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本戦5対5決闘 その4

 以降の試合に関していえば、チーム花畑――いずれも辛勝。

 そう称して差し支えない内容ばかりだった。

 それでも勝ち進めてこられたのは、全員が高い集中力を保っているから。

 更にリヒトのくじ運がいいからである。

 すぐに強敵と当たりまくっていたユーミル、スピーナさん辺りとは大違いだ。


「ふう。次の相手は……」


 しかし、そのくじ運でどうにかなる段階は過ぎつつある。

 控室にあるモニター……ゲーム内名称的には『魔導式投影端末』とかいう板を見ながら、リーダーのリヒトが一息つく。

 映像内では隣のブロックの試合が行われており、俺たちの次の対戦相手が間もなく決定しようかというところだった。


「……」


 全員の視線が試合映像に釘付けになる。

 ソラールが長柄の大斧を叩きつけ、まともに脳天に受けた敵重戦士が舞台上の石畳へと叩きつけられていた。

 今日の彼の得物はグレートアックスらしい。

 あまりにも強烈かつ鮮烈な一撃に、会場内も控室内も静まり返っている。


「うわ……」


 畏怖いふを含んだローゼの声が、この場の全員の気持ちを代弁している。

 いよいよ誤魔化ごまかしのかない相手が来てしまった。

 それもそのはず、次は準々決勝。

 もう残ったプレイヤー全体を見ても、非ランカーのプレイヤーはチタンさん・エルデさんの二名しか残っていない。


「ど、どうする……?」


 映像内の試合はまだ終わっていないが、どちらが勝つかは言うまでもないだろう。

 今しがた戦闘不能にされた重戦士だって、決闘でよく見るランカーではあるのだが。

 名前は……確か『ウォーリアー田中』さんだったはず。

 1対1通常決闘では50位前後のプレイヤー。

 自分より格上のランカーが文字通り叩き潰されたのを見て、ローゼはおののいている。声が震えている。

 もちろん俺もビビり倒しているが……。


「どうもこうも。やれることをやるしかないわな」


 リヒトたちの継承スキルについては、前試合までで全て使用済み。

 よって未知のスキルで敵方の意表を突くことはできない。

 俺の手持ちも、グループ戦用のもの以外は使用済みだ。

 トーナメントに四回も出ているのだ。仕方ない。

 であれば、見えている手札であっても、上手く使って全力を尽くすしかないだろう。

 ――と、そういえば。


「そもそもの話、このチームの目標ってどのくらいなんだ?」


 ついついくのを忘れていたが、そこのところどうなんだ?

 杖を置き、映像を横目にベンチに腰掛ける。

 ――もし優勝が目標でないのなら、次戦の心構えもやり方も変わってくる。

 俺の質問に対し、ローゼとリヒトは即座に答えた。


「ベスト32よ」

「ベスト32だね」


 ベスト32……さっきの勝利でベスト8なので、もうとっくに超えているじゃないか。

 はて、それにしても32位以内の報酬……なにかあったかな?

 イベント報酬の記憶を探ってみる。


「ああ……資源島の探索権だっけ?」


 いつぞやの海洋イベントでもあった、資源島――貴重な鉱石、食材、アイテム素材などなどが大量に手に入る島への入場権だ。

 回数はチケット一枚につき一度だけと限定されているが、その名の通り普通の資源スポットとは違う。

 ……確かにあれはすごかった。

 生産した完成品のランクが全て一段階上に行ったし、直接素材を使わない場合でも……。


「僕たちにはお金が必要なんだ」

「セリフだけ聞くとすげえゲスに見えなくもない」


 そう、素材を売れば大金が手に入る。

 リヒトたちは資金を必要としているようだ。

 ――なんでだ? と疑問を視線に乗せて見回すと。


「人の出入りが激しいと、それだけお金がかかりましてぇ……」


 順番に答えてくれるようだ。最初はエルデさん。

 ちなみにギルドの入・脱退にお金はかからない。

 だが『ガーデン』なら支度金として、出ていく人にお金を持たせているだろうことは想像に難くない。

 ……詐欺とかにっていないといいけどなぁ。

 口調は緩いが、頭は緩くないエルデさんの手腕に期待だ。


「生産専のやつなんかがいる間も、不自由させてやらないようにしたくてな」


 これは巨体を揺らしながらのチタンさんの発言。

 といっても資源島で取れた高級素材を使わせる、という意味ではないだろう。

 ギルドホームの生産施設を充実させておきたいという話のようだ。

 あれのレベルアップ費用、けたを間違っているんじゃないかっていう値段だからな……。


「冒険だけじゃなくて、娯楽施設や自然を感じる庭なんかも、もっと充実させたいのよねえ」


 と、ローゼはホームの景観と遊べる場所に投資したいと。

 意図は理解できる。

 今のガーデンに入ろうというプレイヤーは、多かれ少なかれ心が傷ついている人たちだ。

 傷ついてはいても、ゲームそのものはまだ好きな人たちだ。

 嫌な思いをしたのに、まだログインしてくるのだから。

 いわば同志ということで、なんとかしてあげたいというのがローゼの――リヒトたちガーデン幹部の総意らしい。


「ご立派。そこまで行くと、もうセラピーとかカウンセリングの施設みたいだな」


 立派すぎて尊敬しちゃうよ、本当。皮肉とかなしに。

 ないと思いたいけど、もし俺も『渡り鳥』がバラバラになるようなことがあったらお世話になろうかな? とさえ感じさせてくれる。

 変わっているし、面白いプレイスタイルだよなぁ。

 そういうのが鼻につくって人も一定数はいそうだが……。

 少なくとも俺は嫌いじゃないし、応援したいと思っている。

 ……ただ、話し終えた後で互いの手を握り合うの、やめてくんねえかな?

 見つめ合うな。甘い空気を作り出すな。俺にとってその空気は毒と一緒よ?

 ――あ、ソラールたちが全員生存で試合に勝ったな。

 視線を逸らした先の映像では、ちょうど試合が終わるところだった。


「ま、まあ、とにかくわかった。目標は達成済みだけど、なるべく上を目指したいってことでいいんだな?」


 こんな話を聞かされたとあっちゃあ、手を抜く選択はなしだろう。

 その上で、目標達成済みということは――思い切ったリスクの高い手を打つのもありになる。

 ありにはなるが……。


「だったら、俺が勝負になるところまでは連れて行ってやるよ」


 ――……あれ? 自分で思ったよりも強めの言葉が出てしまったな。

 ストレスだろうか? ストレスかも。ストレスだな!

 こいつら、ところかまわずいちゃつきやがって!

 引っ込めようかと思ったけど、そのまま強弁!


「回復は任せてくれ。倒れてもなるべく早く起こすぞ」


 お前らは前列で存分にイチャつきながら戦うがいいさ。

 イキってみせたものの、別段、奇策を思いついたというのではない。

 しかし俺の回復・蘇生の精度はまだ上げる余地がある。

 こんな勢い任せの発言、鳥同盟の面々だったらたしなめるか茶々を入れてくるところだが。


「いかすぜ、ハインド……!」

「か、格好いいじゃない」

「素敵ですねぇ」

「ハインド……頼めるかい?」


 素直。

 花畑の面々は素直である。

 そう素直に受け取られると、かえって調子が狂いそうだ。

 自分でブレーキを踏まないといけないじゃないか。

 ……少しだけ冷静になろう。


「……当たり前だけど、最終的にはリヒト。ローゼ。お前たちアタッカーの出来できで勝敗が決まるからな」

「ああ!」

「やってやるわよ!」

「大変結構。そしたら、どう攻めるか誰から撃破を狙うか。今のうちにしっかり作戦を立ててくれ。次戦までもう時間がないぞ」


 俺の言葉を受けて、リヒトを中心に四人が相談を始める。

 ローゼとエルデさんがこちらに対して一瞬物言いたげな顔をしたが、すぐに集中して話をはじめる。

 ……よしよし、わかっているじゃないか。

 あくまでチームの中心はリヒトだ。

 俺はこのチームにとってゲストでしかないので、これ以上の口出しは不要だろう。

 最大限のサポートはするが、作戦立案には関わらない。

 待っている間は、ソラールたちチーム・ソールの動きを脳内でシミュレートしておく。


「ソールはTBでトップの規模と実力を持つギルドだ。当然、全員が半端じゃない強者なわけだけど……」

「それでも、一番強いのはソラールよ。同格、最強クラスが五人揃っているわけじゃない」

「うん、ローゼの言う通りだ。無理は承知で彼を真っ先に狙うか、あるいは彼を抑えながら他の撃破を狙うかの二択になるかと思う。それで、僕たちの構成から考えると――」


 サービス開始初期以降、ギルドのゴタゴタもあってトップ帯から遠ざかっていたリヒトだが。

 攻略情報のそろわない初動で先頭付近を走っていただけに、独力で戦略を練る力は高いようだ。

 対戦相手の戦力を分析し、自分たちの戦力・適性に応じて役割を振り分けていく。

 見事な作戦立案能力だ。

 横で聞いていてもほとんどおかしな点はなく、合理的に思える。

 なぜか全員、体育座りで相談している点はおかしいが。ベンチを使えよ。


「――と、こんな感じでどうだろうか?」


 やがて、立ち上がったリヒトが決まった作戦をこちらに伝えてくる。

 なんだか不安そうな、探るような表情だ。

 さっきまでの毅然きぜんとした態度はどこにいった。


「悪くない案だと思う」


 立てた作戦に対し問題なさそうという評価を伝えると、露骨にほっとした様子。

 ……別に、俺が認めた作戦なら必ず勝てるってわけじゃないからな?

 あまり買いかぶられても困るんだよ。できることはやるつもりだが。

 ――さて。


「っし。じゃあ、やれるところまでやってみますかね」


 折よく制限時間一杯となった。

 俺が杖を手に立ち上がると、足元に出た転移陣が光を放つ。


「行こう、みんな!」


 最後にリーダーリヒトがいつものように号令をかける。

 返るのはうなずきと気合の声。

 こうしてガーデン……ではなくチーム『花畑』の面々は、トーナメントの天王山――準々決勝の会場へと足を踏み入れたのだった。

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― 新着の感想 ―
まだ精度上げられるの!?
カップル×2の空気にメンタルダメージ喰らい続けてるのに、この頼もしさよ…!さすハイ! ……あ、そっか…渡り鳥で色々と苦労人してるからメンタル鍛えられてるのかぁ……
ピンクな空気に当てられ続けてハインドが軽く混乱しているw
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