大規模フィールドに向けての高速攻略
「そういえばハインドの神官服、前と少し変わっていないか? 私の気のせいか?」
馬で荒野を移動中に、ユーミルが目敏く変化に気付く。
国境近くで防塵・日除け用のマントを脱いだ俺の装備は、確かに前とは違っている。
「ん? ああ、トビの防具に使ったアイディアを盛り込んでマイナーチェンジをな。見ての通り、腰のところに……」
「おお、ポーション!」
「そう、インベントリの反対側にポーション用のベルトを付けてみた。これでいざという時は素早く回復可能だ。即応性抜群」
俺は杖を右手に持っていることが多いので、左腰にポーションを固めて装備してみた。
簡単に引き抜いて片手で投擲に移ることができる構造にしてある。
こちら側を下にして転んだ時は、当然ポーションは割れてしまうだろうが……なるべくそうならないように気を付けよう。
「ポーションの容器も細くなっているでござるな。これなら動きに支障は――」
「ないない。回復量も変わらず……むしろ効果を増やした上で投げやすさもそれなりだから、中々悪くない仕上がりだぜ」
「ほう!」
丸底の容器から細い円筒形の容器に変え、ポーションの濃度を調整。
生産の手間は増えたが、ショップで買える丸底タイプの空容器と使い分ければ問題ない。
腰のコンパクトなポーション類は、一刻を争う時に使う特別製だ。
俺たちの会話に気が付いたフィリアちゃんが、馬を寄せて小さく首を傾げる。
「ハインド……ポーション以外にも、何か付いてる……?」
「こっちはマサムネさんと一緒に考えた投擲アイテム。折角だから、ここで使って見せ――」
「待て、ハインド! フィリア! そういうのは次の戦闘の楽しみに取っておきたい!」
ユーミルが手を伸ばして俺を制するような動きを見せる。
それ、グラドターク以外の馬にやると多分怯えるぞ。
「……別にいいが、そんなに大したものじゃないぞ? あまり期待するなよ」
「うむ、期待しておく!」
「話を聞けよ!?」
「ユーミル、だから……仕方ない?」
フィリアちゃんまでそういう認識なのか……。
そしてそれでいいのか、お前は。
「国境砦が見えたぞ」
先行気味のアルベルトが渋い声で呼びかける。
『アーテル遺跡』の場所は国境砦を抜けてひたすら国境沿いを北進。
大規模フィールド『ニグレードー大渓谷』に存在している。
サーラ側から大渓谷を目指す場合は、ひたすら間に存在するフィールドを通過しなければならない。
気がかりなのは馬のスタミナだが、速度の出ないフィールドは降りて移動することで消費を節約。
帰りは一度『ヒースローの町』でスタミナを回復してから戻ったほうがいいかもしれない。
そんな形で俺たち五人は進んで行った訳だが、レベルの低いフィールドの戦いはあっさりしたものだった。
「ぬんっ!!」
レベル25のフィールドボス、森に現れた『モンスターファンガス』はアルベルトの『ランペイジ』により瞬殺。
キノコ型の魔物は大剣によって二つに裂けて、光に変わる。
ここまでの一般モンスターの状態から予想できたことだが、他の四人は何もする必要がなかった。
「一撃か! ま、まぁ私のバーストエッジでも同じことだしな? は、ハインド」
「声が震えてるじゃねえか。心配しなくても、МP全快なら大体同じくらいのダメージが出――」
「やはりな! 当然だな!」
「現金な反応でござるなぁ。食い気味食い気味。まぁ、こいつはレベル25でござるし。それでもあの一撃は只事じゃないでござるが……相変わらず兄貴は格好いいぜ!」
フルチャージの『ランペイジ』とMPをマックスから全消費した『バーストエッジ』の威力は大体同じだ。
更にこの二人の武器の製作者は同一人物なので、そうそう差がつくことはない。
どちらかと言えば、一瞬でも自分より上なのでは? という疑念を抱かせるアルベルトの迫力がおかしいのだ。
ユーミルは味方として彼の戦闘を間近で見るのは初めてなので、余計にそう感じるのだろう。
戦闘を終えた彼を出迎えるように、フィリアちゃんが一歩前へ。
「……お父さん、お疲れ様……」
「ありがとう、フィリア。では皆、次に行こう」
間に入るフィールドは残り二つ、レベルも進むごとに上がっていく。
続くフィールドボスは湿地帯の『グランデラーナ』というカエルのモンスター。
レベルは30、まだまだ余裕のある相手である。
この相手に関しては、結論から言うとアタッカー三人の攻撃で沼に沈んだ。
「私の出番だぁぁぁ! どりゃっ!」
「……」
「おおおっ!」
ユーミルの『バーストエッジ』、フィリアちゃんの『トルネードスウィング』、アルベルトの『ランペイジ』が次々とカエルに突き刺さる。
高ダメージ表示がバンバン弾け、HPバーが右から左へ。
カエルの体も衝撃で右へ左へ。
「ハインド殿……この連続攻撃は見ていて派手で、とてもとても見栄えのする光景なのでござるが……拙者、なんだか虚しい」
「俺もだよ。ってか、俺たちみたいな職って相手がある程度の強敵じゃないと輝かないんだよな……」
注意を惹き付けた上で避けて避けてパーティを助ける職と、回復と能力底上げが役目の職なので。
こういう一方的な戦いにおいては、ただ見ているだけになる場合が多い。
特に俺なんて、半端に敵を殴っても邪魔になるだけだ。
光になり始めたカエルに背を向け、ユーミルが悠然と戻ってくる。
「ふー、終わった終わった……どうしたのだ? 二人とも」
「何でもねえよ。次だ、次!」
「そ、そうでござるな! 次は拙者たちの出番もあるはず!」
「む、何だか分からんがやる気だな! もう一つのフィールドを抜けると大渓谷だったな。行こう!」
そして大渓谷に至るための最後のフィールド、そのボス戦。
敵のレベルはグンと上がって40の岩を纏ったカブトムシ『ハードビートル』。
防御力が高そうだし、これなら俺の出番も回ってくるはず。
そう思って気合を入れたのだが……。
道中で全員にバフを使用済みなので、まずは『バーストエッジ』を使ったユーミルに『クイック』を。
そして『エントラスト』を使用した直後。
「よし、とどめぇっ!」
「はやっ! ――あ、本当にもう敵のHPがない!」
「拙者もそこそこ殴れたので、今回は満足!」
トビの連続攻撃とアタッカーの大技ワンループ。
そして俺からユーミルへの補助を使用した二発目の『バーストエッジ』による追撃で、カブトムシは砕けた。
結局、多少レベルが上がろうとこのパーティの攻撃力の前には無力らしい。