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新システムと立札再び

『間もなく次回イベントの告知が行われます。現在ログイン中の皆様には特殊演出が行われますので、そのままお待ちください。尚、戦闘中の方は――』


 妙な言い回しだな。

 いつもの見るタイプの演出ではなく、個人個人に対して何かが起きるような言い回しだ。

 場所が指定されていないのも気にかかるが……。


「あ、お嬢様――じゃなくて、ヘルシャさんにワルターさん、カームさんですよね? こんにちは!」

「レイドイベント以来ですよね? あの時はほとんどお話できませんでしたから、改めて自己紹介を――」

「いいえ、無用ですわ。こんにちは、サイネリアさん、リコリスさん、シエスタさん」

「おおー、ちゃんと名前を覚えていてくれてる。こんにちはー」


 ヒナ鳥たちとヘルシャたちが挨拶を交わしている。

 レイドイベントの時に会っているので初対面ではないが、大人数での集合だったためまともに話すのはほとんど初めてである。

 それを横目に、トビが少し残念そうに呟く。


「この感じだと、魔王ちゃんでは――」

「ないだろうな。空を見ろっていう、いつもの文言が入っていなかったし」

「だよねえ。そろそろ来ると思っていたのでござるが……ああ、魔王ちゃん……」

「あ、字幕が途切れましたよ」


 リィズの声に、俺たちはしばしその場で静止した。

 すぐに変化が訪れるかと思いきや……。


「……」

「……」

「………………何も起こりませんわね?」


 ヘルシャの発言に、俺たちは肩の力を抜いて息を吐いた。

 肩透かしもいいところである。


『異界の子らよ……』

「むおっ!?」


 ――と思った直後に響いた声に、ユーミルが驚きと共にその場で跳ねた。

 周囲のプレイヤーたちも困惑したように辺りを見回すが、景色などに変化は見られない。

 声だけ……なのか?


『我等、其方たちの世界の概念に当て嵌めるところの……神々と呼ばれる存在』

「頭の中に直接響いてくる感じですね……」

「う、うん。現地人の人たちには聞こえていないみたい」


 足を止めているのはプレイヤーたちだけで、現地人たちはそれを迷惑そうに見ながら通り過ぎていく。

 告知の場所は指定されていないようだが、過去の事例を考えてみんな外に出ているらしかった。

 俺たちが立っている大通りには、かなりの人数のプレイヤーが集まっている。


「まさかの神々でござるかぁ。魔王ちゃんたちに比べると、随分と遅いご登場でござるな」

「姿も見せないし、サービスが悪いな! 魔王を見習え!」

「そうか? どちらかというと魔王ちゃんのフットワークが軽過ぎるだけだと思うが……」


 既に二度もプレイヤーの前に姿を現しているからな……。

 俺たちの場合は三度か? 彼女を目にした回数は。

 神々は魔王ちゃんやサマエルのようにこちらの態度に一切反応することなく、話を続ける。

「神々」と複数形で名乗るだけあって、それは複数の声が混じり合った不思議な響きを持っていて……。

 若いのか老いているのか、はたまた男なのか女なのかも判然としない。


『其方たちが異界よりでし際に天界にて生まれし命を、今こそ其方らに返そう。我等は神々。この世界を見守りし存在なり……』


 そう一方的な宣言をもって、声が途切れる。

 直後、胸の前の空間が輝いたかと思うと――


「うわっと!?」

「な、何ですのっ!?」

「危ないっ!」


『光に向かって手を掲げよう!』というシステムメッセージに従うと、白い塊が手の中へと出現。

 ソフトボール大のサイズをした、それは紛れもなく……。


「……卵、か?」

「卵でござるな……」

「卵……だよな? あ、微妙にあったかい……しかも光ってるし」


 内部から淡い光を発する、不思議な卵を抱えて互いを見合う俺たち。

 見ると地面に落としてしまっているプレイヤーもいたが、卵は割れずに形を保っている。

 鶏が生んだような、俺たちが見慣れている卵とは違うらしい。

 ユーミルが眉根を寄せて、神々に抗議するように自分が持った卵を掲げる。


「これでは全くもって説明不足ではないか!? 何なのだ、この卵は! 戻ってきて説明せんか!」

「ええと、異界の子……つまりプレイヤーたちがこの世界に来た弾みで、生まれた命がこの卵……ってことだよな?」

「そう言っていましたわね。しかし、この卵の中身は一体……?」


 知らされたのは卵の来歴だけで、完全に情報が不足している。

 と、不意にメニュー画面のお知らせページが自動的に開いて目の前に表示される。

 そこには新システム実装について掲載されており――


「すまない、道を開けてくれ! サーラ王宮の許可は得ている! 我々は敵対行動を取りに来たのではない、道を!」


 その声に顔を上げると、往来を武装した一団が移動してくるのが見えた。

 何だろう、こちらには強烈な既視感が……案の定、装備を見る限りグラドの国境兵たちだ。

 見覚えのある眼帯の兵士が、立札を通りの先の広場にへと設置した。


「ええい、次から次へと! 立札ということは、また闘技大会か!? 人が多くてここからでは何も見えん!」

「あら、それは望むところですわ! 雪辱を果たす機会到来ですの!?」

「……今回は違うみたいだよ?」

「「へ?」」


 セレーネさんが人々の群がる立札を見つめながら、ユーミルとヘルシャの言葉を否定する。

 ここから見えるのか、相変わらず凄いな。

 目を凝らしても、俺には一番大きな文字……先頭の「告」という文字しか確認不可能だ。


「ええと、主催がグラド帝国の皇帝様なのは闘技大会と同じとして……来訪者が育てた、グラドタークを超える馬を見てみたいとあるね。それから、人馬一体を体現するような馬と乗り手の……レースが見たいって書いてあるのかな?」

「レースですか……要は競馬か?」

「おー! だったらここはサイちゃんの出番だね!」

「あ、うん。そっか、あの子たちの晴れ舞台が……そっか……」


 リコリスちゃんに呼びかけられ、サイネリアちゃんの表情が少しずつ笑顔に変わって行く。

 それにしても、立て続けに二つも告知を行うとは……周囲のプレイヤーたちも、急激な変化に会話が止む気配がない。

 ざわめきが際限なく大きくなっていく。


「とりあえず、一旦ギルドホームへ行こうか。情報の整理も兼ねて」

「えっ!? ハインド殿、今なんて!?」

「ギルドホーム! 一旦帰ろう! ヘルシャたちも!」


 もう互いの声も聞こえないくらいに、広間の周りと大通りは騒がしくなっている。

 俺の叫び声に全員が首を縦に振ったのを確認すると、雑踏を抜けだしてギルドホームへと向かった。

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