レイドイベント結果発表
翌日、未祐に急かされながら学校から帰宅した俺は、部屋でパソコンの電源を入れていた。
発表時刻は夕方17時。
そわそわしながらリビングで待っていた未祐は、時間になると家事中の俺を引っ張って部屋へ。
抵抗も虚しく、ハンディモップを持ったまま俺はパソコンデスクに座らされた。
そしてブックマークしてあるTBの公式ページを開くと、未祐が横から身を乗り出してくる。
「どうだ!? どうなのだ!?」
「んぐ! 見えないっての、こら!」
頬っぺたを頬っぺたでグイグイと押され、視界の半分が未祐で一杯になる。
俺は頬を潰されながらも、どうにかパソコンを操作してランキングページへ移動していく。
レイドイベント『南海の覇者』攻撃スコアランキング最終結果
1位 ユーミル(騎)渡り鳥 60,992,755Pt
2位 弦月(弓)アルテミス 60,578,846Pt
3位 ラント(魔)魔導士協会 57,943,906Pt
4位 弓兵アイリス(弓)明日への翼 57,697,194Pt
5位 未完の大器(弓)ハルト 57,490,552Pt
6位 アリス(魔)ガーデン 57,351,447Pt
7位 にっころがし(魔)明日から頑張る 56,489,042Pt
8位 アルクス(弓)アルテミス 56,386,001Pt
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295位 ミツヨシ(弓)和風ギルド“凜” 26,898,403Pt
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「おおおおおおおっ! やった! やったぞおおおおお!」
「……」
体ごと遠ざかって、その上で耳まで塞いだのに明瞭に叫び声が聞こえるってどういうことだよ。
家が一軒家で良かった、本当に。
それと、お前は俺の鼓膜を破る気か? 密着状態で叫ぶなんて正気か?
「うるさいぞ。でも、その、なんだ……良かったな。おめでとう」
「うむ! お前と同盟のみんなのおかげだ!」
ログインしたらみんなにお礼を言って回らないとな。
特にユーミルにスコアを集中させたせいで、ミツヨシさんがかなり割を食う形になっているし。
確かキツネさんがゲーム内で今晩打ち上げをやるって言ってたし、その時にでも。
「このまま同盟のランキングも確認しようぜ。確か昨夜の戦闘前の時点では――」
「5位だな! キープ出来ていれば、かねてからの目標が達成になるのだが」
5位からは賞金がグッと増える上に、副賞としてギルドホームの施設レベルを自由に一つ上げることが出来るアイテムがギルド毎に与えられる。
どちらかというとシリウスも凜もこちらの副賞が目当てだそうだ。
賞金は2位から5位までは一律で1,500万Gとなっている。
「同盟……同盟……このタブか」
「そういえば、この限定戦というのはどういう意味なのだ?」
「同盟の誰かが野良で倒した分は考慮しない――と捉えれば大丈夫。野良は適当なのに参加して、一回攻撃するだけで討伐したことになるからさ。それと、同盟で戦う際のクラーケンはHPが高かったって噂があったりもする。色々と野良とは別枠扱いだな」
「なるほど」
レイドイベント『南海の覇者』同盟討伐数ランキング(同盟限定戦)最終結果
1位 同盟No、00060 258回
(アルテミス・アルテミスⅡ・アルテミスⅢ・アルテミスⅣ・アルテミスⅤ)
2位 同盟No、01483 257回
(魔導士協会・東方の風・天上の宝玉・魔導士互助会・魔導士組合)
3位 同盟No、03559 234回
(明日から頑張る・アーテル・Rubor Vini・エアプレイヤーの集い・あっぷりけ)
4位 同盟No、00057 230回
(和風ギルド“凜”・和風職人ギルド“匠”・シリウス・渡り鳥・ヒナ鳥)
5位 同盟No、00001 228回
(ガーデン・ガーデンツヴァイ・ガーデンドライ・ガーデンフィーア)
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「よっし! ぃよっっっっし! 残ったぁぁぁ!」
「周りの追い込みも激しいな。もっと行ってるかと思ったんだけど、上がった順位は一つだけか」
「昨夜は休まずにひたすら倒し続けたものな。だが、今はこの結果を素直に喜びたい!」
「だな。……うん、これは素直に嬉しい。人数的には他に劣ってる中での順位だもんな」
ギルド“匠”の人達のアイテム関連での強力なバックアップもあったし、人数が少ない時は戦闘にも加わってくれた。
それと、未祐には言わないが真下の奴らに勝ったのが個人的には嬉しかったり。
何で相も変わらずドイツ語と英語を混ぜるのだろう? 良く分からんね。
「亘、他の個人成績とかも見よう。私はお前の支援ランキングも気になる」
「あー、そっか。ちょっと待――ん?」
タブを切り替えようとしたところで横に置いたスマホが鳴り、俺は未祐に入れ替わりで椅子に座るようにジェスチャーを送る。
頷いて操作を始める未祐を横目に、画面を見ると……秀平?
「おう、どうした? 電話なんて珍しい」
『わっち! わっち! 俺やったよ! 回避回数1位だった!』
「え、マジで?」
話を続けながら、未祐が持ったマウスの上に手を重ねて操作すると……。
秀平の言葉通り、回避回数1000回超でトビが1位になっていた。
あいつ、いつの間にこんなに回数を稼いでいたんだ? 凄いな。
「あったあった。やるじゃないか!」
『ね? ね? いやー、やっぱ俺のゲームセンスというか素質というかが爆発しちゃったよね! しかも未祐っちにみんなが注目している間にサラッと取るのが何とも言えず忍者っぽいでしょ! 俺ってば最高! 超クール!』
「……あ、ああ。確かに忍者っぽいかもしれ――」
『貢献スコアも上位だったし、凜の女の子の何人かともフレンドコードを交換できたし! トビさんが居ると安心して動けますね――だってさ! くぅー、照れるぅー! ウチのギルメンの女子達とは大違いだよね! みんなもっと俺を褒めるべき! そうするべき! だからわっちも俺を褒めて!』
「………………」
「――?」
俺が急に黙り込んだのが気になったか、未祐が不思議そうにこちらを見る。
こいつは本当に、もう……はぁ。なんて残念なやつなのだろう。
そんな秀平に俺が贈る言葉は一つ。
「お前には憎しみの蒼玉はぴったりじゃねえかな? 色んな意味で。ともかく、1位おめでとう」
『でしょー! ……ん!? わっち、それってどういう――』
「じゃ、後でゲーム内でな」
これ以上話していると俺の笑顔が曇る可能性が高いので、通話終了を押してスマホをポケットにしまう。
ちなみに1位報酬の『憎しみの蒼玉』は、ヘイト上昇率を増やすアクセサリーだそうだ。
「亘、大体見終わったぞ! 渡り鳥はセッちゃん以外は全員ランクインだ!」
「そりゃ凄い。二度手間は面倒だから、俺にもざっと順位を教えてくれるか?」
「うむ! ええと、まずはだな――」
未祐が見たところによると、他の成績は……。
渡り鳥のギルド順位が500位まで表示のランキングで389位。
俺の支援ランキングが2位、蘇生回数が30位、リィズの妨害ランキングが9位、トビの回避回数が1位、貢献スコアが25位。
「お前は前回に続いてまた2位か。2位の呪いにでも掛かっているのか?」
「うっさいよ。今回は狙って入ったもんじゃないし、大部分は支援者の杖の力だ。唯一エリアヒールだけは、他の人よりも上手く使えたかもしれんが」
「キツネの姐さんが、ハインドのエリアヒールは絶品だと褒めていたぞ。前衛連中も、気が付くと足元に陣があってビビると言っていた」
「何それ初耳」
個人総合ランキングには二桁順位でポツポツと、ヒナ鳥からはシエスタちゃんだけが総合スコアの下位に引っ掛かっていた。
省エネ気味でこの好成績ということは、あの子はやはり要領が良いらしい。
「むう、こうなるとセッちゃんにも何かあげて欲しいと思ってしまうな」
「そうだな。当人は砲撃するのが楽しそうだったけど、実質貧乏くじになっている感は否めない」
「ところで亘。ここにサプライズランキング、という謎のタブがあるのだが」
「ああ、俺も気になってた。もしかするとこれは……」
未祐と顔を見合わせた後、そのタブをクリックする。
そうして表示されたページは、果たして予想通りの物だったのだが……。
サプライズランキング! レイドイベント『南海の覇者』砲撃スコアランキング
1位 セレーネ(弓)渡り鳥 99,999,999Pt
2位 一意専心(弓)アルテミス 62,578,846Pt
3位 虹のたもと(重)明日から頑張る 61,902,453Pt
4位 サブリナ(魔)魔導士協会 61,749,932Pt
5位 まっするぱわー(武)明日への翼 61,490,511Pt
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「セッちゃん!?」
「セレーネさん!?」
その色々と規格外なポイントに、俺達はセレーネさんの名を呼びつつ目を剥いた。
何だこれ、カンストしてるじゃないか!