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ゲーマー(廃)な友人

「レベル30? それが今のレベルキャップなのか?」

「そうらしい。どうもレベル25以降からは結構時間が掛かるらしいんだけど」

「……ですが、それが判明しているということは……」

「うん。既に廃プレイして到達した奴が居るってことだな。どれだけの時間をTBに捧げたのか、知りたいような知りたくないような」


 ヒースローの街に戻り、ユーミル、リィズと合流。

 有益な情報を大量に持ち帰った俺に対し、二人の態度は何故か冷たかった。

 何でだ、そもそもユーミルの為の情報収集なのに。

 セレーネさんに会いに行くって言った時からこうなんだよな……納得がいかん。


 今の俺達は、教えてもらったとある狩場へと向かっている。

 なだらかな丘陵を三人で早足で昇っていく。


「しかし、随分とかすじゃないかハインド。何か時間が関係しているのか?」

「ああ、狩りたいモンスターが夜時間しか出ないんだよ。実質十一時からの一時間しか無いから、こうして急いで街を出た訳だ」

「ということは、それを逃すと……次は夜中の三時ですか。無理ですね」

「無理だな。ということで、急いで狩り場に向かっている次第だが」


「話は全て聞かせて貰った! で、ござる!」

「!?」


 突如、一人のプレイヤーが俺達の行く手に立ち塞がった。

 紺色の上衣うわぎはかま脚絆きゃはん頭巾ずきん草鞋わらじと和風の出で立ち。

 何処から見ても忍者であると全身で主張している男を前に、俺達は――。


「「「……」」」


 無視して通り過ぎることにした。

 だって時間が無いんだもの。


「無視しないで!? わっち、俺だよ俺俺!」

「オレオレ詐欺かな? 俺にはそんな、忍者みたいな格好をした秀平なんて知り合いは居ないです」

「思いっきり秀平って言ってるじゃん! 未祐っちも何とか言ってやって!」

「私の騎士ナイトという職がささやいている気がするのだ……忍者に盾役の座は渡さん、と」

「え!? 何の話!?」


 それ以前にユーミルはパーティの盾役として機能してないけどな、死に過ぎで。

 わざわざ頭巾まで取って秀平がアピールしてくるのがちょっと鬱陶しい。

 見えた素顔からしてアバターの変更なし、中身は現実そのままの姿だ。


「り、理世ちゃん!」

「あら、誰かと思えば兄さんのお友達の秀平さんではありませんか」

「良かった、理世ちゃんはまともな対応を――」

「中学一年のバレンタインで女子から二桁以上のチョコを贈られたのに、三年の時には0になっていた残念イケメンの秀平さんではありませんか」

「一番ひでえよおおおお! わっちぃぃぃ!」

「あー、はいはい。よく俺達を見つけられたな、秀平」

「ぐすっ……わっちはともかく二人は目立つから……聞き込みしたら割と簡単だった……」


 秀平の職は軽戦士、タイプは回避型だった。

 スキルで変わり身とかを出せる、実際に忍者に近い戦い方が出来るタイプだ。

 俺としては重戦士の防御型だと嬉しかったんだけど……こればっかりは当人の選択だからな。

 それに安定感で劣るとはいえ、別に回避盾でもありがたいことには変わりない。

 プレイヤーネームは『トビ』だそうだ。

 武器は二刀流の短刀。


「トビって普通の鳥の鳶じゃないよな。忍者だし、飛び加藤か? 加藤段蔵?」

「さっすがわっち、物知り。味方にまで警戒される技術を持ってるってカッコよくない?」

「そして最後にはかわやで暗殺されるんだな……」

「そこは触れなくていいから!」

「それにしてもお前の装備、なーんか物足りない気がするんだが」

「え、何で!? 何処からどう見ても完璧に忍者じゃない!?」


 俺はユーミルに目配せをした。

 同じ気持ちだったのか、ユーミルが大きく頷く。


「やはりここは、無駄に長い針金入りのマフラーが必要だろう? ハインド」

「うん、赤い奴な。作ってやろうか?」

「何でそんな目立つもんを着けなきゃならんのさ! 俺がやりたいのはニンジャじゃなくて忍者なの!」


 そうは言っても、秀平がイメージしている忍者だって実像とは違うはずだ。

 実際の忍者は基本的に戦闘をしない。

 情報を持ち帰るのが主任務なのだから、まずは逃げる事を考えるのが――


「ハインドさん、時間が……」

「おっと、そうだった」


 リィズが俺の服の袖を引き、脇道に逸れた思考が戻ってくる。

 そもそもゲームとかの創作上の忍者と実際の忍者を比べるのも野暮な話で。

 俺はどっちの忍者もそれぞれ好きだ。

 それに秀平――もとい、トビを弄っている場合でもない。


「ちっ、つまらんやつめ」

「つまらんって……ゆっち酷くない?」

「そしてお前の呼び方に違和感。未祐っちを縮めた感じが何とも」

「ええ……じゃあちゃんとユーミルちゃんって呼ぶよ……」

「それはそれで気持ち悪い」

「どうしろって言うのさ!?」

「おーい、そろそろ出発するぞー」


 周囲の景色を夕日が照らし始めた。

 話している内に結構時間が経ってしまっている。


「あ、なら俺が先導するよ。星降りの丘でしょ? 行った事あるから」

「……そりゃありがたいけど。トビ、お前の今のレベルは?」

「28だけど」

「高っ。ちなみに総プレイ時間は?」

「今日までで……四十時間は超えてるかなあ」


 その発言に、ユーミルが嫌そうな顔でトビから距離を取った。

 VRは体臭まで再現出来るらしいからな……。

 風呂にも入っていないのでは? という疑念からの行動だろう。


「失礼な! ちゃんと寝る前に風呂には入ってるよ!」


 しかし四十時間って……学校から帰宅して、ほとんど毎日ゲームしかしていない計算になるんだが。

 それも夜遅く、深夜まで。

 初日は休日だったから長くやったにしても……正直、ちょっと引く数字だ。

 リィズが完全に呆れたような目をしている。

 どうにも心配になって来たので、俺はもう一つ質問を追加することに。


「……トビ、今の連続プレイ時間は?」

「えーっと……夕飯食べてからずっとだから……四時間ちょい?」


 長い、長過ぎる。

 馬鹿なんじゃないのか? こいつは。


「悪い事は言わんから今直ぐにログアウトして水を飲め、トイレに行け、ストレッチをしろ」

「え? でも……」

「待っててやるから! つーか、体を壊すぞ! 聞き分けないならフレンド登録はしないし一緒にプレイもせん! そんな状態で来られても気になってしょうがないっての! 分かったらさっさと行く!」

「お、おおう。優しいなぁ、わっちは……なら五分だけ待ってて」

「ちゃんとやれよ! 五分超えても良いから、しっかり体をほぐしてから来い! いいな!」

「うーい」


 トビがその場でログアウトしていく。

 姿が完全に見えなくなった瞬間、俺はがっくりと肩を落とした。


「結局、急いでたのに時間をロスしているんだが……」

「置いていきませんか? ハインドさん」

「珍しいことに、私も同意見だ。必要なのか? あいつ」

「あれでも高レベルプレイヤーだからな……戻ってきたらしっかり働いてもらうさ。それよかユーミル。あいつのプレイスタイルによっては、ユーミルは攻撃に専念出来るぞ」

「おお、それはいいな。後衛とのバランスを考えた位置取り? とかヘイト管理? とか面倒だと思っていたのだ」

「それがちゃんと出来ていたとも思えませんけどね……位置に気を使っていたのは主にハインドさんですし」

「自覚はある!」

「威張らないで下さい」


 何時いつものやり取りを聞きつつ、俺は近くの岩に腰を降ろした。

 その後、トビが戻って来たのはログアウトから十分後の事だった。

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