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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

集団戦と夏休みの開始

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ティオ殿下と渡り鳥の訓練 その3

 TBにおいてプレイヤーが出店できるショップにはいくつかの種類がある。
 商業都市でも確認した通り、最もオーソドックスなのが各町や村にある商業区画の「空き店舗」を一定期間借りて物品を販売するスタイル。
 そしてもう一つが「ギルドホームの一部を開放」してショップとしての機能を持たせる方式。
 最後に、そのどちらでもないもの……それがこの「屋台」ということになる。

「商業区にホームがあるギルドは、立地的な意味でもホームの一部をショップにすれば良いのですが……」
「渡り鳥のホームは住宅区……それも少し奥まった場所にあるでござるからなぁ。使用頻度の面から考えて、借り店舗は微妙。アイテム数もギルドの生産力からいって少数。必然、一回毎の使用に適した屋台という形に落ち着く次第で」
「ふーん……」

 あまりピンと来ていない様子のティオ殿下を連れて、俺とトビは街へ移動中だ。
 実際に街に出た回数、自分で買い物をした経験が少ないせいかもしれない。

「トビ、ショップ開催の連絡は?」
「カクタケアを始めイグニス、カリマ、靴底が砂だらけ、などご常連のギルドには連絡しておいたでござるよ」

 殿下の手前、メールという単語はあえて使わずにトビに確認をとる。
 俺たちが屋台を使って販売する時は、知り合いのギルドやプレイヤーに知らせるのが慣例となっている。

「……待って。何か、最後のギルド名だけおかしくない? ギルド名よね、それ?」
「靴の中がじゃりじゃりする、とどちらにするか迷ったそうでござるよ?」
「どっちでもいいわよ、そんなの!? 勝手に防塵ぼうじんの靴でも何でもきなさいよ!」
「何を履いても多少は中に入ってくるよな?」
「あー、確かに。砂漠の砂ってほんと厄介でござるよなぁ」
「私はそういうことを言ってるんじゃないわよ!」

 そんな会話をしつつ商業区に着いたら、区の管理をしている区長に挨拶。
『王都ワーハ』の商業ギルドは自治組織なので、彼は別に公務員という訳ではない。
 商業組合の重役、と言えば一番正しいだろうか。
 長とは言っても彼より権力のある、表に出てこない組合の上役がいるとかいないとか。
 ここで場所代と屋台のレンタル料を払うと、指定された区画の中で臨時の店を開くことができる。
 しかし……。

「こ、これはティオ殿下!? どうしてこのような場所に、そのような御姿で……!?」

 こうなることを恐れて、町娘の格好をしてもらったのだが……そりゃあ分かるよな。
 特に姉である女王は民衆の前で自分の姿を隠すような性格ではないし、妹であるティオ殿下はその姉によく似ている。
 区長はティオ殿下の姿を認めた途端、目に見えて腰が低くなった。
 その対応にほんの一瞬、どうするべきかと眉をしかめるティオ殿下だったが……。
 俺たちが反応するよりも早く、表情を整えて切り返す。

「民衆の心を深く知るための行い……とでも申しましょうか。なるべく秘密にしてくださいね? 今は商売に関する勉強中なのです。ですから私たち、屋台をお借りしたいのですけれど」
「え、ええ、それはもちろん! 何でしたら、一番大きな貸店舗をご用意いたしますが。当然、姫様からお代は――」

 区長が言いかけた言葉を手で制すティオ殿下。
 王族としての余所行き用の態度はさすがに毅然きぜんとしており、俺たちの前とは違って威厳すら感じさせる。

「いいえ、屋台で結構です。それから、代金はきちんとお支払いします」
「え? いや、しかしですな……」
「あなたのお心遣いには感謝いたします。ですが、私は王族だからといって強権を振るう気は毛頭ありません。どうかみなと同じように」
「は、はあ……で、ではハインド、トビ。いつも通りに……で、構わないのか? 場所も?」
「ええ、使用料は払いますよ。場所もいつものところでお願いします」

 俺はトビと顔を見合わせると、普段は見られない区長の態度に少し笑いながら頷いた。
 ちなみに「1ゴールドたりともまける気はねぇ」というのが彼の口癖である。
 そんな彼に見せたティオ殿下の対応は、以前までの彼女なら考えられないものだ。
 初めて会ったころの彼女なら、平気で区長の申し出を受けていた気がする。
 事務所を出る直前、「聞いていた話と随分印象が違うな……」という区長の呟きが耳に入った。



 ガラガラと借りた屋台を引いて移動していると、ティオ殿下が俺たちに声をかけてくる。

「ねえ、あの対応で問題なかったのかしら……? 相手の反応が今までと違うから、落ち着かない気分なのだけど……」
「区長の面目を潰さない言い回しでしたし、素晴らしいご対応でしたよ。なあ?」
「そうでござるよ。笑顔も素敵で、まるで本物の聖女様のようでござった!」
「あのね、まるで私が偽物か何かみたいに言わないでくれる? 市民が付けた呼び名なのよ、そもそも」
「その割には、区長が一度も聖女様と呼ばなかったような気が……」
「ハインド……?」
「あ、申し訳ありません。冗談です」

 視線から逃げるついでに時間を確認すると、まだ深夜というほどではない。
 これからフィールドなりダンジョンに行くギルドも多いだろうし、食べ物も回復アイテムもちゃんと売れるだろう。

「ところでハインド。あの区長、私を見てやけに態度がコロリと変わったけれど……まさか商売絡みで不正なんてしていないわよね? 貴族と結託して物流を操作したりだとか」
「よくその疑念を表情にお出しにならずに会話されましたね? 俺たちの知る限りでは、ないと思いますよ。あの通り気の小さいところはありますけど、至って真面目なんで。彼がああやって保身を図るような態度を取る理由も、一応知っていますし」
「そうなの?」

 あんな風に権力には弱いし金には細かいが、悪い人間ではない。
 彼との付き合いはワーハに来て少し経ったころからなので、比較的長い部類に入る。

「彼は寒村の出身だそうです。何でも、食うにも困る少年時代だったらしく……ですから、そんな彼の第一の指針は自分と家族を飢えさせないこと。その一心で今の地位に上り詰めたそうで」
「そうなの。そう聞くと、あの態度にも納得が……って、どうしてそんなことを知っているのよ?」
「まぁ、完全に偶然なんですけどね。ちょっと高級なお酒を手に入れる機会があったのですが、俺たちは見ての通り未成年なので」
「ハインド殿と拙者、二人で酒好きと噂の区長にそれを持っていったのでござるよ。そしたらそれが夜だったのもあって、晩酌に付き合えーからの酔って自分語りコースに――おっと、指定の場所に着いたでござるよ」

 屋台が並ぶ通りの一画、空きスペースに借りてきた屋台を滑り込ませる。
 そしていつも通り、インベントリからどんどんアイテムを――

「ハインド? どうしたの?」
「殿下、一緒にアイテムを並べましょう。これとかこれなんて、殿下も一緒に作ってくださったものですよ」
「え? ええ、そうね……確かにそうだわ」

 効率良く並べるのをやめ、ある程度ティオ殿下に任せながら三人で一緒に並べていく。
 いつもより少し不格好な陳列となったが……。

「――完成! トビ!」
「承知! ギルド・渡り鳥の臨時ショップ、開店でござるよー!」

 トビが手に持った小さな鐘を鳴らす。
 それに反応したのは数人の現地人と、通りがかりの見かけないプレイヤーたち。
『王都ワーハ』にいる全プレイヤーを把握している訳ではもちろんないが、装備などの雰囲気と頭上のレベルからしてワーハに来たばかりと推測できる。
 ヒナ鳥たちと同年代くらいだろうか? 女の子五人のフルパーティだ。
 現地人が料理を買っていった後で、そのプレイヤーたちが屋台の商品を興味津々で眺める。

「あの、中級HPポーションってありますか? あまりランクの高過ぎないものがあれば、まとめ買いをしたいのですが……」
「ああ、そのくらいのレベルだとそうですよね。高ランクだと回復量が過剰な上に値が張りますから……少々お待ちください。おそらく、ご用意できるはず」

 俺の言葉を聞くと、ほっとしたような表情でそのリーダーらしき子が仲間たちと笑みを交わし合う。
 サーラに来てくれる新規プレイヤーというだけで貴重だからな……。
 TBには今回のような国単位での争いもあるみたいだし、逃してなるものか。

「ハインド殿の考えていること、何となーく分かるのでござるが」
「多分合ってるぞ。複合ポーションの実験過程でできた中級ポーションが、お前のインベントリにも入っているだろう? 掻き集めれば、注文数より少し多く揃うはず」
「ああ、やっぱり親切の押し売りをする気でござるか……ほいほい、中級HPポーションの低ランクでござるな」

 店頭に並べていなかったものを含め、中級ポーションを要求量より少し多く集める。
 最後にティオ殿下が作製したものを添えて……。
 リーダーの子が俺の告げた代金を手渡してくる。

「はい、確かに。殿下、お客様に商品をお渡ししてください」
「わ、私? いいけど……あ、これ私の……ど、どうぞ」
「ありがとうございます、現地人のお姉さん! あれ、こんなに一杯……?」
「そちらはサービスです。もしサーラが気に入ったら、そのまま拠点にしていただけると嬉しいです」
「あっ……! ありがとうございます!」

 あのポーションを使い切るころに、NPCのショップ売りのポーションに切り替えれば丁度いいはずだ。
 それにしても、最初のプレイヤーのお客さんがマナーの良い子で助かった。
 去っていく彼女たちを見送りながら、ティオ殿下が呟く。

「何かしらね、この気持ちは。ハインドたちが築いたものに乗っかっているだけだって、分かっているのだけど……物を作って、売って、感謝されて……」

 俺が言葉をかけるまでもなく、また何かを掴みかけているらしい。
 得るものがあったようで何よりだ。



 それからしばらくして、そのパーティが去った後は嵐のような状況だった。
 トビに頼んで連絡してもらったギルドの集団が次々と来襲。
 特にカクタケアはいつも通り凄かった。

「おおっ、ティオ殿下! こんにちは! ――ハインドさん、サンドイッチ残ってる? カツサンドは?」
「フルーツサンドとハムタマゴ、ツナが残ってます。カツサンドは完売です」
「遅かったかー。じゃあハムタマゴを二セット」
「毎度どうもー」
「本当にティオ殿下だ! 服装が新鮮! 本体君、羨ましいなー。あ、トビ、トビ! こっちはおにぎりセットで! 早う!」
「拙者の扱いだけぞんざいじゃない!? い、今ご用意いたす!」
「返す返すも、何故女王様は対象じゃないんだ……」

 慌ただしく買い物をしながら、ティオ殿下に対する感想を一々俺やトビに言い残していく。
 そして商品――特に食べ物関係が凄まじい速度で屋台から消えていった。
 俺が忙しく接客する後ろで、殿下が手の空いたトビを呼び寄せる。

「……トビ、ちょっと。もしかして、この人たち……」
「そうでござるよ。お察しの通り、女王陛下を慕う者たちが集うギルドにござる」
「へ、へぇぇ、やっぱりそうなの。姉上の……」
「……その内、きっとティオ殿下を称えるギルドもできるでござるよ……」
「――!? 慰めてんじゃないわよ! 姉上のがあって自分のがないからって、私がそんなことを気にするとでも!?」
「またまたぁ。強がりは――」
「全然気にしてないっ!」

 明らかに気にしている様子のティオ殿下の叫びが通りに響いた。
 カクタケアの面々が去った後でもアイテム・料理は問題なく売れ続け、改めてサーラの生産プレイヤーの層の薄さを実感する結果に。
 しかしながらティオ殿下に売り子をやってもらうという当初の目的は、これで無事に成功である。
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