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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
アイテムコンテストとギルドの発展
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踏破報酬の用途

 今の戦闘が余力のない内容だったことと、20階で切りが良いこともあって今回の探索はここまでということになった。

 まだ上階への階段は続いていたが、これ以上進むのが難しいということは誰の目にも明らかだった。

 ボスが出たってことは、難易度もここで一区切りだろうと予想される。

 故に撤退もやむなしである。


 そして俺達の前に出現した宝箱は五つ。

 人数と一致するので一人一つということで良いのだろうか?


「お疲れさまでした。では、早速宝箱を開け――」

「ハインド、お腹空いた……」

「あ、ええと……う、うん?」


 宝箱の手をかけた直後、フィリアちゃんに思い切り気勢を削がれた。

 満腹度は余り減っていないのだけど……気分の問題か?

 インベントリを漁ると一個だけ残っていたプリンが出てきた。


「はい、どうぞ」


 木のスプーンを添えて渡すと、少女は礼を言って直ぐに食べ始める。

 いつも悠然としているアルベルトの顔にも、さすがに気まずそうな表情が浮かんだ。


「度々すまん、ハインド……だが、娘は随分とお前を気に入ったようだ。他人にこれほど我儘を言うなんて珍しい」

「気に入られたのは俺じゃなくて、料理の方な気がしますが……」

「……そんなことない。私を最初に蘇生してくれたの、嬉しかった」


 食べながら無表情で俺の言葉を否定してくる。

 フィリアちゃんの後ろでは、眉を吊り上げたリィズをセレーネさんが羽交い絞めにして抑え付けている。

 別に俺は、みんなに対する好感度順で蘇生したわけではないんだけど……。

 それを伝えても、フィリアちゃんはやはり首を横に振る。


「それでもやっぱり、プレイヤーとして認められたってことだから。貴方に認められるのは嬉しい」


 それっきり、話し疲れたといった様子でフィリアちゃんは口をつぐんだ。

 あ、間違い。プリンを食べる時だけ口を開ける。

 アルベルトも娘の言葉にうんうんと頷いて見せ、実質的なべた褒めに俺は大いに動揺した。

 ……えーっと……あ、そうだ! 宝箱だ、宝箱!

 状況を進展させてこの微妙に生温い空気を押し流してしまおう、うん。それがいい。


「……じゃ、じゃあ今度こそ宝箱の中を確認しましょうか? さすがにこいつは罠付きってことは無いでしょうし」


 満を持して一斉に箱を開けると、中身は全て同じもので。

 それは手に取ると温かな熱を放つ、透き通った拳大の赤い石。

 名を『ルブルムストーン』というらしく、分類は属性石・その他……その他?




 ラクダの背に揺られながら、宝石を陽にかざして眺めてみる。

 属性石として使う場合は、武器を作製する際に武器の柄だったり杖なら先端に付けたりするわけだが……。


「こいつが火属性の石なのは間違いないとして、その他の用途って何でしょうね?」

「触った時に使用しますか? っていうポップアップが出るけど……ここじゃ怖くて使えないね」

「急に火を吹いたりしたら困りますし、ホームに帰ってからにしましょう。それは良いとして――」


 リィズは俺の方をキツイ表情で睨みつける。

 正確には一緒にラクダに相乗りしているフィリアちゃんを、であるが。


「どうしてあなたは父親と一緒に乗らないのですか!? 行きはそうしていたでしょう!」

「お父さん、重いからラクダが可哀想。行きの最後の方はバテバテだった」


 鎧と大剣を含めると恐らく150kgはあるからな……ポリシーなのか、絶対に装備を解除しないし。

 フィリアちゃんは軽いだろうけど、それでも無装備で30~40kgはあると思われる。

 なので理由としてはこちらに移ってきたのはそれほどおかしくない。

 ちなみにフィリアちゃんの分のラクダが無い理由は一人で乗せるのは危ないから、だそうだ。

 馬に乗せる際も普段から親子で相乗りらしい。

 その割に戦闘のような野蛮な行為には積極的に参加させる辺り、アルベルトの判断基準は結構謎である。過保護なのかそうでもないのか……。


 当のアルベルトはフィリアちゃんがこちらに来て寂しそうにしているわけだが。

 この行動は親離れとかそういうのではないと思うのだけれど。

 嫌なら鎧と剣を外して、是非とも自分の方に乗せてやってほしい。


「だったら私かセッちゃんと相乗りすれば良いじゃないですか! ハインドさんよりも軽いのですから!」

「リィズは怒りっぽいから嫌。セレーネは私が近づくと怯える」

「ご、ごめんね。まだ慣れてなくて……」

「リィズ。ワーハまでの短時間なんだし、そう目くじらを立てることもないじゃないか」


 妙に懐かれてしまったが、シエスタちゃんみたいに悪戯をしてこないし静かなものだ。

 実質ちょっと重い人形かぬいぐるみを抱いているようなもので、こちらとしてはそれほど抵抗がない。

 親戚の小さな子を構ってやっているような、子守りをしているのに近い感覚。

 ここのところ女の子との相乗りが頻繁で、若干感覚が麻痺している面もあるが。


「もういいですっ! ログアウトしたら部屋に行きますから、覚悟して下さいね兄さん!!」


 何を覚悟すれば良いのだろう……?

 俺とフィリアちゃんは視線を交わすと、同時に首を傾げた。




 ギルドホームに戻ると、早速川の傍に行って金属製の皿の上に『ルブルムストーン』を載せて使用。

 どの程度のアイテムなのか気になるということで、遅い時間だが全員ログアウトせずにまだ残っている。

 すると――


「あちっ!」


 指先を反射的に引っ込める。

 火を吹きこそしなかったが、どうやら空気が歪むほどの熱が発生しているようだ。


「だ、大丈夫ハインド君!?」

「使用直後はそうでも無かったんですけど、これ凄い火力ですよ。現にほら……」


 鉄製の皿が真っ赤になり、煙を上げながら溶け出していく。

 どろりと皿だったものが地面に広がり、そのまま周囲をゆっくりと溶かしながら宝石が沈む。

 ……。


「って、不味いですよハインドさん!? どうやって止めるんですかこれ!」

「み、水! 取り敢えず水!」

「任せろ! お前達は下がれ!」


 川から用意しておいた桶で水を汲み上げ、アルベルトが石に向かって水を掛ける。

 大量の蒸気が発生し、収まったところで恐る恐る近づくと……。

 『ルブルムストーン』が発熱を止めてその場に転がっていた。

 あ、扱いづれぇぇ……。

 使っても無くならないタイプのアイテムらしいが、温度が上がるまで少し時間が掛かる都合上、投げたりして攻撃に使うのは無理そうだ。

 一連の状況を見たアルベルトがこう締めくくる。


「アイテムとしては難ありのようだな。しかし、武器に組み込めばかなり高ランクの火属性攻撃が可能になりそうではある」

「あ、どうしましょうか? 私達に預けて下さるなら、お二人の大剣と大斧に組み込んでみますが」


 セレーネさんの提案にアルベルトは腕を組んで考え込んだ。

 それからフィリアちゃんと二言程度の言葉を交わすと、こう返答してくる。


「ならばフィリアの斧は属性武器にしてくれ。俺達の場合、魔法属性の攻撃が不足する機会は多いからな。俺の方は無属性で頼みたいから、余った俺の石はお前達にやる」

「良いのですか? これ、恐らく現時点では結構な貴重品だと思いますけど」

「構わない。扱いが難しそうだが、お前達には何やら考えがあるのだろう?」


 アルベルトは俺達三人に向かってこう言った。

 まあ、顔を見れば分かるか……こんなアイテムなら、自ずと使い道は限られてくる。

 試しに三人で考えを言い合うと、見事にそれが一致した。すなわち……


「炉の燃料だな」

「炉の燃料……かなぁ。上手く行けば作れる合金の種類がグッと増えるよ」

「炉の燃料ですね。他に思い付きません」


 というのがその答えだった。

 耐火煉瓦の中で使って駄目なら、全て属性石として使う他ないが。

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