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決戦への前哨戦

 身を切るような寒さの中、ポジションについて前方を見据える。

 ユーミルとトビは前に、セレーネさんが俺の右、左にリィズだ。

 仮にドラゴンまで辿り着けた場合にかかる時間は一時間弱。

 料理のバフ時間的にも、リアルの就寝時間的にも、挑戦回数は一回か二回しかない。

 俺が事前にそう告げたところ、ユーミルから


「ドラゴンまでで一時間弱? それでドラゴンを倒すのだから、一戦で一時間は超えるだろう? つまりこれがラスト一回だな! 分かり易くて結構ではないか!」


 と、いつもながら力強い言葉が返ってきた。

 だからこの戦いが防衛イベント最終戦となる。


「……」


 静かに集中力を高め、スタートの瞬間を待つ。

 木立が僅かに揺れたのを見るや――セレーネさんがクロスボウを構え、リィズが魔導書を開き、トビは二本の刀を逆手で持ち、ユーミルが両手で剣を握る。

 そして俺が杖を構えた直後、『キラービー』を貫くセレーネさんの矢と共に前衛二人が走り出した。


 ウェーブを越える度に、敵のレベルがグングン上昇していく。

 敵の出現にランダム性はあれど、もう何度もこなしてきた戦いだ。

 ミスはなく、むしろウォーミングアップとばかりに動きを確認しながら淡々と進む。

 ユーミル個人の撃破数稼ぎも、リィズによるとここまで過去最高のペースだ。

 このままパーティ全体の最高記録を伸ばせば、そちらの記録も付いてくることだろう。

 しかしとあるウェーブが終わったところで、ユーミルが急にこちらを振り返る。


「インターバルが長い! 長ーい!」

「慣れていない最初の内は短いって言ってただろうが。現金なやつめ。それよりもお前、MPが減ったままだぞ?」

「あっ」

「しっかりしろよ。まだ時間に余裕があるし、エントラストで回復させるからな」

「すまない。頼んだ!」


 MPをユーミルに譲渡し、自分はMPチャージに移る。

 他のメンバーのMP・HPは大丈夫だな。

 その後も戦いは続き、そろそろ中ボスが出る辺り……ここからが本番だ。

 戦い方は『バーストエッジ』と『ダークネスボール』の組み合わせで群れを攻撃、攻撃が当たらなかった敵を残り三人でカバー。

 それが終わると『グラビトンウェーブ』で新たな群れを攻撃、こちらは大抵の敵が範囲内になるので、トビに向かってくるHPが減った敵を殲滅。

 WTが苦しくなったら『クイック』で、それも間に合わない場合『焙烙玉』の一斉投擲でカバー。

 この繰り返しだ。

 敵のレベルが上がってきてもそれは変わらない。

 レベル45の『スノーゴーレム』を片付けたところで、俺たちは一息ついた。


「あれだけ沢山あった焙烙玉が……諸行無常でござるなぁ……」

「また作りゃあいいんだよ。面倒なら、他のプレイヤーが作って売ってる手榴弾を買うのが楽だぞ」


『焙烙玉』と『手榴弾』はカテゴリが一緒らしく、片方を使用すると両方がWTになる。

 両方を持つ意味はないので、今回俺たちは『焙烙玉』しか使っていない。

 洋風寄りのこのゲームでは『手榴弾』を使うプレイヤーの方が多い。


「拙者、焙烙玉の方が忍者らしくて好きでござる! しかしハインド殿、ユーミル殿の宣言通り時間的な都合もさることながら、アイテム消費的にも次はなさそうでござるよ。焙烙玉だけでなく、投げ苦無の数もやや厳しい」

「デバフアイテムも心許ないです」

「予備で買っておいた閃光玉も在庫切れだよ」

「ハインド、背中が痒い!」

「あ? ……あー、アイテムは当然この戦いで使い切っていいけど、肝心のドラゴン戦で足りないってことがないように調整をお願いする。今の内に、それぞれのアイテム個数を確認しておこう」


 戦闘前にもやったことだが、アイテムの受け渡しを行って数を調整しておく。

 前衛二人の『焙烙玉』を多めに、俺には苦無を多めに、といった程度の移動だが。

 他には偏ったポーション系の移動を少々。

 上衣の鎧だけ装備解除したユーミルの背中を掻きながら、それらの作業をインターバル内で手早く完了させる。


「よし、受け渡しOK。このまま集中していこう! ――ほら、お前ももういいだろう? 装備を戻せ」

「ふぃー……ありがとう、ハインド。では行くか! 終盤戦だ!」


 ユーミルの背をぺしっと叩き、戦闘再開。

 間もなく到来するレベル50からは敵数増加、同時に中ボスが『アイスワイバーン』に切り替わる。

 その領域に入るともう、いつ失敗してもおかしくない。

 じわじわと削られる壁の耐久値を気にしながらも、総力を挙げて敵を殲滅していく。


「右端っ、鹿2! 触れていないでござるっ!」

「ハインド君、フォローお願い! 次矢の装填が間に合わない!」

「了解です! リィズ、左にも一匹! ユーミル、セレーネさんにMPポーションを!」


 指示を残すと、苦無を手に白い息を吐きながら必死に駆ける。

 雪で滑ると大幅なロスになるので、足元にも注意が必要だ。


「――はい! ユーミルさん、聞こえていましたか!? セッちゃんにMPポーションですよ!」

「聞こえているぞ! すぐにやる!」


 声をかけ合い、フォローしながら視野を広く広く。

 それでも通り抜けていくのは、やはりスピードのある『シャープディア』だ。

 隣のエリアギリギリを走り抜けていく個体が多いので、どうしても処理が難しい。

 更に攻略は進み……。


「吹き飛べぇぇぇいっ! ――ぬおっ、倒し切れんか!? セッちゃん!」

「大丈夫! 撃つよ!」


 もちろん『アイスワイバーン』の撃破にも手を抜かない。否、抜けない。

 デバフアイテムを投げ、パーティのダメージディーラーであるユーミルとセレーネさんを中心に一気に撃破。

 結果……無事にレベル65のウェーブを乗り越え、壁の耐久値は残り三割。

 如何にアルベルトの『グラウンドインパクト』が凄まじかったか分かる結果だが、何にせよ俺たちは辿り着いた。


「ここまででも、記録の上では更新だが……」

「まだだ! そのドラゴンとやらを倒さなければ、私たちのイベントは終わらんぞ!」


 ユーミルが気合十分といった風情で剣を掲げてみせる。

『勇者のオーラ』が連動して、パリパリと稲妻を走らせた。

 現在の記録は1555体で1位だが……。

 ユーミルの意図するところの区切りという意味でも、明日の最終順位という意味でも、ここで終わるという選択は有り得ない。


「分かってるって、撤退するだなんて言わねえよ。トビ!」

「うぬ? 何でござるか?」

「パーティの浮沈はお前にかかっているからな。頼むぞ!」

「……承知! 拙者にお任せあれ!」


 トビがどれだけ攻撃を回避できるかで、戦いの展開は大きく変わる。

 一度でもパーティが半壊するようなことがあれば、恐らく立て直している間に次のウェーブの敵が来て終わりだ。

 俺は『ホーリーウォール』をトビに使用、既に『空蝉の術』は使用済みなので、これで二発まではノーダメージとなる。

 後はパーティ全体のHPを『ヒールオール』で回復。

 仕上げにそれぞれが『MPポーション』で自分のMPを回復して、襲来に備え……これで準備は完了だ。


「来たぞっ!」


 ユーミルが叫びを上げてすぐに、輝く水色の竜が長大な羽を動かして飛来。

 轟音を立てて目の前に着地すると、雪と土砂が周囲に飛び散る。

 俺たちはそれに怯むことなく、『アイスドラゴン』へと先制攻撃を始めた。

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