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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

大型アップデートと新コンテスト

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営業終了と提言

 アリスとその取り巻き二人は、エルフ耳を置いてうの体で去っていった。
 彼女が去り際に放った「憶えてなさいよ!」というセリフは、ユーミル的に言うなら人生で一度は口にしてみたい捨て台詞の一つである。
 その姿が余りにコミカル過ぎて、ちょっと怒りが和らいだ。

 弦月げんげつさんは無言で俺とリィズの肩に手を置くと、何事もなかったかのように群衆の中に紛れ込んでいく。
 うーん、クール………………あっと、いかん。
 ここで呼び止めないと、さっきまで並んでいたお客さん達が居なくなる可能性が。

「お待たせしました! 営業を再開しますので、番号通り順番にお願いします!」

 硬直が解けるように、今の戦いに関して話していたプレイヤー達が動き始める。
 何人かは帰ってしまったかと思っていたが、驚いたことに配った整理券は番号が飛ばずに揃っていく。
 それはいい、それはいいのだが……どうしてみんな作業中の俺に、今の決闘の感想を言うのだろうか?
 最後尾に並んだ弦月さんと、仕上げと商品渡しをしているリィズは何か言われている気配はない。
 やんわりと理由を訊いてみると、

「決闘に協力しなかっただけに、弦月さんには話しかけにくい……」
「どっちも美人だから気後きおくれする」
「普通にリィズちゃん怖かったし……でも好き……でも怖い……うぅ……」

 というものだった。
 消去法かよ……別にいいけど、なんか全体的に日和見ひよりみな連中だな。
 そんな感じなので、さすがにそれ以降アリスのようなクレームをつける客は現れず。
 残りのエルフ耳の売り買いはスムーズに進み、俺の前には遂に最後のお客さんが立った。

「やあ」
「弦月さん。先程はありがとうございました」
「私は自分の主義を押し通しただけさ。スマートに終わらせるつもりだったが……却って大事おおごとにして、決闘にまで巻き込んでしまった。すまなかったね」
「謝らないでください。あの対処法が正しかったのかは分かりませんが、俺達は救われた気持ちです。な、リィズ」
「はい。ストレス解消の機会をくださってありがとうございました、弦月さん」

 その言葉は正直過ぎると思うが……弦月さんも苦笑いである。
 プレイヤー同士の取引におけるトラブルは多いのだが、運営が取り締まるのは悪質な詐欺行為だけだ。
 なので今回のようなケースは、プレイヤー間で解決しなければならない範囲の揉め事となる。
 やっぱり、不特定多数を相手にする場合は取引掲示板を使った方がその手の面倒は少ないな。
 個々の色味を見る必要性から、こういった手段を取らざるを得なかったが。

 ……一方でルストの食材に関する情報も、お客さんから色々と聞くことができたのは収穫だった。
 顔を合わせての売り買いも決して悪いことばかりではなかったので、秀平には感謝している。
 後であいつにも礼を言わなければ。

「それでは、弦月さん。まずは耳の長さを決定しましょう。スタンダード・ロング・ショートの三種類がありますがどうします?」
「ほう、細かいね。ではスタンダードで」
「はい。それから、軽く髪を上げて耳を見せてくださるとありがたいです」
「ん……」

 弦月さんが緑の髪を掻き上げて、耳を見せながら体ごと少し近付く。
 やや耳が赤いな……もしかして照れてる? 意外だ。
 これは色味を見ているのではなく、接合部の調整のためなので普段より赤かろうと特に問題ない。
 色味は正面から見た顔全体の印象で決めているので、既に調合は頭の中で組み立ててある。

「……OKです。エルフ耳とは関係ないんですけど、弦月さんにお訊きしたいことが」
「何だい?」

 顔料を混ぜ終わると、火鉢で温まったスタンダードの型を用意。
 配色を考えながら、ゴムの原料であるラテックスに混ぜ込んで型に入れていく。

「近接型なのに、どうやって前回のレイドイベント――あれだけのダメージをクラーケンから奪っていたのか、気になってまして。てっきり連射型だとばかり思っていたので、不思議だなあと」
「ああ、そのことかい。恐らくだが、君の所の勇者ちゃんと一緒じゃないかな?」
「……え? まさか、触手を伝って……?」

 俺の驚いた顔に対し、弦月さんは悪戯っぽい笑顔で応じた。
 マジかよ……あんな無謀な手段を採るプレイヤーが、まさかユーミル以外に居るとは思わなかった。

「実は私も気になっていたんだ。どうやって君達がランキングで私を追い抜いて行ったのか……こちらが答えた分、そちらについて教えてもらってもいいかな?」
「隠すようなことじゃありませんから、別に構いませんよ。支援型神官全員での、クイックとエントラストのリレーですね。他は弦月さんと一緒です」
「――!!」

 その言葉を聞いた弦月さんが、口をパクパクと開閉した。
 俺は今さっきの会話と立場が入れ替わったことに苦笑しつつも、金型を閉じてハンマーで圧縮を開始した。
 上から均等に力が掛かるよう、しっかり丁寧に叩く。

「そうか。ということは接近して、彼女の得意技――」
「バーストエッジの連打ですね。色んな意味で派手でしたよ? エフェクトが重なって花火みたいになるわ、ユーミルの武器の耐久度がえらい勢いで減るわで」
「フフッ、それは凄い。納得したよ。弓術士しか居ない私達アルテミスでは、まず不可能な戦法だということも含めてね」
「職業混成には混成の、柔軟性や強みというものがありますから。ここは素直に俺の作戦あっての結果だと、胸を張っておくことにしますよ。はっはっはっは」

 ワザとらしく高笑いする俺を、弦月さんは興味深そうな目で眺めた。
 そう切り返してくるとは思わなかった、と呟いて言葉を続ける。

「そこで中途半端に2位の私を慰めたりしないところ、とても紳士的だと思うよ」
「まぁ同盟としては俺達、アルテミスに完敗してますんでね。それはお互い様と言いますか」

 目の前の弦月さんは無印アルテミスのギルドマスターその人なので、個人成績を抜きに考えるなら前回のレイドイベント全体の勝者であると言い換えても良い。
 しかし、こうなんというか……そんな大ギルドのマスターが、こうして取り巻きを一人も連れずに自然体で振る舞っている姿は非常に格好いいと思う。
 先程アリスたちのようなのを見た後なので、比較すると尚更そう感じてしまう。

 察するに、ギルド内の人望もさぞかし厚いのだろう。
 今のところ、話をしていて嫌味な部分が全く見えてこない。
 そして決闘での相手の動きを封じる位置取り、それを打ち合わせなしで実行する機転。
 何も言わなくても、彼女の戦い方は背中からこうしろああしろという明確な意志が伝わってくるような動きだった。
 それを踏まえて考えると、実際の指揮能力も高いと見て間違いなさそうだ。

「ユーミルさんの上位互換のような方ですね、ハインドさん」
「お前、さすがにそれは酷くないか!? 本人には絶対に言うなよ!」

 俺の思考を的確に読み取ったかのように、リィズが横から口を挟んでくる。
 そのやり取りに、弦月さんは意図を読み切れなかったのか軽く首を傾げた。

「――うん? 私と彼女は似ているのかい?」
「いえ、そういうわけでは。リーダーとしての能力の話でしょう、きっと」
「ええ。爪の垢を煎じて飲ませたい、という話です」

 上位互換とリィズが称したのは、リーダーとしてユーミルに足りないものを彼女が持ち合わせていると判断してのことだろう。
 主に知性と冷静さ、ついでに品の良さ等がそれに該当すると思われる。
 弦月さんなら、補佐役が居なくても一人で組織を回せるだろうという印象だ。
 しかしそこで、それまで彼女を持ち上げていたリィズが全身を観察してから一言。

「……スタイルの平坦さは私と同レベルですが」
「リィズ、その話はやめようか。誰も幸せにならない」
「……くっ、胸が抉られるようだ。確かに、彼女と私では比較にならないが……」

 案の定、弦月さんは自分の胸元を抑えて苦し気に呻く。
 更にリィズが俺の制止を聞かず、目をカッと見開いて魂の叫びを発した。

「私達は抉れるほどのボリュームもありませんしね! 何故ですか!?」
「知るか!? なんなんだ、その人を巻き込んでの盛大な自虐は! 本当にすみません、弦月さん……」
「いや、いいんだ。事実だからね……うん、事実だから……」

 そこで弦月さんの一つ前に作った耳が完成し、リィズがやや暗い顔で五万Gと引き換えに商品を渡す。
 最後から二番目の客は途中まで俺達の会話を興味深そうに横から聞いていたが、気まずそうにその場から足早に去っていった。
 男性客だったしな……こんな居たたまれない空気では、そりゃあそうなるってもんだ。
 俺も一緒にここから去りたいくらいである。

「「ありがとうございました」」

 男性客が遠ざかったのを確認し、リィズが自分の周りの物を片付けて俺の傍に近付く。
 話をしている間にゴムが固まり、俺は型を真ん中から割って大雑把に削り、リィズに付け耳を渡した。
 細かい処理が終われば、そこでようやく営業が終了だ。
 俺達の作業を見ながら、弦月さんがタイミングを計って静かに切り出す。

「ところで君達、今後の予定を訊いてもいいかな? サーラに帰るのかい?」
「いえ。このまま東に進んで、ルストの王都ウィリディス・ウルブスまで行く予定です。食材目当てですね」
「……そうか。だったら、私から一つ提案があるのだけど」

 弦月さんが5万Gと引き換えに、仕上がったエルフ耳をリィズから受け取った。
 素晴らしい出来だ、という言葉と共ににこやかにエルフ耳を装着して長い髪をフワッと掻き上げる。
 その姿に俺とリィズがつい見惚れていると、美しいエルフと化した彼女は微笑んでこう続けた。

「嫌じゃなければ、私と一緒に行かないかい? この町から、王都ウィリディスまで」
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