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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
大型アップデートと新コンテスト
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トラブル発生……?

 リビングに戻ると、まだ未祐が原稿と睨めっこしていた。

 紙面を見る限り、必要量は埋まっているように見えるが……。

 それをチラッと見た俺は、自室から筆記用具を持って再度リビングへ。


「未祐」

「――! お、おお、亘。残念ながら、まだ終わらなくてだな」

「ちょっと貸してみ? 俺が分かる範囲でなら、添削するから」

「良いのか!?」

「良いさ。どうせ最終的には緒方さんにチェックしてもらうんだろ? どこで悩んでいるんだ?」

「上から下まで一通り頼む! 書いている内に何が何だか分からなくなってきた……」


 正直、生徒代表のスピーチなのでそれほど厳しく言葉遣いを指摘されることはないと思うが。

 未祐にお鉢が回ってきたということは、こいつらしさを求められての――ああ、やっぱり開会式の挨拶か。

 じゃあ、最低限の礼儀を弁えつつ勢いの付くような言葉で締めれば大丈夫だろう。

 言葉遣いのおかしい部分だけを直し、締めの言葉を自分で考えるように未祐に告げる。


「締めか。しかし、どういう言葉にすれば……」

「お祭りなんだし、みんなで楽しもうみたいな言葉で良いんじゃねえかな」

「闘志を燃やせ! とかか?」

「文化祭って格闘大会か何かだっけ?」


 シャドーボクシングをしながら話す未祐を見るに、明らかにピントがずれているのが分かる。

 ルールのきちんと定まった格闘試合は、ある意味文化的な行いだとは思うが。


「突撃! 屋台飯!」

「食うことだけなの?」

「君の心が叫んでる……!」

「急に詩的かつ中二っぽくなるのやめて。寒気がするから」

「文化祭、ボンバー!」

「心じゃなくて実際に叫んでるだけだな。“文化祭、ボンバー!”でも良いよ、もう……」

「じゃあそうする!」


 そう言うと、未祐は本当に原稿の最後の部分にそのまま書き込んだ。

 実際、今挙げた中ではこれが一番マシだったので仕方ない。


「緒方さんに却下されそうだが……。それはそうと未祐、そろそろ帰らないと不味いぞ」

「むぉっ!? もうこんな時間か!? しかし、使用教室の振り分けなどが残って……」


 リビングの掛け時計を目にした未祐が驚いた顔をする。

 それにしても、まだ仕事があるのか。

 しかし、これ以上遅くに未祐を家に返したのでは俺が章文おじさんに叱られてしまう。


「送っていくから、残りは自分の家でやれよな」

「うむ……亘、もしかしたら私は暫くTBにログイン出来ないかもしれん」

「え? それってつまり、他にも結構な量の仕事があるってことか?」

「あるのだ。期限までは余裕があるのだが、さっさと終わらせておかないと気持ちが悪いだろう?」

「……そうか。仕事が早いのは良いことだろうし、みんなには俺から伝えておくよ」

「頼む。大体三日か四日あれば全て終わるはずだ! ……と、思う」


 昔から未祐は、夏休みの宿題なども可能な限り早く終わらせるタイプだった。

 毎度終盤になってから俺の所に来て、ヒイヒイ言いながら書き写していく秀平とは大違いである。

 出る前に理世に一声掛けた後、俺は未祐を家まで送り届けた。




 部屋に戻ると、スマートフォンに着信があったことを示すランプが点いていた。

 確認すると、秀平から五度もの着信履歴が残されている。

 ……何だろう? ログインの催促にしては様子がおかしいような。

 不審に思いながらも、電話を折り返すと――。


「え!?」


 秀平が話した内容は、予想外のものだった。




 そして場所は変わりTBゲーム内、サーラ王国・首都ワーハの農業区。

 そこに立っていたのは、俺達兄妹二人だけだった。


「なるほど、ユーミルさんの事情は分かりました。では、トビさんは? どうしてあのお調子者までこの場に居ないのですか?」

「いや、それがな……」




 結論から言うと、秀平が家に帰るとそこには無残な姿になったVRギアが転がっていたらしい。

 どうも、秀平のお母さんは出掛ける前に秀平の部屋を掃除していってくれたようなのだが。

 VRギアを蹴り飛ばしたか何かしたらしく……当然、精密機器であるところのそれは壊れていたと。

 その壊れたギアの傍には書き置きがあり、「ごめんね(はあと)」と書かれていたそうだ。

 秀平は母親に対して恨み節全開だったわけだが……


「――全くウチのオカンは! 思春期の息子の部屋に勝手に入るかなぁ!? 普通さぁ! あり得ないでしょ!?」

「そうは言うがな。お前、今日はVRギアをどこに置いて家を出た?」

「え? ベッドの下……というか、床に置いた箱に入れてあったかな。いつもそこだし」

「……それは駄目だろう。しかも、黙って掃除されるくらい部屋が汚かったんだろう?」

「そうだけど……」


 そういった世話を焼いてもらえるだけ、秀平はありがたいと思うべきである。

 しかも、そんなに足元に置いてあったのではうっかり蹴り飛ばしたとしても不思議はない。


「だったら今の内に頭を冷やせ。で、おばさんが帰ってきたら、まず部屋を掃除してくれた礼を言うんだ。VRギアに関してはその後、可能なら最後に触れるようにした方が良いだろう。もしおばさんが先に切り出してきて、自分の管理も悪かったんだと素直に認めながら話せば、あるいは――」

「あるいは?」


 秀平の家――津金家はいわゆる「かかあ天下」である。

 おばさんが一家の財政を完全に握っているので、秀平そっくりな性格をした旦那さんは悲しいかな小遣い制。

 故に、この局面においては彼女の機嫌を損ねないように立ち回るのが一番大事である。


「――あるいは、修理費用を工面してくれるかもしれん。お前、今バイトをしていなかったよな? この破損理由じゃ保証はまず効かないだろうし、修理に出すには金が足りないんじゃないのか?」

「全然足りないね……わっち、賢い! 何とか上手くやってみる! あ、でも……数日か数週間か分からないけど、その間TBお預けは辛い……マジで辛い……」


 VRギアは個人情報を登録する必要上、他人の物を使うことが出来ない。

 なので、数日ログインしないと宣言した未祐の物を秀平が借りてプレイすることは不可能だ。

 品薄のVRX3500なので、新しく買い直すということも難しい状態である。


「それは修理が終わるまで我慢するしかないって。次からはもっと高所の安全な場所で保管するんだな」

「ぬおおおおお……仕方ない、昔のPCゲーでも引っ張り出してやろうかな。はああぁぁぁぁ……そしたらわっち、俺から一つお願いがあるんだけど」

「何だ?」

「次に俺がログイン出来るようになったら、新しく短刀を二本一組で打ってよ。それを楽しみに、しばらくの間は我慢するから!」

「――分かった。まともな出来になるように、ちゃんと練習しておく」

「サンキューわっち! ――あ、母ちゃん帰ってきた。それじゃわっち、どうなったかは明日学校で話すよ! 場合によってはバイトしなきゃならないし……」

「ああ。また明日な」


 秀平もまた明日、と返し電話は切れた。




 収穫可能になった薬草を摘みながら、リィズに秀平の事情を話し終わる。

 周囲が静かなので、距離があっても互いの声はしっかりと届いた。


「……と、こんな感じで帰ったらVRギアが壊れていたんだと」

「阿呆の極みですね。セッちゃんは大学のゼミ合宿でしたっけ?」

「そうらしいな。み……ユーミルと同じくらいの時期にまたログインする形になるのかな」

「そういえば、ヒナ鳥さん達は?」

「あー……」


 彼女達は彼女達で理由があるんだよな。

 今日はインできそう、駄目そうというのはサイネリアちゃんがマメに教えてくれるのだが、どうもレイドイベントでの連日の夜更かしがたたったらしく……。

 特にユーミルにべったりで張り切って参加していたリコリスちゃんは、両親に大目玉を食らったそうな。


「で、巻き込まれる形で二人にもしばらくログイン禁止令が出たそうな。ログアウトが遅い時は、強引にでも帰らせるべきだったかな?」

「彼女達自身も楽しんでいましたから、ハインドさんだけの責任ではありませんよ。……ところでハインドさん、今後はどうするのですか? みんなが揃うまでゲーム内の活動を休止しますか?」


 それも一瞬だが考えた。

 元々は未祐に誘われる形で始めたゲームだしな。

 しかし今では俺自身がこのゲームのことを気に入り、やりたいことも徐々に増え始めた。

 周りの状況に関係なく、自発的にインしたいと思えるくらいには。

 だから、リィズの言葉に対する答えはノーだ。


「いいや。俺は料理コンテストになるべく良い物を出品したい! 一日も無駄にはできない! だからリィズ、俺のことを手伝ってくれないか?」

「……ええと、それはつまり?」


 リィズが作業の手を止め、期待に満ちた目で俺を見る。

 そういえば、最近は妹にあまり構ってやれなかったなぁ……寂しかったのだろうか?

 考えてみれば、これは良い機会かもしれない。


「俺とリィズで狩猟&採取ツアーだ。二人旅をしよう!」

「――!!」


 コクコクと凄い勢いで頷いたかと思うと、リィズは三角帽子を深く被って表情を隠す。

 次いで、そのままプルプルと震え始め――お、おい? 大丈夫か?

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