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本戦3対3決闘 前編

 3対3トーナメントからは遠距離・後衛職たちが本格参戦。

 近接職たちがぶつかり合う肉弾戦に加え、矢と魔法が飛び交う遠近混色の戦場へと変化。

 そして俺の場合は自分が支援職、ガチガチの後衛だ。

 パーティバランスを考えれば、チームの残り二名は前衛職が望ましい。

 他のチームを見回しても、後衛より前衛を多くしてトーナメントにのぞんでいるのが多数派である。

 前衛二人、後衛一人がいわゆるテンプレ編成――それが3対3決闘だ。

 そんなわけで……。


「……」

「……」


 まずチーム組みをお願いしたのは、重戦士・均等型バランスタイプのフィリアちゃん。

 アルベルトさんの娘で、容姿こそ似ていないが戦闘力はしっかりと遺伝。

 頼りになる前衛その1……なのだが。


「あの、フィリアちゃん?」

「……」


 不機嫌なのだろうか、これは?

 試合――トーナメント初戦に勝ったというのに、無言でじっと見上げてくる。

 選手控室の空気が硬直している。

 どうしたらいい? 俺はどうしたらいいんだ!?


「ハインドさん、ハインドさん」


 窮していると後方から救いの手が。

 そでを引かれながら名を呼ばれ、振り返るとそこには――。

 サイドテールをぴょこぴょこと揺らす、頼りになる前衛その2。

 軽戦士・攻撃型アタックタイプのホリィちゃんが笑顔で見上げてくる。


「ご褒美ですよ、ご褒美。報酬の」

「あ、ああ!」


 ようやく合点がいった。

 インベントリからお菓子を取り出し、フィリアちゃんの前に差し出すと……。


「あーん」

「いや、自分で――」

「これは正当な報酬。それにさっきの試合、私がMVPだった」

「ぐっ……!」


 えさを待つ雛鳥ひなどりのような体勢を取られた。

 真っ赤な舌を直視できず、ついと視線をらす。

 ――こうなった経緯を簡単にまとめると、以下のようになる。

1、アルベルトさん経由でチーム組みを打診。

2、承諾後、残りのメンバーに心当たりがあるとフィリアちゃん。

3、フィリアちゃんがホリィちゃんを連れてくる。

4、傭兵としての報酬はお菓子でいい(ただし手作りに限る)とフィリアちゃん。

 以上である。

 ただ、こんなオプションというか渡し方は契約内容に入っていなかったはず。

 しかし、拒否するのも……。


「ど、どうぞ」

「あぐ。むぐむぐ」


 結局、無言の圧に負けて手を伸ばす。

 柔らかそうな桃色の唇に触れないよう、震える指でマシュマロを小さな口に押し込んだ。

 浅い吐息が指にかかり、背筋が若干ぞくぞくする。若干だよ? 若干だからね?

 こんなことなら棒付きキャンディーでも用意しておけばよかったと後悔。

 ……そっちのほうが卑猥とか考えた人は、脳内ピンク色なのを反省した方がいいと思う。


「あ、やってあげるんですね」


 ニコニコと報酬受け渡しの様子を見守るホリィちゃん。

 彼女はリコリスちゃんやフィリアちゃんの友人であって、俺とはそうでない。

 けれども、予選を通じてかなり打ち解けてくれた。

 ついでに彼女は傭兵ではないので、特に報酬などは要求してこない。

 お菓子が欲しそうなときに渡している程度で――それもフィリアちゃんに比べればまれだ。


「一応俺が雇い主だし、MVPだったのは確かだから……」

「なるほど。サービスですね?」


 サービス……うぅむ、サービスするのもやぶさかでない活躍だったが。

 こんなのサービスになるか?

 ちなみにMVPというのは『試合中最も活躍したプレイヤー』に与えられるもので、決闘終了後のリザルトに表示される。

 通常決闘はシステムで判定、そして今イベントは観客による投票制である。

 つまりフィリアちゃんは誰の目から見てもMVPだったということだ。強い。

 ちなみに1対1はMVPという項目自体がなし、2対2は――アルベルトさんを押しのけて俺が選ばれるわけもなく、ここまで意識してこなかった。

 そんなMVPを先程の試合で獲ったフィリアちゃんは、マシュマロを飲み込んで一言。


「おいしい」

「よかったね……」


 試合よりも緊張したぞ。疲れる……。

 アルベルトさんの手前、年齢差がどうだのと言ったけれども。

 お子ちゃま扱いするにはちと年齢が高いんだよな、中学生女子。

 止まり木の子どもたちのようにはいかぬ。

 見た目だけの話をするなら、リィズ、リコリスちゃん、そしてフィリアちゃんは小学生でも通用しそうな容姿をして――。


「……今、なにか失礼なことを考えた?」

「いえいえ。滅相もございません」


 いかん、フィリアちゃんがジト目を向けてくる。

 周囲にやたら表情を読んでくる子たちが多いが、決して俺がわかりやすいわけではない。

 むしろポーカーフェイスは得意なほうのはずだ。そのはずだ。

 だって決闘で通用しているから。この子たちがおかしいんだ、うん。

 ――と、そこでピロンとゲーム内メールが着信。


送信者:リィズ

本文:最近、私の背が伸びたと思いませんか?

   リコリスさんやフィリアさんよりは高くなった気がします


「なんだ!? いるのか!? 近くにいるのか!?」

「ど、どうしたんですか? ハインドさん」


 急に周囲を見回す挙動不審な者と化した俺に、ホリィちゃんが引いている。

 ちなみに我が「おにいちゃんアイ」が正しければ、妹の身長は先月から変化なかったはず。

 そしていくら探しても、リィズの姿は付近のどこにもなかった。

 出場者しか入れない部屋なので、当たり前といえば当たり前なのだが。

 それならそれで、どうしてこんなメールがタイミングよく……?

 謎は深まるばかりである。

 もう超能力とか、あるいは超常現象の類だよ。


「――ンドさん! ハインドさん!」

「はっ!?」


 気づけばホリィちゃんに体を揺らされていた。

 そのあわてようからして、よほど様子がおかしく見えたらしい。


「大丈夫ですか……?」


 気遣うような視線が痛い。

 大丈夫と応じて笑顔を見せたが、まだちょっと心配そうな表情。


「ハインド。次の試合も、さっきと同じような戦い方でいい……?」


 対してフィリアちゃんは冷静。

 俺の奇妙な言動にも動じない。

 慣れている、と言い換えてもいいかもしれない。

 ともかく、これ以上年長者として醜態しゅうたいさらしつづけるのは駄目だろうということで。

 頭を切り替える。


「そうだね。これまで通りフィリアちゃんが主戦、ホリィちゃんが遊撃、俺が支援で」


 俺たちがここまでにっている戦法は、職性能に合わせたオーソドックスなもの。

 というのも、二人が基本を押さえた高プレイヤースキルの持ち主だからであるが。

 目立った欠点はないし、あったとしても自分でカバーすることができている。

 アルベルトさんと組んでいたときもそうだったが……。

 基本能力で相手に勝っている場合、奇策は必要ないのだ。


「ホリィの役目が一番重要」


 フィリアちゃんが楽し気に――といっても1ミリも表情筋は動いていないが。

 楽しげな雰囲気でホリィちゃんを突っつく。

 遊撃には視野の広さ・判断力・駆けつけるスピードと求められるものが多い。

 その働き次第で楽な戦いにも苦しい戦いにもなるだろう。


「うっ。プレッシャー」


 薄い――失敬、なんでもない。

 胸元を手で押さえ、うつむくホリィちゃん。

 しかし、そんな仕草とは裏腹に……。


「とか言いつつ、口元が笑ってんだよなぁ」


 その顔には挑みかかるような笑みが浮かんでいる。

 プレッシャーなんて微塵みじんも感じていないような。

 あるいは、その重圧すらも楽しんでいるような顔だ。

 頼もしい、頼もしいぞホリィちゃん。


「うん。ホリィは根っからの勝負師」

「ふふふ。実際、楽しいですよ。この三人で組むのは」


 なるほど、フィリアちゃんが率先して声をかけるわけだ。

 聞けば現実のほうは結構なスポーツ少女らしい。

 あまりじろじろ見るのは失礼だが、その体躯はしなやかで背もそこそこ高い。

 というか、初めて見た頃よりも伸びているな。

 大体サイネリアちゃんと同じくらいだろうか?

 うーむ、成長期。


「リコちゃんとも、一緒に組めたら楽しいんじゃないかなって思ったんですけど」


 笑みを引っ込めたホリィちゃんがぽつりとつぶやく。

 その声をひろってフィリアちゃんが言葉を返す。


「敵として戦って、私たちに認められるようになってからってリコリスが」

「ええ? 認めるって、私リコちゃんが下なんて思ったことないんだけど……」

「仕方ない。リコリスの心の問題」


 ああ、やはり三人で組む計画もあったのか。

 1対1の時からリコリスちゃんがかなり意識しているようだったからな……。

 友情とライバル心がいい感じにミックスされていて、よきかなよきかな。


「……これもまた、ひとつの青春ってやつだねぇ」


 しみじみとした俺のつぶやきに、ふたりの少女が反応。


「ハインドさん、お父さんみたいです」

「親戚のおじさん……?」

「やめてね」


 この子たち、割とストレートに思ったままをぶつけてくるな。

 火の玉ストレートすぎて、ちょっとやけどしてしまいそうだ。

 誰がおじさんじゃい。

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― 新着の感想 ―
フィリアちゃんへのあーんから超反応で飛んでくる妹メール…軽くホラーしとる そりゃハインドも慌てて周囲を見回すわなw
唐突なホラー止めてもろ手…w リィズ、リコリスちゃんも見た目小学生枠だったのか… 血のつながらない姉妹とかのネタはあるあるだけど、 血のつながらないおじさんとか恐怖かな? 最近のハインドは失言(失…
雛鳥が増えた 義妹はエスパー
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