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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
彼女が「勇者」と呼ばれるまで

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気になる報酬

「ざっくり言うなら、武器・防具の強化イベントだな」

「そういう認識で構わないのですか」


 三角帽子のズレを直しながら、椅子に座ったリィズが呟く。

 話の内容は、やはり先程のイベント告知に関してだ。

 メニュー画面に詳細が載っているらしく、ユーミルはそれを熱心に眺めている。

 俺もそれを見ながらリィズと話している。


「普通の運営的に発表するなら、期間内に素材を集めて限定装備を作ろう! って感じだと思う」

「それらしい雰囲気を作る為にああいった演出を行った訳ですね?」

「そういうこったな。プレイヤー達も喜んでいたし、反応は上々みたいだ。直接見れた俺達は運が良い」

「後から動画でも見られるのですよね?」

「らしいな。でも、やっぱり直接見たい人間は多いだろうから、恒例にして同接を稼ぐ方針なのかも」

「へえ……色々と考えられているんですね」


 魔王ちゃんとやらの人気によってはそれも可能になるのだろう。

 個人的にはちょっと狙い過ぎなキャラだと思わなくもないんだが。

 それでも乗せられてしまうのが男って生き物だからな……。

 女性受けに関しては良く分からん。


「じゃあイベントの詳細を確認するか……タートル系の魔物を倒すと素材で甲羅がドロップ。それを使用した武器・防具の生産時には必ず上質以上になることが保証されてる。鍛冶が苦手でもそれなりの性能の物が手に入るってことだな」

「サンプルが載ってますけど、防具の見た目は余り……」


 言いつつ、リィズが椅子ごと移動して体を寄せてくる。

 何で俺の方のを覗き込んでくるんだ?

 自分のメニュー画面で見れば……まあ、いいか。

 防具は亀の甲羅の模様が浮かんだものが多い印象で、リィズが言う通り……。


「確かに見た目はイマイチだな。ただ耐久値が他の鎧よりも高く設定されているのもあって、序盤では重宝しそうな感じがする」

「修理費用もタダではありませんからね」


 長時間ひたすら狩りをしたい! という場合には最適だろう。

 金策的にも維持費が安いので、おいしい装備だと言える。

 その点、もう性能的に必要ない人でも多少は手に入れる価値がある。

 かゆい所に手が届く良い設定じゃないか。


「そしたら、防具の見た目が気に入らないなら武器だけでもどうだ? 武器の見た目は中々だぞ。他には……アクセサリーにするとか。鼈甲べっこうのアクセサリーが作れたら面白そうだ」

「あっ、それは素敵ですね」

「ユーミルはどう思――ユーミル?」


 妙に無反応だと思ったら、ユーミルはとあるページで手を止めてかぶりつくように何かを注視している。

 俺達の視線にも気付く様子がない。

 仕方なく放っておくと、急に興奮した様子のユーミルが椅子から立ち上がった。


「おおおおおおおっ! ハインドッ、行こう!」

「行くって、何処に?」

「亀退治に決まっているだろう! さあ、さあさあさあ!」

「落ち着いて下さい、この粗忽者そこつもの

「ポゥッ!?」


 リィズがユーミルの膝裏に杖で打撃を叩き込む。

 結果、ユーミルは奇声を発して椅子の上に崩れ落ちた。

 我が妹ながら、恐ろしい事をするな……。

 微量のダメージが入ったので、俺は黙って『ヒーリング』をユーミルに使用した。


「な、何をする貴様ーっ!」

「闇雲に向かって何がしたいんですか。イベント期間は一週間なんですよ? 目標によって敵を倒すペースやイベントにどれくらい参加するかなど、全て変わってくるんですから」

「ぬぐっ……反論できない……!」

「……で、ユーミルは何が欲しいんだ?」

「アタックランキングの一位報酬だ」

「アタックランキング? ああ……そういや魔王達がエルダータートルがどうとか言ってたな」


 イベントの情報ページをめくっていく。

 討伐合計数報酬、アタックランキング報酬――あ、ここか。

 一位、アクセサリー『勇者のオーラ』……動画付き?

 再生ボタンを押すと、全身鎧のプレイヤーが剣を振り回す度に剣に青い光の軌跡が走っている様子が流れていく。

 更に立ち止まって剣を構え直すと、バリバリと稲妻の様なエフェクトが体の周囲に走る。

 他にも幾つか紹介されているが、要は勇者っぽいオーラを纏う「だけ」のアクセサリーのようだった。

 動画では無意味に格好をつけたポーズを決める度に稲妻やら輝く光やらが走って――否、ほとばしっている。

 ……うん、見た目は非常に派手だ。

 そして心の底から納得した。

 これはこいつが欲しがる訳だわ。


「……欲しいのか?」

「欲しい!」

「このアクセ、見た目だけで全くの無能力なんだけど……」

「そんなものは知らん! それよりも、格好いいだろう!?」

「……あー……」


 いや、でも一位……一位かぁ。

 過疎とは無縁のこのゲームで、一位……ううむ……。

 ユーミルは期待に輝いた眼で、リィズは心配そうな眼で俺を見てくる。

 サービス開始初週という情報が出揃っていない時期だし、充分に付け入る隙はあるか?

 それに、掲示板で「いらねー」とか言われそうな趣味装備だし……。

 競争率が低ければ、それだけ難易度が下がっていくということになるだろう。


「……分かった。やれるだけやってみよう」

「本当かハインド!?」

「ただし、取れなかったとしても泣くなよ? リィズも、今回のイベントはそれで構わないか?」

「……では、私用のアクセサリーはハインドさんが作って下さい。それで納得することにします」

「お安い御用だ。じゃあ、当面はアタックランキングの一位を目指すってことで」

「うむ!」

「分かりました」


 基本方針が決まったところで、適当に行動順序を組んでいく。

 必要なのはレベル、攻撃力の高い武器、出来得る限りの補助魔法って感じか。

 まずはタートル系の魔物の経験値を調べるのが最初だな。

 効率によっては先に進んでから『ホーマ平原』まで戻ってこなければならない。

 イベント期限ギリギリまで準備して、最終日にランキングを狙うという形になるだろうな。

 

 話は終わったので、酒場の扉を開いて外へ。

 ――ん? 何か、バサバサという羽音が頭上から……。


「いってぇ!? 何だっ!?」

「ハインド!?」

「だ、大丈夫ですか!?」


 上を向いた瞬間、顔面に何かが直撃した。

 痛覚が軽減されてなかったら酷い事になってるぞ……妙に硬い感触だったし。

 そのまま顔から地面に落ちた物は、何かの荷物が入っていそうなバッグだった。

 リィズが俺を介抱し、ユーミルがバッグを拾い上げる。

 落とした犯人だと思われる何か巨大な生き物は、上空をゆっくりと旋回した後、余裕を感じさせる動作で優雅に去って行った。

 遠目だったので確証はないが、あのトカゲに羽が生えた様なフォルムは、もしや……。


「は、ハインド……バッグの中にポーションと手紙が」

「は!? まさかサマエルか!? 野郎、本当にポーション送ってきやがった……」

「て、手紙を読み上げるぞ?」


 ――親愛なる我が友、ハインドへ。

 貴殿のヒーリング、あの罵倒の嵐の中に在って非常に心に沁みるものだった。

 粗品ではあるが、返礼として初級ポーションを贈らせて頂く。

 戦いに役立てて欲しい。

 魔王軍No2、サマエルより。

 貴殿の幸運を願う。


「……だそうだ」

「ゲホッ、ゲホッ! ゴヘッ!」

「むせてる!? 大丈夫か!?」

「手紙では丁寧な態度なんですねぇ、あの人……」

「それよりも、ハインドが誰よりも早く一個人として魔王軍に認識されてしまっているのだが。これは喜んでいいのか?」

「微妙ですね」


 もう、何処から突っ込みを入れればいいのか分からねえよ……。

 それでも一応、貰った物はありがたく使おうと思う。

 呼吸を整えて初級ポーションをインベントリにしまうと、俺達三人はホーマ平原へと向かった。

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― 新着の感想 ―
[一言] まさか5年越しにここが設定として使われるとは思わなんだ
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