本戦5対5決闘 その1
5対5の出場者数・試合数は、1対1に次いで多い。
これは普段のフルパーティの人数が5名だからであろう。
ゲームの基本となっている人数なので「じゃあいつものメンバーで出てみようか」という話になるのも想像に難くない。
……少人数だと怖いけど、みんなと一緒なら出てみよう。
……普段は決闘しないけど、5対5だけ出てみようか。
そうやって参加者が膨れあがっていった――。
「という俺の妄想」
「妄想かーい!」
ぺしーんとユーミルが俺の肩を叩く。
叩き方が巧かったからか、いい音がしたが痛くはない。
「それ僕たちじゃーん!」
「貴様、見ていたなっ!」
と、横から聞き馴染みというほどではないが、何度か聞いたことのある声がする。
手には俺が渡したポップコーン、装備は砂漠民らしいマントやらターバンやらが目立つ一団。
そう、彼らは観戦時にいつの間にか集まってくるようになった、サーラの愉快な仲間たちである。
「そういや、さっきから面子が増えたり減ったりしているな?」
立っていたユーミルが周囲を見回してから、不思議そうな顔で着席。
具体的に誰それ、と名を言えないのは顔見知り程度の相手も多く混ざっているからだ。
「そりゃ私たちも……」
「戦闘に参加しているからさ!」
その割には一体感があるし、雰囲気もいい。
いいのだが……。
「なんかなぁ……」
「暑苦しいノリでござるな! 砂漠民だけに!」
「……」
「砂漠民だけに!」
トビのノリも同じようなものだが、本人は気がついているのかどうか。
とはいえ、まったく知らない人たちに囲まれるより居心地がいいのは確かだ。
席の移動なんかも気軽に声をかけあえるので、スムーズである。
「一番暑い思いをしているセッちゃんは大丈夫でしょうか……」
「そうだな……」
と、そこでリィズが漏らした言葉に同意する。
相変わらずこの場にいないセレーネさん。
俺も参加する、向こう槌が必要な作業はほとんど終了しているのだが……。
セレーネさん一人でできる作業が終わっていない。
作業量が膨大ということではなく、完成度に不満があるのか、ずっと試行錯誤している――という状態だ。
「ちゃんと休むかわかんないし、交替で様子を見に行こうか?」
セレーネさんが熱中すると止まらなくなる質なのは周知の通り。
監視というと大げさだが、誰か傍にいたほうがいい気がしてきた。
最初に心配だとこぼしたリィズが、なら自分がと席から腰を浮かしかける。
「じゃあ、あちきが」
「おいどんが」
「ウチが」
「わえが」
「麻呂が」
「小生が」
「ミーが!」
大挙して立候補する周囲のサーラフレンズ。
「だったらお願いしよう」なんてなるわけもなく。
「なんでサーラの仲間とはいえ、部外者が渡り鳥のギルドホームに行くんだよ……てか一人称おかしすぎだろ」
「拙者のアイデンティティが……」
居心地はいいけれど、会話が筒抜けなのはいただけない。
あと、いちいち茶々を入れてくるのも。
「あ、あの、最初は私が行きます……」
「……お願いできますか?」
「はい。任せてください」
結局サイネリアちゃんとリィズが話しあい、サイネリアちゃんが行くことに決定。
彼女ならセレーネさんの作業を邪魔することなく、頃合いを見て声をかけてくれそうだ。
リィズもそう思ったから任せたのだろう。
サイネリアちゃんが席を立ち、リコリスちゃん・シエスタちゃんと一言二言交わしてからこの場を離れていく。
さすがに一旦黙り、サイネリアちゃんが出やすいよう足を引っ込めたり一度立ったりしていたサーラの面々だったが……。
「……」
「……てか、装備更新するの!?」
「まだ強くなる気かよ!」
「やっぱり打倒セゲムが目標なんか!?」
サイネリアちゃんの背が遠くなったのを見計らい、やいのやいのと騒ぎ出す。
「ハインド?」
それを受けて、ユーミルがこちらに探るような視線を向けてくる。
少しだけ考えてから俺はうなずきを返した。
「あー、隠すようなもんじゃないし。対戦相手にバレたところで、対策できるもんでもないから。言っていいぞ」
「そうか! そうだな! うむ、更新するぞ! グループ戦に合わせて!」
「「「おおー!!」」」
装備性能の詳細を言ってしまうならともかく、更新することくらいは知られても構わない。
それに、セントラルゲームスの面々も装備を変えてくるだろうしなぁ。
優勝したら引退とか言っているくらいだから。
最終装備のつもりで、これまでに得た資産を注ぎこんだ装備にしてくることが予想される。
「――ほいだら、支援物資というか見舞いの品を」
「んだな」
「なにがいいんだ? 鉄鉱石?」
「食い物のほうがよくない?」
「鍛冶オタクのセッちゃん氏なら鉄鉱石も食いそう」
「待て待て待て」
ちょっと思考を横に逸らしていたら、周囲が勝手に盛り上がっている。
いや、まあ、言ってくれている内容自体はとてもありがたいのだけど!
このまま大勢で押しかけられたら事なので、慌てて止めに入る。
「君ら、セレーネさんの性格を知っているだろ!」
「シャイ」
「人見知り」
「恥ずかしガール」
「眼鏡が心の鎧なタイプ」
「さっきからなんなんだ? 大喜利?」
順番に、声を被らせることなく捻った言葉が次々に返ってくる。
なんだよこの無駄な連帯感は。
そういうのはもっと、国別対抗戦とかで発揮してくれよ。
「そこまでわかっているなら、大勢で押しかけちゃ駄目ってわかるでしょ……」
「じゃー、メッセージにアイテム添付する機能あるじゃん? 軽いやつ限定だけど。あれで――」
「怖いからってフレンド以外の受信拒否ってるぞ、あの人。オーダーメイドの受注・受け渡しは商業系ギルドや止まり木に仲介してもらっているし」
セレーネさんは極力、直接対面しなくていい方法で人と関わっている。
器用で不器用な人なのだ。
俺たちは運がよかった&ゲーム初動で会えたのでマヒしているが、普通のプレイヤーがセレーネさんに直接会おうとすると、かなり大変なのである。
TBでも指折りの鍛冶師にして、大の人見知り。それがセレーネというプレイヤーなのである。
「くっ! こうなったら!」
「手書きのメッセじゃ! お手紙じゃ! 荷物はリコちゃんに託す!」
「それだ!」
「頼んだ、リコちゃん!」
「はい! 運び屋します!」
「めげないね、君ら……まあ、ありがとう」
どうあってもセレーネさんに物資と気持ちを届けたいようだ。
受け取った素材類が実際に装備に使われるかは置いておいて、ありがたいことである。
下心は……。
「セッちゃんさん作の武器……」
「フルオーダーの優先権……」
「量産品でもいい……量産品でもいいからほすぃ……」
ないとは言えないが。
多少の口利きくらいはしてやってもいいかな……?
最終的に作るかどうかを決めるのはセレーネさんだし。
「ありがとう! ギルドを代表して、私からも礼を言うぞ!」
邪な声が聞こえていないユーミルが、陽気な笑顔で礼を言って回る。
何名か浄化されて急に謝りだしたりもしているが、まあそれはそれ。
「あのー、先輩」
と、そこで誰かが俺の服をちょいちょいと引っ張ってくる。
引っ張られた方向を見ると、眠そうな顔をしたシエスタちゃんと目が合う。
「さっきから誰も見ていないですけどー、ぼちぼちスピーナさんが負けそうです」
「あっ」
そもそも誰の応援中であったか。
スピーナさんである。
なぜこの試合、特にサーラの面々で固まっていたのか。
スピーナさんが出場していたからである。
だがしかし、毎度そのスピーナさんはくじ運が非常に悪かった。
早々にソラールパーティ、つまりはトップギルドである『ソール』の精鋭たちと対戦になっており……。
「ウボァー」
「スピーナさぁぁぁん!」
「スピやぁぁぁん!」
舞台に目を向けた時にはもう、ソラールの槍に貫かれていた。
……綺麗な放物線だなー。
スピーナさんの名誉のために触れておくが、試合は制限時間一杯だった。
1回戦の中ではもちろん、最長かつ最も観客動員が多い試合でもあったそうだ。
チーム・カクタケア、強さを見せつつもトーナメント初戦で敗退。