初日の攻防 その8
魔法職を多く含むPTにとって、難しいのは試合序盤。
最初から攻撃に参加できる弓術士と違い、魔法職はMPがなければ手を出せない。
「魔法使い多めのPTは速攻に弱い」という、それがTBの対人戦における定説である。
だから初動、俺たちも気をつけなければならない。
「もらったぁ!」
しかしそんなことは相手も承知なわけで。
初手から敵重戦士のマツカナくんが速攻を仕掛けてくる。
先制攻撃こそフィリアちゃんに譲ったが、位置取りもタイミングもしっかりとランカーらしい卒のなさだ。
狙いは後衛のようだが――向かう先は俺ではなく、リィズのほう。
「寄らないでください」
しかしながら闇型魔導士には初動の弱さが当てはまらない。
同じ初級でも、『シャイニング』とは段違いの威力と妨害力を持つ『ダークネスボール』が数発飛んでいく。
「おわっち!? そっか、リィズさんって闇魔導士だっけ!」
慌てて回避に入るマツカナくん。
と、このように闇型のみHPをMPに変換するスキル『マナ・コンバージョン』を持っているため、初手から攻撃に参加が可能だ。
固定で四分の一というHPを持っていかれるので、減少直後の事故にだけ注意。
初級魔法の『ヒール』を送って、最低限のフォローをしておく。
「私が弓術士の代わりをします。ハインドさん」
「おう」
遠距離の手数の差はリィズが埋めてくれる。
その間に俺と向こうの神官はMPチャージである。
互いにMP差はつきそうもないので、使用タイミングと使用スキル次第。
あとはこっちの前衛がどうなっているかだが……。
「あはははは、待て待てぇー」
「ははは、こっちでござるよぉ、スピーナ殿ぉ」
……なんだあれは。
浜辺の恋人か? 昭和のドラマのような光景を繰り広げる野郎二匹。
しかしながら、実態としては変態回避合戦である。
若干トビのほうが回避重視というところはあるものの。
二刀と拳、蹴りを互いに繰り出しつつも、どちらも攻撃に当たらない。
それを高速移動しながら行っている。
「ちょっと、親分! こっちきついんだけど!」
「あぁん?」
そんな変態ふたりが横を通る際に、マツカナくんが悲痛な叫びをあげる。
援護要請、救援要請だ。
それもそのはず。
リィズが追い払った後、彼の対面に立ったのはフィリアちゃんである。
多分マツカナくんとは同年代だろうけれど、TBに中学生部門があればフィリアちゃんは優勝候補筆頭。
更にあの年頃の異性への遠慮も相まって、非常に……ひっじょーにやりにくそうにしている。
頑張れ、思春期。敵だから心の中でこっそり応援することしかできないけれど。
「おう、自分でなんとかしろぃ! こっちはトビ助の相手で手一杯じゃん!」
「ひでえ!」
「いざとなったら抱きついて足止めしろ、マツ!」
「抱きっ……!?」
年下をからかいたかったのか、それとも試合開始時の意趣返しか。
スピーナさんの言葉を受けて動揺したマツカナくんは、見事に……。
「はぐっ!?」
フィリアちゃんの斧に斬られた。
純情である。
あんないかにも煽情的な格好をした――言葉を選ばなければ、エロエロな女王様のファンギルドに入っているのに。不思議。
……そういや、いつだがトビが熱弁していたな。
キャラ萌えと生物は別とかなんとか。
現実の女性をナマモノ呼びはどうなんだ? と思った記憶。
「あっはっはっはっは!」
そして味方の醜態を笑うスピーナさん。中々にヒドイ。
そんな行動がいけなかったのかどうなのか。
「はびゅっ!?」
思い切りフレンドリーファイアで矢を背中に受けている。
スピーナさんに当たらなければトビに命中していた、という絶妙な軌道ではあったのだが。
FFはFFである。
矢を放った弓術士は女性で、名はピコさん。
「ピコォォォ! てめえ!」
「避けないのが悪いわよ」
彼女はFFした直後でも、全く気にせず次の矢を前線に送り込んでいく。
表面上悪辣に見えなくもないが、フィリアちゃんが同職・重戦士のマツカナくんを倒し切れないのは、明らかに彼女の援護があるからだ。
スピーナさんが援護してあげていないし。
悪くいえば無配慮。よくいえば思い切りのいい射撃は前衛にとっては……。
「おわっち!?」
と、矢が掠めてMPチャージがキャンセルされた。
……前衛にとっても、後衛にとっても脅威だ。あの射撃量。
そこまで狙いが優れているわけではないのだが、飛ばす矢の数が尋常じゃない。
単独でものすごい制圧力を発揮してくる。
ある意味、非常に連射型らしい立ち回り。
そして敵の最後のひとり、神官のレブチアさんはというと。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
リィズが発動した『グラビティ』の中で、恍惚とした表情をしていた。
四つん這いで。
普段は整っている顔立ちがひどく崩れている。
「お゛お゛お゛お゛お゛」
「……」
なんか怖いから放っておこう。
あの状態ならMPチャージも回復魔法の詠唱もされないし。
『グラビティ』は極小ダメージの連続ヒットだから。
以上、スピーナ(武)、マツカナ(重)、ピコ(弓)、レブチア(神)がカクタケアチームのメンバーなのだが。
改めて見るとアクが強いな。
相手がどう動くのか、それにどう対処するかを考えていると頭が痛くなってくる。
あまり普通の行動をしてこない人たちだ。ピコさんが一番まとも。
「ハインド」
と、悩む俺のもとへ静かな声が降ってくる。
一言、名前を呼んで視線を送ってきただけ。
それだけなのだが、しっかりと意図は伝わってくる。
これでも3対3トーナメントを通して共に戦った仲だ。
……フィリアちゃんが動く。
「――」
ちらりとトビ、リィズの状態を確認。
トビはスピーナさんから一撃もらったようだが、『空蝉の術』を発動していたためにノーダメージ。
矢は全て避けている。
リィズはレブチアを拘束しつつ、ダークネスボールをピコのほうに飛ばしている。
矢傷とMP変換で減ったHPは、少し前に俺が放った魔法で回復済み。
つまり、充分に戦線を維持できている。
「……」
再びフィリアちゃんと目が合い、俺はうなずきを返す。
こちらが攻撃バフを送る、彼女が受け取る――と同時にダッシュ。
そこから先は、まさにフィリア劇場だった。
「うわっ!? なんだ急に!」
まずは正面のマツカナくん。
与しやすいと見たか、それとも自分の実力が上だと確信したか。
通常攻撃のラッシュからの……。
「やっ……」
やっばい! と、マツカナくんの口が動いたのが見えたが。
最後まで声を出させてもらえなかった。
ガードが緩んだところへ、中級スキル『ダブルインパクト』が直撃。
斧を力一杯振りぬく二連撃が大きくHPを減らし――そのままノックアウト。
お手本のような崩しが決まり、会場内から大歓声が上がる。
それにさしたる感慨もなさそうに、フィリアちゃんは息つく間もなく再び走る。
「速っ……!?」
目指す先は弓術士ピコ。
継承スキル『ライジング』による効果で加速。
直前に敵を撃破した際に限定して、装備の軽量化と全ステータス強化の効果を得ることができるスキルだ。
更に俺が放った『エントラスト』により減ったMPが上昇。
そして接敵したフィリアちゃんは『トルネードスウィング』を選択、発動。
斧を手に独楽のようにぐるぐると回転し、逃げ出そうとするピコの背を何度も斬り刻み――HPを全て減らした上で、場外へと豪快に放り出した。
斧を舞台に突き刺し、無言でサムズアップしてくるフィリアちゃん。
「……すげえや、フィリアちゃん」
「一瞬で二撃破でござるか……さすが」
「くっ」
いつの間にか横にトビ、斜め後方にリィズが合流している。
トビは全力でスピーナさんを妨害したせいでMP切れ&HPギリギリ、リィズもピコの矢を集中して受けたためか、似たような状況。
フィリアちゃんひとりで取ったように見える戦果だが、しっかりと援護が効いていたようだ。
俺が一番働いていないまである。楽をさせてもらったともいえるが。
そして向こうの残ったふたりだが……。
「あー……」
頭を掻くスピーナさんは救援こそ間に合わなかったが、HPはほとんどフル。
MPも満タンに近い。
「やっぱり、こうなっちまったかぁ」
彼は数秒で一変した戦況に、顔をしかめていたものの。
すぐに開き直ったように笑う。
「まぁいい。こっからこっから――おい、レブ」
「あ゛お゛お゛お゛お゛……はい?」
そして神官のレブチアさんに呼びかけると、折よく『グラビティ』の効果が消失。
重力地獄から抜け出したレブチアさんが、何事もなかったかのように起き上がり、涼しい顔で応じる。
「蘇生成功で女王様のスクショ――秘蔵のを二枚。俺への回復成功でスクショ一枚な。どうだ?」
「やりましょう」
いや、やる気の引き出し方が……。
カクタケア流というか、なんというか。
「行くぜ」
覇気を漲らせたスピーナさんが歯をむき出し、両拳を合わせて打ち鳴らす。
圧倒的に優勢な側にいる俺たちだったが、フィリアちゃんを除く全員が気圧されたように一歩下がってしまう。
敵として見る彼の姿は、紛れもなくランカーなのだと実感させられた。




