属性武器と重戦士
「うおおおおおおっ!!」
アルベルトさんが気合の叫びを上げ、完成した火属性武器『リアマグレートソード』を振り回す。
敵は『ガストグリフォン』。鷲の上半身にライオンの下半身を持つ幻獣である。
サーラにある風属性ダンジョン『ネブラ地下坑道』の20階層で、俺たち四人はそれを見守っていた。
セレーネさんと俺はアルベルトさんが放つ攻撃によるダメージを注意深くチェックし、リィズは彼が時折隙を見て使用する新しい回復薬の効果を確認する。
そして、唯一手持ち無沙汰なユーミルが俺の肩を緩く叩いた。
「ハインド。前回戦った時は、どういった感じで倒したのだ? お前のことだから、サイネリア辺りに詳しく話を聞いてあるのだろう?」
「今と同じように、火属性の武器を傭兵親子が振り回して……後はリコリスちゃんが魔法剣、シエスタちゃんが光魔法、サイネリアちゃんが火属性の弓矢で攻撃って形だな」
俺の言葉に戦闘の様子を思い浮かべているのか、ユーミルが視線を上のほうにやる。
ここは俺たちが光属性ダンジョンに行っている間に、ヒナ鳥組で周回してくれていた場所でもある。
もう慣れたボスでもあるし、「一人で戦わせてくれないか」とアルベルトさんが発案したのは10階層でのことだ。
パーティ戦闘だと、属性武器がどのくらいの効果を発揮しているのか分かり難いということもあり……俺たちはそれを承諾した。
故に、一人戦うアルベルトを見守るだけという今の状況が出来上がっている訳だ。
ユーミルが視線をこちらに戻し、再度俺に質問を投げかける。
「それ、ダメージを一番取ったのは……」
「見ての通り、このグリフォンには風のバリアがあるからな。お前が察しているように、アルベルトさんでもフィリアちゃんでもない」
アルベルトと対峙する幻獣の周囲には、凄まじい風圧が渦を巻いて纏わりついている。
この特殊な防御機能により、この階層ボスには物理攻撃が効き難い。
今もアルベルトの前に表示されているダメージは、彼の普段の攻撃からするとかなり寂しい状態だ。
それでも序盤で使用してもらった無属性武器よりはダメージが上回っているので、どうにか勝負になるという程度にはなっている。
しかし本来なら、このモンスター自体が重戦士としては苦しい相手である。
ヘルシャのような火・風型の魔導士に任せられるのであれば、任せてしまったほうが圧倒的に早い。
「では、残り三人の中の誰だったのだ? その戦闘でメインアタッカーになったのは」
「ちょっと考えれば分かるはずだぞ。タンクのリコリスちゃんはまず難しいとして、残りは二人。光魔法を撃てるとはいえ、ベースが神官のシエスタちゃんの火力は程々。と来れば……」
「サイネリアか! なるほど……本当に弓術士とは相性が良いのだな。属性武器というやつは」
「弓術士と言っても、セッちゃんのような単発型とは相性が良くないですけどね。属性攻撃の威力はスキル倍率に正比例しないので、とにかく手数が大事です」
どの状況なら弱くなるんだ、弓術士の連射型は……という感じではあるが。
属性攻撃に関する基本事項は、以前ユーミルに説明した通りだ。
それはそれとして、俺とユーミルは今の発言主のほうへと向き直る。
「ああ、リィズ。アイテムの効果はどんな具合だ?」
会話に割り込んで来たということは、確認が済んだということだ。
既にアルベルトはリィズが渡したHP・MPの両方が回復する『複合ポーション』を三度使っている。
俺の質問にリィズはやや渋い顔をした。
「ハインドさんが商業都市で買ってきてくださったものよりも、大分効果が低いですね。まだまだ、混ぜて回復薬として成立させるだけで精一杯です」
「俺が道中で使ってみた時も、初級ポーション並の回復量だったもんな。それでも作れただけ一歩前進ってことで、今後も改良を続けていこう。シエスタちゃんも巻き込んでさ」
「そうか、キノコも回復薬に使うのだったな。収穫数は前よりも増えたのか?」
「ぼちぼち。栽培が難しいのとかもあるから、少しずつ種類を増やしているところだ」
栽培スペースでシエスタちゃんと話していると、いつの間にか想定以上に時間が経過していたりする。
恐らく、あの眠そうな喋りに引っ張られてしまうからだと思うが……。
そんなキノコ栽培に関しては、食用・素材用に分けてゆっくりとだが確実に収穫数を増しつつある。
良い回復薬を作るには、彼女の協力が必要不可欠だ。
そこまで話したところで、ユーミルが戦闘の状況変化に気が付いた。
「――おっ!? ボスのHPが三割を切るぞ!」
「凄いな……ボスのHPの自動回復をちゃんと上回っているぞ。あんなに速く大剣を振り回せんのは、TB全体を見渡してもきっとあの人だけだろう」
「見ているだけで筋肉痛になりそうな動きですね……」
「軟弱なやつめ!」
「いや、俺もちょっとあれはどうかと……お前、あれと同じことができんの?」
「……普通に無理だな。言われてみれば」
俺たちの前では、アルベルトが腕を大回転させて大剣を振り回していた。
風の防壁に大剣が激しく叩きつけられる度に、発生した炎がグリフォン本体を焼いていく。
全身の筋肉が躍動し、嘘のように超重量の剣が右に左に舞う。
リィズじゃないけど、見ていると何故かこっちまで力が入ってしまうな……。
「ちゃんと通常攻撃にスキルを織り交ぜているんだね。チャージ技のランペイジは無理としても、WTの短いフェイタルスラッシュが間にしっかりと挟まれてる」
「おー、セッちゃんがやっと喋った。正比例しないとはいっても、やはりスキルのほうが多少は属性攻撃もダメージが上がるのか?」
「多少だけどね、本当に。中には属性攻撃が乗らないスキルもあるし、それにほら。ただでさえ物理攻撃力ではトップなのに、属性攻撃まで強かったら重戦士以外のアタッカーが要らなくなっちゃうよ。属性攻撃が魔法攻撃の代替まで行っちゃうと、ちょっとやり過ぎでしょ?」
「ううむ……確かにそれは困るな!」
「重戦士の属性攻撃は、あくまでオマケ程度ということですね」
ユーミルに対するセレーネさんの解説を、リィズがそう締めた。
この二人が揃っていると、俺が喋る必要がなくなる機会が多くて楽だな。
そして、そんなオマケに過ぎない属性攻撃で相性最悪のボスを倒し切ろうとしている男が目の前に一人。
トリガー行動である暴風攻撃を、大剣を盾にしてきっちりと凌ぎ切り――アルベルトが漲る気合を発散しながら鋭く踏み込む。
「おおおおおおおっ!!」
大上段に構えた大剣を力任せに振り抜くと、凄まじい轟音を立てて地面に衝突する。
次の一撃で勝負が決すると、攻撃前から確信していたのだろうその動き。
光に変わっていくグリフォンの姿を見て、俺たちは感嘆の声を上げながら拍手を送った。