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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
アイテムコンテストとギルドの発展
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収穫と品種改良

「そういや、昨夜は何を食べに行ったんだ?」

「ん? 回らない寿司だな! 美味かったぞ!」


 TBにログインして作物を収穫しながら、ユーミルと昨夜のことに関して雑談している。

 手には小さな鎌、刈り取った物は次々とインベントリに放り込んでいく。

 今は丁度アルベルト達と探索したピラミッド関連の話を終えたところで、話題は未祐の外食に関してに切り替わる。

 しかし、高級寿司店とは羨ましい。


「あー、魚も良いなあ。ウチはハンバーガーだった」

「ハンバーガー!? 家でか!?」

「ああ。生地を発酵させてバンズを焼いて、ハンバーグも全部自家製で作ってみたんだよ。母さんも理世も喜んでたし、結構上手く出来たと思う。今度はピクルスも用意してみようかね」

「……ゴクリ」


 ユーミルは喉を鳴らして手を止めた。

 だけなら良いのだが、何かを訴えるような眼をしてこちらに寄って来る。

 近い、近いよ顔が。


「分かった、分かったから。今度お前にも作ってやるから」

「本当だな!?」

「それよりほら、手を止めないでくれ。なにせ今夜は俺達二人しか居ないんだし、喋ってばかりだと永遠に終わらんぞ」

「うむ! と言っても、見ての通り半分は枯れているがな!」

「言うなよ。悲しくなるから……」


 土壌改良をし、植えた薬草の約半分は枯れていた。

 恐らく理由の大半はこの地が暑いせいだと思うのだが……。

 一方の多肉植物の方は数日で無事に大きくなっている。

 こちらはこの地域の植物なので当然といえば当然なのだが。


「でも、ユーミル気付いてるか? 薬草と一緒に種が取れるじゃん?」

「取れるが、これがどうかしたのか?」

「普通の種に混じって、変わった奴が混じってるんだよ。良く見てみ?」


 インベントリを自動整頓すれば直ぐに分かるはず。

 俺の言葉を受けてユーミルがメニュー画面を開いて操作する。


「む……たい……?」

耐暑たいしょ性能レベル1とある。つまりだ、この薬草……」

「暑さに適応しているということか?」

「どうもそうらしい。耐暑性能を獲得した薬草の世代を重ねさせれば、或いは」

「おお!」


 ユーミルの顔が明るさを帯びる。

 将来的には枯れる薬草を大きく減らすことが可能かもしれない。

 ゲーム内は現実世界よりも遥かに早く植物が成長するし、そう遠くない内に実現可能だろう。


「薬草が一区切りついたら、食材になる物も植えたいな」

「芋だ、ハインド! ジャガイモを植えよう!」

「お前、ハンバーガーから連想しただろ……フライドポテト?」

「うむ! あ、言っておくがハンバーガーは現実で食べるからな!? ゲーム内じゃ嫌だぞ! 味が一緒でもだ!」

「分かってるよ」


 そもそも調理器具が違うから同じ味にはならない。

 調味料も現実通りには揃わないし。

 そういえば、ゲームならではっていう味にはまだ会ってないな……意外と出ないぞ、モンスター肉。


「食材と言えば、家畜を飼うために牧草地帯も作らないとな」

「牛とか豚、鳥だな?」

「そうそう。農地以上に下準備が多くて、敷居が高いから計画的にやる必要があるし」

「飼うための小屋から何から、全て用意されているゲームもあるというのにな……」


 その為の土地は既に購入したので、後は今立っている農地と同じように土壌改良を進めるところから。

 ユーミルの言うように飼育小屋も建てる必要があり、こちらの本格的なスタートは暫く先になりそう。

 現段階ではちょっと手が回らない。

 もしかしたら村によっては元から在るものを使用可能かもしれないが、残念ながらワーハの農業区には存在していない。

 言ってみれば都会で無理やり農作業をしている感じなので、多少の不便はやむなしである。

 そこで一度雑談が止み、少しの間は淡々と薬草を刈り取り続ける。


「……なあ、ハインド。これだけ長い時間二人きりというのは久しぶりではないか?」

「かもな。二人だったのはゲーム開始当初だけで、直ぐに理世――リィズが合流したから」


 あのちんちくりんめ……と、当時のことを思い出したかのように呟きつつユーミルの顔が歪む。

 が、気を取り直すように頭を振ってこう切り出す。


「私としては、お前とこうやって二人で過ごす時間が偶にあると嬉しい……のだが。ダメだろうか……?」


 ユーミルにしてはしおらしく、こちらを探るような表情で訊ねてくる。

 俺はそれを茶化そうかと一瞬考え、止めた。

 ここで怒らせると明日の朝まで口を利いてくれなくなりそうだ。一晩寝ると忘れるが。


「珍しいことを言うじゃないか。賑やかなのが嫌ってわけでもないんだろう?」

「むしろ好きだぞ? そうではなく、お前との時間は例えて言うならケーキの様に別腹でありながら、絶対に必要な栄養素であると断言可能というか――」

「相変わらず例えが変だな。ウチの母さんにまで伝染うつってたし……。でもまぁ、一応言いたいことは伝わってるよ。そうだな……」


 頭の真面目な部分を使って思考する。

 学校でも家でも、確かに二人だけで居るっていう機会はかなり少ないな。


「俺もお前とこうして二人で居る時間は落ち着くよ。今日は偶然だけど……そしたら時々は時間をずらして、皆より先に二人でログインすっか」

「本当か!? 本当だな!? よぉーし、力が漲ってきたぁ!」


 ユーミルが頬を紅潮させつつ口元を緩める。

 その勢いのままチャカチャカと薬草を高速で収穫していく。

 手を切りそうで見ていてハラハラする……。


「あ、言っておくけどずらすなら早い方の時間な。夜更かしはイカン」

「分かっている! 生徒会を早退すればいいのだな!?」

「良いわけないだろ! お前、さてはちょっと混乱してるな!?」


 結局、お互いに都合の良い日は少し早目にログインするかという程度の話で。

 薬草を取り終えると耐暑性を獲得した種を優先的に撒き、水をやって作業は終了。




 続けて多肉植物を植えた、砂地のままのエリアで作業を開始。

 それらは薬草と一緒に混ぜ合わせることで効果を変質させたり増強させたりと、素材として使えるものが多くを占めている。

 そんな中で、ユーミルと相談して植えた観賞用の植物がこいつだ。


「おー、綺麗に咲いたなぁ……アデニウム」

「うむ、確かに。あの女王と同じ名前と言うのは気に入らんが」


 砂漠のバラとも呼ばれるアデニウムは、赤く美しい花をつけていた。

 これをユーミル名義でコンテストに出す予定なのだが……。

 当のユーミルの表情を見るに、次の発言が容易に予想できる。


「だが、このままではつまらんな!」

「言うと思ったよ。で、どうする気だ?」

「お前に任せる! 何か案を出せ!」


 人任せかよ。うーん、つまらないと言われてもな。

 植物で目を惹くような要素といえば色、形、大きさ、香り等々だが。


「品種改良してみるとか……」

「ほう。例えば?」

「赤い花って言ってもピンク掛かっている花も多いから、もっと真っ赤なのを目指してみるとか。いっそ本家のバラみたいに青いアデニウムを作ってしまうとか。ブルーアデニウムってのも、どっかで見たような気がするし」

「おお! なるほど!」

「ゲームだし、難易度は現実よりずっと緩めだろうから何とかなるんじゃないか? どんなのが良いか、明日くらいまでに具体的に考えておいてくれ。急げばコンテストの期日に間に合うはず」

「分かった!」


 その後はサボテンの棘に気を付けながら、収穫を終えてこちらも再度種蒔きを行う。

 これで今夜の農業区での活動は終了。

 予定していた作業を二人でスムーズに終えることができた。所要時間も大したことはない。

 インベントリを植物で一杯にした俺達はギルドホームへの帰路についた。

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