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神獣お試しモード

 その夜、俺たちは大広間で膝を突き合わせていた。

 現在は夕食待ちで、みんなで適当に雑談をしている。


「それでね、未祐ちゃんとマリーちゃんが競争を始めちゃって」

「私とかずちゃんは後からのんびりと帰ってきました」

「それで未祐とマリーはあんなに滑り込むように敷地内に入ってきたのか……」


 午後の行動について互いに報告し合っている。

 ロードバイクに乗った未祐とマリーの出現に、俺と静さんが慌ててその場を取り繕ったのは言うまでもない。

 二人がそのまま二週目に入ろうとするのも一応止めておいた。


「結局、勝負がつきませんでしたわ……ところでシズカとワタルはあの時、何をしていたんですの?」

「おお、それは私も気になっていた。そんなに仲が良かったか? 二人とも」

「……清掃の手順や心がけについて、亘様とお話させていただいておりました。そうですよね?」


 静さんが話を合わせろ、といった目を俺に向けてくる。

 確かに、適度にこの二人にとって興味がなさそうな話題だ……唯一内容について訊いてきたのは、司ただ一人だけである。


「特に窓の磨き方だとか、結露対策についての話をな。興味があるなら、司には後で詳しく……っと、理世。どうした?」

「……いえ。察するに、絶対に突き止めなければならない類のものではなさそうですし……どうぞ、続けてください」


 不味いな、理世が俺の嘘に勘付きそうだ。

 ここは切り替えて、さっさと次の話題で流してしまうに限る。


「こっちの話よりも、二人の釣りはどうだったんだ?」

「あ、そうそう。川を遡って源流の方まで行ったらイワナが爆釣でさ。水も綺麗だったし、初心者に毛が生えた程度の俺でも楽しかった! 次はわっちも行こうぜ!」

「ああ、次は俺も行くよ。結局湖だけじゃなくて、川の上流まで行ったんだな」


 ちなみに湖の水も綺麗で泳げるそうだ。

 マリーに言われて全員、水着を用意していてきているのでそちらもその内。

 しかし、そんなに釣れるのならば俺もやってみたいところだ。

 やはりTBの釣りと本物の釣りでは違うだろうから。

 釣果に関しては、司からも一言。


「釣ったイワナは秋川さんが塩焼きにしてくれるそうですよ、師匠」

「それはまた美味しそうな……そういや、夕飯の後はどうする?」

「夜は夜でできることはありますけれど……わたくし、TBの神獣が気になりますわ」

「そっか。みんなは?」


 何かないかと顔を見回してみると、やはりみんな神獣が気になるとのこと。


「まあ、初日から飛ばしても最後まで持ちませんし……」

「そうだね。今夜は軽くTBをやって早めに寝るといいんじゃないかな?」

「決まりですわね」


 理世と和紗さんの言葉を受けて、マリーが締める。

 その直後、夕食の準備ができたと秋川さんが顔を覗かせた。

 みんな外に出た後だからか、その声に即座に立ち上がって移動を始める。

 待っていれば食事が出てくる……それだけで、普段からは考えられない贅沢だな。

 味も最高だし、気を付けないと滞在中に太ってしまいそうだ。




 夕食を食べ終わり、TBにログインした俺たちは談話室で早速神獣をび出してみることに。

『お試しモード』とやらで出せるのは主に『未成体』状態の神獣で、神獣は成長に応じて段階的に『幼生』『未成体』『成体』『完全体』……と変化していくそうだ。

 お知らせで存在を匂わされていた、「完全体の先」というのが何なのか気になるところではあるが。

 ちなみにヒナ鳥たちも既にログインしており、シリウスは基本的にヘルシャが選んだものを共同保有という形にするそうだ。


「さて、まずはどれを選ぶ?」

「一発確定ではなくお試しなのだろう? だったら悩むよりも、早速……このランダム機能を使って選択だ! ていっ!」

「あっ、おい!」


 ユーミルがメニュー画面を操作し、ランダムに選ばれた神獣が出現する。

 喚び出された黒い影は、素早く談話室の中を跳ね回った後――ガブリ。


「ぎゃあああああ! 何だ!? 何が私の頭の上にいるのだ!?」

「これって……」


 犬に似た、けれども犬よりも鋭い目付きに面長の顔……。

 ユーミルの頭にかじりついているのは、日本では姿を見られなくなったあの動物。


「狼……で、ござるかな?」

「狼か。神獣っていっても、普通の動物と変わらないんだな。それとも、完全体になると違うのか?」

「そういえば、狼は猪の天敵の一種に数えられていますわね」

「おい、どういう意味だドリル!? それよりもお前ら、のんびり話していないで助けてくれ! 地味に痛いのだが、これ!」


 ユーミルの頭から引き剥がした小さな狼を抱きかかえると、腕の中でジタバタと暴れた。

 やや短い足を振り回す、その姿を見た女性陣の反応は……。


「か、可愛いです……」

「腕白ですねえ……先輩、こんなんでも幼生から育てれば懐くんですか?」

「多分。それに、神獣だって種類によって性格に違いがあるだろうし」


 相対的にではあるが、草食系の動物がベースになっているものは比較的穏やかなのではないだろうか?

 狼は肉食獣だしなぁ……。


「っ、くくっ。ランダムでいきなり荒っぽい性格のものを引き当てるなんて……おいしいですね、ユーミルさん」

「おい、ふざけるなリィズ! 確かに今のは自業自得だが、おいしいとは何事だ!? 別に私は笑いを取る気など――笑うなぁぁぁ!」


 肩を震わせて俯くリィズに対し、憤慨するユーミル。

 とりあえず、ひとしきり狼を眺めた後で俺たちは狼をリリース。

『返還』というボタンをユーミルが押下すると、転移の光が現れて狼が去っていく。


「……最初はこんな結果になったけど、ユーミルの言う通りかもな。最初は共同保有とか意識せずに、それぞれ気になったものをどんどん喚び出してみようぜ」

「そうですわね。二人とも――って、早っ! 早いですわよ、カーム!」


 ヘルシャの視線の先では、カームさんが猫の神獣を撫でまわしていた。

 しかし、よりにもよって選んだのが猫だったので――


「あっ……」

「逃げちゃいましたね……」


 構い過ぎてすぐに部屋の隅に逃げられてしまったが。

 その後のワルターの言葉に従い、渋々カームさんは猫の神獣を返還した。

 ここまでまともに神獣とコミュニケーションできた回数はゼロである。

 そんな微妙な空気の中、トビが嘆息する。


「噛み合わないでござるな……。ハインド殿、どうするのでござるか?」

「と、とにかく他のも喚んでみよう。色々試せば、俺たちに合う性格の神獣もきっといるって!」

「うむ! では、総当たりするくらいの気持ちで行くか!」


 神獣の技能であるプレイヤーの能力アップの性能も考慮に入れる必要はあるだろうが、それよりもまず第一に可愛がれるかどうかだ。

 気の合うペットを求めて、俺たちは試行錯誤を始めた。

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