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マール共和国へ向けて・グラド帝国編

 首尾よく『ヒースローの町』に目立たずに入ることができた俺達は、周囲の異様さにギョッとしていた。

 プレイヤーの多さもさることながら、驚いたのは道行く人々のその格好である。


「ほえー。みんな、金ぴかキラキラですねぇ……」

「リコ、口開けっ放しにしないの」

「いやはや、眩しいでござるなぁ」

「ククク、ダサいな!」

「おい、よせって! 聞こえたらどうするんだ!?」


 案の定、前回のイベントのオークションで大量に売れ残った金装備がどうなったかというと……。

 処分に困ったプレイヤー達が、取引掲示板にて一斉に格安で流すという事態に発展。

 そして金装備の性能はというと実はそれなりに高いものであり、最前線のプレイヤーには物足りないものの初心者・中級者が使用するには十分。

 俺がそんな経緯を説明をすると、疑問に思って訊いてきたリィズは納得したように頷いた。


「つまり、繋ぎの装備としては大人気ということですね?」

「そうなる。さすがに見た目が気になるのか、女性プレイヤーは装備している人が極端に少ないけど」

「まあ、そうだよね。派手で恥ずかしいもの……」


 派手で恥ずかしいと評したのはセレーネさんである。

 互いに顔が見えず名前も呼べないので、やや判別が面倒だ。

 ともかくそういったわけで、金装備を安く入手して装備しているプレイヤーは思ったよりも多かった。


「しかし懐かしいな、ヒースロー! ここに来るのは久しぶりだ!」

「最初のイベントはこの町を拠点にしていたしな。集まっていたのは、丁度そこの酒場だっけ?」

「先輩達が使っていた酒場!? 何だか格好いいです! 中を見たいです!」

「え?」

「そういえば先輩、満腹度が減っていますね。何か食べていきますか?」

「ここで? いや、でも――」 


 今のところはローブとネーム隠しで目立っていないから大丈夫だけど、他の場所の方が良くないか?

 そう言おうと思ったのだが、みんな全体的に疲れた顔をしている。

 一息入れた方が良いのは事実だろうけど、うーむ。


「……ここで休憩していこうか?」


 俺がそう聞くと、シエスタちゃんとリコリスちゃんがうんうんと頷く。

 前者は純粋な疲れから、後者は興味からなのは明白だったが。


「じゃあ、静かにね。それと、念のためお互いのことを名前で呼ばないように」

「はい!」

「はーい」

 

 思えば『荒野の町バスカ』で、自分達の食事と休憩を事前に済ませておくべきだったのだ。

 ヒナ鳥二人の意見につい甘い顔をしたばかりに、この後、俺達は酷い目に会うことになった。

 やらかしたのは最高に隠密行動に向いていない、騒がしき我らがギルマスその人である。


 酒場の中に入った後の俺達は、引き続きローブで顔を隠しながら食事をしていたのだが……。

 ユーミルがパスタを食べる際にフードから飛び出した髪の毛を除けた際にそれは起きた。


「あっ」


 指が引っ掛かりフードごと引っ張ってしまい、ユーミルは周囲に思い切り素顔を晒した。

 呆気に取られる俺達。

 ちなみに街中の様子を見て分かる通り、酒場の店内も例に漏れず満員だった。

 ユーミルの長い銀髪がキラキラと、店内の照明を反射しながら滑り落ちていく。

 他のメンバーならともかく、よりにもよって――


「ゆ」


 一人が気付いた後はもう連鎖的に、ドミノ倒しの如く周囲に反応が広がっていく。

 ユーミルを除いた俺達は、素早く立ち上がって逃げの体勢を作った。

 俺がユーミルの腕を取って、無理矢理その場から立たせた直後。


「「「勇者ちゃんだーっ!!」」」

「「「ユーミルちゃん(さん)だーっ!!」」」


 不特定多数からユーミルを呼ぶ声が一斉に上がった。


「何やってんだこの馬鹿っ!? 逃げるぞ!」

「す、すまんっ!」


 ゲームだからか、現実なら多少はあるだろう遠慮や思慮が周囲のプレイヤーからは薄らいでいる。

 ユーミルを捕まえようとしてくる無遠慮な手を掻い潜り、どうにか全員で店外へと脱出した。

 これで安心かと思いきや……。


「勇者ちゃん! 次のイベントを是非一緒に――」

「フレンド登録を――」

「近くに本体は居ないの!? そこの覆面の人!?」

「何だかよく分かんないけど、捕まえろー!」

「おう! 任せろ!」

「よっしゃ!」

「何々? 何かのイベント?」


 店外まで追いかけてくる上に、事情が分かっていないのに悪ノリしている連中まで加わり始めた。

 これはまずい!

 俺はユーミルのフードを引っ張って被らせると、先頭のトビに向かって叫んだ。


「走れっ!」


 そのまま最後尾につき、走るのが遅いシエスタちゃんの手を引いて走り出す。


「先輩先輩、これって無銭飲食なのでは?」

「料金は先払いだっ! そんな心配は良いから、厩舎まで走れ!」

「ユーミル殿の阿呆! 間抜け!」

「ガサツ! オッパイオバケ!」

「ぬぐぅ! 返す言葉も――って待てリィズ貴様! どさくさ紛れにオバケとは何だ!? 私のはジャストサイズだぁ!」


 リィズから見れば――って、そんなこと今はどうでもいい!

 俺達はヒースローの街中を必死に走った。

 途中スタミナが切れたシエスタちゃんを抱えながら、どうにか厩舎の中へ滑り込む。


「ぜぇ、ぜぇ――お、おっちゃん! 俺達の馬は!?」

「ん? お、おお。餌も水やりも、マッサージも済んでるぜ」

「はぁ、ふぅ、全員乗れ乗れ! げほっ! ほら、シエスタちゃんも!」

「ういー」


 抱えたままだったシエスタちゃんを馬に乗せて、自分もグラドタークに急いで乗り込む。

 ドタバタと町を出て、フィールドを走り回った結果……。


「ま、撒いたみたいだよ、ハインド君」

「満腹度を回復し損ねてしまいしたね……ふぅ」

「ゆ、ユーミルせんぱぁい……」

「すまん……本当にすまん」


 さすがのリコリスちゃんからもこの言葉だ。

 それにしてもあいつら、町の外まで追いかけてくるとは……。

 どんだけユーミルのことが好きなんだよ。便乗して騒ぎたいだけの奴も混ざっていただろうけど。


「いや、俺も悪かったよ。最終的に酒場に寄ってもいいってGOサインを出したのは俺だし……」

「お前は謝るなハインドォ! 私の立つ瀬が無くなる! すまなかった、みんなぁ!」

「!?」


 馬の上から跳躍しつつ土下座の体勢に移行するユーミルを、俺はグラドタークを走らせて身を乗り出しながら回収した。

 うおお! 両腕がもげるぅ!


「何やってんだよ!? 無駄な落下ダメージを負うな!」

「うぅ……だってぇ……」

「も、もう気にしてないから、ユーミルさん。ねっ? みんなもそうだよね?」


 みんながユーミルの奇矯な振る舞いに唖然とした状態のまま、セレーネさんの言葉にぎこちなく頷く。

 それを見届けたところで、俺はユーミルを草原の上になるべく腕を伸ばしつつ落とした。


「ぐえっ! 痛いぞ!?」

「そのまま落ちてたよりマシだろ!? 文句言うな!」


 もう腕が限界だ。落ちたユーミルのダメージは無し、どうにか無駄な行動にならずに済んだ。

 ん? 草原? ああ、そうか。

 ここはホーマ平原か……メニューを確認すると、現在地はホーマ平原の南部だった。

 ヒースローがあるのは平原北の先だから、随分と走らされたものだ。




 それから数分後。

 俺達は全員ローブを脱ぎ去り、馬を更に南に向かって走らせていた。

 満腹度に関しては、俺が持参していた食料からみんなに提供することで解決した。

 考えるまでもなく最初からこうすれば良かったのだ。

 酒場や町の雰囲気が懐かしくて、つい浮かれてしまったのが失敗だった。

 相変わらず時間が無いので、移動しながら満腹度を回復していく。


「パスタがホットドッグに化けた……でも美味ーい!」

「誰のせいでござるか、誰の! にしても、立ち直り早いでござるなー……」

「これなら移動しながら食べられるからな。ちょっと馬の振動が気持ち悪いが」

「うん、美味しいね。そろそろ平原の外に出るよ、ハインド君」

「セッちゃん、もしかしてフィールドの境界が見えているんですか? 凄いですね。その先はPK可能エリアでもありますし、気を付けましょう。ヒナ鳥さん達も」

「はーい!」

「はいっ!」

「へーい……」


 平原南部には、二つの出入口がある。

 一つはスタート地点、来訪者の召喚ゲートが存在する『アルトロワの村』に続くもの。

 そしてもう一つが今通過しようとしている『パトリア山脈』に通じている出口だ。

 敵のレベルは一気に上がって25付近、初心者はまずこちらには近付かずに北へ向かうのが基本となっている。


 パトリア山脈に入ると、グラドタークを除くレンタル馬の足は大きく鈍った。

 やはり平地には強くても、一般馬で山脈越えは厳しいか……平気なグラドタークが異常なだけだ。

 パトリア山脈は木々が多く気候変化は穏やかだったが、傾斜が急で移動には困難が付き纏う。

 道中のキノコのモンスターを適当にあしらいながら進んでいくと、やや開けた岩の多い場所に出た。


「おっ、フィールドボスが出そうな雰囲気。ボスが出るエリアって、大概広く作ってあるよな」

「……おっ? ハインド、言った傍から先に戦っているPTが居るぞ?」

「女の子が飛んでるでござる!? ――おや? 違う、あれは……」

「「ハーピーだ!」」


 俺とユーミルが同時に叫んだ。そして顔を見合わせて互いに微妙な笑みを浮かべる。

 ハモった……恥ずかしい。

 頭部と胸部こそ人間の女性の物だが、残りのパーツは鳥類の物だ。

 先客であるPTの構成は重戦士、騎士、軽戦士、神官、神官の五人。


「うわ……あれは悲惨ですね。遠距離攻撃の手が足りなくて、ジリ貧です」

「攻撃に降りてきた瞬間を狙っているけど、厳しいね……」


 リィズとセレーネさんが呻く。

 俺達の場合はきちんと弓術士を両PTに配置したので、このまま行ってもどうにかなるだろう。

 フィールドの一般モンスターは横取りもターゲットの押し付けも可能だが、ボスに関しては関係ないプレイヤーの手出しが不可能だ。

 PT以外のフィールドボスへの攻撃は無効だし、戦闘中のPTへの攻撃や回復も無効となる。

 五人PTになっていなければ、かつて俺が『ギガンティックバッファロー』戦で途中参加したように、五人の定員に達するまで救援を求めることも可能なのだが。


「――来たぞ! 構えろ!」


 注意喚起したユーミルの視線の先を辿ると、こちらにも別個体のハーピーが二体飛来していた。

 PT毎に二手に分かれ、適度な距離を取って下馬。

 飛来する半人半鳥に向かって、俺達は武器を構えた。

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