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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
最善の一振りと最高の一枚を求めて
275/1113

対の守護者

闇型ダークタイプの魔導士がいれば、もっと簡単だったかな……」


 図らずも、リィズがいればという想いが更に重みを持つ結果となった。

 俺たちの前では、二体の雷を纏う猛々しい虎が乱舞している。

 レベルはお約束の55、既に俺たちは『トゥエルノティグリス』を二度撃破していた。

 ……ただし、片方ずつだが。


闇型ダークタイプと仰いますと……貴方たちのところでは、あの小さな魔女さんですわね? 貴方の妹さんの」

「ああ。程々に削ったところをダークネスボールで二体吸引して、一発入れれば楽なんじゃないかと」


 後衛二人がのんびり話しているのは、前衛の削り待ちをしているからだ。

 タンクはいつも通りトビ、削りがユーミルとワルター、とどめがヘルシャというのが現在の役割だ。

 俺は支援と指示出しと、これも大体いつも通り。

 闇型ダークタイプ魔導士がいればという俺の言葉に、ヘルシャは少し難しそうな顔をした。


「確かに理にかなっているように聞こえますわ。けれど、ダークネスボールの範囲って案外狭いですわよ? 敵を引き付けている味方が、ダメージ覚悟で自分ごと入らなければいけないほどに。あの虎の移動速度は、そう簡単に振り切れるようなものではありませんし」

「その言い方だと既に実行済みか。でも、俺たちにはトビがいるじゃないか」


 俺が示した瞬間に、トビが『縮地』を使ってユーミルとワルターの背後に着地する。

 精度はまだまだらしいが、スペースに余裕のある地点への短距離転移はできるようになったとのこと。

 最終的には味方の傍や敵の目の前にしっかりコントロールして移動することだそうだ。

 間に入った二人が、トビを追いかける無防備なモンスターに攻撃をかける。


「……あのように、縮地でダークネスボールを飛び越えるように移動してしまえばいいと。特殊なAIのモンスター以外は、そのまま真っ直ぐヘイトの高い者のほうへ突っ込みますから――」

「捕まえられるだろう? 縮地なら、敵との間にダークネスボールを挟むのは容易だ」

「軽戦士の回避型アヴォイドタイプと、闇型ダークタイプの魔導士が揃ってこそですわね……その編成、わたくしたちがそのまま使わせていただいても?」

「構わねえよ。ただ、今は他の手を考えなきゃならん。そろそろだが、準備はいいな?」

「いつでも!」


『支援者の杖』を床に打ち付けて詠唱を開始。

 ヘルシャは既に一度だけスキルの威力を上昇させる『コンセントレーション』を使用済みだ。

 宝石が輝きを増して、ヘルシャに対して『マジックアップ』が発動する。

 続けて『クイック』の詠唱を――


「ハインドッ!」

「師匠っ! 行けます!」


 ユーミルとワルターがボスのダメージを半分以下まで減らしたことを知らせてくる。

 HP三割で部屋の端々まで届く強力な放電をしてくることは確認済みで、最初だけでなくHPが三割まで減る度にそれを行ってくるのも実証済み。

 だから仕掛けるならここ、このタイミングだ!

 目で合図してくるトビに、並ぶヘルシャと共に詠唱を続けながら頷きを返す。


「せいっ!」


 トビが印を結んで『影縫い』を発動。

 上手く一体目を拘束したトビの元に、続けて俺の『クイック』が飛んでいく。


「もう一丁!」


 移動しながら位置を調整し、止まった一体目の近くで二体目も『影縫い』で停止させる。

 良い場所で止めた!

 ヘルシャは魔法陣の上で、ドレスを輝かせながら炎を巨大化させていく。


「ヘルシャ!」

「お待ちになって! もう少し……っ、撃ちますわよ!」


 巻き込まれない位置からユーミルとワルターが、ボスのHPの自然回復を止めるために石などを投擲。

 俺も『シャイニング』を飛ばしたが、連続ヒットには至らずHPが徐々に回復してしまう。

 結果、ヘルシャが放った『レイジングフレイム』が消えた後には……焼け残った一体の『トゥエルノティグリス』の姿が。


「駄目か! 追撃、追撃!」

「いかん、ハインド! 間に合わん!」


 体に纏う雷が爆ぜ、俺たちの視界を覆い尽くした。

 ヘルシャとワルターが『痺れ』状態に変わり、ヒットストップにより渡り鳥のメンバーも動けない。

 そして残った『トゥエルノティグリス』が吠えると光の球が飛来し、中から新たな雷の虎が出現する。

 減っていたHPもグングン回復し……俺たちにダメージを残したまま、敵側だけが戦闘開始時と同じ状態へと戻っていく。


「ド畜生がぁぁぁ! で、ござるぅぅぅ!」

「このパターンは無理か……トビ、ワルターの痺れを回復してやってくれ! 敵はしばらく動かん!」

「承知!」

「ユーミルはヘルシャを! 治したらエリアヒールを使うから全員集合!」

「分かった!」


 火力が足りなかった……最初の二回、単体攻撃で各個撃破を試した際もそうだったので、やはりユーミルとヘルシャの攻撃を重ねる必要があるか。

 即席パーティな分、連続攻撃を決めるのが難しいということも考慮しなければならない。

 今のヘルシャの詠唱は、想定よりも少し遅かった。

 そうなると、今実行したトビの『影縫い』二連によるものよりも近い距離でボス二体を止めたいところ。

 白く輝く魔法陣の上で、リセットされた戦況を見ながら思考を巡らせる。


「全く、酷い目に遭いましたわ……みなさん、申し訳ありませんわね。わたくしとしたことが、生焼けを残すなんて」

「いやいや、あれ以上の火力を出せる魔導士はそうはいないと思うぞ。ところでヘルシャ、風魔法は――」

「そんなものはありませんわ!」

「即答でござるな!?」

「そういえば、ドリルは炎馬鹿だったな! クラーケン戦を思い出す!」

「何か文句ありますの!?」

「ねえよ。そういう拘りは嫌いじゃない。念のため確認しただけで……」


 風魔法には確か、設置系の拘束魔法があった気がするんだがな。

 他人のプレイスタイルにケチを付けるつもりはないので、それなら別の手を考えよう。


「じゃあ、爆風が起きない火魔法って何か習得しているか? 後続が追撃をかけやすいような」

「――! お嬢様、あの魔法を使いましょう!」

「あの魔法? ……ああ!」

「何かあるんだな? じゃあ、次の作戦の指示を出すぞ」


 手短に作戦を伝えたところで、『トゥエルノティグリス』たちが動き出す。

 この作戦なら、全員に無駄なく役割がある上に火力は十分。

 若干の連携は必要なものの、多少は各行動に猶予があるのでリカバリーも可能だ。


「それなら影縫いも一回で済むでござるな。ワルター殿の頑張り次第かと」

「あ、はい! みなさんのご期待に沿えるよう、が、頑張ります!」

「久しぶりに私に活躍の機会が! 任せろ、ハインド!」

「わたくしがサポート……こ、今回だけですわよ!」


 反応は様々だが「これで決めよう」という一言で締めて、みんなを送り出す。

 HPを削るまでの手順は先程までとおおよそ同じであるが、まず一番最初にヘルシャが『エクスプロージョン』を使用して二体を攻撃。

 その後は同じようにフレンドリーファイアに気を付けながらHPを減らしていき……リィズ不在によりギリギリまでの削りを行えない分は、火力で補う。

 HPが半分を切ったところで、作戦開始だ。


「ワルター殿、行くでござるよ!」

「はいっ!」


 トビが『影縫い』で一体を足止め、もう一体をワルターが『発勁・縛』というスタン効果のある攻撃を撃ち込んで止める。

 気功型チーゴンタイプのスキルは手でも足でも発動可能なのだが、二体を纏めて押し込むためにワルターはより威力の出せる蹴りを選択。

 目論見通り『トゥエルノティグリス』を大きくノックバックさせることに成功し、スタン効果により『影縫い』で止まっていたもう一体の傍で停止する。


「そらよっ!」


 そして短い拘束時間を少しでも伸ばすために、俺が『ネット玉』を投擲して二体を纏めて絡めとる。

 静止している目標相手ならば、このくらいは容易に可能だ。


「ヘルシャ!」

「今度はタイミングばっちりですわね! お行きなさいっ!」


 ヘルシャの呼びかけは自身の魔法に対するものか、それともユーミルに対するものか。

 伸ばした手の真下から一直線に火柱が次々と上がり、ネットの中でもがく二体の虎へ直撃する。

 そしてその『フレイムロード』に続くように、『捨て身』と『アサルトステップ』を発動させて低く、低く構えたまま走ったユーミルは――。


「とどめぇぇぇっ!!」


 ネットが焼けて走り出そうとする『トゥエルノティグリス』たちに『バーストエッジ』をぶち当てた。

 俺が保険の『クイック』を詠唱し、トビが大型手裏剣を構え、ワルターがいつでも走り出せる体勢で構える中……二体の虎は、光の粒子になって消えていった。


「やっ……たぞぉぉぉっ!」

「あ、はは……やりました! やりましたわ、わたくしたち!」


 追撃の余地も残せたし、今後の周回もこの方法で良さそうだ。

 二人で嬉しそうにはしゃぐ女性陣を見ながら、男性陣も互いを労っていると……。

 ピロン、という音がしてシステムがメールの着信を告げた。

 誰だ?


送信者:リィズ

件名:無題

本文:ハインドさんに呼ばれた気がしました


 ……。

 メールを確認した俺を、トビとワルターが不思議そうな表情で見る。


「ハインド殿、どうしたのでござる? 変な顔をして……誰からのメールでござる?」

「師匠、お顔が引きつっていらっしゃいますけど……」

「いや、うん。気にしないでくれ。それよりも、二人とも本当に良い動きだったと思うぞ」


 我が妹ながら、どうやって察知しているのか不思議で仕様がない。

 リィズに今の遠征の状態などを簡単に返信したところで、踏破報酬の宝箱が部屋の中央に10個出現。

 駆け寄るユーミルとヘルシャに続いて、俺たちは頷き合って宝箱へと近付いた。

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