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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
大型アップデートと新コンテスト
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野良PTの結成

 その少年の登場で、酒場の店内は静まり返っていた。

 そんな中で、彼は俺の名を堂々と口にしたわけだが……。


「ハインド? ハインドって……」


 不味い状況になりそうか?

 俺とリィズは椅子から腰を浮かし、じりじりと逃げる体勢を作りながら経緯を見守る。


「――誰だっけ? どっかで聞いた覚えがあるんだけど……」


 が、続く言葉に脱力して椅子の上に崩れ落ちた。

 それはそれで酷いと思うんだ……俺、結構イベントで頑張ってるよ?


「うん? ううーん……」

「思い出せそうで思い出せない」

「何かで名前を見た覚えは、間違いなくあるんだけどなぁ……どこだろう?」


 あ、もしかして……。

 周囲のお客さん達は、俺の背格好を見た後で隣のリィズを見て「あれぇ?」という顔で首を傾げている。

 ここから察するならば、簡単な話だ。

 つまり隣にユーミルが居ないから、そのオマケたるハインドという名前を聞いてもピンと来ないという……何だか釈然としないが、そういうことなのだろう。

 顔が見えない状態とはいえ、リィズの背は明らかにユーミルよりも低い。

 しかし、未だに俺ってセット扱いなのか……ユーミルは単体でも周囲にちゃんと認識されるのに。

 ともかく、今は適当に誤魔化してこの場を切り抜けることにしよう。


「……人違いです。私の名前はファインドです」

「プフッ!?」


 いかん、何故か偽名がリィズの笑いのツボに入った。

 頼むから今は我慢してくれよ……またこの店から走って逃げるような事態は避けたい。

 というかどっか面白かったか? 今の。


「ぱ、パチモンだとぉ!? だ、だが確かに募集画面では――」

「お、お兄ちゃん……覆面状態の人の名前を大声で呼んじゃ駄目だよ」

「ちっ、フォルがそう言うなら……悪かった、ハ――ファインド」

「いえ。次からは気を付けて下さい」


 「フォル」と呼ばれた少女が、俺に食ってかかるヤンキー少年を止めに入ってくれた。

 お兄ちゃんと呼んでいるところを見るに、この二人は兄妹のようだ。

 よく見ると気弱そうな妹さんは雰囲気こそ彼に全く似ていないが、顔立ちは似ている気がする。


「なーんだ、人違いか……結局、ハインドって名前も誰なのかさっっっっっぱり思い出せないし」


 何でそこまで露骨に強調すんの?

 気付いててワザとやってるんじゃなかろうな。

 もう俺、ローブを外しても良いかな?

 わざわざ身を隠しているのが馬鹿馬鹿しくなってきたし……いや、実際にはやらないけども。

 興味を失ったのか、集まっていた視線が徐々に散り始める。


「はっ、どうでもいいが扉を蹴るんじゃねえよ金髪ボウズ! マスターに謝れや!」

「そうだそうだ! 折角の酒が不味くなるだろうがボケェ!」

「んだとコラァ!」

「お、お兄ちゃん……ケホッ、ケホッ……」

「――だ、大丈夫かフォル!? しっかりしろ! 俺が無理に走らせたから……ポーション飲むか!? それとも水か!? 何でも兄ちゃんに言え! ほら!」


 妹が咳き込みだした途端、金髪少年は気遣うように背中を撫でる。

 彼女自身がもう大丈夫と言っても止めないその心配の仕方は、些か過剰なようにも見える。

 俺はリィズと顔を見合わせて、同時に首を傾げた。

 もしかしてこのヤンキー……。




 結局、俺達はその兄妹を連れて場所を移した。

 名前を聞かれたことで、「本体」としての発覚の芽自体はあの場にあるのだから仕方ない。

 ヒースローの町の隅っこへと場所を移し、ルスト王国までの移動計画を二人に説明することにした。

 目的が簡潔だったり行き先が近い場合は必要ないだろうけれど、何分長距離である。

 話に聞く無言PTのように、サクサクと進めるわけにもいかない。


「えーと、まずは自己紹介を。あ、くれぐれも大声で名前を呼ばないでくださいね? 話し声程度なら大丈夫でしょうけど。渡り鳥のハインドです。PTへの参加、ありがとうございます」

「やっぱりテメエ、ハイ――モゴモオオ、オオ!?」


 妹ちゃんの方、フォルさんが兄の口を塞ぐ。

 あ、この子思ったよりも長身だ。

 170センチ後半はありそうなお兄さんと、少ししか違わないんじゃないのか?

 背伸びもせずに、白魚のような綺麗な指で口を塞いでいる。

 でもほっそいなぁ……遥かに背が低いリィズ並に細い。

 先程も咳き込んでいたし、肌も白く病弱そうに見える。


「ご、ごめんなさい……兄は見ての通り、その……」

「鳥頭……いえ、見たところそれ以下のようですね。何せ、私達は先程から一歩も動いていませんから」

「ン゛ン゛ーッ!!」

「リィズ、挑発禁止。気持ちは分かるが、これじゃ話が進まん」

「はい」


 フォルさんが口を塞いだ妙な状態のまま、話は進む。

 彼のプレイヤーネームは『ポルティエ』、神官で前衛型。

 妹さんはプレイヤーネーム『フォル』、騎士の攻撃型。


「へえ……フォルさんはユーミルと同じ職業クラスかぁ」

「そうなんです! 私、ユーミルさんに憧れて騎士を選んで!」

「またですか?」

「はい?」

「いえ、何でもありません」


 そう、リィズの言う通り「また」なのである。

 相変わらず同性におモテになるこって……。

 ユーミルはこの場に居ないので、名前をバンバン出しても別に平気である。

 フォルさんが握りこぶしを作ったことで、ポルティエ……くんでいいかな?

 ポルティエ君の口が解放された。


「――ぷへぇあっ! はぁ、はぁ……だからよぉ、ハインドッ! アンタとパーティを組めば、フォルを勇者ちゃんに会わせてやれるとオレぁ思ったのによぉ! なんで今日に限って居ねえんだゴラァ!」


 睨みながらぐいぐいと近付き、ドスの利いた声でまくし立ててくる。

 幸い、ハインドと叫んだところを聞き咎めたプレイヤーは居なかったようだ。


「おぉぅ、普通に話しているだけなのにカツアゲでもされている気分になってくるぞ……新鮮だなー。俺の交友関係には居なかったタイプの人だ」

「横からスクショを撮って通報してみましょうか? きっとGMがすぐに飛んで来ますよ」

「真面目に聞けよテメエら!? ふざけてんのか、あぁ!?」

「お兄ちゃんに対して全然物怖じしないだなんて、凄く珍しい……あ、あの、ユーミルさんとは関係なくフレンド登録を是非……」

「フォル!? ……ま、待ってくれ、俺も!」


 フォルさんの言葉に一度は驚いたポルティエ君だったが……。

 結局、彼も含めた四人でフレンドコードを交換することになった。




 自己紹介もそこそこに、俺達はヒースローの町を出発して移動を開始した。

 話をするのは歩きながらでもできる。

 最初のフィールドは『アルヒ山脈』という、懐かしのメテオソードを作った時に鉱物を採取していたフィールドだ。

 敵のレベルも20~25程度といったところ。

 鬱陶しかったローブを外し、グラドタークの手綱を引きながら徒歩での移動だ。

 山越えなので、二人の馬は次の町でレンタルしてもらう予定となっている。


「話は戻るんだけどよぉ……」

「何だい? ポル君」

「ポル君!? なんだぁ、その――ちっ、まぁいい! 好きに呼べや!」


 短縮形の呼び方にお許しが出た。

 見た目から受ける印象よりは大分素直な性格をしているようだ。

 そんなやり取りをする俺達に、彼の妹のフォルさんは何が嬉しいのか満面の笑みである。


「で、マジな話、今日はどうして勇者ちゃんが一緒に居ねえんだ? ハインド、アンタの恋人なんじゃ――」

「は?」

「いや、だから――」

「は?」


 リィズが凍えるような暗い目を限界まで見開いて、言葉を遮りながらポル君に迫る。

 睨み合いには慣れているのか、状況を飲み込めないままにポル君がそれに応じ……。

 視線こそ逸らさないが、しばらくして大量の汗を掻き始めた。

 糸目の俺とハラハラしているフォルさんが見守る中、ポル君は遂に視線を逸らし――


「す、すまなかった。どうやらオレの勘違いだったようだ……」

「二度と間違えないでください」


 敗北を宣言した。

 俺の妹は、どうやらその辺のヤンキーよりもずっと眼力が強いらしい。

 もしくはポル君が見た目に反して極端にショボい可能性もあるか?


「バカな……この俺が気合で負けた、だと!? こんなの生まれて初めての経験だ……」

「……」


 が、彼の呟きを信じるならばそうでもないようだ。

 そしてよく見ると、愕然とするポル君の膝は微妙に震えていた。

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