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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

集団戦と夏休みの開始

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弓の仕様と訓練所

「……あれ?」

 翌日、ギルドホームの通路を歩いていると訓練所のほうから物音がする。
 扉に手をかけるとロックされていなかったので、開いて中へ。

「さっきより距離が離れた分、少し力んでいるかも。矢飛びが真っ直ぐじゃなくなってるよ」

 セレーネさんが誰かに話しかけて……相手はサイネリアちゃんか。
 手本なのか、見慣れない弓を使って滑らかな所作で数本の矢を放つと……。
 それが移動する的の中心に次々と突き立っていく。
 思わず拍手しそうになるくらい、見事な腕前だ。
 普通の弓の扱いも上手いな……。

「連続して撃つ場合でも、距離が遠くても、一射一射丁寧にね。焦らないで」
「はい! 気を付けます!」

 そういえば、サイネリアちゃんがルストでセレーネさんに狙い方を教えてほしいって話をしてたっけ。
 邪魔するのもなんだが……入っておいて声をかけないのもな。
 話が切れたのを見計らって、声をかけながら二人の近くへ。

「こんばんはー」
「あっ、ハインド君。こんばんは」
「ハインド先輩、こんばんは。訓練所、お借りしています」
「うん、好きに使って大丈夫だよ。ちょっと音が聞こえたのが気になってね……俺のことは気しないで、続けて続けて」
「はい! ありがとうございます!」

 セレーネさんが手元のメニュー画面を操作すると、古い的が消えて新しい的が訓練所に出現する。
 そしてサイネリアちゃんが、前後左右に動く的に向かってひたすら矢を放っていく。
 しばらくの間、俺はセレーネさんと一緒にそれを見ていたのだが……。
 サイネリアちゃんが振り返ってこちらを見る。

「あの、もう大体のコツは教えていただいたので、自由に話してくださって大丈夫ですよ。ハインド先輩」
「いいのかい?」
「はい。周りが静かでないと発揮できないような能力では、役に立ちませんから。それに、お二人とも話し声が穏やかですから、どちらにしてもあまり気になるようなことにはならないかと」

 セレーネさんにも視線を向けると、微笑を浮かべて頷いた。
 あとは実践あるのみということらしい。

「では、失礼して雑談でも。セレーネさん、TBの弓の難易度ってどんなもんなんです?」
「ちゃんと素人でも扱えるようになっているよ。ハインド君も一度やってみる?」

 そう言ってセレーネさんは手に持った弓を俺に渡してくる。
 適性はなくても、一応装備することはできるからな。

「やれば分かると。って、セレーネさんのこれ――」
「急ごしらえだけど、サイネリアちゃんに教えるためにロングボウをちょっとね。木製の武器は久しぶりだったから、緊張したよ」
「急ごしらえの極上品……いや、いいんですけどね。今更ですし。じゃあ、お借りしますね」

 片手で受け取って杖をインベントリにしまい、弓を装備登録する。
 装備適性がないことで悲しいくらいに低くなった物理攻撃力を見ながら、メニュー画面を閉じて準備完了。
 セレーネさんが訓練所のメニューを操作して、サイネリアちゃんから離れた位置に新たに的を出してくれる。
 こちらは彼女が使っているものとは違い、完全に静止した状態かつ大きめのものだ。
 とりあえず弓を、サイネリアちゃんの真似をしながら構えてみると……。

「おっ!?」
「あ、見えた? そのガイドに従って撃てば、大抵真っ直ぐ飛ぶよ」
「なるほど……」

 矢をつがえる位置や手の位置、肩や腕の角度、視線の向きや顎の角度、果ては弦を引く強さまで懇切丁寧にガイドされている。
 視界の中がマーキングやらガイドやらで一杯だ。
 それに従ってぎこちなく矢を放ってみると……。
 思った以上に綺麗に飛んだ矢が、的の中心からやや外れた位置に突き刺さった。
 撃った直後の動きも酷いものだったはずだが、一体どういうことだ?

「これ、実際にした動きよりも矢が綺麗に飛んでません? いくらガイドに従ったからって、初心者がこんなに上手くやれるはずが……」
「やっぱりハインド君には分かっちゃうんだね。その違和感、人によっては気持ち悪くて駄目みたいだよ」
「でしょうね。ガイドからちょっと外れた動きでも……ああ、一応前には飛ぶんだ。不自然ではありますけど、確かにこりゃ簡単だ」

 結構雑に飛ばしてみると、的には当たらないものの勢いよく前に飛んでいく。
 これなら、奇襲を受けて慌てている時でも戦力外ということにはならないだろう。
 セレーネさんによると、これは弓における『自動補正』という名称だそうだ。

「慣れてくると、人によってはその自動補正を切ったりするね。邪魔だっていう人は、ガイドもだけど」
「その自動補正の度合いって、自由に変えられます?」
「うん。完全なマニュアルから多少の失敗まで許容される中間、最低限の動きで矢を放っても大丈夫な初心者用まで色々。ただ、マニュアルに近いほうでやるとボーナスが付くんだよね。クリティカル率に」
「なーるほど。だからセレーネさんの矢はクリティカルになりやすいんですか」
「私も完全にマニュアルではないけどね。近めではあるけれど。普段はクロスボウだから、弓だと感覚が違うしね」

 ちなみにオプション画面を開いてデフォルト設定を確認したところ、補正率100%だった。
 俺の矢が狙ったほうに真っ直ぐ飛んだのも納得である。

「それと、ガイドの監修は弓道の先生が行っているそうだよ。そっちはクリティカル率に関係ないから、初期からやっていてもそのままって人が多いだろうね」
「あの、もしかしてガイドっていくつか種類があります? 今さっきオプションで見た時に、番号が振られていたような気がしたんですが」
「射法によって分けられているそうだよ。どのガイドでもそれに従って練習していれば、それらしい撃ち方にはなるね。もちろん、現実で実際に弓道を教わっているようにはいかないだろうけど」
「へー」

 どうりでみんな、割と格好の付く体勢で弓を扱っていると思った。
 そして肝心のサイネリアちゃんは、ガイド使用で補正率を下げながらの訓練中と。
 セレーネさんに弓を返し、サイネリアちゃんへと視線を戻す。
 弓に関しては知らないことが多かったから、勉強になったな。

「……ところでセレーネさん。サイネリアちゃんの狙っている的が、何やらえげつない動きになっているんですが」
「ああ、うん。サイネリアちゃん、偏差撃ちが苦手だったみたいだから。的の動きはそれなりに速いはずだよ」
「でも、あそこまでの動きをするモンスターはそういないと思うんですよ。動きが速過ぎますし、しかもやたらと動きのパターンが豊富なような……うわっ、こっちに来た!?」

 至近距離に迫った的は目の前で止まると、今度は凄まじい勢いで遠ざかっていった。
 一応、じっと見ていれば動きが予想可能なギリギリの設定にはなっていると思うが。

「え……あっ!?」

 的の動きのおかしさにようやく気が付いたセレーネさんが、慌てて訓練所のメニューを操作。
 無軌道に訓練所を移動していた的が、そこでようやくその動きを止めた。
 サイネリアちゃんは多数の矢を放って三分の一の的に当てるのが精一杯だったようで、肩で息をしている。
 俺とセレーネさんはその様子に慌てて駆け寄った。

「ご、ごめんねサイネリアちゃん。セットするメニューを間違えちゃったみたいで」
「ど、どうりで、ぜぇ、難し過ぎると……はぁ、はぁ……ほ、ほとんど、当たらなっ……」
「どうしてこんな内容の訓練が? 開発側が用意したプリセットにしては、難易度が異常なような」
「あ、あの……これ、プレイヤーがエディットできるオリジナルのなんだけど……前に私がお遊びで作ったやつでね、その……ごめんなさい」

 頭を下げるセレーネさんの言葉に、サイネリアちゃんは俺に寄りかかりながら膝をついた。
 それでもフォームを崩さずに撃てていたのだから、練習の成果は出ていたと思う。

「……時に、セレーネさんはこの的の動きに当てられるんですか?」
「作った人間だからね。動きのパターンも分かっているから、大丈夫なはずだよ」
「では、サイネリアちゃんが息を整えている間に見せてくれませんか?」
「うん、分かった。本当にごめんね、サイネリアちゃん」
「あ、いえ……素早い敵が多数出現した際の、良いシミュレートになりましたから。セレーネ先輩の動き、参考にさせていただきます」

 そして的が再度設置され、縦横無尽に訓練所内を動き回るそれに次々と矢を当てていくセレーネさん。
 いくら的の動きを知っているからといって、一発も外さないのはどうなんだ……?
 俺とサイネリアちゃんは顔を見合わせると、互いに苦笑してからセレーネさんの動きに見入るのだった。
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