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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
大型アップデートと新コンテスト
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先駆者たちの記録

 夕食が終わり、俺と理世は食器洗いを。

 秀平はスマホを弄り、未祐は机に何かを広げて書き進めている。


「秀平、まだ帰らなくていいのか? ゆっくりしていっていいけど、遅くなりすぎると暗くて危ねえぞ」

「んあ、ちょっと気になってさ。時間的に、TBのイベント発表がそろそろだから」

「もう19時か。何か出てるか?」

「公式サイトが重ーい。……あ、繋がった」


 秀平はスマホを楽しそうに操作し、食後のお茶を口にする。

 俺と理世は片付けを済ませ、リビングに戻って一休み。


「未祐はそれ、何をしてんの? また課題か?」

「違うぞ。来月の文化祭の挨拶で使う原稿だ! 正直面倒だ!」


 生徒会の仕事の量は学校によって違うと聞くが、ウチの学校は割と活動範囲が広い方だと思う。

 文化祭の仕切りもその一つで、先生のチェックは入るものの予算配分の決定権があったりもする。


「ああ、もうそんな時期か。頑張れ、次期生徒会長」

「こんな人が次の生徒会長になって、兄さんたちの学校は大丈夫なのですか?」

「会計の緒方さんが優秀だから大丈夫。どうせ彼女もそのまま次期役員にスライドするだろうし」

「亘が次の副会長をやってくればいいのに……ゆかりんからも誘われているのだろう?」

「御免こうむる。絶対にやらん」


 話題に上った緒方おがた由香利ゆかりという女子は、未祐の友達であり生徒会の仲間だ。

 昨年、1年生だった未祐をぶっちぎりの得票数で副会長に据えた才女だったりする。

 自分もあっさり会計に収まっているし……。

 そんな状況から、次の選挙で未祐の対抗馬は出ないものと思われる。


「大体、ウチの学校の生徒会は面倒過ぎる。他のとこに行った奴なんて、生徒会の仕事は偶にある集会の挨拶と進行だけって言ってたぞ? やたら会議やらで居残りも多いし、バイトに支障が出そうだ」

「私の学校も、それに加えて募金活動や挨拶運動程度ですね」

「面倒さと引き換えに内申点は高いって噂だけどねー。未祐っち、大学は推薦入試を使いなよ」

「アホの秀平までゆかりんと同じことを言う」

「アホは余計じゃないかなぁ!? ねぇ!?」


 秀平が憤慨して立ち上がるが、未祐は顔すら上げずに原稿作成に勤しんでいる。

 相手をされていないと悟り、秀平は釈然としない顔でそのまま着席した。


「――全く。そんなことよりわっち、次のイベントの詳細が出てたよ」

「そうかい。お前の興奮度合いの低さから言って、生産系イベントだな?」

「何故分かったし」

「戦闘系の時と差があり過ぎるからな」

「さよかー。でも、わっちには良いイベントだと思う。アップデートとの連動企画で、料理コンテストをやるんだってさ」

「ほう」


 秀平によると、イベント主催は大陸東・森の国ルスト王国。

 コンテストの主な部門は五つ。

 スープ、魚料理、肉料理、野菜、甘味となっているそうだ。

 他にも料理が苦手なプレイヤー向けに、素材のまま出品できる特殊部門が一つ。


「こんな感じ。だから、俺は素材部門で行こうと思ってるよ。でっかい果物でも探そうかなーって」

「なるほど。未祐も、畑で何か食材を作って出品するか?」

「――ん? 何の話だ?」

「ああ、悪い。後で良いよ。お前はしっかり原稿を仕上げてくれ」

「ん!」


 俺の言葉に一瞬だけ顔を上げた未祐だが、直ぐに下を向いて原稿作業に戻る。

 一つのことに集中するタイプなので、恐らく俺達の言葉は頭に入っていない。


「ところで兄さん。手持ちの食材でそのコンテストは何とかなるのですか?」

「それなんだよな。新実装のモンスター食材の話はさっきしたよな?」

「はい」

「まず、そこから新しい食材が出ることも考慮せにゃならん。それ以外の畑やフィールドの採取物も、砂漠の物こそ豊富に揃っているけど……」

「もっと色々な地域の食材を見て回りたいわけですね? 兄さんは」

「だなぁ。長距離でのモンスター狩り&採取ツアーを敢行したい。是非とも」


 そこで秀平が、グイッとお茶の残りを一気に呷って椅子から立ち上がる。

 スマホをポケットにしまって大きく頷いた。


「そうと決まれば、早速行こう!」

「行くってどこに?」

「TB世界に!」

「……ああ、ってことは取り敢えず家に帰るってことね。言い方が紛らわしいぞ」

「ごめんごめん。でさ、わっち。検証の手間を減らしたいなら、インする前に色々と情報収集しておくと良いよ? もうある程度の情報は掲示板にあるはずだから」

「もう? いくら何でも早過ぎないか?」


 まだメンテ明けから数えて、えーと……四時間しか経っていない。

 その僅かな間に、どれだけの情報が上げられていると言うのか。


「ゲーマーを舐めちゃいけない。メンテ明け数分以内にインして、誰よりも早く情報を上げるのを生き甲斐にしている人も居るんだぜ?」

「嫌な生き甲斐ですね……」

「理世ちゃん、それゲーム内では絶対に言わないでよね? どこにそういう人が居るのか分からないんだから」

「言いませんよ。情報がありがたいことには変わりないですし」

「そんなわけで、俺は家に帰るよ。わっち、夕飯ごちそうさま! 美味しかった!」

「おう。気を付けて帰れよ」


 玄関で秀平を見送り、リビングに戻ると未祐はまだ原稿作成中。

 理世は空になった湯飲みを片付けた後で、テーブルを拭いていた。


「ありがとう、理世。俺は風呂を洗ったら一旦部屋に行くけど――」

「私も自分の部屋へ。TBへのログインは今日の復習が終わってからです」

「いつも通りだな。未祐、それまだ掛かりそうか?」

「まだだ! どうもこういう形式ばった言葉遣いは苦手だ……ゆかりんと会長の畜生め! 代筆してくれても良いではないか!」

「こらこら。三十分くらいで戻ってくるから、もしその前に帰る時は声を掛けろよ?」

「分かった!」


 リビングから出る理世に続いて、俺は浴室へ。

 手早く掃除を終わらせると、お湯張りを予約して私室へと向かう。

 明日の学校の用意を済ませると、秀平の言葉を実行すべくパソコンの電源を入れた。


【魔物】TBの食事について語るスレ78【食べろ!】


TBで食べたものや食材について語るスレです

調理法や調理器具、NPCの料理屋など食事に関することなら何でもOK

荒らしはスルー、マナー厳守で

次スレは>>970が立てること


310:名無しの軽戦士 ID:aCNFCVn

そろそろネタ切れか?

スレで出たモンスターの味とバフ効果を大まかにまとめてみた

甲殻類→見た目通りにエビとかカニとかに近く、防御バフ多め

毒持ちは美味だが食べるとデバフ・状態異常が付く。毒抜き可能か?

爬虫類→鶏肉とかカエルの肉に近いらしい。バフ不明、毒持ちは上に同じ

猛獣系→元になった動物に準拠、味は良いが臭みが強い。攻撃バフ多し

毒持ちは(ry

海産系→クラーケンでみんな知ってるでしょ?


311:名無しの魔導士 ID:n2Lpnmk

最後w

雑なまとめだけど大体合ってる、乙

じゃあドロップに関しては俺が

出現部位にもレアリティがあるようで、味もそれぞれ変わる

一モンスターにつき大体三つくらい? 情報求む

得られる量は相手の部位の大きさに比例してちゃんと上下する

今のところはこんな感じか


312:名無しの弓術士 ID:4FfjTXj

亜人系は何でドロップしないの?

いや、別に食べたいわけじゃなくて純粋な疑問として


313:名無しの重戦士 ID:Wc6jCVn

倫理的な問題だろ

そもそも人型寄りは今のところゴブリン以外はフィールドボスが多いわけで

オーガもハーピーもフィールドボスだから素材自体がノードロップよ


314:名無しの神官 ID:cZEw8J5

今後ケンタウロス・ラミア・サイクロプス、後は猿系?

そういう魔物がフィールドボス以外で出ても食材ドロはしないと思う


315:名無しの騎士 ID:gAiypbb

まだ情報が出てないドラゴン系に期待


316:名無しの弓術士 ID:8FRR8z6

ドラゴンさんは目撃者の話では、

最低でもレベル80超からだから……


317:名無しの軽戦士 ID:fQZYWiC

まだまだ先の話っすなぁ

アンデッド系とか物質系はどうなの?


318:名無しの武闘家 ID:VX3uJfr

グリーンスライムの核なら食ってみた


319:名無しの魔導士 ID:Je4XXFr

アンデッドって食えるのか?

ゾンビ系は>>313の理屈でいけばアウトだろうけど


320:名無しの重戦士 ID:2GwQL69

腹下しそう(;・∀・)


321:名無しの騎士 ID:nsjHdap

っていうか、食べたら自分までアンデッドになりそうなんだが……


322:名無しの軽戦士 ID:fQZYWiC

>>318

おおう、スライムとはチャレンジャー……で、味は?


323:名無しの武闘家 ID:VX3uJfr

>>322

うますぎる! メロンゼリーみたいな味だった

効果はMPの自然回復量増加(超微量)


324:名無しの軽戦士 ID:LY7CTHH

メロンかよw でもいいなぁ、微量とはいえ効果も有用

チャレンジと言えば、虫系なんかも結構勇気が要るよね


325:名無しの弓術士 ID:uVSWWLw

芋虫だけは勘弁

マールに出るオオイナゴなんかは佃煮にすれば食えるかも


326:名無しの神官 ID:cZEw8J5

ただのデカいイナゴだもんな、アレ……

他にも調理次第ってのは結構ありそう


327:名無しの重戦士 ID:aeNceSe

ここの連中は素材のままかじってばっかだもんなw

こんなんで次のコンテストは大丈夫なのかねぇ……


328:名無しの騎士 ID:zpTNpKT

駄目でしょw

でも、時期的にモンスター素材を活かせっていう運営の意図は読み取れる

だからきっと俺達の行動は無駄じゃない……と思う


329:名無しの弓術士 ID:8FRR8z6

イイコトイウナー(´;ω;`)

俺達は誰かの踏み台なんだ、きっと……


330:名無しの軽戦士 ID:aCNFCVn

いやいや、それなら何でも良いから素材部門で出そうよw

なんで自己犠牲を気取って悲しい空気出してんのw


331:名無しの武闘家 ID:VX3uJfr

お、俺は料理出来るし……


332:名無しの弓術士 ID:uVSWWLw

嘘つくなw

スライムを丸かじりするような奴が料理人なわけがねえw


333:名無しの神官 ID:cZEw8J5

そもそもアプデが終わったのが夕方だからね?

普段から料理してる奴がここに居たら何かおかしいよね?


334:名無しの魔導士 ID:n2Lpnmk

>>333

夕飯も食べずにゲームの中でモンスターを貪り、

そしてその成果をひたすら掲示板に書き込む……俺は一体何を……


335:名無しの重戦士 ID:TNHNECL

>>333

急に現実に引き戻すのはやめいw

あー、腹減った……


 秀平の言う通り、もう情報がある程度揃っているな……何という早さ。

 個人でTBの全地域の食材をカバーするのは不可能なので、今後はこうして掲示板を豆にチェックする必要がありそうだ。

 そのまま他のスレをいくつか流し読みした後、パソコンの電源を落とす。

 得た情報を頭で整理しながら、俺は未祐の様子を見にリビングへと向かった。

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