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ヒナ鳥と新装備

 今回のヒナ鳥たちの装備はアレンジを希望ということで……。

 どうしても細かなサイズ調整が必要になる。

 裁縫担当であっても男の俺としては、デリケートな部分は女性陣に任せなければならない。


「じゃあ、俺は一旦退出するから。二人のサイズ調整が終わったら呼んでくれ」


 作製するのはリコリスちゃん以外の二人の防具だ。

 リコリスちゃんは騎士の防御型ガードタイプなので、金属鎧……つまりはセレーネさんの領分となる。

 手伝う予定はあるものの、彼女がいないとあちらの作業は動かない。

 そんな訳でこの場にいるのは俺とサイネリアちゃん、シエスタちゃんの三人だ。


「えー、別に先輩が見ていても気にしないのに。ねえ? サイ」

「う、ううん? それは普通に駄目だと思うけど……私がおかしいの?」

「サイネリアちゃん、まともに聞かなくていいよ。シエスタちゃんは俺をからかいたいだけなんだから」

「バレました? まぁ、先輩の困り顔を拝めたので私は満足です」

「……すみません、ハインド先輩。こういうなんです……」

「いや、気にしないで。もう慣れたから」


 そう言い残して俺は作業室を出た。

 今の内にティオ殿下の食事を用意しておこう。




 しばらくしてメールの着信音が鳴り、作業室に戻ると……。

 体のサイズに合わせて作った型紙を手に、二人が出迎える。


「まずはサイネリアちゃんの防具案を決めようか。革を基本素材に軽く軽く、で良いんだよね?」

「はい。ライトアーマーと迷ったのですけど、防御はリコが頑張ってくれますから……その分、私は攻撃を頑張ればいいかなって。よろしくお願いします」

「はいよ。じゃあ最低限……それこそ急所を守る感じであればいいか。弓術士らしく胸当て、籠手、ブーツ、それから――」


 防御は程々に、攻撃力の上がる特殊な加護の施された魔法の糸で……。

 弓を引く動作に干渉しないように、洋紙に設計図を書き込んでいく。

 今のサイネリアちゃんの装備は胸当てだけ金属製だが、これでも少し重いのだと言っていた。


「あ、そうそう。二人も見たことあると思うんだけど……前に俺がユーミルに作ったようなのとは違って、今では皮素材も仕上げに使う材料も種類がある。最終的な革の色や柄なんかは結構頑張れるけど、どうする? サイネリアちゃん」

「――えっ!? あ、そ、そうですよね……性能のことばかりで、見た目に関しては全然……」

「もー。サイってば色気がないなぁ」

「センスがあるのに無頓着なシーに言われたくないんだけど……うーん?」


 サイネリアちゃんが悩んでいる間に、俺は材料候補をテーブルに並べていく。

 こういった素材を見ていればイメージが湧いてくるかもしれない。

 悩むサイネリアちゃんを見かねてか、シエスタちゃんがのっそりと手を挙げて発言。


「こういう時は何か、テーマを決めると統一感が出て良いよー。例えば弓術士だから……狩人風とか?」

「あー、なるほど。シエスタちゃんの意見、一理ある。それなら帽子とかも作ってみる? 羽根つき帽子なんてそれっぽいかな」

「帽子……動く時に邪魔になりませんか?」

「ならないならない。むしろゲーム的にはプラスばっかりだと思う。髪飾りみたいな小さいのでも良いし、何なら額当てとかでも」

「額当てだと和風な弓兵をイメージしちゃいますねー、どうしても。ってサイ、先に見た目を気にしようよ。そういう趣旨だったよね? 年頃の女の子なんだしさぁ」

「だから、シーに言われたく……やめない? このやり取り」

「うん、だるいし不毛だね。やめよう」


 リコリスちゃんがいないとこういう感じなのか、この二人は。

 会話のテンポは良いのに、話が先に進んで行かない。

 ……少し目先を変えてもらうか。


「――セレーネさんと装備を作る時はさ」

「はい?」

「ゲームなんだから見た目も大事にしたいよねって、そういう話をしながら作ることが多いかな。そこまでしゃちほこばって考えないで、性能も見た目も欲張って大丈夫だよ。ある程度は何とかするから」

「な、なるほど……では――」


 そんな後押しにより、ようやくサイネリアちゃんが自分の意見を述べ始める。

 何だ、少し考えるだけでちゃんと見た目に関するアイディアも出てくるんじゃないか。

 照れもあったのだろうか?

 三人で相談しながら詳細を詰め、サイネリアちゃんの分の防具案が出来上がったところで一息。


「すみませんねー、先輩。頭の固いで」

「……シー、それは私のさっきの言葉に対する意趣返しなの? ねえ?」

「はいはい、二人ともその辺にしておきなよ。で、今度はシエスタちゃんの装備か。どうする? 何か具体的な要望はある?」


 現在のシエスタちゃんの装備は神官服の女性用で、特に変わったところのない品だ。

 シエスタちゃんはいつも通りの眠そうな顔で即答。


「では、折角同じ神官なので先輩とペアルックで」

「シー、正気!? リィズ先輩が怒り狂うよ!」

「た、確かに……姿が目に浮かぶようだ」


 想像すると背筋がぞくぞくするな……。

 できれば遠慮したいと伝えると、シエスタちゃんはあっさりと前言を翻し――


「ですよねー。じゃあ、今はやめておきます」

「今は!? 今はってどういうこと!? さ、サイネリアちゃん?」

「すみません、私にも冗談なのか本気なのか……」


 付き合いの長いサイネリアちゃんが分からないのでは、お手上げじゃないか。

 そんな会話があったものの……。

 最終的にシエスタちゃんの神官服は可愛らしくゆったりとした着心地の、彼女らしいものに決定した。




「――という訳で、今日はヒナ鳥たちの新装備のお披露目会だ」

「おおー!」


 後日、全員が集まる機会を狙い、談話室で装備の披露となった。

 ユーミルが大きく拍手し、俺とリィズ、トビが適当に、セレーネさんが空気を読んで控えめにそれに続く。


「いやー、それにしても羨ましいでござるなー」

「何言ってんだトビ。お前は属性武器も含めて、全装備の更新が終わったばかりだろう? むしろ優遇されているくらいだぞ」

「それはそうなのでござるが、みんなとタイミングがずれててちょっと寂しい。アイテムを仕込んだ以外には色とか細部の調整が主で、見た目はそこまで変わっていないでござるし」

「あ、でもトビ君。私たちもあまり装備の見た目は変わらない予定だよ?」

「あれ? そうなのでござるか?」

「見た目に関しては、もう前回までの装備更新で大体固まっているしな。性能だけがしれっと上がるマイナーチェンジになる予定だから、そこまで変わらないぞ」

「あまり派手にしても仕方ありませんしね。職業によっては派手にするほど違和感が増しますので」

「私も今の鎧が気に入っているからな! 特に不満はない!」

「はー、なるほど」


 早い段階からアレンジ装備を多用している俺たちは、今更それらを弄る必要性が薄い。

 だが、今まで設計図産の装備を身に着けていたヒナ鳥たちは違う。

 俺が扉を開けて廊下から談話室に入るように促すと、三人が少し緊張した様子でみんなの前に現れた。


「ど、どうでしょうか!? 先輩方……」

「か……」

「か?」

「可愛い! 可愛いな、お前たち!? ちゃんと格好良さと両立できているし……二人とも、良い仕事をしたな! さすが!」


 率直な感想でヒナ鳥たちを照れさせた後、ユーミルは俺とセレーネさんに嬉しそうに視線を向けた。

 俺が担当した二人は話し合いで決まったデザイン通りに。

 リコリスちゃんはスタイリッシュでありながらしっかりと各部を守る鎧に、体格に合わせて中型の盾と剣を装備。


「それにしても、確かにこれは良い! 三人の魅力を引き出しつつ、しかも強そうという……ユーミル殿の仰る通り!」

「そうですね。陳腐な褒め言葉で申し訳ありませんが……各人とても雰囲気が出ているかと。素敵です」

「簡単に言うとあれだな! TBにそんなものはないが、下位職から上位職になったような!」

「あ、それ分かり易いです! 私も見習い騎士から普通の騎士くらいになったかな? と思いました!」

「そこで上級騎士とかって言わない辺り、リコらしいよねぇ」

「そうだね……私たち二人も含めて、正しい認識だと思うけど」

「へ?」


 二人のそんな言葉に対し、聞こえていなかった様子のリコリスちゃんが首を傾げる。

 どうやら新装備は好評なようで、作製者である俺とセレーネさんは笑顔で頷き合った。

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