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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
大型アップデートと新コンテスト
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食材探しと情報収集

 谷の町の探索は、NPCの商店巡りから始まった。

 アイテム関係は他の町を変わらず、そして目当ての食材屋だが――。


「おおおおおおおっ! キノコが原木付きで売ってるぅ!? 買う、買います!」

「お、お兄さん変わり者だね……キノコはウチの町の特産品だけど、そこまで興奮している人は初めて見たよ」

「いくらですか!? ……一株2,000G!? かなり安いけど……うーむ、戻って栽培するとしても砂漠で環境を整えるのは至難の業だ。魔法の巻物で何とかなったとしても、失敗も考慮に入れてここは多めに……」


 後半はブツブツと、自分の考えを確認するように呟く。

 ポル君たちが引いている空気が伝わってくるが、俺にとってはそれどころではない。

 なにせ原木をサーラに持ち帰れば、種菌を他の木に付着させて栽培することが可能になるかもしれないのだから。


「シイタケ、ヒラタケ、エノキタケ、ナメコ……こっちのマッシュルームは堆肥栽培だっけ? 店主、全種類買うからまけてください!」

「な、何だって!?」


 この店主は若い青年な上に、押しに弱そうだ。

 一気に畳み掛ければ勝機は見えてくる!


「何なら、そこのちょっと日にちが経った奴も一緒に――」

「え、分かるんですか!? 参ったな、商品の品質をそこまで見抜かれているとなると……」


 あれ、いつの間にかポルフォル兄妹もリィズも居なくなってる?

 まぁいいや、今は値切り交渉に集中しよう。

 余り所持金に余裕はないので、少しでも節約しなければ。




 約十分後、俺は残り容量の減ったインベントリと共に店を出た。

 ふーっ、満足満足。帝国領内でこんなに食材を得ることが出来るとは。

 もうルスト王国に行かなくてもいいような気すらしてきた。

 さてと、みんなはどこだ……?

 店の前で周囲を見回していると、エルフ耳と獣耳が混じる五人組が俺の前を横切って行った。

 TBプレイヤーの亜人化は順調に進行中である。


「ハインドさん」

「――ぅわっひゃい!?」


 気配無く背後に出現したリィズの姿に、俺は肩を跳ね上げながら振り返った。

 心臓が痛いくらいに拍動する。

 足音くらいは立てて近付いて欲しいもんだ……びっくりした。


「リィズ。悪い、交渉が長引いた」

「いえ、お気になさらず。ハインドさんの交渉中に、三人でおおよそ町の探索を終わらせておきました」

「あ、本当に? ありがとう、リィズ。あの二人にもお礼を言わないと」


 全くもって有能な妹である。

 都合の良いことに、リィズが現れた方と反対からポルフォル兄妹が手を上げながら戻ってきた。




 出た店の近く、木材の集積所の前で三人は得た情報を俺に教えてくれる。

 リィズの方は特に情報は無かったそうだが、調理に使えそうな酒類を確保しておいてくれた。

 ナイスだ。でも、一瞬間違って取り出しそうになった毒々しい色の瓶は一体……?


「え? キノコ長老? 何だその名前……」


 そして兄妹がもたらした情報は、NPCに関するものだった。

 町の一番奥の大きな家、その中にその人は居たそうだ。


「オレに言われても困るぜ、ハインド。本人がそう名乗ったんだし、頭の上にもそう書いてあったんだからしゃあねえだろーが。その爺さん、見た目もかなりアレだったぜ?」

「アレ?」

「あ、その……お会いになれば分かるかと。何でも、美味しいキノコ料理を食べさせてくれたらとっておきの情報を教えてくれるらしくって……」

「条件提示型のNPCか。噂には聞いていたけど、こうして関わる機会が巡ってきたのは初めてだな」

「ということは、ハインドさん?」


 リィズの言葉に俺は頷く。

 その情報が何なのかは分からないが、推測することくらいはできる。

 交換条件が料理であるならば、食材に関する情報の可能性が非常に高い。




 早速、俺達はそのキノコ長老とやらの家に乗り込んだ。

 家の構えこそ普通だったのだが、その老人の姿と部屋の内装は異様の一言だった。

 まず、老人はテーブルの前の椅子に座り、キノコの帽子を頭に被っている。

 だけでなく着物の柄までキノコマーク、棚の上にはキノコの盆栽、壁にはキノコの絵、そしてキノコっぽいティーポッドから何かを注いで……もしかして、アレも何かしらのキノコのお茶なのだろうか?


「き……キノコ尽くし、としか言えねえ……」

「すげえだろ?」

「キノコ愛ですよねえ……」

「足元までキノコですよ、ハインドさん」

「――うわっ、本当だ! 玄関マットの模様もか……無駄に徹底してんな」


 更には室内照明までキノコ型だった。

 もう視界一杯、どちらを向いてもキノコしか目に入らない状態だ。

 その老人は、お茶を啜ってから俺達に向けて一言。


「何じゃあ、お主ら。そっちの二人はさっきも来たのう」

「ああ! 今からこのハインドがあんたに最高の料理をお見舞いするからな! ちっとそこで待ってろ!」

「ほう……それは楽しみじゃのう……」

「……あの、ポル君?」


 勝手にハードルを上げられても困るのだが。

 事前に町の調理場――各町や村に必ず存在するプレイヤー用の施設――で、ある程度の下準備は終えてある。


「ちょっとかまどを借りますよ? キノコ長老」

「構わんぞ。しかし、何故完成品を持ってこない? ここで調理しようなどという輩は、お主が初めてじゃわい」

「そりゃあ、簡単なことですよ」


 だって、折角新鮮なキノコを使って調理出来るんだぜ?

 勿体ないじゃないか。


「調理中に漂うキノコの香り……それを含めての料理です。香りを余すことなく堪能せずして、キノコを食べたとは言えないでしょう?」

「ほう……お主……」


 キノコ長老の目の色が変わる。

 NPCとしての好感度が上がる確かな手応え。

 しかしそれも、肝心の料理が駄目では意味がないはずだ。

 俺は長老宅のかまどに火を入れると、加減に細心の注意を払うべく気合を入れた。




 今回の料理には、和風ギルドからの提供品が大量に使われている。

 まずはかまどの上に設置された、この「土鍋」だ。

 そして材料の「米」、米と麹から作った「清酒」と「醤油」……ここまでが和風ギルドからの提供品だ。

 更にはマール滞在中に“凜”の調理場を借りて作った「自家製豆腐」を揚げた「油揚げ」。

 もう一つ、調理場を借りて作った魚介を粉末にした「だしの素」を加えてある。

 残りは言わずもがな、メインとなるキノコを三種。

 現実の日本でも馴染み深い、「シイタケ」「エリンギ」「シメジ」の三種を選択。


 かまどの火が燃え、土鍋から蒸気が吹き上がる。

 その蒸気は、キノコ長老の家中に広がっていき……。


「んーっ! いい香りだぜぇ、堪んねえ!」

「ハインドさんって素敵なお兄さんですねえ、リィズさん。気配り上手で優しいし、その上お料理まで出来るなんて」

「あげませんよ? ……あげませんからね?」

「はぁ、はぁ……」


 背後から聞こえてくる会話が若干こそばゆい。

 それと、長老が途中から凄いハアハア言ってて怖い。

 ――さて、仕上げだ。

 土鍋で作る場合は、少しおこげが出来る位が個人的には好みである。

 加減を見極めて……土鍋を除け、かまどの火を処理する。


 テーブルに鍋敷きとして適当に厚くした布を置いて、完成。

 蓋を開けると――中からキノコの炊き込みご飯が現れた。


「うっは! 美味そう!」

「ふわぁぁぁ……TBでは洋食ばかりでしたから、和食はとても新鮮です!」

「ハインドさんの料理の香り、ホッとします」

「はぁ、はぁ、はぁ……! ハヤククワセロォォォ!」

「長老……」


 獣に近い存在と化した老人に、まずはキノコの炊き込みご飯を取り分ける。

 目が血走ってるんだけど……おお、食べるのが早い早い。

 ガツガツと年寄りとは思えない速度でかき込んでいく。


「じゃ、じゃあみんなもどうぞ。丁度満腹度が減っている頃合いだろう?」

「いいのか? ありがてえ! 正直、さっきからよだれが止まんねえからよ!」

「多めに作ったから沢山食べても大丈夫。余ったらおにぎりにでも――」

「駄目じゃ! 余りそうならワシが全部食うわい! よこせ! よこせぇぇぇ!」

「ええー……」


 なんなんだこの爺さん。

 しかし料理を気に入ってくれたのは確からしく、報酬の情報に関しては心配要らなそうだ。

 全員分の炊き込みご飯を小皿に取り分け、俺もテーブルの前の椅子に着席。


「「「いただきます!」」」


 湯気を立ち昇らせる炊き込みご飯は、キノコの香りとだしが効いていて非常に美味しい。

 バフ内容は『最大HP上昇(小)』というもので、120分間5%上昇という中々の効果だった。

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