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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

最善の一振りと最高の一枚を求めて

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緑の都への招待状

「それで、アルテミスの使いというのは?」
「あー、もぐもぐ……それなんですけどね、もぐもぐ……弦ちゃんがー、ごくん」
「……やっぱり、話は食べ終わってからでいいです……」

 なんてマイペースな人だ……鍋をお椀に注いで差し出したら、すかさず飛びついてきたのにも驚いたが。
 彼女の登場によってセレーネさんがやや緊張しているが、どうにか逃げずに踏み止まっている。
 ユーミルとリコリスちゃんは面白がって観察し、サイネリアちゃんは目を白黒させているが、彼女は全く意に介さない。
 しっかりとスープを飲み切り、大きく息を吐いていい笑顔をしてから一言。

「シメの雑炊はしないんです?」
「厚かましいですね!? さすがにおかしいですよ、その発言は! しますけど!」
「するのか!?」

 突っ込みを入れながらも、染みついた習性によりインベントリから冷えたご飯を出して鍋へ。
 ネギを追加で散らして……別料理にカウントされないか慎重に見るが、特に問題なし。
 こういうところの判定がきっちりしていて、TBの料理システムは好感が持てる。

「それで、どんな御用ですか?」
「あー、うー……とりあえず自己紹介を。私はフクダンチョーです」
「はい?」
「プレイヤーネームがフクダンチョーです。役職もアルテミスのフクダンチョーです」
「それを言うならサブギルマスなんじゃ……」
「フクダンチョーです」
「でも」
「フクダンチョーです」
「……」

 犬耳の少女、フクダンチョーさんは頑として譲らない構えを見せる。
 ぐつぐつと煮える鍋の中身を軽く掻き回してから、俺は再度口を開いた。

「………………そうですか。俺も渡り鳥のフクダンチョーです」
「ハインド!? 諦めるな!」
「おお、仲間ですね!」

 だって、このタイプは絶対に自分の意見を曲げないじゃんか……自分が折れた方が明らかに早いよ。
 ちなみにTBの『サブギルドマスター』という役職だが、権限の幅はギルマスが決定することができる。
 ギルドによっては置いていなかったり、ギルマスと同等の権限を付与して運営を共同で行ったり、複数置いて権限や負担を分散させたりと扱いは様々だ。
 俺の場合は全権委任なので、ギルマスであるユーミルと同じことが実行可能となっている……が、目の前のこの人はどうなんだろうな。
 犬耳の少女は、腕組みして目を閉じると頷きながらこんなことを言った。

「いいですよね、副って役職は。いざとなれば下に仕事を丸投げも、上に責任を押し付けることも可能と良いところ取りで」
「何か語り始めましたよ!?」
「下っ端も責任ないんで気楽っちゃ気楽ですけど、なんか寂しいですし。雑用も多いし」
「駄目だリコリスちゃん。全く耳に入ってないよこれ」
「そんな訳で私はフクダンチョーというポジションを大層気に入っている次第で。貴方はどうですか?」
「え、そこで俺に振る? あー、えっと……」

 正直、俺のサブギルマス観と全く違うのだが……。
 言い淀んでいると、サイネリアちゃんが首を横に振りながら発言。

「ハインド先輩の場合は真逆ですね。上へ下へフォローの毎日、というのが正解ですか。間に挟まれているが故の苦悩というか。私たちもとてもお世話になっています。すみません先輩方、失礼なことを言ってしまって……」
「何を謝る? 私たちがハインドにおんぶにだっこなのは事実だろう!」
「それ、ユーミル先輩が言ったら駄目なやつだと思います! ギルマスですよね!?」
「でも、否定できないものね……いつもありがとう、ハインド君」

 働いていないと落ち着かない性分なので、そこは気にしなくて大丈夫だ。
 ギルマスの役目をユーミルに押し付けたのも俺だし。
 しかしサイネリアちゃんの言う通り、彼女が主張するメリットと真逆の行為をしているな、俺は。
 そのフクダンチョーさんはというと、体を震わせた後に目を見開いて叫んだ。

「……騙しましたね!? そんな複雑怪奇な役目なんて、私の知るフクダンチョーじゃありません! むしろ敵です!」
「勝手に仲間認定しておいてその言いっぷり!? しかも複雑怪奇って……フクダンチョーさんだってこうして使者に立っているんですから、同じことでは?」
「え? でも、弦ちゃんが使者は責任や立場のある人間が行かないと失礼にあたるって。だからアルクスから手紙を奪っ――こほん! 私が偉いから、フクダンチョーだから使者に選ばれたのです!」
「……なるほど」

 今の発言で大体彼女がアルテミスでどんな立場なのか、分かってしまったぞ。
 米が鍋の具材に馴染んだところで、お玉に一掬い。
 まずはユーミルに雑炊をよそったところで、一度手を止める。

「ありがとう、ハインド! 良い塩梅の硬さだな!」
「お前はいつもこのくらいが良いって言うからな。えーと、他に雑炊の米硬め、サラサラ派の人ー」
「はいはい! 私もこのくらいがいいです!」
「リコリスちゃんもサラサラ派か。はい、どうぞ」
「わーい!」

 セレーネさんとサイネリアちゃんは柔らかめが好きとのことで、じっくり煮てから。
 残るか分からないけど、自分の分は最後でいいか。

「フクダンチョーさんは?」
「私も食べていいんですか?」
「何を今更……もちろん構いませんよ。で、どっちです?」
「あ、サラサラで。あなた、良い人ですね! やっぱりフクダンチョー仲間に再認定です!」

 あっさりと前言を翻すフクダンチョーさん。
 何て言うか、ちょっとア……いやいや、初対面の相手にそんな判断を下すのは失礼だ。

「で、手紙が何ですって?」
「そうでしたそうでした! えーと、最初にルストに勇者ちゃん一行がいるという噂を聞いて、しかもアルテミスのメンバーがこのフィールドですれ違ったという話が出て、弦ちゃんがダンジョン目当てだろうと予想。自分が会いに行けないということで、私に手紙を」

 私に、ではなく本当は他の人が来る予定だったのでは……まあ、ともかく経緯は分かった。
 しかし何故に手紙? フレンド登録は済ませてあるし、別にメールでも……。
 そう思いつつ鮮やかな緑色のリボンで留められた羊皮紙を開き、書かれた文面を読み進めていくと――

「そういうことか。弦月さんらしいというか、礼儀正しいというか……するとやっぱり、この人の行動は予想外なんだろうなぁ……」
「何だ? ハインド。私にも見せてくれ!」
「別にいいぞ。これは招待状だな、要は。砕けた言い方に直すと折角近くに来たのだから遊びに来ませんか、という内容だ」

 早くも自分の分を食べ終わったユーミルに手紙を渡し、俺はトロトロになった鍋の中身をセレーネさんとサイネリアちゃんによそっていく。

「ふむふむ……そうか。メールで済ませずにわざわざこんな洒落た招待状を寄越すとは、結構じゃないか! ダンジョンが終わったら行こう、ハインド!」
「そういう訳でアルテミスのギルドホームにお招きされたんだが、みんなはどう思う? 特にセレーネさん」
「あ、うーん……ハインド君が傍にいて、フォローしてくれるなら何とか。彼らがどんな弓を使っているのか、興味はあるし」
「了解です。二人は?」
「行ってみたいです! 首都ですよね? 大きな樹があるんですよね!? スクショチャンスです!」
「私も、アルテミスの馬の飼育法に関心が。大変熱心だとお聞きしていますし」
「――ということなので、ダンジョン周回が終わったらお邪魔します」

 そうフクダンチョーさんに言うと「伝えておきます」との返事が。
 そのまま雑炊を食べ終わり、ホームに帰るのかと思いきや……その場でごろんと横になった。

「我が物顔だな……このフクダンチョーとやら」
「ちょっと休憩したら帰りますってぇ」
「ちゃんと弦月さんに返事が伝わるのか、不安になってきたな……」

 俺がメールでの返事に変更しようかと思案していたところ、近くで馬蹄の音と人の声がした。
 それに耳を傾けると……。

「いたか!?」
「いない! どこに行った、あのわんこ!」
「勇者ちゃんたちに迷惑をかける前に回収しないと……不味いよ、アルクス!」
「確かにマップ上ではこの辺りに……あ!」

 俺たちが背にした大きな木から顔を出したのは、いずれも弓術士のプレイヤーたち。
 彼らが俺たちにフクダンチョーさんの態度の非礼を詫び、改めてホームへの招待を行い終えたのはそれから数分後のことだった。
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