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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
VRMMOの支援職人

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本戦2対2決闘 その2

 いくらアルベルトさんを味方に迎えての戦いとはいえ、全ての試合で楽勝というわけにはいかない。

 特に苦しい戦いになると予想されるのが、相手に強い軽戦士や武闘家がいる場合。

 トーナメントの近いブロックで見えた時から、来るな来るなと祈っていたのだが……。


「来ちゃった……」


 来ちゃいました。

 この試合、相手は前試合までを圧勝で進んできた軽戦士と武闘家のコンビ。

 陽気そうな見た目の成人男性二人組。どちらも背が高く体格もいい。

 イベント外の通常決闘でも見た顔だ。上位決闘常連。

 アルベルトさんは重戦士としては(自身の筋肉によって)機動力が高いのだが、それでも職性能としての限界がある。

 重戦士には移動系のスキルがほぼない。

 そして俺は神官。言わずもがな、便利な移動系スキルはなにも持っていない。

 地に足つけて戦う系コンビである。

 対して軽戦士には『縮地』、そして武闘家には『滑歩』という強烈な移動技が存在している。

 これらを十全に使いこなせているプレイヤーは多くないが、もし使いこなしている場合は――


「ハインド! すまん抜かれる!」


 ――こうなる。間にいるアルベルトさんをすり抜け、俺のほうに直に迫ってきた。

『縮地』は実質瞬間移動というかワープである。

『滑歩』は普通の地面を、まるで氷の上を高速で滑っているような動きになる。

 彼らはアルベルトさんの速攻をしのぎきり、発動に必要なMPを溜めて機動戦を仕掛けてきた。

 この試合、序盤から早くも苦戦の予感。


「――」


 アルベルトさんに対しては俺からの指示出しが必要ない。

 故に黙って自身の回避に専念する。

 脳をフル回転させ、敵の進路を予測。

 見えるが速い移動技の武闘家と、見えずに点移動をする軽戦士の組み合わせが厄介だが――とにかく「読み」だ。

 初手なので、最初はアルベルトさんと分断するような位置取りをすると踏んで、あえての全力後退。


「!?」

「そっちぃ!?」


 アルベルトさん側に逃げると考えていたのだろう。

 剣と蹴り、交差するような攻撃が空を切る。

 ――よし、上手く距離が取れた。

 そのまま追ってくるので、舞台のふちまで走ってから……今度は前進。

 縁まで走る間は六割、切り返しての前進は全力と、ペースチェンジを使って回避率が高まるようお祈り。

 頭上に剣、続いて足元を払うような蹴りが順番に飛んでくる。

 かがみ、跳び、そしてまた走って逃走へ。


「うわっ、怖っ!」

「こいつ……!」

「逃げんなや! ハインドぉ!」


 逃げるなとは無茶を仰る。

 何度かかすめる攻撃で小ダメージを負いながらも、挟撃から逃れることに成功。

 上手く脱出できた。

 そして――


「ぬぅぅぅんっ!!」


 ――追いついてきたアルベルトさんと位置をスイッチ。

 一拍の間も置かず、まとめて薙ぎ払うように大剣が唸りを上げる。


「うおおおぉぉぉこっちのほうが怖いわぁ! アホぉぉぉう! チビるぅっ!」

「お母さぁぁぁん!」


 情けない叫び声を出しながらも回避する対戦相手たち。

 至近での回避となったためか、彼らは剣が通った後の風圧をモロに受けた。


「あばばばば」

「おぼぼぼぼ」


 リンボーダンスみたいな体勢で、まるでジェットコースターに乗った客のように顔を歪ませている。

 愉快な人たちだなぁ……。

 とはいえ、しっかりノーダメージなあたり練度の高さが窺える。


「け、ケンヤ! は、反撃ぃ!」

「おうよぉ!」


 目が渇いたのか、涙目になりながらも反転攻勢に移る。

 関西弁風なほうがあえて仲間の名を呼び、声に出したのは気合を入れなおすためだろう。

 実際、そこで退けばこの試合は決着となっていたはず。

 既にアルベルトさんは二撃目の構えに入っている。


「重戦士はぁ!」

「こう殴るっ!!」


 回避と同時に二人が回り込んで斬る、蹴る。

 狙いは鎧がなく露出している関節、特に膝周辺。

 ふざけた発言内容とは裏腹に、的確かつ速い動き。

『シャイニング』で援護できないかと狙ってみるが、こちらに対し顔を向けない、あるいは目をしっかりガードするような体勢を取ってくる。

 警戒されているな……。


「いい連携だ……っ!」


 アルベルトさんが思わずうなるほどである。

 もう仕方ないので割り切って、俺のほうは大技で援護すべくMPチャージを優先。

 幸いスキル込みの攻防がからまなければ、2対1でもアルベルトさんなら、戦闘不能になるまでかなりの猶予ゆうよがある。

 そう思っていたのだが……。


「っ!?」


 不意に肩に衝撃が走り、MPチャージが中断させられる。

 原因を探るも、対戦相手のどちらかが遠距離攻撃を放ったのを俺は確認できなかった。

 当然、MPチャージ中も目は離していなかったので確実だ。

 なら、今のは一体……?


「――これかっ!?」


 敵武闘家から見て、俺とアルベルトさんが直線状に並んだ瞬間。

 見た目は普通の大振りな蹴りだったが――タイミングを見計らい、横っ飛びをかます。

 これでなにもなければ、無意味に大袈裟おおげさな回避行動をとるイタイやつのできあがりである。

 だが即座に後方を確認すると、決闘フィールド端の障壁にヒットエフェクトが発生。

 勘が当たってよかったが……これ、不可視の衝撃波ってことか……?


「アカン! もうバレた!」

「くっそ、予想よりも早いな!」


 巧くスキル発動モーションという名の空振りを紛れ込ませていたが、この二人の練度からすると若干不自然だった。

 隙の少ない連携攻撃からの大振りだったからな……早い段階、二撃目の時点で気がつけたのはラッキーだった。


「……」

「……アルベルトさん?」


 狼狽ろうばいした対戦相手が距離を取ったところで、一瞬の間。

 その後、素早く背に納刀し、両手で己の頬を強く張るアルベルトさん。

 バチッと強い音がここまで聞こえてきた。

 な、なにごと!?


「あ、アルベルトさん!?」

「すまなかったハインド。もう大丈夫だ」


 二度の後逸を悔いているのか、謝罪の言葉を口にするアルベルトさん。

 謝る必要なんてないと、こちらが返すよりも早く。


「あとは俺がやる」


 続く言葉と剣を抜く動作と同時、闘気のようなものがふくれ上がる。

 いや、実際に背中の筋肉がパンプアップしている。

 見せる用ではない実戦的な筋肉にぐっと力が入って……怖い怖い。味方だけど怖い。

 一体なにが始まるんです?

 と、そこからの戦いは――後から思い返しても圧巻の一言だった。


「さあ、通れるものなら通ってみるといい」


 重戦士のみに許された剛体スーパーアーマーつきのスキルたち。

 その中でアルベルトさんが使用したのは、最も消費MPが少ない基本技の『ヘビースラッシュ』だ。

 相手の攻撃に合わせて、カウンター気味で斬る。


「うげっ!?」


 斬る。


「なんでっ!?」


 斬る。

 言葉にすれば簡単だが、身軽な相手が二方向から攻めてきているのだ。

 しかし、アルベルトさんはその全てを見切ったとばかりに迎撃していく。

 次々と、あるいは同時に。

 最初こそスーパーアーマーで攻撃を受けながらの反撃だったが、徐々にノーダメージでの一方的なモグラ叩きへと推移。

 大剣を小枝でも振り回しているのかという速度で振り回す。


おにつええ……無理やろ、こんなん!」

「……!」


 だったら、という顔を軽戦士側がしたのは一瞬のこと。

 アルベルトさんにそれが見えたのかどうかは定かではない。

 だが――


「そこだな」

「!?」


 ――敵の『縮地』の移動先、俺の目の前に驚くような速度でアルベルトさんが到達。

 この場合に俺ができることは動かないこと。

 ……というか、動けません。硬直した俺の肩越しに、大剣が軽戦士を空中で貫いている。

 だから怖いってば。変な汗が止まらん。

 恐る恐る、ちらりと後ろを見ると……。

 軽戦士は斬りかかる体勢を取ったまま、俺の背後で光の粒になって退場。

 今の刺突でHPが尽きたようだ。


「くそっ」


 残った武闘家が悪態をつく。

 先程から俺は大技を予定していた組み立てを替え、いつものアルベルトさんにバフをかけ続ける体勢へとシフトしている。

 それだけ形勢が一瞬でかたむいてしまった。

 物理しか絡んでいない戦いなので、二つも魔法を使えば強化型アルベルトさんの完成である。

 余裕ができたので回復を使い『ホーリーウォール』の付与も済ませた。

 もう負けはない。

 自分もアルベルトさんも、両方とも万全の状態だ。


「見事な連携と練度だったが、対応力が足りないな。次はもっと戦術の幅を広げてくるといい」

「なめんなぁぁぁっ!」


 もう決着はついたと言わんばかりのアルベルトさんの様子に、武闘家が激昂げっこう

 無論、彼も悪あがきだというのはわかっていたのだろう。

 それでも残った力の全てを絞り尽くすような戦い方に、アルベルトさんが楽しそうに応じる。

 ……そして、蚊帳かやの外になった俺はというと。

 さすがに空気を読んで、なにもせずに棒立ちである。

 MPチャージもしていない。

 ちょっとだけ、少しだけ『シャイニング』あたりでちょっかいをかけたい気持ちが湧かなかったといえば嘘になるけれど……。

 観客からブーイングを受けたくないので我慢である。

 あるあるなんだよな、こういう片側が残り一人になった場合のタイマン状態……俺の職業柄、その対象になることはないが。嫌いなノリではない。

 武闘家の彼も、もうこちらを狙ってこないし。

 やがて……。


「つ、つよすぎるて……お前ら……」


 精も根も尽きた様子で、武闘家が倒れた。

 相性不利……だったはずなんだけどなぁ。

 圧倒的な試合内容に歓声は上がらず、ざわめきだけがいつまでも会場内に残っていた。

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― 新着の感想 ―
対応力の高さに定評のある前衛トップと支援トップが組んだらそらそうなる
【悲報】本体は誰が相棒でも本体だった【朗報】 対戦相手可哀想w
アルベルトさん、守る者が攻撃されたらバフ入る特殊スキルでもお持ちで?
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