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レイドイベント終了

「10分切りを狙おう!」


 そんな声が上がり、先程の戦いを切っ掛けに同盟内の空気は一気に盛り上がった。

 最終的にはユーミルメインに戻すことを約束しつつも、他のエースに火力を集中させるとどうなる? ということで試しにミツヨシさんにも支援型神官によるスキルリレーを敢行。

 しかし、残念ながらユーミルの時ほどの短縮は望めなかった。

 『アローレイン』の連射はどんな大軍勢の矢雨だ? ――というレベルで視覚的に壮観ではあったのだが……。

 二度試して、タイムはどちらも12分前後というところだった。残念。


「アローレインだと、どうも弱点だけに当てるのが難しいねぇ。とはいえ、これ以上の攻撃スキルはまだ習得不可なわけだし。連射型でなく単発型なら或いは……」


 連射型に比べると圧倒的に少ない弓術士の単発型ではあるが、同盟内にも数人存在していた。

 だが、ミツヨシさんのように上手くやる自信もなければ武器の威力も足りないと拒否。


「ハインド君、確かセレーネちゃんが単発型だったよな? 大砲の扱いの上手さを見る限り狙いも正確だろうし、彼女なら自前で作製した武器も文句無く強いだろう? どうだい?」

「うーん、どうでしょう? 一応訊いてみますけど、今回はあの人砲撃以外する気がないと思いますよ」


 そんな調子で、砲撃管制室でセレーネさんにエースとして立つ気があるかと訊くと……。


「む、無理無理無理無理無理! 絶対無理だよ、そんな目立つ役割! 言ってみれば、しゅ、主役じゃないの……」

「そうなりますよね。――あ、心配しないでください。もちろん、無理矢理引っ張っていったりはしませんから」


 俺がそう言うと、セレーネさんは心底ホッとした様子で胸を撫で下ろした。

 次いで、そんな話になっている現状に心配そうな顔を見せる。


「何だか横道に逸れているようだけど、ユーミルさんのスコアは大丈夫なの? もうレイドも終盤戦なのに」

「仰る通りなんですけど、とても言い出せる空気じゃなくて」

「落ち着くまで待つしかない感じ?」

「そんな感じです」


 セレーネさんと話をしている間にも、外では戦闘音が聞こえてくる。

 俺一人居なくても問題なく勝つだろうし、急いで戻る必要もない。

 二人で少し話をしてからゆっくり甲板に戻ると、戦闘が終わった甲板でヘルシャが何故か項垂うなだれていた。

 傍の小柄な執事服に近付いて、事情を訊いてみる。


「どしたんこいつ? ワルター」

「師匠。えっとですね、お嬢様が自分もレイジングフレイムを連射したいと仰られまして……」

「――あ、なるほど。もういいぞ。結果も経過も大体分かったから」

「何ですのハインド? 笑いたいのなら、好きに笑えば良いじゃありませんの!」

「笑わねえよ。火が等倍以上で通る相手だったら、お前が間違いなくトップだっただろうし」


 ヘルシャは表情が分かり易い上にコロコロ変わるから、見ていて飽きない。

 俺の言葉に答えずにそっぽを向いたものの、耳が少し赤くなっているのが見える。

 多少は機嫌が直ったようだった。

 ちなみにレイジングフレイムを連発しての戦闘時間は、およそ15分だったそうだ。短縮ならず。

 本当、火魔法じゃなければなぁ……実力は確かなのに、今回はとことん格好付かないな。


「やはり私が前に出るのが一番だな! フンス!」


 そして鼻息も荒くユーミルがヘルシャに宣言する。

 一瞬眉をひそめたものの、ヘルシャは直ぐに腕を組んで負けずにユーミルを見返す。


「今回だけは貴女に主役の座を譲って差し上げますわ。今回だけですからね! 次はありませんわ!」

「はっ、いつでも掛かってくるがいいぞ! ドリル!」


 飽きるほどどこかの何かで見たようなやり取りを繰り広げる両者は置いておくとして。

 キツネさん、ミツヨシさん、ユキモリさんが手を上げながらこちらに近寄ってくる。

 どうやら今後の相談をしていた様なので、俺はそのまま話に加わった。


「勇者ちゃんやる気満々だねぇ。一通り試したし、そろそろ元の体勢に戻そっか? ギルマス、本体君」

「そうだね。残り時間も少ないし、ここからはユーミルちゃんを中心に精度を上げていく方向で行こうと思うんだが。どうだい? ハインド君」

「それはありがたいですね。是非お願いします」

「聞いたぜ。彼女、攻撃スコアランキング1位を狙ってるんだってな? あの戦法なら同盟討伐ランキング上位を狙うのと並行してできそうだし、気合い入れて行こうぜ!」


 笑って拳を突き出してくるユキモリさんに対して、俺も拳を出して合わせた。

 やや暑苦しいきらいもあるが、ユキモリさんは裏表の無い気持ちのいい人である。

 さてと、ここからは時間との戦いだ。




 その後の同盟の戦いは、昼間の人が少ない時間はほどほどに。

 夜のゴールデンタイムになると、およそ100名が集まっての熱戦が連日繰り広げられた。

 どのギルドも基本的な活動時間帯が近いので、初日から最終日までペースを落とすことなくイベントを戦うことができた。

 夜間の最小人数を記録した日でも、確か80人前後は船に居たはずだ。


 大人数なので小さな諍いが起きたこともあったが、大抵はミツヨシさんや年嵩のプレイヤーの仲裁によって収まっていた印象である。

 その辺りは特に、和風ギルド“凛”の年齢層の広さに助けられたと思う。

 かといって上からあれこれ言われて鬱陶しいということもなく、見守られている感じで同盟内の空気は総じて穏やかに安定していた。

 俺としては色々と考えたり配慮したりする必要が無くのびのびとプレイ出来たので、今回のレイドイベントは非常に楽しかった。


 そんなレイドイベントも最終日、終了まで残り数分。

 ギリギリで召喚した最後のクラーケンの触手の上を、ユーミルが力強い足取りで駆け抜けていく。

 それを見て時間差で神官達が次々と支援魔法を詠唱する。

 あれから何度も戦いを重ねた連携はもう完璧に近い。

 ユーミルが自前のMPで『バーストエッジ』を放った直後から、その背に次々と『クイック』と『エントラスト』がセットで飛ぶ。

 連発されるバーストエッジによってクラーケンが多重爆発を起こし、大砲から撃たれた鉛玉も相まってえげつないスピードでHPバーが減っていく。


「にゃはは、大・爆・発! 何度見ても気持ちイイねぇー!」

「猫なのかキツネなのかはっきりして下さい。まぁでも、見ていて気持ちいいのは確かですね。やってる本人は、こちらと比べ物にならないくらいに良い気分でしょうが」


 クイック・エントラストの両魔法を放ち終えた俺とキツネさんは、爆発を繰り返すユーミルを見て感想を交わした。

 気怠そうにしながら、攻撃魔法を撃ち終えてする事が無くなったシエスタちゃんも寄って来る。


「ユーミル先輩、毎度うっとりした表情で戻ってきますよね。楽しそうで大変結構なことですがー」

「だよねぇ。ただなんていうか、ちょっとその表情が……エロいよね?」

「エロいですね」

「何言ってんの二人とも!?」


 そして何故そこで同時に俺を見る!? 俺に何を言えってんだ!?

 この二人、波長が合い過ぎていて本っ当に面倒くさい!

 しかし、それももう直ぐ終わりが近付いているようで……。

 支援隊の詠唱の光が消え、ユーミルが最後の『バーストエッジ』を放つ。

 その攻撃で全てのHPを失ったクラーケンは、海へとゆっくりゆっくり沈んでいった。

 ユーミルは触手が沈み切る前に急いで船に向かって戻り、甲板の上に綺麗に着地。

 間を置かずに今回の戦闘結果が表示される。

 更に戦闘エリアの壁が解除されると、ほどなくして字幕が流れ始めた。


『レイドイベント・南海の覇者は只今を持ちまして終了致しました。多数のご参加、誠にありがとうございました。間も無く船の収納が開始されます。船上におられるプレイヤーの皆様は、少々お待ち頂いて安全エリアでのログアウトをお願い致します』


「あ、勝手に船が動き出しましたよ。キツネさん」

「ってことは、イベントもこれで終了かぁ。みんな、お疲れ様!」


 キツネさんの言葉に、後衛支援隊のみんなが笑顔で口々に「お疲れ様でした」と応じる。

 最後の一戦のタイムは8分23秒、ベストタイムでのフィニッシュとなった。

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