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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
アイテムコンテストとギルドの発展
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コンテストに向けて・その2

 調合室は直射日光を遮るカーテンのせいで薄暗かった。

 ボコボコと液体が沸き立つ鍋を掻き混ぜるリィズはまるで本の中の魔女のようで……。


「――って、ちょっと待て! あれ? リィズお前、回復薬を出品するって言ってなかった!?」


 俺の声に気付いたリィズが手を止めてこちらを見る、

 手袋とマスクを着けての完全防備で、鍋に近付くと目も鼻も凄まじく痛い。

 これは絶対に回復薬じゃない!


「何を言っているのですかハインドさん。これは回復薬(毒薬)ですよ? うふふ……」

「きちんと回復薬と発音しているのに、何か物騒な副音声が聞こえた気がするんだが」


 俺の耳がおかしいの? それとも回復薬に行き詰まり過ぎて、お前がおかしくなったの?

 取り敢えず換気のためにカーテンを全開にすると、やはりその液体の色は底の見えない濁った紫色だった。

 どう見ても毒薬じゃないか……。


「もういっそのこと、開き直って毒薬を中心に開発していっても良いんじゃないのか?」

フィリアちゃん(あの子)に出来て、私に回復薬が開発出来ないとでも!?」

「俺が戦闘で全く前衛を出来ないように、向き不向きってあるからなぁ……。毒だって使いようなんだし、そう悲観することはないじゃないか?」

「……でもハインドさん、前に回復薬の方が嬉しいって……」

「あー」


 言ったなぁ、そういえば。

 それに関してはこちらの言い方が全面的に悪かったな。

 俺の場合は自分の役割がPTの回復役ということもあり、そういう立場と考えから発した言葉だったわけで。

 毒薬では役に立たない、という意味では決して無いのだ。

 しかしそれを伝えてもリィズの表情は晴れない。

 どうしたもんかな……。


「毒は毒で、セレーネさん用に毒矢を製造したりとか。もちろん普通に敵に投げてもいいし、用途は色々あるだろう? 決して回復薬の方が上だって言ってるわけじゃないよ。気にするな」

「……」

「――だから、回復薬は一緒に作っていこう。一緒に開発して、時間が合わない時はレシピ通りに同じ物を量産するだけなら何も問題ないはず」

「! 一緒に……?」

「ああ。元々そういう約束だっただろう? コンテストが終わったら余裕が出来るし、回復薬はそこから本格的に始めよう。任せっきりにして悪かったな」

「憶えていて下さっ――いえ、そうですね。兄さんが約束を破ったことはありませんし、私が焦ってしまっただけですね……。こちらこそ、申し訳ありませんでした」


 頭を下げてくるリィズに非は無い。

 ここ暫くトビと一緒に農地と鍛冶の補助に回ることが増えていたので、その流れで調合はリィズ一人に押し付ける流れになってしまっていた。

 今回の出品物は別として、回復薬に関しては今回のコンテストが終わったら二人でのんびりやれば良いということで互いに納得。

 適性の低いことを無理に頑張る必要はないのだ。ゲームという娯楽相手ならば尚の事。

 リィズなら言わなくても理解しているだろうと思い込み、言葉にしなかった俺の責任だ。反省。


「……そういうことでしたら、今回は回復薬以外の物で勝負することにします」

「うん。状態異常薬だって種類は多いしな。毒、痺れ、やけどに睡眠と」

「何か工夫をしてみます。……ところでハインドさん。ハインドさんが持ってきたアデニウムですけど……」

「ああ、例の色素移動の失敗作。薬草や毒草に変質したのも結構あってさ、リィズの役に立つかと思って持ってきたんだが」

「本当ですか? ありがとうございます。このアデニウム、花ではなく緑の鮮やかな部分が毒なんですか。へえ……」


 気分が持ち直したらしいリィズは、持ってきたアデニウムを眺めて考え込む。

 その様子に何やら嫌な予感が募るが……。

 取り敢えずテーブルの上に持ってきた素材アイテムを並べて置いておく。

 それから作業を続けるリィズの横で散らかった器具を片付けたり、掃除をしたりした後はまた移動だ。


「リィズ、状態異常薬をいくつか貰っていって良いか?」

「あ、はい、大丈夫ですよ。回復薬を作ろうとして失敗したものが沢山ありますから……ふふ……」

「お、おう。この辺のがそうだな? ありがとう。明日以降になるけど、コンテスト用の毒薬も少しは手伝えるから。それまでは一人で頼むな」

「はい、待ってます」


 ガチャガチャと怪しい色の液体が入った瓶をインベントリに詰めていく。

 次に俺は炉の無い小さい方の工房、トビが作業中の場所へと向かった。




「作るもん決まったかー? 決まらないなら糞不味い兵糧丸作るぞ、兵糧丸」

「まだそのネタ引っ張ってたの!? 嫌だよ!」


 部屋に入るなり、トビに作業の進捗状況を訊ねる。

 今回のコンテストの主役であるセレーネさんが後は一人で大丈夫と宣言したので、ようやく俺達も自分達の出品物に取り掛かり始めたわけだが……。

 はっきり言って余り時間は無く、今日中に案を纏めて作業に取り掛からなければならない。

 トビは温めていた忍者道具のアイディアの中から、現状で作れそうな物を選ぶということなのだが。


「……状態異常を引き起こす投げ苦無くないを作ろうかと思ったのでござるが、セレーネ殿に頼むのは無しでござるよなぁ?」

「無しだろう。ウチのギルド内では一番コンテストでの期待値が高いんだし、なるべく集中出来る環境でやって欲しいからな。彼女のことだ、頼まれたら断らないだろうから絶対に言うんじゃないぞ?」

「そうでござるよな……うーん、そうなると現状では……うーん……」


 悩まし気な声を出すトビを見て、俺は少し考える。

 別に前に作った焙烙玉を改良したりとかでも有りだと思うんだけど。

 しかし今のトビの頭の中は投げ苦無で一杯で、時間を掛けさせても他のアイディアが出てきそうな気配はない。

 苦無か……。


「……それくらいなら、俺が街の鍛冶場に行って作ってこようか?」

「本当でござるか!?」

「ああ。セレーネさん程の精度は望むべくもないけど、そこそこの物で構わないなら作ってやるよ」

「さすがわっち! 頼りになるぅ!」

「調子のいい奴……」


 そんな訳で、細かな寸法やデザインについての話し合いを開始。

 投擲武器は取引掲示板での出品が少なく、層の薄いカテゴリなのでコンテストでの成績もそれなりに期待できる。


「苦無に限らず手裏剣でも良いんじゃねえの? 棒型手裏剣とか、毒を仕込み易そうだけど」

「定番でござるし、そっちも考えてみるでござるよ。薬はリィズ殿の物を使用するとして……」

「問題は薬をどうやって武器に保持させるかだよな。溝を作って流し込むとか、薬そのものを粘性の高い状態に改良するとか……」

「ただひたすだけでは、やはり今一つでござるか?」

「使ってんのがランクの高い状態異常薬ならそれでも効くとは思う。でも、一本辺りの効果が高いに越したことはないだろう? 特に投擲武器は使い切りなんだし、敵を状態異常にするまでに投げる本数は少ない方が良いって」


 それによって一本が多少高額になっても、結果的に戦闘時の隙は減ることになる。

 更に投擲武器の使用には短いながらもWTがあるため、同じアイテムを連続で投げられるわけではないという都合もある。


「それと直接毒を投げた場合との差別化のためにも、しっかり表皮に傷をつける“切れ味”と瓶より長い“飛距離”は大事だ。その辺りの実用性も良く考えてデザインしてくれ」

「了解でござる! ……むむ? その口振りからして、残りの細かい部分は拙者が一人で決めるのでござるか?」

「まあ、そういうこと。悪いけど俺も、裁縫のための材料調達とかあるからかかりっきりは無理だ。鍛冶の時間はちゃんと作るから、明日までにデザインを完成させて渡しに来てくれよ」

「そりゃそうでござるな。そんな忙しい中で作ってくれるだけでもありがたいことでござるよ。で、ハインド殿はやはり裁縫でござるか」

「うん。で、俺はこれから街に出てくるから後はよろしく」

「承知!」


 そのまま羊皮紙を取り出して図面を引き始めたトビを残し、俺はホームの出入り口を目指して工房を出た。

 裁縫の材料である布に関してはNPCのクラリスさんに頼んであるので、これから街に出なければならない。

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