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クラーケン召喚

 新たな群れが到来し、再び大量にテュンヌスを釣り上げた後に一度手を止めることにした。

 理由は、俺達の釣れ具合を見て他のプレイヤーの船が少しずつ集まってきたからだ。

 俺は呼ばれてミツヨシさんの元へ向かい、周囲の様子を見ながらこう切り出した。


「見咎められませんでしたかね?」

「恐らく大丈夫だろう。しかし、次からは一回ごとに場所を移動するべきかね?」

「それも周囲の船影次第ですかね。回遊ルートも撒き餌も、どちらも知られたくない情報ですが後者の方がより大事な情報です」

「回遊ルートに関しては何となくこの辺が釣れ易い、というだけで徐々にそれが広まる可能性が高いからねぇ」


 ミツヨシさんの発言は恐らく正しい。

 そんなわけで、撒き餌を行う際は他の船影に注意を払う必要がある。

 掲示板で誰かが情報を洩らした場合は大っぴらにやって構わないだろうが、そうでなければこちらからむざむざアドバンテージを捨てに行くことはない。


「となると、やはりこれだけ人の目があるとここからの移動が必要になるか。どこが良いだろうね?」

「昨夜の様子を聞いた感じだと、人気ひとけが少なそうな場所は西エリアの中央ですかね? 小島が多くせいで、移動が面倒なためだと思いますが。自動航行は目的地へ直進するだけで迂回まではしてくれないので、所々でつっかえて止まるそうですよ」

「なるほど……時間的にそろそろログイン数もピークになる。あちこち彷徨さまようよりも、移動が手間でも今夜はそこに行ってしまうのが正解かもしれない。ハインド君、今の内にマニュアル操作のやり方を教えるから一緒に艦橋まで来てくれないか?」

「俺が操船するんですか?」

「ああ。俺がインできない日は、君がこの船を操船してくれると面倒が少なくて済む。ユキモリもキツネも統率力は買ってるんだけど、いかんせんガサツだからさぁ。ヘルシャちゃんも、その……な?」

「あー……はい、分かりました。では行きましょう」


 甲板に溢れ返るマグロを踏まないように避けながら、ミツヨシさんと共に艦橋へ。

 釣りを終えたみんなはホクホク顔でマグロの回収作業中である。

 まだこんなに残ってるのか……やはり、分業制の確立は急務かもしれない。

 甲板上の様子を見ながら、俺はマグロの回収班を組織することをミツヨシさんに相談しつつ移動した。




 場所は変わって、セーピア水域西エリア。

 ミツヨシさんの操船により、小島を避けながら大型船は蒸気を上げて進んでいく。

 一通りの操船を教わった俺は、前部・後部両甲板を回ってみんなに声を掛けた。

 釣りを重視せず、魚にも触れるという条件でメンバーを募集。

 正直あまり楽しくも美味しくもないポジションだが、数人が手を挙げてくれたのでそのメンバーで釣りのサポート班を結成した。

 これで更にテュンヌス釣りの効率が上昇するはず。

 そこまでを終わらせ、今は前部甲板に戻ってユーミル達と一緒に周囲の景色を眺めている。


「この辺の小島って、上陸できんのかな?」


 俺の言葉に、トビが小島に向かって目を凝らす。


「ここからでは採取ポイントの光は見えないでござるが……ハインド殿、気になるので?」

「気になるねぇ。ここでしか手に入らない植物とかがあるなら、是非ともサーラに持って帰りたい」


 可能なら持ち帰ったものを栽培したい。

 採れるものは薬草系でも、食材でも、生地の原料や染色素材でも何でも嬉しい。


「おお、確かにそうだな! 隙間時間に小型船で来るか?」

「小型船も一週間は使えますしね。折角ですし、そうしたらどうです?」

「ん、そうしよう。ところで、セレーネさんは何処に行った?」


 リィズが黙って首を横に振り、船体の下の方を指で示した。

 ああ、砲撃管制室か……好きだねえ、あの人も。

 ユーミルがひゅんひゅんと釣り竿を素振りしながら一言補足。


「ヒナ鳥達も一緒に見学に行ったぞ。セッちゃんもそれを嫌がる様子は無かったな」

「そりゃ結構。あ、そうそう言い忘れるところだった。次の場所でもう一回釣りをこなした後は、いよいよ例のヤツを呼び出すってよ」


 何を、というのは言うまでもないだろう。

 察したトビが変な笑いを漏らし、ユーミルは釣り竿を剣に持ち替えて元気に素振りを開始した。

 まだ気が早いって……先に釣りだっての。




 その後の西エリアでの釣りは順調に推移した。

 狙い通りに他のプレイヤーの船も少なく、また撒き餌の効果も変わらず健在のようで、昨夜の惨状が嘘のように『テュンヌス』のストックがどんどん増えていく。

 組織したてのサポート班の機能も上々で、結果的に釣っている人数が減ったにも関わらず群れが過ぎ去るまでに前回までよりも多くのテュンヌスを得ることができた。


 そしていよいよ、前部甲板に同盟メンバーが集まってクラーケンの呼び出しが始まる。

 今日もおよそ100名のプレイヤーが大型蒸気魔力船に乗り込んでいる。

 戦闘設定は同盟メンバーのみとしたので、他のプレイヤーは入ってくることができない。


 そしてミツヨシさんが10匹のテュンヌスを甲板に置き、小さなウィンドウを開いてボタンを押していく。

 すると……テュンヌスが光って浮き上がり、そのままくるくると回転しつつ海の中に向かって消えていった。

 固唾を呑んで見守っていた甲板上に、微妙な空気が漂う。


「空飛ぶマグロとは……なんというシュールな絵面でござろうか」

「現に何人か吹き出してたぞ。船の上からスッと消えるんじゃ駄目だったのか? 謎演出過ぎる」


 強敵との戦闘を控えた緊張感がどこかに吹き飛んでしまった。

 しかし、肩を震わせながらも船の各所に向かってメンバーが移動を始める。


「こら、そこの二人も配置について! 本体君はこっちでしょ!」

「っと、すみません。キツネさん」

「ではハインド殿、互いに健闘を!」

「ああ。また後でな」


 キツネさんの声に、俺は彼女の後を追うように慌てて回復役が固まる一団の元へ移動した。

 今回はギルドの枠を越えて、いくつかの隊に分かれての大規模戦闘を想定している。

 具体的には前衛攻撃隊・前衛防御(遊撃)隊・後衛攻撃隊・後衛支援隊という大きく四つに部隊を分けた。

 もっと細かく分ける案もあったが、所詮は臨時の同盟なので複雑過ぎるとそれだけ連携が難しくなるということで却下。

 俺は当然ながら、後衛支援隊所属ということになる。

 その部隊の元に合流すると、キツネさんが俺に向かって人差し指を立てて声を上げる。


「しっかりしてよね、本体君。頼りにしてるんだから」

「あまり買い被られても困りますが……お、海に変化が」

「嘘!? どこどこ?」


 大きな何かがそこに居ることを示すように、静かだった海面が一気に盛り上がった。

 波が荒れ、船が煽られるように大きく揺れた直後――青みがかった触手が船に掴みかかる。

 それを見て、同じ隊のシエスタちゃんが俺を盾にするように触手から隠れた。


「うわっ、ヌメヌメしてますよ先輩! 先輩、ヌメヌメ!」

「俺がヌメヌメしてるみたいに言うのやめてくれる? タコ足の方ね、タコ足の」


 吸盤が甲板にしっかりと張り付き、そしてやや離れた位置では遂に大蛸『クラーケン』がその姿を現した。

 裂けるような口で、恐らく今俺達が捧げた『テュンヌス』を咀嚼しながらの登場である。

 ……ううむ、可愛げのない凶暴な面構えだ。どうしてそんな風になっちまったんだ、クラーケン。

 そして次々と足を船に絡ませるようにしながら、本体の方も徐々に接近してきた。

 大型船よりもかなり大きい。近付くと分かるのだが、とてつもない威圧感だ。

 周囲に戦闘エリアの壁が張られ、クラーケンが触手を船に向かって大きく振り上げる。


「総員、準備は良いな!? 掛かれぇー!」


 ミツヨシさんの大音声での号令を受け、俺達は一斉に武器を構えた。

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