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有力ギルドと初日の終了

「さて、そろそろ港に戻るか。ルートも被りが増えてきたし、これならどうにかパターンを絞り込めそうだ」

「よし帰ろう! すぐ帰ろう! 今帰ろう!」

「と、トビさん、暴れると海に落ちちゃいますよ!」


 トビに急かされ、港へ戻るようにパネルを操作していく。

 念のため、ゲーム内の夕刻~夜時間も調べたが変化は見られず。

 時間帯による移動ルートの違いは無いものと判断した。

 操作を終えた俺は、トビの方に向き直って腕組みしつつ宣言する。


「と言っても、初日の活動はこれで終了だがな! わはは!」

「ええー!?」

「当たり前だろうが。ワルター、今の時間は?」

「もう直ぐ0時を回ります」

「いくら明日が休みでも、これ以上は体に悪いだろう? さっさと寝て、起きてから出直した方が効率良いって」

「おのれぇぇぇ! 明日はマグロを食べてからインしてやるぅぅぅ!」


 トビのよく分からない雄叫びが海に響いた。

 臨時同盟内でもジッとしているのが苦手なやつは、みんなトビのような状態になっていそうだが。

 初日は結果的に我慢の一日となってしまった。


「しかし、まだ他の船は結構居るなぁ」

「あの人達、ログアウトしなくて良いんでしょうか? 眠くないのかな……」

「いつ眠ってるんだ? というプレイヤーは、オンゲにはつきものでござるが」

「前はお前もそうだっただろう? 俺としては、お前がすんなり生活リズムを直したのが意外だったんだが」


 そういえば、最近のトビはごねずに俺達と同じくらいの時間にログアウトしていく。

 一緒にプレイし始めたころは、一人だけ残ってレベリングしたりしていたのに。

 リアルでも、以前に比べて学校に遅刻する回数が随分と減った。


「あー、その件でござるか。以前は協力プレイはオンライン上の仲間だけだったし、一人で居る時間の方が多かったので気にならなかったのでござるが……」

「ふむふむ」

「協力プレイがメインになった今は、一人で遊んでいるとどうにも寂しいんでござるよなぁ……。フッ、一匹狼に近かった拙者も、今は群れるワンコのごとし……」

「何を格好つけているのか知らんが、微妙に締まらない話だな、オイ」

「あはは……でも、生活リズムが整ったのは良いことですよ?」


 ワルターがそう締めくくったところで、横から大きな船影が高速で迫る。

 一早くそれに気が付いた俺は、操作パネルに飛びついて緊急停止を連打した。

 このままじゃぶつかる!


「うおおおおお! 危ねええええ!」

「し、師匠! 船体が――」

「擦れてる、擦れてるでござる! ひぃぃぃぃ!?」

「と、とにかく何かに掴まれ! 振り落とされるなぁぁ!」


 金属が擦れる激しい音が鳴り、船が大型船に押される形で横向きになる。

 俺達は必死に船にしがみつき、揺れと衝撃が収まるまで耐えた。


「す、すみませんすみません! 大丈夫でしたか!?」


 操作パネルに掴まる俺、そしてその両足にしがみついたトビとワルター。

 俺達がまだ揺れの残る船上で、届いた声に顔を上げると……。

 そこに居たのは、青い髪が特徴的な見覚えのある騎士の美青年。


「リヒト……さんか?」

「は、ハインドさん!?」


 リヒトに続けて、横に並ぶように仲間らしきプレイヤー達が大型船からこちらを見下ろしてくる。

 うわぁ、全員女性プレイヤーだよ……マジか。




 早く行こうと急かす女性陣をよそに、リヒトはこちらの船に赴いた上で過剰なくらい頭を下げてから去って行った。

 遠慮したのに、お詫びだからと回復アイテムをいくつか置いて行く念の入れようである。

 折角なのでありがたくもらっておいたが。


「相変わらずでござるな、“ガーデン”の一味は……」

「ガーデン?」

「奴らのギルド名でござるよ。マスターのリヒト以外は全員女性で、しかも入りきらないメンバーのためのサブギルドまで存在しているとか。このギルドが有名だから、リヒトが掲示板でハーレム野郎と呼ばれているのでござるよ」

「ガーデン……直訳すると庭ですか」

リヒトを戴くガーデンね……なら女達はさしずめ“花”ってところか? 何故だか分からんが、やけに嫌味な感じがするな」


 リヒト自身は丁寧で腰の低い青年なのだが、周りの女性達は感じが悪かった。

 あちらの方が、後から回避不可能な速度で強引に横切ってきた癖に……。


「あと、前に闘技大会でリヒトと組んでた――」

「ローザさん……でしたっけ?」

「ローズ殿では?」

「ローゼじゃなかったっけ? ……まあいいや。ともかくその子が、リヒトからちょっと遠い位置で浮かない顔をしてたのが気になったんだけど」


 数人の女子と一緒に、リヒトにべったりの集団からやや離れた位置に居たのだ。

 俺のそんな疑問に対して、ワルターは思案顔でこう答えた。


「それは多分……ギルド内に派閥があるのではないかと」

「派閥だぁ?」

「はい。女の子達って、そういう繋がりが強くてですね」

「何でそんなことを知って――ああ、いや、悪い。言わなくていい、言わなくていいから」


 若干ワルターの瞳が虚ろになったのを見て、俺は慌てて言い繕った。

 要は、あの幅を利かせていそうな女子の派閥と彼女の派閥は別ということなのだろう。


「……もしかして、闘技大会での敗戦が原因になっているんじゃあるまいな?」

「どうしてそう思うのでござる?」

「戦いが終わった直後の、あの二人のやり取りが険悪だった気がしてな」

「そうだったんですか?」

「だとしても、ハインド殿が気に病むようなことではないでござるよ。そんなの、向こうの問題でござろ?」

「それはそうなんだがな……」


 純粋に気分の悪い物を見た、というか。

 そこで止まっていた船を再度動かすと、トビが話を続ける。


「あの“ガーデン”でござるけど、あんなでも結構実力派のギルドでござるよ」

「それは知ってる。闘技大会でも結構な数のコンビが本戦に出てたんだろう?」


 ギルド名は知らなかったが、その中の何人かがリヒトの取り巻きだということは知っていた。

 決勝トーナメントまで上がってきたのはリヒトコンビだけだったが。

 それでも、結果を出しているのだから平均的な戦闘能力が高いことに疑いはないだろう。

 PvPとPvEの違いはあるにせよ、だ。

 俺達の話を聞いて、ワルターが一つ頷く。


「女性ばかりなのに、武闘派ギルドなんですね。今回も上位に上がってくるでしょうか?」

「周りが見えなくなるくらいに突っ走ってんだから、そうなんじゃねえかな」


 若干の皮肉を込めた俺の言葉に、二人は苦笑を含みつつも同意する。


「気が付くとメンバーが増えているようなギルドでござるし、低い順位ということはないかと。また掲示板が荒れそうなネタでござるなぁ……」

「ボク、ああいう集団で威圧してくるタイプの女の人達は苦手です……」


 ヘルシャは一人で堂々と威圧してくるからな。そこは大きな違いだと思う。

 ――ああ、そうか。

 そういう部分でこすい感じがするから、俺は彼女達に好感を持てないのか。


「もうガーデンに関してはいいや。他に気になってるギルドってあるか? トビ」


 気分を切り替え、ついでに話題も切り替えるべく俺はトビに話を振った。

 日夜掲示板を巡回し、その手の知識を披露する機会を窺っているトビは嬉しそうに笑う。


「勿論あるでござるよ! 臨時じゃない方の元からの同盟で、ぎっしりメンバーが居る職専ギルドなどは特に注目でござる! 今回は海上でのレイドということで、前衛系よりも弓術士プレイヤーだけが揃う“アルテミス”が優勝候補筆頭に挙げられているでござるな!」

「職専ギルドかぁ。弓術士だけってことは、回復とデバフをアイテムで何とかすれば、普通のギルドよりも討伐が早い可能性があるな。そういや、アルベルト親子は今回どのギルドに行ったんだ?」

「それに関してはまだ情報が無いでござるな……本人達に訊くのも野暮でござるし」

「そうか。ランキングをマメにチェックしていれば、いずれ分かるかもしれないな」

「お強いですもんね、アルベルトさん達……」


 ワルターも言っている通りで、あの親子なら必ず何かしらのランキングには入ってくるだろう。

 そんな話をしつつ、俺達は港へと帰還した。

 今後の相談を少ししたら、早目にログアウトして明日に備えることにしよう。

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