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本戦4対4決闘 前編

 明くる日。

 3対3がフィリア・ホリィ・ハインドチームの優勝に終わり、代わって始まった4対4決闘・本戦。

 そのトーナメントの初戦。


「ハインド! ハインド! そこですわ!」


 4対4のチームリーダーはヘルシャである。

 グループ戦の他に、1カテゴリだけなら出場可能なスケジュールになった――とのことで、急遽主従込みでチームを組んだ。

 ヘルシャ(魔導士・火風)・カーム(神官・支援)・ワルター(武闘家・気功)・ハインド(神官・支援)という前衛1後衛3のバランスが悪いチームである。

 ヘルシャからの指示を受け、動こうと足を上げる。


「そこってどこだよ!?」


 しかしいまひとつ要領を得ない。踏み出す足の方向が迷子。

 ――なめるな、俺だって週に一回とはいえ執事服を着ているんだ! などと意気込んだところで、どうにもならないことはある。

 大体服だけで執事じゃねえし、バイト清掃員だし。

 そんなにわか仕込みが、お嬢様の意志を完璧に汲んでみせろと言われても不可能なものは不可能だ。

 そんなこんなで、後衛過多の際に俺がよくやっている前衛代理の役割なのだが……。

 この試合は特にポジショニングが定まらず、右往左往。


「ああ、もうっ!」


 見かねたヘルシャがフォローに援護攻撃を送り込んでくる。

 束ねたむちを持った手と逆側の手の平から――短詠唱を経て複数の炎弾が発射。

 狙いは過たず、対象をとらえ見事に命中した。俺の背中に。


「あぢぢぢぢぢ!」

「ちょっと!?」


 意図はわかる。意図はわかった。火が当たってからだが。

 俺が右に移動すると思って、その地点に射撃を放ったということは理解できた。

 だが敵前衛が移動経路を防ぎ、俺が立ち止まったせいで誤射へと繋がったと。

 そんな流れ。

 理解はできたが、それはそれとして。


「「息が……合わないっ!」」


 ヘルシャと声が重なる。

 こんなところで息が合っても仕方ないというのに。

 思えば予選の段階から感じていた、ヘルシャの指示に対する俺の認識と動きのズレ。

 ヘルシャ側の厳しいスケジュールもあり、その欠点を修整できないまま本戦を迎えてしまった。


「しっかりなさいな、ハインド!」

「わかってらぁ!」


 予選の成績も結構ギリギリで――突破組の中では「弱い側」と判定されての出場ということで。

 初戦の相手は「強い側」、余裕で予選を抜けてきた強敵。

 ランカーでこそないがSランク決闘で何度か見たことのある顔ぶれだ。

 それだけに、それだけにだ。

 これ以上、下手を打てば初戦敗退も有り得る。


「ワルター!」


 それは嫌だ。

 嫌なので、敵武闘家の拳を杖で防ぎながら名を呼ぶ。

 今のチームメイトの中で俺が最も連携を取れる仲間の名を。


「はいっ、師匠!」


 返事は即座に、そして動きは迅速に。

 敵騎士の槍を蹴って跳ね上げ、体を崩した隙にダウンを取って駆けつけてくれる。

 可憐な容姿にパワフルな戦闘スタイル。

 ワルターが呼び声に応じ、横合いから武闘家を吹っ飛ばして俺に余裕と時間を与えた。

 うーん、マーベラス。


「ワルターちゃん来てるぅ! 対応を――」

「やめろ、どうせ当たらん! ハインド狙え、ハインド!」


 敵前衛の数はこちらと同じ……俺を一人とカウントしていいかは置いておいて!

 同じなので、あとは敵後衛の攻撃をかわす。

 幸い、間抜けなことに攻撃相手を宣言してくれているので――


「いたっ! いたたっ!」


 ――そうだね、回避しきれないね。

 敵神官(均等型(バランスタイプ))の発射が遅い光魔法は回避できたのだが……。

 また矢だよ。肩に刺さったわ。

 カームさんから回復が飛んできて、一応HP的には安全ラインは保てている。

 ついでに肩に刺さった矢もポロリ。


「ありがとうございます、カームさん!」

「どういたしまして」


 ……ヘルシャ以外との連携はいいんだよな。

 とはいえ、このチームのエースはヘルシャである。

 ヘルシャが敵を上手に焼けたら勝ち、駄目なら負けという我がチームの構成。

 ワルターを軸にできないこともないが、気功型チーゴンタイプは武闘家の中では防御寄り。

 そしてチームのリーダーはヘルシャだが、このまま戦況が膠着こうちゃくして負けるのはこちら側だろう。

 前衛の一画が俺だぞ?

 弓術士が巧くヘルシャのMPチャージを妨害しているせいで、大技までのMPにはわずかに足りないということもあるので――


「ワルター! 弓術士にゴー!」

「!?」


 ――迷いは一瞬。

 ヘルシャにしかられるだろうが、それは覚悟の上だ。

 指示を飛ばす。

 ワルターも「いいのかな?」という顔をしたものの。


「わ、わかりました!」


 俺を信じて前へと行ってくれた。

 ヘルシャが後方から勝手なことをするなという趣旨のことを叫んでいる。

 が、申し訳ないが無視して集中。

 敵前衛二人の動きに集中し……。


「そこっ!!」

「!?」


 さすがに速い動きだったので、少し反応が遅れたが。

 ワルターを追おうと動きだした槍持ち騎士のほうに『シャイニング』を放ち足止め、続けてヘルシャ側に走る武闘家を追いかける。

 騎士の目には当たらなかったが、足が僅かに鈍ったのを確認。

 もうそちらを気にしている余裕はないので、もうひとりの前衛を――速い、手が届くか微妙な距離だ。

 間に合うか……?


「ぐあっ!?」


 不意に武闘家の足が止まる。

 目を両手で押さえ、走るスピードが明らかに落ちた。


「!」


 視線を巡らせると、残光をまとう杖を敵に向けたカームさんの姿を確認できた。

 ナイスすぎる……! 有能という言葉は彼女のためにある。有能メイドさん。

 数撃ちゃ当たる戦法の俺と違い、ここぞという場面で『シャイニング』を目に当てていった。

 武闘家が立ち直る前に、思い切り背中に飛びついて組み伏せる。

 敵神官が放った光魔法が背に当たった感触があるが、一旦無視。


「ヘルシャぁ!」

「わかっていましてよっ! このおバカッ!」


 ヘルシャがものすごく嫌そうな顔と苛立った声で呼びかけに応じる。

 その理由は色々とあるだろうが……。

 バカはないんじゃないかな、バカは。

 ヘルシャらしくないストレートな罵倒ばとうだ。

 今の一連の動きの間に、MPは溜まっているはず。


「燃えなさいっ!」


 目論見通り、俺ごと敵に魔法をぶっ放してくれた。

 前衛の魔法耐性は騎士>軽戦士>武闘家>重戦士の順に高い。

 そして神官の魔法耐性は全職業の中でトップである。

 更にワルターがどうにか凌いでいてくれれば、カームさんからの回復も期待でき――


「かっ、ぁ……」


 ――武闘家がなにか言おうとした直後に戦闘不能になった。

 対して、俺は全身から焦げた臭いと煙を放ちながらも立ち上がる。

 い、生きている……って、感慨にふけっている場合ではない。


「ワルター!」


 ヘルシャチーム名物、ワルターへの超負担がまた再現されてしまっている。

 急いで三対一状態のワルターへ視線を向けると……。


「はぁ、ふぅ……まだまだっ!」

「おぉ……普通にしのいでいるよ」


 慣れとは恐ろしいものである。

 ワルターにとってはあの状態が普通なんだな。

 無理せず耐久しつつ、弓術士への牽制けんせいも入れつつ、騎士がこちらへ移動してくるのも防いでいたと。忙しい。

 神官だけはフリー気味だったが、武闘家があのまま焼けたということは回復魔法に絞って防いでくれていた模様。

 ま、マーベラス(二度目)。

 そしてでっかい負担にも不満そうな顔を一切見せていないのが強い。本当に強い。

 つよつよ武闘家ワルターさんである。

 自分の減ったHPの回復……はカームさんに任せて、俺はワルターのほうへと向かう。


「待たせた、ワルター」

「――師匠っ! 信じていました! さすが師匠です!」

「お、おう」


 めちゃくちゃめてくれるが、この試合のMVPはどう考えてもワルターだよ……。

 その後、俺たちは数の優位をしっかりと活かし。

 最終的にはヘルシャの火魔法で敵全員を焼き、どうにか初戦を辛勝で終わらせたのだった。

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― 新着の感想 ―
そうですよね。この組み合わせではワルター過労ラインですね。どうしても溢れるパワーをなんとか方向をそろえてコントロールする人と、自分を後押ししてもらうために周りを整える人では、前衛・後衛に分かれて無くて…
好き勝手動く味方の方向性をそろえるハインドと 好き勝手動くために周りを使うヘルシャの息が合うわけがなく… どっちかが前衛だったらまた違ったんだろうけれど。
ハインドがまた女に囲まれている ワルターが男って知らないプレイヤーも当然居るだろうからな……
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