周回開始と属性武器について
階層ボスであるゴーレムを倒した後は、喜ぶのもそこそこにドロップ品の確認だ。
まずは階層報酬である宝箱を開放すると……。
「プルルストーン……です!」
「プルルスストーンね、リコ。土属性を示す茶色の石ということは、ハインド先輩の予想通りのようですね」
「ピラミッドの時は上位の属性石だったからね。他のところも……と思ったけど、正解だったみたいだ」
この素材は階層を上がっていけば、一般モンスターからもドロップするようになると掲示板では予想されている。
ただ、現時点では周回を繰り返し、ボスを倒したら撤退を繰り返すのがセオリー。
全員でそれぞれの宝箱を開けて、『プルルスストーン』を回収していく。
セレーネさんが石を壁の灯りに透かしながら、考えるようにうーんと小さく唸る。
「ルブルムストーンは燃料としても使えたけど、今回のはどうだろうね?」
「土属性ですからね。砕いて畑にでも撒いてみますか?」
「おお、肥料になるのか? それは面白い!」
「いや、まだ分かんないけどな。とりあえず、属性石が溜まるまではこれを繰り返す。必要量としては――」
視線をユーミルからセレーネさんに戻す。
五人で回っているので一周5個、かかる時間は慣れもあるので次からもう少し縮むだろう。
「属性武器は製作難度が高いからね……失敗も考慮して、30個以上あると嬉しいかな」
「では、六週すればいいんですね!」
「時間次第ではもっと回れますけど……そういえば、属性武器は何人分作るのですか?」
「魔法を使う人間は基本、武器で殴る機会が少ないから必要ないよ。ウチの仲間で言うなら俺とリィズ、シエスタちゃんの三人か。で、残る五人分だけど……実は騎士に属性武器は必要ない」
「どうしてだ?」
実は騎士の使う魔法剣の一部は、無属性……どんな敵にも撃っていける万能さを持っている。
ダメージも使用者の魔力を参照して伸びるという仕様なのだが、属性武器は違う。
「属性武器の属性部分ってのは、武器の属性値ってものが関わってくるんだよ。それを元に威力が決定して、最終的にはスキルの倍率なんかも参照して追加ダメージが発生するって仕様なんだけど……付いてこれてるか?」
「な、なんとか」
「通常攻撃そのものが属性攻撃に化ける、ではなく通常攻撃に属性の追加ダメージが発生する訳だな」
「さ、先に結論を!」
「……さっきセレーネさんが言った通り、属性武器は製作難易度が高い。仮に同じ人間が同等の素材を用いて両方を作った場合、無属性武器のほうが物理攻撃力・魔法攻撃力は上になるのが普通だ。だから騎士は、属性武器よりも魔力上昇効果のある素材を混ぜた、無属性武器を持ったほうが最終ダメージが高くなる――という結論になる」
「………………なるほど!」
大丈夫かな……俺としても説明が難しいところなのだが。
仮に属性武器で無属性武器に並ぶ物理攻撃力・魔力を持つ物があれば別だが、現実的ではないので考慮に入れなくて問題なし。
「ちなみにお前の武器、しっかり魔力上昇素材入ってるからな?」
「知らなかった! ……時にリコリス、今の話を理解できたか?」
「え!? あ、あの……えーと……は、半分くらいは!」
ユーミルがリコリスちゃんと属性についての確認を始めてしまったので、少し放っておくことにして。
今度はサイネリアちゃんが俺に質問を投げかけてくる。
「あの、騎士の均等型はどうなるのですか?」
「持続型の魔法剣のことだね? あれも騎士の他のスキルと同じで、通常攻撃+魔法攻撃のワンセットだ。通常攻撃+属性攻撃の属性武器とは別ものだよ。他タイプとの違いは無属性じゃなくて、各属性魔法の使い分けができるところか」
「ああ、なるほど。でしたら、そちらもより物理攻撃力・魔力の上がる無属性武器のほうが良いと」
「そうなるね」
サイネリアちゃんは理解が早くて助かる。
にしても属性攻撃と属性魔法もまた別のものだから、説明していて段々と嫌になってくるな。
基本的に、属性攻撃が属性魔法よりも効果を発揮することは稀であると思っていい。
あくまでオマケであり、本職に任せられるなら任せたほうが強いということになる。
「そう考えますと、手数の少ない重戦士のお二人には合わない武器だと思うのですが……」
「おっ、さすが。そこに気が付いたか。お察しの通り、属性武器が特にマッチする職業は軽戦士・武闘家・弓術士の三つだよ」
俺たちの中ではサイネリアちゃん・トビには属性武器がうってつけということになる。
同じ弓術士でも、セレーネさんは単発型なので今一つ。
「やはりそうですか。では、アルベルトさんたちはどうして……」
「それについては、セレーネさんが二人に理由を訊いてあるよ」
ベリ連邦からの帰り道で、俺とセレーネさん、アルベルトとフィリアちゃんの四人は新武器についてみっちりと話をしながら移動した。
その中で序盤にセレーネさんが行った質問である。
「二人は自分たちが傭兵プレイをしているからだって言っていたよ」
「……それはどういう?」
「雇われて色んな人たちと組む都合上、相手がどんなパーティ構成なのか、どんなレベルなのかも分からない。だから、必要なのは対応力だと」
「つまり極端な話、全員が物理特化パーティなのに高物理防御の敵に挑む場合……」
「属性攻撃で押し切ったりとか、不利を承知でそういう選択肢があったほうが良いって判断みたい。ただ、それとは別に物理特化の無属性武器も注文されている訳だけど」
だから実は七本ずつ作る必要があるんだよね、大変だね、などと呟きながらも……。
セレーネさんは色々な武器を作れるということで、言葉とは裏腹に嬉しそうだった。
サイネリアちゃんもやや苦笑気味である。
ちなみにアルベルト親子から受け取る予定の金額は、目玉が飛び出すほど高額で……具体的には、俺たちの同盟総資産の半分くらい。
まさに一大事業である。
「さて、属性武器の話はこれくらいにして。料理の攻撃バフが残っている内に、次の周回に行こうか」
「休憩は次の料理の時かな?」
「途中で疲れる人がいない限りは、そんな感じですね。ユーミル、リコリスちゃん! そろそろ出発するぞ!」
うんうん唸る二人を呼び寄せて、ボス部屋を後にする。
部屋を出た先にある二つの階段……このダンジョンは下りが進むルートなので、上りと下りの二つから上りを選択して進んで行く。
すると目の前に光が溢れ、気が付くと俺たちは洞窟の入り口に移動させられていた。
ここからは、今のように下りて戻っての繰り返しとなる。