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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
アイテムコンテストとギルドの発展
123/1113

結果発表当日・その5 装備・防具

 5位に入賞したというのに、談話室の空気は非常に微妙だった。


「あ、えと……5位入賞おめでとう、リィズちゃん! ハインド君も!」


 少し引きつった笑みでセレーネさんが祝いの言葉を掛け、そこでようやく他四人も正気に戻る。

 画面はまだ先程と同じメッセージを流し続けているが……。


「俺は仕上げを手伝っただけなので、リィズをもっと褒めてやってください」


 俺の言葉にユーミルが頷いて一歩前に出る。

 こいつがリィズを褒めるところなんて想像できないのだが、どうして真っ先に……。

 どうする気なんだ?


「やるではないか! 貴様の性格の悪さが存分に発揮された毒物だったな!」

「喧嘩売ってますよねユーミルさん? 全く褒めてませんよねそれ?」

「む? そんなことは――あるかもな!」

「そこに直りなさい! 今日という今日は許しません!」


 あーあ、やっぱりこうなったか。

 両手で押し合いを始めた二人をよそに、シエスタちゃんが俺の方を向いて質問してくる。


「で、先輩。あの毒、どうやって回復薬に偽装したんです?」

「毒性を帯びたアデニウムの葉を煮詰めてさ……すると、やや澱んだ緑色の痺れ薬になる。で、回復効果が低く色素の濃い薬草を適量混ぜると、あの痺れ薬が完成するってわけ。ちなみに効果が首から下になったのは、色調整で回復薬を混ぜたことによる偶然の産物だよ」

「悪質でござるなぁー。遠目には完全にHPポーションでござるよ? 拷問に使ってくださいと言わんばかりの効果が、またなんとも」

「まぁな。結局ああいう使い方をされちゃったわけだし」

「運営からストップかかるとか、前代未聞ですよねー。ぷくく……」


 シエスタちゃんはリィズと俺のやらかしが面白くて仕様がないらしい。

 厳密に言えばやらかしたのは女王様であって俺達ではないのだが、この結果は看護師の息子としては誠に遺憾である。


「笑ったら失礼だよ、シー。そういえばハインド先輩、薬品は情報を隠すことも出来るんでしたっけ?」


 サイネリアちゃんの質問の意図は、あの痺れ薬の情報を隠していたのか否かという点に関してだろう。

 プレイヤーがアイテム・装備に触れると表示される、効果などの項目を指している。


「可能だよ。取引掲示板に出す場合は、情報を開示していないアイテムなんか売れないから余り使わない機能だけどね。あれはリィズがどうしてもっていうから、隠してコンテストに出したんだけど」

「女王様にはお見通しだったんだね。そういう醜態を晒すタイプでも無さそうだし……こうなるよね」


 そんな俺とセレーネさんの言葉を受けて、リコリスちゃんが頭に疑問符を浮かべる。


「誤飲させたいって言ってましたけど、リィズさんは女王様のことお嫌いなんですか?」

「リィズ殿は自分よりスタイルが良い女性は大体嫌いでござるよ?」

「ええ? それってほとんどぜんい――」


 リコリスちゃんの迂闊な発言に、地獄耳で反応したリィズの鋭い視線が飛んでくる。

 あれだけユーミルと言い合いをしていてよく聞こえるな……。

 口ごもってモゴモゴし、汗を一筋流したリコリスちゃんは必死にフォローの言葉を絞り出した。


「ち、小さい方が可愛くていいですよね! 現に私だって小さいわけですし! ビバ、すもーる!」

「でもリコー、最近背が伸びてきたって喜んで――ふもっ」

「シーちゃんしーっ! あれ嘘! 嘘だから!」


 シエスタちゃんの口を必死に抑えるリコリスちゃん。

 ちなみにヒナ鳥三人の身長はサイネリアちゃんが少し高く、リコリスちゃん・シエスタちゃんは同じくらい背が低い。

 二人はリィズと変わらないくらいだ。高校生にしてはリィズの背が低いとも言える。




 中継画面に変化が訪れたのは、ユーミルとリィズが取っ組み合いに疲れ、全員のハーブティーを淹れ直して出したお菓子を食べ尽くした頃のことだった。

 中学生三人は眠くなってきたのか、ややウトウトしているが。

 女王が玉座に座り直し、側近二人を左右に何事もなかったかのように再開。


『えー、アイテム・薬品部門第5位はアイテム名・偽薬ポーション(痺れ)、出品者はリィズである。妾個人としてはもっと上の順位でも――何じゃアルボル? 何? それ以上余計なことを言うな? ……あー、次の発表に移るぞよ! 第4位は――』


 その後は無難な回復アイテムが続き、HP・MPを微量回復し状態異常を癒す複合型のポーションが1位の座を獲得した。

 出品者は掲示板で話題に上がっていた薬剤師のプレイヤーである。


 アイテム関係はそこで終わり、次はいよいよ装備品の発表に移っていく。

 最初のアクセサリー部門は俺達の中には出品者が居ないので割愛。

 そして俺が出品した防具部門の発表が始まった。


『では、次じゃ。防具部門上位100品、デデン!』

「「「うおっ、まぶしっ」」


 登場した出品物のほとんどは眩い金の光沢を放っていた。

 中には抑え目の銀の物や性能重視の落ち着いた物も見られるが、総量としては圧倒的に金の防具が多い。

 そんな中で、俺が出品した防具は……。


「お、あったぞ。取り敢えず100位には入ったか」

「む? どこだ、ハインド?」

「あそこの右の方、金色のドレスの隣」

「あの赤いので――あ、消えたでござる」


 真っ赤で目立つと思っていたのだが、どうにも周囲が派手すぎる。

 みんなに確認してもらう前に画面が切り替わり、10位の発表に移行してしまった。

 そんな中、リィズが胸を張って宣言する。


「大丈夫です。ハインドさんの作った服なら必ず10位以内に入ります」

「ちょ、リィズお前! セレーネさんにはあんなに優しいことを言ったのに、俺のハードルは上げるのか!?」

「え? だってハインドさんですよ?」


 何だよその上位に入って当然みたいな顔は! 過剰な信頼が怖い!

 ユーミルとトビがそれを面白がってニヤつき出し、シエスタちゃんも口の端をキュッと上げた。


「そうだな! まさかこのままハインドが終わるということはあるまい!」

「ハインド殿でござるしな! 軽ーく上位を取ってくれるでござろう!」

「先輩が負けるところは想像できませんねー。超期待してます」

「あ、えーと……ハインド先輩、頑張ってください!」

「全員見事に無根拠だな、おい。大体もう結果は出てるんだよ? 今更頑張りようがないんだぞ?」


 際限なく上がるハードルに困惑しきりである。

 リコリスちゃんもなんとなく追従してしまっているし。

 サイネリアちゃんとセレーネさんは苦笑しているが。


 時間ギリギリまで粘った力作ではあるが、ここまでの結果を見るとやはり現実での物品に関係しているプロが強い。

 俺の作品がどこまでいけるか分からないが……。

 3位まで進んだところで、ラインナップとしては黄金の盾、鎧、兜などの中で出来が良いものが入選。

 そんな中、3位に入った有名鍛冶プレイヤー・ヴァレス作の漆黒の鎧は一際目を惹くものだった。

 トップクラスの鍛冶師として、女王の嗜好を無視した上での上位入賞は何か意地と誇りのような物を感じさせる。


「ハインドの防具はまだか? まだなのか?」

「楽しみでござるなぁー。2位かな? それとも1位かな?」

「先輩、入賞していなかったら私と一緒にふて寝しましょう、ふて寝」

「は? 寝言は寝て言ってください。……まぁ入っているに決まってますから、そんな約束は最初から無意味ですけど」

「出ませんねぇ、ハインド先輩の防具」


 残すところ後二作と迫り、味方のはずの五人から追い詰められている俺のメンタルもそろそろ限界が近い。

 リィズとリコリスちゃん以外の三人はワザとだ、絶対にワザとだ……。


「もう早く終わってくれ……10位未満でも全然いいから……」

「ハインド君、一杯一杯だね……」

「ハインド先輩……」


 セレーネさんとサイネリアちゃんだけだよ、俺を気遣ってくれているのは。

 俺が早く終われと念を送る中、女王が2位の作品を指し示して宣言する。


『装備・防具部門第2位は……防具名・エイシカドレス! 出品者はハインド!』

「――ッ!!」


 その瞬間、言葉にならない叫びを上げながら俺は両手でガッツポーズした。

 主にストレスからの開放という意味で。

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