうだ。別に私の好みとかではないのだが、ここはギルド名に合わせて鳥系ではどうだ?」

「なんだか、ちょっと前の止まり木の命名を思い出す意見でござるな」

「あれも鳥関係ということで絞り込みましたしね」

「む、駄目なのか? 確かに発想は似たような……というか、そのままではあるが」

「駄目ではありませんよ。統一感が出ますし、大変結構ではないかと」


 いつもユーミルと衝突しているリィズが賛成する姿勢を見せたため、俺を含めた他のメンバー……残りの三人は顔を見合わせる。

 これは共同保有がスムーズに決まりそうな良い流れなのではないか?


「セレーネさんは、ゴーレムが気になっていたんじゃないんですか?」

「あ、確かに気になっていたけど鳥も好きだよ。昔、実家でセキセイインコを飼っていたりもしたから」

「おお、インコでござるか! では、おしゃべりもできたり?」

「うーん、メスだったからあんまり……」

「メスはあまり喋らないのか!? というか、みんな動物に詳しいな!」


 ユーミルが他にも色々教えてくれ、とリストを手にせがむ。

 そこからはみんなで「どの鳥がいいか」という、幾分的を絞った話し合いに移ることができた。

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