挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

北の大地にて

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

195/325

目先を変える行動

「マンネリを感じる! で、ござる!」
「……」

 そんなことをトビが言い出したのは、料理コンテストが終わって一週間経った時のこと。
 今回は空白期間が二週間ということもあり、トビの言い分も理解できるのだが……。
 トビ用の投擲アイテムを渡り鳥のみんなで作っている時に、それはないんじゃないか?
 今は調合室で『焙烙玉』を大量生産中である。

「……で、具体的に何が言いたいの? お前は」
「普段と違うことをしたい!」
「単純作業に飽きたんだね、トビ君……」
「お前、あれだけ俺にMMORPGは単純作業が大事って言った癖に……」
「いやいやいやいや! ちゃんとやるでござるよ、普段の作業は! じゃないと大事なところで悲しいことになるでござるし! そうではなくて、これが終わったら普段と違うことをしようと言っているのでござる! 変化を、何か変化を!」

 何だ、そういうことなら何も文句はない。
 確かに暇だ……全員レベルもカンストしてしまったしやることが少ない。
 ついでにイベントもない、装備の更新も必要ないとないない尽くしだ。

「――あ、私も! 私も何かしたいぞ!」
「ユーミルさん、手を止めないでください」
「あ、はい」

 リィズの火薬の調合を補佐しているユーミルが元気よく手を上げて賛成の意を表す。
 とはいえ、みんな何をするか具体的な案はないんだな……あ、そうだ。
 折角だから、アレを進めてしまうチャンスじゃないか?

「俺にいい考えがある!」
「むっ、ハインド殿! そこはかとなく失敗臭がする台詞でござるが……して、どのような?」
「クエストを進めよう。王宮関連で、ちょっと特殊なやつがあるんだよ」
「おおっ! 女王様でござるか!?」

 俺の言葉を聞いたトビ以外の全員が、顔を見合わせて苦い顔をした。
 そんなにパトラ女王が嫌か?
 しかし、今回受けるのは女王のクエストではない。

「心配しなくても、女王様のクエストじゃない。セレーネさん、NPCとの会話って大丈夫でしたっけ?」
「あ、うん。こう……グイグイ来る感じの人じゃなければ問題ないよ」
「了解です。二人は――」
「女王のクエストでないのなら構いませんよ」
「女王のクエストじゃないなら喜んで行こう!」
「お、おう。一応王宮には入るわけだから、会わずに済むといいな……」

 正直、女王の行動は読めない。
 常に玉座の間にいるかというとそうでもないらしく、家臣や侍女たちが探し回っているのを見たことがある。

「女王様じゃないんでござるかー……残念……」

 そんなトビの呟きは、生産作業を続ける女性陣にスルーされるのだった。



 ワーハの王宮はその権力を示すように、豊富な水を湛えた贅沢な造りをしている。
 砂漠における水源の確保は、どれだけ金を積み上げるよりも価値がある……だそうだ。
 魔力を用いた噴水が設置された庭園を抜け、砂漠の日差しを受ける白い巨大建築物の中へ。
 ゲーム内でずっと見ていると麻痺してしまいそうになるが、改めて間近で見ると凄い建物だな。
 ずんずんと先頭で進んでいたユーミルが振り返る。

「それで、どこに行けばいいのだ? ハインド」
「お前、俺が門番と話していたのを聞いてなかったのか? アルボルさんの執務室だよ。そこにいるミレスに用がある」
「ミレス……誰だっけ?」

 そのユーミルの反応に、俺を含めた他のメンバーは目を剥いた。
 マジかこいつ……会った回数こそ少ないけど、大事な場面には必ず顔を出すNPCだぞ?

「……最後に見たのはアイテムコンテストの時のはず」
「む? アイテムコンテスト……」
「ワーハに来た時に初めて会った名前ありの現地人ですね」
「むむ?」
「ほら、ユーミルさんあの人だよ。砂漠のフクロウ亭、ヤイードさんの後輩の……」
「――おお! 分かった! 王宮戦士団の団長!」
「長かったでござるなー、答えを得るまで。とはいえ会った回数が、ひい、ふう……むう、たったの三回でござるな。どれも印象的ではござったが」
「ああ、そんなもんか。そう考えると、尚更親交を深めておくのはアリだと思うんだが」

 俺の言葉にメンバーが頷く。
 ワーハ内の全体的なNPCとの関りについては、今のところよく買い物を行う商業区だけは上々といった感じ。
 イベントごとにあちこち行っていたせいもあるが、正直初期からいるプレイヤーとしては寂しいくらいに交流が少ないという現状だ。
 この空白期間を上手く活用して、特殊クエスト発生のためにも色々とやっておきたいところ。
 まずは戦士団団長・ミレスから……。
 というわけで、俺たちは女王の側近・アルボルおうの執務室前にいる兵士にミレスに用があると告げて通してもらった。

「おお、渡り鳥のみなさん! 本日はどうされましたか?」

 浅黒い肌の精悍な青年、ミレスが笑顔で出迎える。
 既に好感度が高い理由は、俺たちがバジリスクを倒したこととヤイードさんの紹介状を持ってきたから。
 ちなみに掲示板で得た情報によると、初期状態では「誰だお前たちは? 王宮に何の用だ」という台詞と共に厳し目の態度を取られるらしい。
 俺たちは大幅にスキップしてしまったが、好感度に応じて名前を憶えてもらえたり、こういう柔らかい態度になったりするそうな。

「前にミレス団長に依頼された、砂漠のフクロウの軍事教練を」
「誠ですかハインド殿!? これはありがたい、では早速! アルボル殿、私はこれで!」
「――あ、これ! 話はまだ……全く、粗忽者が……」

 ミレスは慌てて部屋を辞した。
 恐らく、兵を集めに行ってしまったのだろうな。
 取り残された俺たちは、苦笑しつつ外からドアを閉める兵士の姿を見届けた後にアルボルさんの方へ向き直った。
 アルボルさんとは余り話したことがないので、微妙に気まずい空気……。
 俺たちに対して特に何も言うことなく、執務机の前の椅子に深く腰掛けている。

「……ハインドさん。先程用意したあれを……」
「ああ、そうだった!」

 リィズが袖を引っ張ってくれたことで、アルボルさんに渡すものがあることを思い出した。
 インベントリを操作し、布の束を掴んで差し出す。

「アルボルさん、どうぞ。手土産を持参しました」
「ワシにか? なんじゃろう……こ、これは!」
「湿布です。コンテストの審査時に、気に入っていたみたいだったので」
「おおおお、助かるぞい! ……ところで、物は相談なのじゃが。早速これを背中に貼ってくれんかの?」
「ええ、構いませんけど」
「いやいや、お主じゃなくての。できればそっちの若いおなごの中の誰かに……」

 ……エロジジイかよ、この人。
 物凄い勢いで手を振って拒否するセレーネさん、不快感を露にするリィズ、そして頭に疑問符を浮かべるユーミル……うん、決まりだな。
 俺はユーミルを手招きして呼ぶと、上半身の服を脱いで背を向けるアルボルさんの前に立たせた。
 そして湿布を持たせて一言。

「ユーミル、貼ってやれ。遠慮はいらん」
「分かった! ではアルボル、私が貼ってやろう!」

 湿布を手にユーミルが迫る。
 その張りのある声を聞いたアルボルさんは慌てて振り向こうとしたが、もう既に遅かった。

「ま、待てぃ! その娘から、姫様と同じ波動を感じ――おふぅ!?」
「後はどこだ? もっと貼ってやるぞ、アルボル!」

 ビターン、ビターンと、思いやりの薄い貼り方で背中が湿布に埋め尽くされていく。
 そういえば、女王様の貼り方も似たようなもんだったな……。
 最終的に背中を湿布まみれにしたアルボルさんは、椅子に座り直してリラックスしつつも複雑な表情でこう言った。

「……次はお主に貼ってもらうことにしようかの……」
「ええ、それがいいでしょう」
「む? 次も私が――」
「は、ハインドに! ハインドに頼むから大丈夫じゃわい! て、手が臭くなってしまうじゃろう? 今回おなごの手を借りたのは失敗じゃったなぁーって……おなごは常に良い香りでなくてはの! のう?」
「そうか。では仕方ないな!」

 ユーミルが引き下がったのを見て、アルボルさんは心底ホッとした様子を見せた。
 今回の件で好感度が上がったのか下がったのか、判断に困るところである。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ