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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

アイテムコンテストとギルドの発展

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杖に込めた彼女の想い

 女王が締めの挨拶をし、映像が途切れて暫く。
 出品していたアイテムが返却され、ここから24時間はオークションの受付時間となる。
 締め切った直後からまた24時間が入札期間となり、即決価格の設定等は自由だ。

「オークションの結果が出るのは、今から丸二日後だな」
「人気商品に入札する場合は、明後日のこの時間はゲームに張り付く必要があるでござるな」
「そんなもの、圧倒的な金額を積めば解決だろう! 桁二つ上で入札だ!」
「相変わらず大雑把ですね、貴女は……それだけの大金を持っていればの話でしょう?」

 そんな俺達の会話をよそに、ヒナ鳥三人組は非常に眠そうだ。
 中学生には結構良い時間だな……帰るタイミングを計り損ねているみたいだし、まずは三人をログアウトさせよう。

「サイネリアちゃん、枕は誰の名義で出すんだい?」
「――あ、はい! コンテストが私名義だったので、そのまま私が出します」
「じゃあ、リコリスちゃんは出品時に添えるコメント考えて。シエスタちゃんは――もう限界っぽいから放っておこう」
「……はーい、分かりましたぁ……」
「……」

 やはり眠いのか、サイネリアちゃんの反応はやや鈍い。
 リコリスちゃんの返事も緩く、シエスタちゃんに至ってはもう机に突っ伏して微動だにしていなかった。
 指示を出して出品作業をサクサクと終わらせ、動かないシエスタちゃんを揺すって起こした。
 どうにか三人が椅子から立ち上がり、帰る体勢を整える。

「では先輩方、お先に失礼します。おやすみなさい」
「「「おやすみー」」」

 代表してサイネリアちゃんが挨拶し、寝ぼけ眼の二人を伴ってログアウトしていった。
 次は俺達の番だな。
 まずはユーミルの方に向き直る。

「ユーミル、アデニウムはどうする?」
「むう、何か用途があるわけでもなく飾り用のアイテムだからな……出品せずにホームに飾らないか?」
「了解、そうしよう。じゃあこの談話室にするか」

 七色のアデニウムは談話室に飾って観賞を楽しむことに決定。
 売れるかどうか予想が難しい物なので、正しい判断だと思う。

「苦無は元から出品予定でござったが……コメントはいかように?」
「詳細な個数だけで良いんじゃないか? 箱で出すと苦無セット×3としか表示されないし」
「ではそのように。売上金は半々で分けるでござるよ」
「OK、頼んだ」

 トビが共同名義で苦無をオークションに出品。
 連名にしてあらかじめ利益配分を設定しておくと、売却が決定した直後にその通りに振り込まれる仕組みだ。
 コンテストは女王の発表の都合か、代表名義者一名でしか出品できなかったが、取引掲示板の仕様を引き継いでいるオークションはそういった細かな設定が可能である。

「で、リィズ。偽薬ポーションはどうする? 出すか?」

 俺の質問に、リィズは少し考えるような素振りを見せた後でこう答えた。

「……止めておきましょう。PKなどに悪用される未来しか見えませんから」
「……だよな。女王が大層お気に入りの様子だったけど、個人的に頼まれた場合は?」
「提示価格によっては請け負います。可能な限り高値で売りつけてやりますよ」
「リィズちゃん、こわーい顔になってるよ……?」
「あ、セレーネさん」

 気が付いたのか。
 椅子の上で固まっていたセレーネさんだが、ようやく常態に復帰したらしい。
 怖い顔と評されたリィズが「そうですか?」と呟きつつ自分の顔を撫でた。
 ユーミルに言われたら一瞬の間も置かずにキレてたと思うんだけど、セレーネさんの言葉には素直な妹である。

「ご迷惑をおかけしました……」
「いえいえ、おめでとうございますセレーネさん」
「おめでとうだ、セッちゃん!」

 改めて他のメンバーからも祝福の言葉が掛けられた。
 照れたように笑うセレーネさんの手には、返却された宝石付きの『支援者の杖』が。
 良いよなぁ、あの杖……初見の時から俺はずっと惹かれている。
 もっとも、発表があるまでセレーネさんの物だと確信は持てなかったのだが。

「あの、ハインド君。少しお話があるんだけど……いいかな?」
「はい?」

 おずおずと話しかけてくるセレーネさん。
 視線の動きから察するに、どうやら俺だけをご指名のようで……。
 後片付けを他のメンバーに任せ、俺達は鍛冶場へと移動した。



「これっ、受け取ってくだひゃいっ!」

 噛んだ……盛大に噛んだ……しかも本人、気付いてない……。
 ここは敢えて指摘しないのが優しさだと思う。
 鍛冶場に着くなり、セレーネさんは両手で持った杖をこちらに向けて差し出してきた。
 受け取った白銀の杖は美しく輝き、先端の大きな紅い宝石を見事に引き立たせている。
 ……この杖を、俺に?

「ありがとうございます……正直、すっっっげえ嬉しいです!」
「へ?」

 俺はコンテストで一目見た時から、この杖に惚れ込んでいることを話した。
 それを聞いたセレーネさんは驚いたように目を見開いていたが、次いで柔らかく微笑んだ。

「そうなんだ。なんか、嬉しいな……何を出品するのか、みんなに秘密にしておいて良かったかも」

 そのまま彼女は手を後ろで組み、少し落ち着かない様子で体を左右に動かす。
 なんだろう、このこっぱずかしい空気は……。
 何か言わなくては、と思うのだが頭の中で考えが上手く纏まってくれない。
 眼鏡の奥から覗く彼女の熱っぽい視線が、俺の思考をかき乱してくる。

「……ハインド君、私ね。最近、毎日がとっても楽しいんだ。前までは我慢して一人で大学に通って、バイトして、部屋に帰ったら趣味のゲームをやって眠る……その繰り返しだったの。それが嫌だったわけじゃないんだけど……正直少し、寂しかった。殻にこもっている自分のせいだって、分かってはいても」

 オンラインゲームをやってもソロプレイだったしね、と彼女は自虐的に笑う。
 俺は何かを言おうとするのをやめると、彼女の話に耳を傾けた。

「ハインド君が人気ひとけの無くなったアルトロワの鍛冶場から私を連れ出してくれて、ユーミルさん、リィズちゃん、トビ君……楽しいみんなの仲間に入れてくれた。最近は可愛い妹分まで出来て、もっと賑やかになったね。知ってる? サイネリアちゃん、時々だけど私に鍛冶を教わりに来るんだよ?」

 それは知らなかった。
 二人で話しているところは見かけたが、そこまで仲良くなっていたとは思わなかった。

「今では大学でも、少しだけ友達ができたの。初対面の相手にも……自分からは話しかけられないけど、どうにか受け答えくらいはできるようになった――つっかえながらだけどね。みんなみんな、ハインド君のおかげなんだよ? ……本当にありがとう」
「それは違いますよ。セレーネさんは自分から人見知りを直したがっていましたから。俺が何かしたんだとしても、単に最初の切っ掛けを作ったに過ぎません」

 セレーネさんは俺の言葉に対し、首を横に振って否定する。

「前にも言ったと思うけど、その最初の一歩が私みたいな人間にとっては凄く大変なんだよ。一度自信を無くすとね、どんどん心も体も重たくなっていくんだ。鉛で足を固められたみたいに……私の一番酷い時だと、部屋から出て家族に会うのも辛かった時期もあるくらいで」

 ごめんね、こんな話をしてとセレーネさんは俯いた。
 しかし俺は嬉しかった。
 確かに重い話だが、それを俺に打ち明ける度に彼女の表情が……それこそ、鉛でも外していくかのように軽く晴れやかになっていくのを感じたからだ。
 単に一緒に遊ぶという、一見何でもないようなその行為。
 それで救われる心があるのだから、やっぱりゲームの力ってすげえなと俺は思うわけで。

「だから、その杖にはハインド君に対する私の感謝の想いを全部込めたつもり。……ごめんね? 想いっていうより、気持ちが重いかもしれないけど……」
「いやいや、セレーネさん。そこに来てそれはないでしょう?」

 ここまで真面目な話をしていて、まさか最後に駄洒落に持っていくとは思わなかった。
 そのどうしようもなさに、互いに思わず苦笑が漏れる。
 一気に弛緩した空気の中、話はこれで終わりかと俺は思っていたのだが――

「私はハインド君のことが、好きです」

 彼女の口から自然に零れた言葉に、俺の体は一瞬で硬直した。
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