本戦5対5決闘 決勝後の反応 後編
その後も健治大佐の無双劇は数試合ほど続いた。
そして俺と秀平の命中率がそれなりに上がり、少しずつキルが取れるようになってきたところで……ランクも上がったせいか、段々と勝てなくなってきた。
この微妙にはしゃぎきれない感。
サービス開始から時間が経った対戦ゲームらしい、対戦層の流動性のなさと言えるだろう。
初心者が少ないのだ。
初心者狩りなら結構湧いているようだが。
ある意味、序盤の健治無双も初心者狩りに近いといえば近いので、文句も言えない。
「あ、上等兵になったな。今の試合、負けたけど」
「やったね、わっち! 二階級特進だ!」
「戦死じゃねえか」
ゲームならではの不謹慎なやり取り。
こういうのが許されるのがゲームの寛容さというかいいところなので、どんどんやられたらいいと思う。
負けてもやり直せるので、負けながら覚えればいい。
直前に戦闘したステージのリスポーン地点付近が戦闘待機場所になるということで、またしばらくはここで雑談だ。
今いるのは――ビル型のリゾートホテルみたいな場所のロビーだな。
中央が吹き抜けになっていて、それが上階まで続いている。
さっきの戦闘では、上を取られて銃撃&爆撃されまくって負けたところである。
なんならリスポーン狩りまでされたぞ、割と不快な負け方だった。
……ん?
「大佐。新しい武器がアンロックされたぞ」
このゲームは階級上昇によって使える武器が増える。
といっても初心者卒業階級である『少尉』までには全て使用可能になるので、対戦の公平性に大きな影響が生じるほどではない。
――というのが、初心者用の攻略ページで見た情報なのだが。
どうなんですか? 大佐?
これ弱武器? 強武器?
「お。上等兵で解禁される支援火器……って、なんだったかな?」
スラスラ答えるような話しぶり、からの首傾げ。
傾げた首が太いぞ、大佐。
……突撃兵ばかりやっている健治は、支援火器の解禁順を憶えていなかったらしい。
見せたほうが早いと思った俺は、武器変更ボタンを押下。
軽機関銃が消え、代わりに出現したのは。
「なにこれ?」
俺の両手に抱えられたものを見て、秀平が首を傾げる。
一見すると、長銃身の大型火器だ。
狙撃銃にも機関銃にも似ているが、目立って違う点が一つある。
それは……大型の燃料タンクが付いているところだ。
「そうか、火炎放射器だったか!」
「そうらしい」
形状を見て記憶に引っかかったのか、健治が正解を口にする。
性能は短射程、広範囲で、延焼効果ありと書かれていた。
直接与えるダメージは低いとも。
「火炎放射ぁ?」
秀平が懐疑的な声を出す。
というのも、様々なゲームにおいて火炎放射器が強かったイメージがないからだろう。
かくいう俺もそうである。
そんなわけで。
「おりゃー」
試射してみた。
「うおおおおおっ!?」
秀平に向けて。
ボワッと力強く噴き出た炎が秀平を包み込む。
どうだ、明るくなっただろう? 暖かいか?
「なにすんだよっ! わっち!」
「だって……その辺に火を放つわけにもいくまい?」
「俺なら燃やしていいってのかよぉ!」
「っ、くくくく……」
健治が声を抑えながら、それでも堪えきれずに笑っている。
ちなみにこのゲーム、FF――TBよりも正しい意味でのフレンドリーファイアだが。
基本的に発生せず、弾はすり抜けるし爆風も当たらない。
もちろん炎も……一瞬燃え上がるようなエフェクトが出るものの、ダメージはない。
すぐに火が消えてしまう。
「威力は知らんけど、見た目の迫力はあるな」
「VRだから余計にそうだね」
炎を発射した俺、そして浴びた秀平が火炎放射器に対して雑に評価する。
消毒だぁー! とか叫びながら使ったほうがいいのだろうか。
「閉所だと結構強いぞ、火が目くらましにもなって。ただ、ショットガン持ちにめっぽう弱い。特に角待ちショットガン」
「「あー」」
と、こちらは健治による正確だろう寸評。
炎だからスリップダメージだろうしな……ショットガンのダメージ確定の速さに簡単に負けてしまうようだ。
戦闘距離が近距離で、割と被っているのもよろしくない。
アサルトライフル、サブマシンガン辺りになら勝てるだろうか?
……ただ、それも相手が動揺してエイムが乱れた場合だけだろうなぁ。
「そういや、健治は武器を持ち替えないんだな。それが一番慣れているのか?」
健治は今日ずっと同じ武器だ。
連射が遅い代わりに単射威力が若干高めな、狙撃もできる性能のアサルトライフル。
「まあ、それもあるんだが。基本はこれで……気分によって持ち替える日があるかな? 程度だな。あんまり変わり種を持つと感覚が狂う」
その言葉を聞いた秀平が大いに同意と強くうなずく。
「やっぱ使い慣れた武器が一番だぜ! 俺も、段々この連射狙撃銃が馴染んで――」
「命中率10パーセント切りの狙撃手がなんか言ってる」
「――さすがにもっと当たってんじゃないかなぁ!? ねえ!?」
そうかな……俺の目測だとワンマガジン撃ちきって、一発当たればいいほうだった気がするんだけど。
セレーネさん――和紗さんだったらどうだろうな?
クロスボウであんな感じなら、絶対に狙撃銃も巧いと思うんだけど。
「……お前たちのやっているTBでは、武器を持ち替えまくるやつが優勝したんだって?」
そんなことを考えていたら、健治のほうからTBに対する話題を振ってきた。
友人がやっているゲームとはいえ、わざわざチェックしていないだろうから、秀平が話したのだと思われる。
「ソラールって名前のやつな。最後の試合はソードシールドなんて酔狂な武器を持っていたらしい。秀平は決勝観たんだっけ?」
「観た観た。最終的にはハリネズミだったけど……それなりに矢をかき分けながら攻撃できていたから、割と合理的だったんじゃない?」
優勝といっても一部門なんですよ、なんて。
負け惜しみを含んだ細かいことは言わず。
せっかく興味を持ってくれたので、秀平と一緒にサクサク情報を出していく。
「ほう。器用なプレイヤーなんだな。俺とは全然違う」
「言動は未祐みたいな感じなんだけどな。男版の」
「ああ……」
なんだか知らないが、一発で健治に伝わったらしい。
すなわち、一本気で明るくてうるさいと。
違うのは武器の扱いに関して天才的なところ。
戦闘IQなんかも未祐より上と思われる。
「わっちたちとの試合……リヒトの継承技を思い出して、“アルテミス対策を閃いたぞ!”とか叫んでいるのが目に浮かぶよねぇ」
秀平が言っているのはリヒトが使っていた『シールドスラッシュ』のことだろう。
アレはスキルで盾から魔法の刃を出していたが、「最初から盾と剣が一体になっていればいいじゃん! スキルいらねえ!」なんて、ソラールは思ったのだろう。
確かにその様子は簡単に想像できる。
そしてその発想、過去の人が辿り着いて「やっぱり使いづれえ」と捨てたものだったりする。
「そうやって思いついた武器を即座に用意できる専属鍛冶師もすごいけどな。フォットワークが恐ろしく軽い」
ギルド、ソールの専属鍛冶師は……マードックだったかな、確か。
アイテムコンテスト、武器部門で上位入賞者だったプレイヤーだ。
もちろんウチのセレーネさんのほうが上だったが。
「鍛冶師か……亘たちのところの鍛冶師はどうなんだ? 確か文化祭に来ていた……和紗さん、といったか?」
「「……」」
おっとお、健治。
その話題はよくない。
今、その話題はよくないよ。
秀平が気まずそうな顔で応える。
「和紗さんは、あれよ? 健治。うん。職人肌っていうかぁ……」
言いよどみまくっているな。
鍛冶を丸投げしている関係もあって、立場上言い難いのだろう。
後を引き取って言葉を続ける。
「クオリティを上げようとすると、際限なく時間をかけるタイプ」
「ああ……」
健治、本日二度目の「ああ……」である。
悩む和紗さんの周辺で駆け回っている俺たちの姿が想像できたようだ。
その想像、多分かなりの精度で合っています……。
ただ、一点だけ和紗さんの名誉のためにも言っておかねばなるまい。
「健治、勘違いしないでくれよ? 仕事自体は速いんだ」
「量産品とか、めっちゃハイクオリティで納期を守るよね」
「つまり、オーダー品だけ……いや、近しい人間が使う品だからこそ、か。愛が深い人なんだな」
健治が真面目な顔で重々しくうなずく。
愛が深い……愛が深いかぁ。
なにも間違ったことは言っていない。言っていないのだが。
「……健治。お前よくそんな歯が浮くようなセリフを真顔で言えるよな」
「あれだよ、わっち。こいつ洋ゲーばっかやっているから、褒め言葉とか口説き文句も欧米化しているんだよ」
「お前らな!」
きっと健治のパートナーになるのは、こういう言動を笑わずに受け止められる人なのだろう。
そんなことを考えつつ、銃を乱射する健治に追い回されつつ。
野郎三人衆、春休みの集いはお開きとなった。




