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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
アイテムコンテストとギルドの発展
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調合の基礎と少女の孝行心

 倉庫に収穫したアイテムをしまっていると、ギルドホームに来客があるという知らせが入っていた。

 ユーミルは気付いていないようなのでフレンドリストから位置を確認すると、どうやらフィリアちゃんらしかった。

 アルベルトはログアウト中のようだが、もしかして一人で来たのか?

 我らがギルドホームはフレンドの入場が原則自由となっているので、既に中に入っているようだった。

 短文メールで倉庫で作業中の旨を伝え、談話室で待っていてもらうように促しておく。


 そのままユーミルとアイテム整理を続けていると、フィリアちゃんが入口からひょっこりと顔を出す。

 もしかして、待ちきれなかったのか?


「こんばんは、フィリアちゃん」

「ぬおっ、フィリア! いつの間に!?」

「……こんばんは」


 ぺこりとお辞儀をした後、彼女は静かに倉庫に入って来る。

 暫くは無言で俺達がインベントリから倉庫のボックスへ物を移動させるのを見ていたのだが……。


「それ、薬草?」

「うむ。我々の畑で作った第一号だぞ! あ、そうだハインド。フィリアにお裾分けしてもいいか?」

「もちろん。そのまんま使うと初級ポーション以下だが、在って困るもんじゃないしな」


 薬草は素材としてだけでなく、低位の回復薬としても使用可能だ。

 ユーミルが収納したばかりの薬草の束を倉庫の共有ボックスからわさっと取り出し、フィリアちゃんの手に乗せた。


「……ありがとう。でも私、調合はしたことない」

「そんなものは教えるてくれるだろうさ! このハインドがな!」

「おい」

「良いではないか! 今日は他にすることもないのだろう?」


 確かに、セレーネさんが不在だから鍛冶も進めようがないし。

 リィズが居ないから回復薬の開発も進めようがないし、トビが居ないから何をやるにも手が足りない。


「まあ、フィリアちゃんが嫌でなければ教えるけ――」

「是非お願いしたい」

「食い気味!? やる気だな、フィリア!」


 その後はフィリアちゃんを待たせてアイテム整理が終了。

 幾つかのアデニウムを鉢に植え替えると、談話室や廊下へ置いていく。

 フィリアちゃんもじっと花を見て「綺麗」と呟いていたので気に入ったらしかった。

 花が置いてあると場が華やぐよな……。

 元々が貴族屋敷という設定なだけあって、壁の装飾などが豪華なため赤い花が浮かずにマッチしている。


 そして俺達はお待ちかねの調合室を訪れた。

 すり鉢、すりこぎ、ビーカー、完成品を詰める瓶、それと薬草を並べて準備完了。


「んじゃ、折角だからユーミルもやってみるといい」

「やってみる!」

「フィリアちゃんも、いいかな?」


 俺が問い掛けると、すりこぎを握ってフィリアちゃんがコクコクと頷く。

 基本的にHPポーションの精製に関しては薬草・滋養草・+αの構成となっている。

 実はこの滋養草の用途が、TBというゲーム内においては実に広い。


「……この、黄色い……?」

「そう。その黄色い蓮の葉みたいなのが滋養草。蓮の葉に似てるけど、水生じゃなく地面からニョキニョキ生えてくる」

「現実には存在しない植物だな?」

「そりゃそうだ。なにせ年中生えてるし、どこにでも生えるし」


 薬草と違ってワーハの暑さでも問題なく収穫出来たし、合成を煩雑にしない為に素材として一本化している万能素材である。

 こいつはHPポーション以外にもMPポーション、状態異常系にも必ず使用することになっている。


「で、まずはノーマルな無印ポーションな。これはすり潰した薬草・滋養草に水を加えるだけでOK」

「ごりごりごり……うおっ、青臭い!」

「……」


 薬草をすり潰した直後は、葉の青い匂いが部屋中に広がっていく。

 しかし続けて滋養草をすり潰していくと、不思議なことが起きる。


「お……匂いが消えたか?」

「消えただけじゃない……甘い匂いがする?」

「そうなんだよ。しかも単品だと――」

「にがっ! 甘くない!」


 説明途中にも関わらず、滋養草を直接齧ったユーミルが顔をしかめる。

 無言でそれを見るフィリアちゃんにも若干呆れの色が浮かぶ。


「……最後まで聞けよ。滋養草は単品だと苦いんだけど、薬草と合わせると甘くなるんだよ。逆に解毒草だと苦みが増すのは、ユーミルは良く知っているだろう?」

「うむ……」


 その結果、HPポーションは飲んでも美味しいということになる。

 前にも触れた通り飲む必要は無いのだが。


「で、充分にすり潰したらすり鉢に直接水を入れちゃって大丈夫だぞ」

したりする必要はないのか?」

「そこはほら、ゲームだから。簡略化」

「そうか。では、ジャバーッと」


 水を入れると、不思議なことにペースト状の草が消えていき綺麗な青い液体が残る。

 後はこぼさないように漏斗を使って瓶に詰めたら完成だ。


「はい、完成おめでとう。知ってると思うけどHPポーションは青、MPポーションは緑だから間違えないようにな」

「おおー……思ったよりも簡単だな?」

「うん。でも、自分で作ると少し嬉しい。特別」


 ああ、分かる分かる。

 ポーションなんて店売りで大量に買える類のものだが、自分で作ったものは違って見えるんだよな。

 二人は完成した瓶の液体をめつすがめつしながら眺めている。


「まあ、これは普通のポーションだから。面倒なのは中級からなんだけど、+αの素材候補が多くてなぁ……。漢方系はもとよりハチミツだったりニンニク、すっぽんの血を入れて作ったなんて情報もあったかな。中級から上は生産者によって効果もバラバラだし」

「……この前、取引掲示板で買った中級ポーションは普通のポーションのちょっと上の量しか回復しなかった」

「そりゃハズレを掴まされたね。NPCの店売りなら効果は一定だからそっちから買うか、信用できる生産者を選んで買うのが正解だわな。作れるなら自分で作るのが一番安上がりで確実だけどね」


 俺の話にフィリアちゃんは熱心に聞き入っている。

 基本の調合レシピを一通り教えると、深々とお辞儀をして俺達に「ありがとう」と礼を言ってきた。

 素材を栽培する予定はないので、今後は取引掲示板で素材を買って調合するとのこと。

 それでも完成品を買うよりはずっと安上がりだ。


「ハインド……実は私、相談がある」

「「?」」


 ポーション作りが一段落した後、フィリアちゃんがこう切り出してきた。

 俺とユーミルは何事かと揃って首を傾げる。


「それって、今日は一緒に居ないお父さんと何か関係がある?」


 そう問いかけると、一つ頷いてフィリアちゃんが詳しく話し始める。

 どんな深刻な相談が来るのかと身構えていたところ――


「フィリアちゃんは健気だなぁ……」

「私も偶には父さんを労わってやろうかな……」

「……どうして撫でるの? 二人とも……」


 とても和む内容だった。ユーミルと一緒に両側からフィリアちゃんの頭を撫でくり回す。

 というのも相手がアルベルトならではの悩みというか、それに対する少女らしい悩みというか。


「つまり同級生のお父さんの肩を揉んであげたとか――」

「湿布を張ってあげたら喜んだ、という話が羨ましかったのだな。あんなにマッチョで普段からジム通いしている父親相手では、仕方ないな」

「うん……お父さん、体のどこかが痛いって言ったことない……」


 仕事帰りの父親を労わってやりたくても、鋼のボディ過ぎて癒す余地なしと。

 でも、こんなに可愛くて健気な娘が居るだけで癒されてるんじゃないかな? あのオッサン。


「で、ゲームで回復薬として湿布を作れば貼る機会があるんじゃないかってことだね?」

「そんな感じ……どう……?」


 そんな願いを受けて俺は一度倉庫に行き、材料を持つと調合室に再び戻って来る。

 持ってきたのは回復系の薬草の他には布、鉛丹、豚の脂にはっか油、唐辛子など。


「取り敢えず試作だ。物は試しだよ」




 途中までは回復薬を作る工程と一緒だ。

 ペースト状になった薬草・滋養草の状態で止め、一つは鉛丹と豚脂、唐辛子エキスを。

 もう一つは鉛丹、豚脂とはっか油を混ぜてどちらも布の片面にべったり塗って完成させる。

 冷感と温感の二種類を作った形だ。


「で、生産登録すると……おっ!」

「どうなった!? どうなったのだ!?」

「……」


 二人が俺の両側からメニュー画面を覗き込んでくる。

 せまっ……見えるようにウィンドウを動かすと、二人が目を輝かせた。


「おお! ちゃんと回復アイテムとして登録されているな! 成功だ!」

「ハインド、早速使ってみる……?」


 疑問形でありながら断れないオーラを発散するフィリアちゃんが、湿布を手に俺に迫る。

 いや、この神官服って肌がほとんど露出してないんだけど。

 じゃあ、腕にでもと思って俺が袖をまくろうとすると……


「脱いで」


 という無情な一言が発せられた。

 俺が唖然としていると、あっという間に服を脱がされ上半身が露出。

 初期装備の肌着まで脱がされてしまった。

 これって、脱げたんだ……考えてみれば半裸の恰好で決めてる男性プレイヤーも居るんだし、そりゃそうか。

 思考は現実逃避を伴ってどこか脱線気味である。


「ハインド、思ったよりも筋肉がある……」

「そ、そうだな! 確かにそうだな、うん! よくやったぞフィリア!」

「ちょっと待――」


 そして俺が混乱している内にペタペタと、肩と腰に順番に湿布が貼られていく。

 ユーミルは直視こそしないものの、横目でこちらをしっかりと捉え――って、見てないで止めろよ!

 恥ずかしさですぐさまログアウトしたい衝動に駆られる。


 しかしそんな俺達を気にした様子もなくスリスリ、スリスリと小さな手が丁寧に、一生懸命に布を押してくるのが分かる。

 ああ、なんか癒されるな……家事の疲れが取れるようだ……。

 半裸の恥ずかしさを忘れ、思わずリラックスしてしまう。

 時折、この状況を見たら鬼の形相になるであろう理世の顔が脳裏にチラつくが。

 そういえば釘を刺されたばかりだった。

 抵抗する暇が無かったんだよ……許してくれ。


「む、しかし回復量は微妙だな」

「残念……」


 二人の言葉に表示される回復量を見ると、確かにHPの一割にも満たない回復量だ。

 回復アイテムとしては微妙か? と思って見ていると、何故か再度回復の表示が出る。

 それが二度、三度と一定間隔で続き……。

 ん!? これは、まさか――。


「もしや継続回復アイテムじゃないか、これ?」


 俺の言葉に、二人が驚いた様子でこちらを向いた。

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