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サブパーティの戦い

 イベント終了まで残り数日。

 優勝圏内で争っているのはおよそ30パーティといったところで、連日激しい入れ替わりが起きている。

 そんな現在のランキングは以下の通りだ。


イベント討伐数ランキング(一戦)・パーティ部門 ※リアルタイム更新


1位:ユーミル(騎)・トビ(軽)・セレーネ(弓)・リィズ(魔)・ハインド(神) 1356体

2位:リコリス(騎)・傭兵アルベルト(重)・フィリア(重)・サイネリア(弓)・シエスタ(神) 1320体

3位:トルエノ(騎)・ソルダ(重)・フラッペ(弓)・レーヴ(魔)・サージュ(神) 1255体

3位:弦月(弓)・アルクス(弓)・エイミー(弓)・アーロン(弓)・矢羽根(弓) 1255体

5位:プロムス(軽)・ワルター(武)・ヘルシャフト(魔)・アンキッラ(魔)・カーム(神) 1230体

6位:ラント(魔)・ヴノ(魔)・永遠の中二病(魔)・アンタレス(魔)・F(魔) 1218体

7位:リモコンとって?(重)・帰宅部(軽)・金欠(弓)・布団にダイブ(魔)・にっころがし(魔) 1205体

7位:ユキモリ(重)・カネナカ(武)・ミツヨシ(弓)・ウズメ(魔)・キツネ(神) 1205体

9位:レモン(騎)・翡翠(騎)・蒼(魔)・紅(魔)・ホワイト(神) 1192体

                   ・

                   ・

                   ・


 トビがギリギリだと評したことは正しく、こうして一日ごとに記録が伸び続けている。

 元から規模の大きいギルドに加え、『ラプソディ』や『colors』といった新興ギルド所属のパーティの順位が上昇。

 俺たちは今夜動けないので、明日には追い抜かれている可能性も高い。

 しかし今は……。


「うおおおおおっ!」


 アルベルトの咆哮が轟く。

 今は考えても仕方ないので、目の前の戦闘に注目したいと思う。

 山肌を砕きながら、範囲攻撃のチャージ技『グラウンドインパクト』が炸裂した。

 レベル32、30体からなる敵の群れが一撃の余波で粉々になる。

 撃ち漏らしは当然のように、ゼロだ。


「うひょー! 兄貴、最高!」

「……雪崩が起きないか不安になる火力だ……」

「本当にね……」

「なるほど。料理バフに加え、アタックアップが効いているな。まだまだ上のレベルまで一撃で済みそうだ」


 その上、なんか物騒な発言が聞こえたような。

 まだ先まで行けるって? 

 リィズの魔法を起点に、焙烙玉で殲滅していた俺たちとは大違いだ。

 今回の材料代や焙烙玉の消費数に関しては、考えたくもない。


「フィリア、次は頼む」

「うん……」


 そしてフィリアちゃんにバトンタッチ。

 俺は『クイック』と『エントラスト』を使用し、アルベルトの状態を万全にした。

 後はまた、MPチャージをしながらその場で棒立ちである。

 一瞬で粉砕したから、次のウェーブまで長いなー……。

 そして敵の群れが新たに姿を見せた直後、フィリアちゃんは炎の竜巻と化した。


「おー、一撃のダメージが高いな」

「属性は敵の弱点に噛み合っていないでござるが」

「物理部分まで半減される訳じゃないし、問題あるまい」

「確かに。それに、あそこまでトルネードスウィングをコントロールできるのは凄い」

「以前よりも更に鋭くなっているね。そしてやっぱり私たちの出番、ないね……」

「手を出すと邪魔という可能性すらありますからね。もっと敵のレベルが上がるまでは、このままでいるしかないかと」


 サイネリアちゃんが言っていた、途中まではすることがないというのはこういう意味か。

 シエスタちゃんが「楽ができていい」とご満悦だった。

 俺たちの場合、『クイック』と『アタックアップ』を使えるせいでその範囲が更に拡大しているようだが。

 しかしまあ、これだけ強いから彼らは傭兵という特殊なプレイを続けることができている訳で。


「……ハインド、そろそろ私は無理。今の、ギリギリだった……」

「おっと、了解。じゃあ、クイックとグラウンドインパクトのWTを考えて……レベル36くらいから俺たちも参戦か」


 更には自分の能力をしっかり把握しており、こうして戦況分析もできる。

 彼らへの依頼が絶えないのも納得だ。


「ようやくでござるか! ハインド殿、拙者たちは撃ち漏らしを倒せば?」

「だな。しばらくはフィリアちゃんのトルネードスウィングの残りを倒すだけで十分だろう」

「グラビトンウェーブみたいに均等にダメージが入る訳じゃないからね。一人で殲滅できなくても、ほとんどの敵を倒してくれそうだし」


 回転しながら斬り付ける技なので、他のスキルよりもダメージにムラが出る。

 俺たちの話にアルベルトとフィリアちゃんが頷く。

 ここまで二人が敵を瞬殺してくれているので、どう動けばパーティが機能するか話し合う時間はたっぷりあった。

 後はそれが上手くいくかどうか、勝負だ。




 最終的にアルベルトは、レベル42の敵まで『グラウンドインパクト』一発で敵の群れ全てを倒し切っていた。

 そこから先は全員でフォローし合いながら中ボスであるレベル50、55、60の『アイスワイバーン』も全て登場直後に撃破。

 敵の群れに関しても、俺たちは問題なく撃退し続け……。

 それぞれ元のパーティの最高記録を抜き去り、レベル62の突破に成功した。

 重戦士二人の範囲攻撃と『クイック』、トビの機動力とセレーネさんの狙撃能力が奇跡的な噛み合いを見せている。

 敵モンスターの種類の引きもかなり良い。

『シャープディア』がかなり少ない感じ。


「うへぇ、ペースの良さからもしかしてとは思っていたけど……」

「やっちまったでござるな! これはもう、このまま行けるところまで行くしか!」

「壁の耐久値も50%は残ってる……大きなミスがなければ、まだ大丈夫だよ!」


 アルベルト親子もこちらを見て頷く。

 進退の判断に関しては、全面的に俺に委ねられている、

 とはいえ、みんなの顔を見ていればどうするべきかは明白だった。


「……では、行くとしますか! 限界までっ!」

「「おうっ!」」

「はい!」

「了解……!」


 そのまま続行を決断。

 集中力を高め、スキルを総動員し、迫る敵の波に抗っていく。

 気が付くと三つのウェーブが終わりを迎え、レベル65の中ボス戦へと至る。

 ここからは未知の領域だ。

 また『アイスワイバーン』が出るのか、それとも別の敵なのか……。

 体勢を整えながら山上を注視していると、やがてそれは叫び声を伴って現れた。


『グァァァァァッ!!』


 ワイバーンとは明らかに違う、どうして空を飛べるのかという強靭な体躯。

 数倍はありそうな羽に、威厳を示すような立派な角、トサカ……。


「ドラ……ゴン?」

「ドラゴン出たァァァ! で、ござるぅ!!」

「行くぞ、フィリア!」

「うん……」

「――は、ハインド君しっかり! もうアルベルトさんたち、敵の方に向かってるよ!」


 うわっ!? えっと、ええと……と、とりあえずバリアか!?

 俺はアルベルトに向けて『ホーリーウォール』を使用、まずは様子を見る。

 敵は『アイスドラゴン』で、レベルは65。

 表皮が氷のような、不思議な質感の鱗で覆われているのが特徴のモンスターだ。


「う、ぐっ……この感触は……!」

「硬い……!」


 二人が攻撃したとは思えないほど低いダメージが表示され、手応えの異様さに親子が狼狽した。

 攻撃した箇所の氷は一度剥離したが、しばらくするとパキパキと乾いた音を立てて再生していく。

 トビが続けて攻撃するも、表示されたダメージは更に低く、有効なダメージには程遠い。


「どういうことでござる!? これでは――」

「――!! 下がれ、ブレスが来るぞ!」


 アルベルトが警告の声を上げるも、その言葉はほとんど意味を為さなかった。

 何故ならその氷結ブレスの範囲は広大であり、威力は絶大であり……そして何よりも、このパーティの魔法耐性は絶望的なまでに低かった。

 俺が斜面を転がり落ちるように吹き飛ばされた後に見えたのは、HP0で無残に転がる仲間たちの姿。

 アルベルトだけは事前に使用した『ホーリーウォール』とHPの高さで生き残ったようで、一人でドラゴンと戦い続けていた。


『ガァァァァァァッ!!』

「アルベルトさん!」

「ハインド、時間を稼ぐ! 仲間を蘇生させたら、即座に撤退を!」


 このイベントでは戦闘不能の仲間がその場に残っていると、撤退扱いにはならない。

 スコアを残すには、全員が揃って門に触れる必要がある。

『聖水』からの『リヴァイブ』、『クイック』、そしてもう一度『リヴァイブ』。

 今回のヘイト稼ぎトップは、最初から敵を高ダメージで殲滅し続けていたアルベルトだ。

 故にトビが復活してもそちらには向かわず、ドラゴンはアルベルトと対峙し続けている。


「蘇生完了しました! アルベルトさん!」

「兄貴! 早く!」

「くっ……おおおおっ!」


 アルベルトが『フェイタルスラッシュ』で『アイスドラゴン』を後退させ、門に触れて待つ俺たちの元へと全速力で駆ける。

 大口を開き、轟音を立てて迫るドラゴンが視界一杯に広がった直後――目の前の景色は、街中のものへと切り替わっていた。


「ふーっ……」

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「し、心臓が……止まるかと思ったでござる……」

「……」

「か、間一髪、だね……」


 荒れた呼吸をその場で必死に整える。

 こうして俺たちは虫の息ながらも、どうにかドラゴンからの撤退を成功させたのだった。

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