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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

複合型レイドイベント

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魔王(ちゃん)、再臨

『のおおう! 何をする!? 私はまだ何も言っていないではないか!』
「うるせぇ! 魔王ちゃんを出せぇぇぇ! で、ござるぅぅぅ!」

 サマエルの体を庇うような反応からして、各所で他のプレイヤーも石を投げているんだろうな……。
 それも、トビと似たような声を上げながら。
 残念ながら(?)、ここ農業区から他のプレイヤーの様子は見えない。
 以前より増えたとはいえ、他の地域に比べてサーラは未だに過疎地域だ。
 ただし街中ならば、大量とはいかずともそれなりに石が飛んでいる様子が見えるかもしれない。

『ええいっ、いい加減このパターンはやめないか! まずは私の話、その後で魔王様の御出ましだこの愚か者どもが! 魔王様は細かい説明が苦手なのだ! 必ず舌をお噛みになられるからな! 察しろ猿ども!』
『サマエルッ!? 今、さり気なくわれをディスらなかった!?』
「そもそもお前が出るなって話でござるよぉ! 声だけ!? 声だけなの魔王ちゃん!? 近くに居るなら映せよぉ! 一分一秒でも魔王ちゃんを長く見ていたいのにぃ!」
「「「うわぁ……」」」

 トビの魂の叫びに女性陣はドン引きである。
 奴は怒りに任せてインベントリ内の石を投げまくっている。
 随分と石ころを溜め込んでいたもんだな……苦無や焙烙玉を投げないだけ、まだ理性が働いているようではあるが。

『ウォッホン! 良いか、来訪者ども! 今回我々が魔物を放つエリアは――マール共和国、セーピア水域である! 今まさに、テュンヌス水揚げの最盛期だな? ククク……魔物に漁場を荒らされることを防ぎたくば、大陸南に急ぐのだな!』
「予告してから魔物を放つとは、なんて律儀な魔族達だよ」
「とんだ間抜けですね……」

 ゲーム的な都合と言えばそれまでだが……。
 それと、場所を明言したのはプレイヤーの移動の都合もあるからだろうな。
 帝国での闘技大会のように、現地にワープできるなら話は別だが。

「ハインド、あいつが言ったテュンヌスというのは何だ?」
「ん? ああ、要は鮪だよ、マグロ。取引掲示板で売っているのを見たことがある。ってことは、どうやらマグロを餌にしちまう魔物を放つみたいだな」
「水棲の魔物かぁ……何だろうね?」
「もしかしたら、海に出るのに船が必要になりませんか?」
「――うひょおおおお! 魔王ちゃぁぁぁん!」

 俺達の会話をよそに、空をじっと見ていたトビが歓喜の雄叫びを上げる。
 その声に視線を戻すと、言葉通りにトビ待望の魔王ちゃんが映っていた。

『……』

 しかし、小さなテーブルセットの椅子に座った魔王ちゃんは何故か一言も発しない。
 よく見ると血のような紅い目の下、口元にはバツマークの書かれたマスクをしている。
 意味が分からない……だが、魔王ちゃんは目の前の机をバンバンと叩くと手元に注目するようなジェスチャーを見せる。
 映像がスッと魔王ちゃんに向けて寄ると、今度はテーブルの下から厚紙の束のようなものを出した。

「何だ?」
「ハインド君。あの紙、絵が描いてあるよ」
「むう。紙芝居……か?」
「どうもそのようです」

 テーブルに立てた紙束のやや上から、こちらを見る魔王ちゃんのパッチリお目々が収まる絶妙の距離で投影映像が静止する。
 その距離感にトビもご満悦だ。
 静かだと思ったら先程からカメラ機能を作動し、ひたすらスクリーンショットを撮りまくっている。
 魔王ちゃんが示した一枚目の表紙には「みなみのうみのくらあけん」と丸っこいひらがなで書いてあった。

『今を遡ること、300年前――』

 魔王ちゃんが一枚目を捲ると同時に聞こえてきた声は、映っていないサマエルのものだ。
 それに対してユーミルが首を傾げる。

「魔王ちゃんは喋らないのだな」
「冒頭でサマエルも言っていましたけど、前回、話している最中に盛大に噛みましたからね」
「プレイヤーからは噛み噛みなのがカワイイって意見が大多数だったけど……」
「本人は嫌なんでしょう。しかしこうして見ると、TBのAIの学習能力ってやっぱすげえな」

 つまり、噛まないように喋らずに済むこういう方式にしたと。
 魔王ちゃん、何という涙ぐましい努力。

『群れの中で特に泳ぐのが遅く、しかも他と姿が違ったクラーケンは周囲の仲間から馬鹿にされていました』

 描かれた絵の一枚目は、群れの中で馬鹿にされて落ち込む幼クラーケンのものだ。
 かなりバランスの怪しい絵だったが、どうにか判別することはできる。
 にしても、差別は辛いよな……俺も幼い頃、未祐や理世とばかり遊んでいたら男子にハブられたことがある。

『それでもクラーケンは群れの中で必死に耐えました。耐えて、耐えて、耐えて……どれくらいの年月が経ったのでしょうか? ある日、彼は自分が群れの中で誰よりも大きな体になっていることに気が付きました』

 魔王ちゃんがぺらりと紙を捲ると、そこには最初の一枚よりも大きく立派に成長したクラーケンの姿が。
 おお、クラーケン頑張った! 偉い!

『そしてクラーケンはこう思いました。この大きくなった体なら……今まで馬鹿にしてきた連中に、仕返しすることができると!』

 あ、あれ? 急に雲行きが……。
 群れのリーダーになって見返すんじゃ駄目なの?
 もしくは群れを離れて、まだ見ぬ大海原へ旅立っていくとか。
 そして次に出現した絵には、怪しく目を光らせるクラーケンの姿が。

『クラーケンは群れで自分を馬鹿にしてきた連中に襲い掛かりました! すると……』

 触手を使って襲い掛かるクラーケン。
 その襲い掛かっているかつての群れの仲間の姿は……どう見てもクラーケンと相似の種族ではなかった。

『そうです! 実はクラーケンが長年過ごしていた群れは、蛸ではなくテュンヌスの群れだったのです!』

 な、なんだってー!
 ……しかし、よく蛸がマグロの速度についていけたな。
 確かマグロは遊泳速度が10Km弱、最大速度80Km前後だったと記憶しているが。

『何コレうめえええ!』

 ムシャムシャとかつての鬱憤を晴らすかのように、群れのマグロを次々と貪る大蛸。
 魔王ちゃんが紙芝居のページを進める度、その体はすくすくと成長していき……。

『こうして南の海の覇者となったクラーケンは、魔王に封印されるまで近隣を通る船や辺りの生物、それこそ同族の魔物に至るまで全てを喰らい続けました。魔王が封じた壺の中では、腹を空かせたクラーケンが今も封印を破ろうと暴れ続けているのです……』

 壺に蛸を詰め込む魔王ちゃんの絵を最後に、紙芝居が終了した。
 魔王ちゃんは満足そうにむふーと息を吐くと、紙の束をトントンと整え、それを下げると今度は絵にそっくりな壺をドンとテーブルの上に置いた。
 その拳大の小さな茶色の壺は、中で何かが動いているようにカタカタと揺れている。

『……理解したな! 以上だ!』

 そうサマエルが締めようとした瞬間――ユーミル、リィズ、トビ、俺の石がサマエルの幻像目掛けて鋭く飛んで行った。
 分かるかっ!

『ぬおおっ!? まだ説明が足りないというのか! 要は再封印が面倒だから、お前達来訪者に処理を押し付けようという――』
『サマエルッ!!』
『はっ!? し、しまったぁ!』

 本音と建前でも取り違えたのか、サマエルが頭を抱えて叫んだ。
 魔王ちゃんがマスクを取りつつそんなサマエルの向こう脛を蹴り飛ばし、ポカポカと体を叩き始める。

『せ、せっかく我が描いた紙芝居を無駄にするような失言をして! これでは普通にお願いしているのと変わらな――くぅぅ、我の威厳が!』
「あの紙芝居、魔王ちゃんが描いたのか。なぜ幼児がクレヨンで描いたようなタッチだったのだ?」
「それ以前に、魔王ちゃんに威厳なんてものは最初からありません」

 ユーミル、リィズからツッコミが入る。
 その横ではようやくまともに話した魔王ちゃんにトビが大興奮していた。
 そして空の映像では、サマエルが青い顔で必死に魔王ちゃんに頭を下げ続けている。

『も、申し訳ありません魔王様! お許しを!』
『何でも良いから上手く纏めて、サマエル! 我はもう嫌なの! あの壺、夜中にもカタカタ鳴るから最近は寝不足なのっ! かといって我から遠くに置くと封印が弱まるし! もう! もう!』
『うぐ……と、とにかくだ! 最初に貴様らに言ったように、クラーケンの好物はテュンヌスだ! セーピア水域でテュンヌスを追い、その先に現れるクラーケンを討伐するのだ! 以上!』

 サマエルの苦し紛れの言葉を最後に、空の像がフッと搔き消えた。
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