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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
最善の一振りと最高の一枚を求めて
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傭兵親子のダンジョン分析

 ボスモンスターが何を言っていたのかさっぱり分からないまま、闇の塊が収束する。

 現れたのは人型ような影で、右手にハルバード、左手に長剣を持った人間なら無茶な装備。

 ただしその二つの武器も影でできているので、重さはないのかもしれないが。


「あ、あー……その、だな……もう一度だけ、今の台詞をお願いできないだろうか……?」


 ユーミルが恐る恐る近付いて、そんな言葉を口にする。

 それに対する影の返答は、ハルバードによる攻撃だった。


「ひぃっ! 駄目だった! 駄目だったぞハインド!」

「当たり前じゃねえかな……」


 転がるように攻撃を回避した後で、ユーミルが俺たちの傍へと駆け戻ってくる。

 喋ったという事実とは裏腹に人型の影――『シャドウキーパー』の動きからは、特に知性のようなものは感じられない。

 ターゲットを探してゆっくりと近付いて来る。


「何となくだけど、意志を持っているというよりはプログラムっぽいんだよな。さっきの台詞も、内容はともかく声が機械的というか……」

「多分、ハインドの意見は……合ってる……」

「フィリア殿、もしかして台詞を聞き取れたのでござるか!?」


『挑発』と『分身の術』を使用して分身体を走らせるトビに対し、フィリアちゃんが頷く。

 しかし自分で全てを説明する気はないのか、そのまま父親へと視線を送る。


「……ヤツが言っていた言葉を要約するとこうだ。闇の力を求めるものには試練を与える。立ち去る気がないのであれば、自分が相手になろう――といったところだな」

「ははぁ。ユーミル殿が言っていたような、仲間になりそうな要素は微塵もないでござるな」

「うむ、確かに」

「……それと、ハインドが言ってた、ここで儀式をしていた魔導士……」

「?」


 フィリアちゃんの断片的な言葉に、ユーミルが頭に疑問符を浮かべる。

 が、俺のほうは二人が聞かせてくれたボスの台詞とダンジョンの来歴とが上手く結びついた。

 察するに、こういうことではないだろうか?


「つまり、ここを作った魔導士があのボスモンスターを作ったんじゃないかってこと?」

「そう……だと思う」

「あいつは偉大なるアーテル、と口にしていた。祭殿の名前と同じだな。その者の言に従い、試練を与えると――もしかしたら弟子か何かのために、儀式用から試練用にこの祭殿は作り替えられたのかもしれん」

「なるほど! で、結局どういうことなのだ?」


 こいつ、面倒になって思考放棄しやがった……。

 さしものフィリアちゃんも一瞬沈黙を深くしたが、少しの間を置いて結論に移る。


「だから、ユーミルが心配するような……話が通じる、意思を持った相手? ではなくて、闇魔法の力の塊だろうから……気にせず倒して、大丈夫……」

「おおお! ありがとう、フィリア! それを聞いて安心した!」


 フィリアちゃんは結局、最後の言葉をユーミルに伝えたかっただけなのだろう。

 本当に優しい子だなぁ……男性陣がほっこりしたところで、トビの分身が長剣で砕かれた。


「ああーっ!? しまった!」

「いや、会話しながらにしてはよく持たせた! 攻撃開始だ!」


 同行していたユーミルとトビのバフはかけ直したばかりだったので、切れかけていたアルベルト親子のバフを上書きしていく。

 まずは全員で順番に魔法抵抗を下げるデバフアイテム『呪符』を投げる、投げる。

 魔法抵抗が高いのか、中々効かないが……よし、フィリアちゃんのが効いた。

 続けて物理防御力を下げる『溶解液』を……OK、俺のが通った!


「突撃ぃぃぃ!」

「おおおおおっ!」


 ユーミルとアルベルトが気合の叫びを発し、左右から押し潰すように『バーストエッジ』と『ランペイジ』が交差する。

 当然のようにそれぞれ自己バフ『捨て身』と『バーサーカーエッジ』が乗った最大火力だ。

 TB屈指の火力スキルに挟まれた『シャドウキーパー』のHPは、飛び散る黒い塊と共にごっそりと削ぎ落された。

 このままトビとフィリアちゃんが追撃をかければ、一気に倒してしまえるかと思えた直後。

『シャドウキーパー』がその場でピタリと動きを止めた。

 大型スキルを撃った直後の二人は、それに対して反応が遅れている。


「やばいっ! フィリアちゃん、フォロー!」

「――!」


 危険な気配を察した俺は、フィリアちゃんを呼びつつ前へ。

 軽戦士のトビでは駄目だ、もし多段ヒットの攻撃だったら――防御が下がった二人の盾になれない!

 人型の影の両腕が人体構造を無視して動き始め、更にノーモーションで『ダークネスボール』が目の前に突如出現した。

 すんでの所で俺はユーミルを、フィリアちゃんはアルベルトを突き飛ばして敵との間に入り込む。


「あだだだだっ!」

「……っ!」

「ハインド! ハインドォッ!」

「フィリアーッ!」


『ダークネスボール』で拘束しつつの連続攻撃……そして敵が斬り付けてくる度に、減らしたはずのHPゲージが回復していくのが見える。


「HP吸収かよ、この野郎……味な真似を!」


 瀕死時の特殊行動だったであろうその攻撃がようやく終わる。

 ボロボロになった俺とフィリアちゃんは、ユーミルとアルベルトに庇われながら敵から距離を取った。

 入れ替わりでトビが『挑発』を使いつつモンスターを引き剥がしていく。

 どうにか生き残ったが……吸われたHPによって『シャドウキーパー』のHPが満タンになってしまった。


「しっかりしろ! 大丈夫か!?」

「ああ、何とか。しかし無詠唱魔法からのラッシュとは、えげつない……トビを行かせなくて本当によかった」

「フィリア、今ポーションを!」

「ん……」


『エリアヒール』でもよかったのだが、戦線復帰の速度を考えてポーションで対応。

 あのタイミングでは『リヴァイブ』も詠唱していなかったので、結果的に素早くパーティを立て直すことができた。

 頭を切り替えて、今の一連の流れで得た情報を元に動きを決める。


「……よし、もう一度一斉攻撃をかけよう」

「む? しかし、バーストエッジとランペイジがWTに入ってしまったぞ?」

「見た感じ敵のHPは大したことない。今度はフィリアちゃんの攻撃までしっかり入れれば足りるよ。大丈夫だ。トビがもう少し敵のHPを削ったら仕掛けよう」


 WTが明けるのを待つ時間が惜しい。

 駄目だったら二つの大技のWTが明けるまであの反撃を受けないように慎重に敵HPを削り、それから確実を期して倒し切ればいい。


「トビが……? あいつの攻撃力では、ダンジョンボスの自然回復分よりも――」

「待て、よく見ろユーミル! トビの動きを!」


 アルベルトが示した先では、投擲アイテムを織り交ぜつつスピーディーに駆けるトビの姿が。

 短刀によるものだけでは足りない攻撃力を補いつつ、じわりじわりとHPを削っていく。

『シャドウキーパー』の両武器による攻撃に対しても、華麗な足運びで危なげなく回避している。

 俺たちの視線に気付いたトビが、こちらに親指を立てて余裕を見せた。


「むお!? あいつ、いつの間にあんな動きができるように!?」


 ユーミルが感嘆の声を上げる。

 ……この様子だと、しばらく一人で任せて大丈夫そうだ。

 俺は攻撃に光属性を付与する『ライトエンチャント』を使い、トビを援護してからみんなにこちらを注目するように促す。


「……いいか? ユーミル。今度は三人の攻撃を合わせて短い間隔の時間差で撃ち込む。敵があの反撃をしてくる前に、一気に倒し切ってしまおう」

「分かった!」

「フィリアちゃん、クイックは君に使うから。とどめは任せたよ」

「了解……!」

「アルベルトさん」

「ああ!」


 そしてトビには後ろから「八割!」とだけ叫んだのだが……意図が伝わったようで、投擲アイテムを粗方投げ終わったところでしっかりと離脱。

 八割をやや割ったところで、今度はアタッカー三人が満を持して同時攻撃を実行に移す。

 先程と同じような形で、けれどランクが下のスキル『ヘビースラッシュ』と『フェイタルスラッシュ』が『シャドウキーパー』に連続ヒットする。

 そして今度は間髪入れずに、フィリアちゃんが二人の後に力強く踏み込んだ。


「――そこっ!!」


 腰だめに構えた大斧を一気に振り上げ、影の残滓が派手に撒き散らされる。

 そして更に体の上方に移動した斧を……全力で振り下ろす!

 全開の一撃を二発同時に叩き込むスキル『ツインスマッシュ』により、HPは残り二割に。

 そして俺の『クイック』がフィリアちゃんに降り注ぎ、足りないMPは腰元の『高濃度MPポーション』を投擲して補充。

 再度小さな体が躍動し、激しい二連撃が叩き込まれる。

 その攻撃により、例の反撃を繰り出すべく静止していた『シャドウキーパー』は……棒立ちのまま黒い霧になって、消えていった。

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