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迫る終幕と氷竜への対策

 前日、アルベルト親子を含む特別編成のパーティはイベントを二戦して解散となった。

 やはりあの一戦は偶然に寄るところが大きかったらしく、二戦目はドラゴンまで辿り着けずに撤退。

 それでもタイマンしていたアルベルトさんの経験からドラゴン攻略の糸口は見つかったので、今後に活かしたいと思う次第だ。


「……と、思う次第だ。昨夜の経過はこんな具合で――って、どうした? ユーミル」

「どうした? ではない!」


 酒場の椅子からユーミルが立ち上がった。

 今夜はイベント終了二日前、そして全員が揃うイベント最後の日でもある。

 座ったままの俺に対し、ユーミルが拳を振るって力説する。


「超えてる! 超えてるじゃないか、私たちの記録を!」

「あー。そんな気配が薄っすら醸し出されているような感じがしないこともないな?」

「誤魔化されるか!? 事実だ!」

「ま、まあまあユーミルさん。ランキングには反映されないから……」

「うぐぐぐぐ……」


 ランキングの参加権利は一人一パーティなのである。

 昨夜のようにイベント参加や個人のポイント・撃破数稼ぎなどはできるものの、パーティ部門のランキングに反映されるのは最初に申告したパーティだけだ。

 だから昨日の成果は攻略情報に加え、ポイント達成で貰える消費アイテムや素材・ゴールドということになる。


「ぬああああっ! 例えランキングに反映されなかろうと、これは抜き返さなければ! 行くぞハインドォォォ!」

「待てって、まだ話は終わってない。っていうか、まだ料理も食べてないから無理だろう? そのまま行っても記録は伸びないぞー」


 料理、という単語に反応したユーミルが急停止してぐりんと後ろを向いた。

 近くにいたNPCのお客さんの肩がびくりと震える。

 

「……今夜のメニューは?」

「レクスフェルスのロースカツ。牛で言うリブロースに近い部位を使ったから、味と効果は保証するぞ」

「おおおっ!」

「美味しい部分!? 美味しい部分なんですかハインド先輩!? やったー!」

「喜んでもらえて何より。連日の揚げ物ラッシュで、そろそろ飽きているかと不安だったから」

「そこは、ほら……ゲームですから! 胃もたれなし! 胸やけなし! そして何より太らない!」

「そもそも夜中に揚げ物というのが、現実ではまずあり得んからな!」


 インベントリから次々と料理の乗った皿を取り出し、テーブルに並べていく。

 結局、今回のイベント期間の料理は揚げ物三昧だった。

 一つのジャンルに凝るというのも楽しく、俺としては問題なかったが。

 ユーミル、リコリスちゃん、そしてフィリアちゃんが鼻息を荒くしながら仲良く席に着く。


「先輩、私たち魔法職は?」

「マグロ……もとい、テュンヌスのカツにしたぞ。普通のソースでも良いし、タルタルソースも用意してある。シエスタちゃんは、肉派だったりする?」

「いえ、特には。でも折角なので、味見くらいはしたいです」

「そう言うと思って、ロースカツも少し取り分けておいた。よかったら後でどうぞ」

「さすが先輩だぜー。ありがとうございまーす」


 元々『レクスフェルス』の肉は数に限りがある上に、今回の物は希少部位だからな。

 そう思っての措置だったのだが、今度はお肉組がブーブーと文句を言い出す。


「……後で追加のマグロカツも作るから、戦いが終わったら食べるといい」

「わーい!」

「おお、ありがたい! しかしハインド、またミックスカツでは駄目だったのか?」

「やってみたんだけど、前にやったミックスフライよりもずっとバフ効果が低くてな。仕方なく二つに分けたんだよ」


 理由は分からないが、今回はそうなってしまった。

『キノコソースのミックスフライ』の時は、味を纏めるキノコソースが良い方に働いていたのだろうか……?

 今後、色々と検証が必要だな。

 その効果が低くなってしまった『カツの盛り合わせ』については、戦闘が関わらない時の満腹度回復に充てることにしよう。

 バフ効果が微妙だろうと、味は変わらない訳だし。

 考え込んでいると、フィリアちゃんに袖を引かれる。


「ハインド……そろそろ、食べたい……」

「あ、ごめんごめん。では――」


 軽く手を合わせると、俺たちは好みのソースをカツにかけ始めた。




 みんなでカツを突きながら、話し合うのはあの『アイスドラゴン』に関してだ。

 敵のレベル的にも残り時間的にも、アイツを倒して今回のイベントはフィニッシュとなるだろう。

 最終日は動けないので、ランキングの推移を見守るだけになると思われる。

 ドラゴン対策については、最も間近で見たアルベルトから話が。


「あの氷の鱗の下に、通常のドラゴンと同じような鱗が見えてな。一撃だけ入れることができたのだが、その際のダメージはおよそワイバーンに対するものと同程度だった」

「なるほど。それで、剥がれた鱗のダメージ判定がどうだったかお分かりになりますか?」

「一定範囲ごとの鱗で独立しているようだった。範囲攻撃・範囲魔法で一気に丸裸にできれば、再生までの間は戦いやすくなるかもしれん」


 あのドラゴン、かなりの巨体だったしな。

 今回のイベントは、本当に範囲攻撃推しになっているようだ。


「弱点の土魔法で剥がせればいいんでしょうけど……」

「私たちの中に使用者はいませんし、出回っている土属性の巻物は初級魔法ばかり。他の手段を講じる必要がありますね」


 リィズの言う通り、あるものでどうにかするしかない。

 俺たちなら『グラビトンウェーブ』から焙烙玉を重ねる、もしくは『バーストエッジ』で爆散させれば広範囲の氷の鱗を剥がせそうだ。


「ドラゴンの弱点部位が判明したあとなら、その部分だけ狙い続けるのもありでござろうな。セレーネ殿の弓なら、あの氷の鱗を貫通できそうな気が」

「あ、うん。多分、スキルを使えば大丈夫だと思うよ」

「そうなると、私たちのパーティの方が苦戦しそうでしょうか? ハインド先輩」

「そんなことはないと思うよ。そっちは俺たちに比べて、範囲攻撃が豊富で群れにも強いじゃないか。ドラゴンの鱗を範囲攻撃でなるべく多く剥がして、君のアローレインなりを中心に攻めたらいいんじゃないかな? 無理に弱点部位を狙わない方が、そっちのパーティでは安定してダメージを取れそうだ」

「なるほど……」


『アローレイン』は矢の一本一本に判定があるので、相手が巨体なほど有利だ。

 アルベルトの『グラウンドインパクト』に続いてサイネリアちゃんが撃ち込んでいけば、かなりのダメージを取れるはず。


「そうなると、今度はブレス対策でござるな」

「ブレスに関しては、範囲こそ広くても口元から直線的に放たれるだろう? メンバーの配置を工夫すれば、全員が巻き込まれることはないはず」

「周りをぐるっと囲んだりですか!」

「そうそう。そもそもリコリスちゃんみたいに、HPも魔法耐性も高い防御型ガードタイプの騎士なら、アイスブレスを受けても耐えられる可能性があるし。しっかりヘイトを稼いで、引き付けながら味方のいない方向に逃げれば、被害が最小限になると思う」

「ハインド殿、拙者は? 拙者は?」


 トビか……軽戦士は魔法耐性が低く、HPも低い。

 そもそも回避盾であるこいつにとって、かわしにくい上に複数回ヒットするブレス系攻撃は鬼門なのだが。


「……セレーネさん、ブレス系攻撃のヒット数ってどんなもんでしたっけ?」

「当たり方にもよるけど、3~5ヒットってところじゃない?」

「じゃあ、トビには自前の空蝉の術に加えて俺のホーリーウォールも付与するから……」

「するから?」

「……後は気合で躱してくれ」

「気合!? 無茶な!」

「気合は冗談にしても、分身を良い位置に走らせれば何とかならんか?」

「分身に初撃を肩代わりさせて、ドラゴンの向きによっては首を振っている間に4ヒット目くらいまで時間が……ふむぅ。その方法ならば、何とかなる気がしてきたでござる」

「二発目以降のブレス攻撃の対処は、スキルのWTと相談だな」


 まだ一度しか戦っていないので不確定要素も多いが、とりあえずそんなところか。

 それ以前にこのイベントはドラゴンに辿り着くまでが非常に難しいので、集中して臨まなければ手前で力尽きることになる。

 俺たちはカツを食べ終わると、最後の戦いに向けて酒場の席を立った。

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