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騎士と武闘家の決闘

 決闘が始まる前の会話内容は、確かこんな感じだった。

 メイさんを待たせ、暖炉の傍でみんなと一緒にユーミルと向き合う。


「まずは武闘家という職業クラスそのものの特徴だが……まさか、それくらいは答えられるんだろうな? ユーミル」

「む? えーと、えーと……武器を持っていない!」

「すっげえ基本事項だなおい! 正確にはガントレットとかソルレット、グローブやブーツ……そういう、普通なら防具に分類されるものが武器として登録されるのが武闘家だ。他にメリケンサックとかの特殊な武器もあるにはあるが」

「ふむふむ。後はそうだな……軽装のプレイヤーが多い気がする!」

「気がするって……フワッとした理解に泣きたくなってくるよ。素の物理防御力が全職で一番伸びるのも武闘家の特長だ。ただし、武闘家は重い金属鎧の装備適性がないが」


 その辺の仕様は軽戦士と共通だ。

 胸当てや軽鎧など、体の一部を覆う防具しか適性がないという設定がされている。

 これにより、防具込みの物理防御力は重戦士の防御型ガードタイプがトップに。

 トップの物理防御力を譲ることと引き換えに、武闘家は高いレベルで物理防御と機動力を両立できる。

 素の物理防御によって装備品の重さをほとんど感じない、というのは速く動く上で非常に大事だ。

 そのままユーミルに質問を重ねていく。


「他には?」

「むう……そう言われても、武闘家の知り合い自体があまり……」

「武闘家の代名詞といえば何と言ってもアレでござろう? スキルによる自己回復!」

「――ああ!? 今、私が言おうと思っていたのに!」

「嘘を吐くな。完全に答えに窮してたじゃねえか」


 武闘家共通のスキルに『治癒功ちゆこう』というものがある。

 HPのおよそ三割をノータイムで回復、WTも短いので嵌まれば粘り強く戦うことが可能だ。

 これにより闘技大会で武闘家という職は猛威を奮った訳だが、それが何故トーナメントで次々と姿を消したかというと……。


「確かに治癒功による粘りは脅威だ。でも、武闘家は魔法耐性と最大HPがどちらも低い。だからユーミル、というより攻撃型アタックタイプの騎士の勝ちパターンとしては……」

「大技一撃でHPを消し飛ばす! ――だろう!?」

「……正解。物魔混合技のバーストエッジは適任だ」


 どこまで理解しているのか不明だが、要点はしっかりと抑えてくれているようだ。

 そして、武闘家のタイプごとの特徴は以下の通り。

 拳撃型パンチタイプ、ラッシュを叩き込む手数特化のスタイル。

 蹴撃型キックタイプ、チャージとカウンターで攻める一撃が重いスタイル。

 気功型チーゴンタイプ、気功スキルを用いて自己強化・相手の状態異常を引き起こしながら戦うテクニカルなスタイル。


「と、こんな感じ。蹴撃型ってことだから、カウンターに気を付けながら大技狙い……ともかくバーストエッジを先に決めれば、お前の勝ちだ。騎士の防御力で即死するようなスキルはないと思うが、相手側のチャージの大技である雷神脚には注意な」

「チャージ完了時に雷のエフェクトが入るのだろう? なら大丈夫だ、ちゃんと躱す!」


 上手く伝わったか不安だが……後はなるようにしかならないか。

 こういった説明を経て今は村の適当な広場で、武装状態のユーミルとメイさんが向き合っている。

 傍観者の俺たちはコートで完全防備で、決闘が始まるのを待つのみだ。


「三本勝負にしよう、勇者ちゃん!」

「構わんぞ。二本先取で勝ちだな?」

「そうそう。じゃあ、早速始めるよ!」


 決闘フィールドが張られ、二人の周囲に侵入不可能となった。

 システム側から合図が出され、両者がゆっくりと間合いを詰める。

 どちらも一撃が重いから当然膠着する……かと思いきや、ユーミルが通常攻撃で突っかけた。

 メイさんが慌てて防御に回る。


「うわっ、わっ! 何の工夫もない真っ直ぐな突進!? でも……速い!」

「どうしたどうしたぁ! スキルなしでは動けないか!」

「なんのっ!」


 殴り合いが始まった。

 どちらも物理防御が高いので、決め手にはならないが……徐々にMPが溜まっていき、決着の時が近付いてくる。


「どう見る? トビ」

「うぬぅ……見事な生足でござるな。眼福ぅ!」

「そ――」


 そこじゃねえよ! と突っ込みを入れようとした瞬間、背筋が凍るような感触が襲った。

 周囲の気温よりも冷たい女性陣の視線が、俺の隣に立つトビに殺到している。

 結果、トビはにやけ面のままその場で凍り付いた。

 メイさんの道着の隙間から、健康的な太ももが時折覗く。

 スリットの入った一体型の道着なんだよな……足元には防刃仕様のロングブーツ。

 俺も男だし、ついついトビと同じくそちらに目が行くのは否定できず――


「……ハインドさん?」


 光を感じさせない暗い瞳で、リィズが俺の顔を覗き込む。

 体感気温、十度低下。とても寒い。

 意識して見ないように視線を外すと、リィズはニッコリ笑って決闘へと視線を戻した。

 試しに頭を動かさないままに、もう一度目だけを動かしてちらりと太ももを見ると――俺のやや後ろに立つリィズに袖を引っ張られる。

 おかしい、その位置から俺の顔は見えていないはず……視線を外すと、間を置かずにリィズが袖を放した。

 見る――袖を引く、見ない――袖を放す……どういうことだ!?

 どうやって見ているかどうかを察知しているんだ……不可解過ぎて思わず顔が引き攣る。

 俺は気を取り直すと、固まったトビを揺すって意識を呼び戻そうと試みた。


「トビ……おい、トビ! 起きろ!」

「はっ!? あ、ああ……現在の戦況についてでござったな? 今のところ、まだメイ殿はカウンターを見せていないでござる。それにユーミル殿が対処できるかどうかで、戦いの流れが決まるかと」

「そうだな。ただまあ、俺はそれ以前に一つ懸念があるんだが……」

「懸念、でござるか? それは一体……?」


 通常攻撃によるダメージを重ね、ユーミルが優位に立つ……と思われた直後、メイさんが『治癒功』を発動。

 HPを回復しつつ、メイさんが大きく距離を取る。

 ここまでのメイさんの動きだが……運動神経も良いし、間違いなくスキル込みでの反撃を狙っている。

 足技で剣を払って見せたりと、高い格闘センスが見え隠れしていて目が離せない。

 それでも武器の有無によるリーチの差で、スキルなしの戦闘はユーミルが圧倒的に有利だ。

 流れはユーミルにある……しかし、しかしだ。


「三本勝負だからなぁ……その中でも、まだ一本目だぞ? ユーミルの能力が十二分に発揮されるのって、どのタイミングだ?」

「あ……そういうことでござるか」

「なるほど。ユーミルさん、通常時でも十分強いんだけどね。それでも、ランク付けするなら中の上くらい……かな? 追い込まれた時に比べると、どうしても見劣りするね」

「セレーネさんの仰る通りで。で、見た感じメイさんは闘技大会で勝ち上がってこなかったのが不思議なレベル……そう考えると、この初戦――いや、俺の予想なんて外れてくれて全然いいんですけどね? ちょっと心配だな……」


 俺の言葉に、メンバーが不安そうな表情を見せる。

 特にリコリスちゃんは大慌てで、ユーミルに向かって声援を送り始めた。

 ユーミルの現在のHPは三割、メイさんはたった今の『治癒功』で七割。

 果たして、勝負がどうなったかというと……。


「喰らえぇぇぇ!」

「いっけぇぇぇ、ユーミル先輩っ!」

「――!!」


 大きく踏み込んで、ユーミルが『バーストエッジ』を振りかぶる。

 溜まったMPは八割超、これが当たれば間違いなくメイさんは立ち上がれないだろう。

 しかしメイさんはその斬撃をギリギリの位置取りで躱し切ると、これまでの鬱憤を晴らすかのように躍動した。


「――浅いっ!」

「つんどらっ!?」

「ああっ!? ハインド先輩、ユーミル先輩が!」


 強烈なカウンター技『裏回し蹴り』が炸裂し、ユーミルは剣を落として雪の上を転がっていく。

 システムメッセージにより、メイさんの勝利が告げられた。

 やっぱりこうなったか……。

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